黒い聖女と四人の帰りたい吸血鬼 ~一緒に異世界転移した彼氏が王女に取られたので亡命します~

音喜多子平

文字の大きさ
22 / 31

22

しおりを挟む
 相手が吸血鬼だとわかった瞬間、アタシの中にうまく形容できない安心感のような感情が芽生えた。例えば遠い町で出身が同じ町の人に出会ったり、旅行先の海外で日本人を見つけたりしたときのような感覚に近いかもしれない。

 何はともあれ、普通の人間よりかは互いに落ち着いて話ができるようになったと思う。

 当初の目的である吸血鬼の国に亡命して保護を願い出るためにはこの世界の吸血鬼事情をもっと深く知る必要があるのは誰しもが考えるところ。この出会いは幸運と言わざるを得ないだろう。

 しかも彼らのうち、ヴァーユと呼ばれていた弓矢を携えた人はやけに興味津々な顔をこちらに向けてきている。

「訳ありなのは想像がつくけど、それを聞いても?」

 アタシはまず、礼を欠きたくない一心でまずは頭を下げてから名乗った。

「住吉架純と申します。やむを得ない事情でエオイル国から逃げ出して追われる立場になっていて、吸血鬼の国であるアシンテスにこの子達と亡命しようとしています」
「亡命・・・」
「けれどアシンテスの場所や情勢に疎くて困っていたんです。可能な限りで構いません。少しでも情報を教えてくれないでしょうか?」
「オレとしては構わないよ」
「本当ですか!?」

 アタシは思わず顔がほころんだ。

 しかし、ユエさんがアタシ達の間に割っては入り一度話を止めた。

「待ってください、ヴァーユ。彼女らの素性がまるで分かりません。迂闊なことはできません」
「けど、困っているのは本当みたいだぞ?」
「この騎士達の反応をみる限り、このひとはがエオイル国の関係者、しかも噂に聞く聖女であることが示唆されています。むやみに信用するのは危険すぎます」
「ではどうすれば信用をしてもらえるかのう? 気がすむまで調べてもらって結構じゃ。教えてくれまいか?」

 ノリンさんが飽くまでも下手に出てユエさんの反応を伺う。彼女は歴戦の戦士のようなキッとした視線をこちらに向けてくる。

「・・・まずは全員の名前を教えてもらいます。そしてそこの騎士の血を吸って吸血鬼であるという証を見せてください。最後にエオイル国に追われている理由とやらを包み隠さずに説明してもらいます。それができない、もしくは不審だと判断した場合は協力はできかねます」
「わかった。従おう」

 フィフスドル君がそう返事をした。そして彼を先陣にみんなが名前を名乗ったあとに、騎士の首筋から流れる血を口に含んでは飲み込んでいく。そうして何とか四人の信用を得て少なくとも身の上話をする機会を獲得した。何故かチカちゃんは一人と言わず、三人全員から血を刷っていたけど。

 思わぬ形で初めて人間の血を口にすることになってしまった。少々の抵抗感は残っていたけれど、吸血鬼であることを証明しなければならないという状況に迫られたのはアタシにとっては幸運だったかもしれない。こうでもしないと自分から人間の血を飲むことは難しかったかもしれない。

 少なくとも四人はアタシ達が吸血鬼であることを立証しただけでも、一つの安心感を得た様子だった。

 そうしてアタシは自分達の身に降りかかった出来事の詳細を言って聞かせた。

 アタシと彩斗を呼び出した召喚の儀の事。
 フィフスドル達を呼び出した召喚の儀の事。
 そして、エオイル国の高慢な態度と綾斗の裏切り。

 話をし終えても四人から質問を切り返されることはなかった。一応はアタシの話を信用してくれたと思っていいのだろうか。

 すると、どうすべきか迷った視線がヴァーユに集中した。何となくは分かっていたが彼が四人のリーダー的存在であることは間違いないようだ。

 肝心のヴァーユは緊張が支配する重々しい雰囲気などはまるで気にせずに飄々とした態度と声とで応じてくる。

「うん。話は分かった。その上で改めて言うと俺たちで良ければ協力しよう」
「え? 本当ですか?」
「ああ。あんたらの境遇は分かったし、同情する。同じ吸血鬼として力にもなりたい。アシンテスへ亡命したいというのなら可能な限り援助もしよう」
「あ、ありがとうございます!」

 アタシは一気に救われたような気分になった。吸血鬼という存在がイメージしていた通り、悪逆非道で情け容赦ないものだという思い込みが心のどこかに残っていたからかもしれない。

 やっぱり良い人間と悪い人間がいるように、吸血鬼だって良い吸血鬼と悪い吸血鬼がいるものなのだろう。

「みんな、良かったね」

 アタシは呑気にそんな声を出しながら後ろに振り返った。

 しかし、フィフスドル君もチカちゃんもノリンさんも少々固い顔をしながらヴァーユさん達を見ていた。

「え? どうしたの?」

 アタシは思わず様子のおかしい三人に疑問をぶつけた。

 今までとは打って変わってフィフスドル君たちが警戒の色を濃くしていた。そしてアタシの疑問にはノリンさんが真っ先に答えてくれた。

「少々、飲み込みが良すぎはせんか?」
「うん。チカもちょっと話が美味しすぎるかなってね」
「それにまだ貴様らの素性も名前も知らぬし、敵国の街で買い物をしていた理由も知れぬしな」

 三人がそういうとユエさんが怒りを押さえてような声で反論をする。

「子供。些か無礼ではないか? それが助けを乞う者の態度か?」
「この場でできる最大限の礼は尽くしたはずだ。僕にも貴族としてこの者らを守る責任がある。助力を買って出てくれることには感謝はするが、それと信用とは別の問題だ」

 取り囲んでいた空気が一気に重くなった。一触即発とはこの事だ。

 しかし、そんな雰囲気がヴァーユさんの笑い声で払拭された。

「あっはっは。こいつは子供だからって侮れないね。ユエもそんな喧嘩腰になるな」
「しかし、」
「この子らの言うことは尤もだろう。逆の立場だったらユエだって絶対に同じような事をいってただろう?」
「…」
「今度はこちらの番だ。自己紹介をさせてもらう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...