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Episode1
考察する勇者
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正体不明の魔獣が出たが無事に退治されたということで、騒動は一旦は収まった。
しかし、今度はその魔獣の出現について言及される事態になった。真っ先にオレ達が疑われることになったのは仕方のないことだ。というよりも事実そうなのだから。
オレ達三人は物置のような部屋に一時的に拘留されていた。下手に抵抗しては逆効果だと思い、ルージュにもラスキャブにも抵抗するなと言い聞かせている。
念のため周囲には自分たちの身の危険になるような事をわざわざする理由がない、と言い訳をしはしたが効果は薄いだろう。
宿の破損の弁償くらいで済めばよいが、自警団や警備兵などに引き渡されるようなことになると些か面倒が過ぎる。色々と心配事は募っていたが、今は何よりも件の蝿の強さについて考察しなければならないと思った。
◇
「あの蝿は一体なんだったんだ?」
ラスキャブに直球の疑問を投げかける。
「わ、わかりません。自由に動いていいよ、と念じたら勝手に動き始めて・・・」
「いや、問題は行動ではなくて、あの蝿自身の強靭さであろう」
「ああ。まさかルージュが弾き飛ばされるとは夢にも思わなかった。全力だったんだろう?」
「全力だった・・・正確には魔法を使わないレベルでの全力だがな」
「それにしたって異常過ぎる」
何をどう考えても一匹の蝿があれ程までの力を得たことの説明ができない。すると、ぼそりとルージュが言った。
「・・・ラスキャブと出会った時に戦った熊がいただろう」
「あ、あの時は、その必死で…」
「責めている訳ではない。あの蝿の個としてのポテンシャルは、大よそだがあの熊くらいあったと感じる」
「クローグレと同じくらいの強さがあったと?」
「ああ。たかだか蝿と思って侮って立ち向かったのが、あの失態の原因だな」
ルージュは唇を噛んだ。
そう聞いた時、オレの中に一つの仮説が思い浮かんだ。あの蝿と森で戦ったクローグレの強さの程度が同じくらいであったとするなら、他に考えようもない。
「ラスキャブ」
「は、はい。何でしょうか?」
「オレ達と戦った時も、あのクローグレを蘇らせていたのか?」
「そうです。とは言っても私の魔法で操れるようにしてましたが・・・」
「となると、あの蝿の出鱈目な強さについて一つ仮説がある」
「聞こう」
ルージュは関心顔を向けてきた。オレは頭に過ぎった内容を上手くまとめながら徐に語り始める。
「確証はないがラスキャブは蘇らせた死体の強さは全て一定になるんじゃないのか。ともすればクローグレとポテンシャルが同程度だったというもの頷ける」
「なるほど。確かにそう考えれば納得だ。しかし…」
「何か引っかかるか?」
「それは屍術そのものの性質なのか?」
「どういう意味だ?」
「この世界にはアンデットが存在しているが、奴らの強さは別々だ。術師の力量に応じて蘇生された者の強さが決まるというような理屈だと多数の屍術師がいることになるが、屍術というのは希少な部類に入る魔術なのだろう?」
ルージュの指摘はもっともだ。とはいえオレ自身も屍術について言うほどの見分がある訳じゃない。強さを振り分けることができるかもしれないし、時間経過などで強さが劣化するなど、いくつかの考えは浮かぶ。
だがそれを言う前にラスキャブが口を挟んできた。
「き、基本的に皆さんが遭遇するアンデットというのは、あくまで自然発生するものです。魔力の乱れなどで生まれた膿のようなものが偶々死体に入って動いているだけですので」
まるで子供でも知っている常識を諭すかのように言われてしまった。アンデットの発生については高位の魔術師たちが結論を出せずにいる事なのに。そしてそれ以上にラスキャブがそれを口にしたことに驚いた。
「お前、記憶があるのか?」
「今ふと頭の中に出てきたんです。何だかその手の知識がぐわんぐわんと…」
ラスキャブは立ちくらみを起こしたようにへたり込んでしまった。
「混乱しているようだな。一先ずラスキャブの術の一端は知れた。危険な術だが、そもそも危険でない術などない、使い方をこれから考えればいいだけだ」
オレは頷いて答えた。
「その通りだな。ルージュもラスキャブは少し休んでいろ。とにかく今はこの拘留が一早く解かれるのを祈るしかない」
しかし、今度はその魔獣の出現について言及される事態になった。真っ先にオレ達が疑われることになったのは仕方のないことだ。というよりも事実そうなのだから。
オレ達三人は物置のような部屋に一時的に拘留されていた。下手に抵抗しては逆効果だと思い、ルージュにもラスキャブにも抵抗するなと言い聞かせている。
念のため周囲には自分たちの身の危険になるような事をわざわざする理由がない、と言い訳をしはしたが効果は薄いだろう。
宿の破損の弁償くらいで済めばよいが、自警団や警備兵などに引き渡されるようなことになると些か面倒が過ぎる。色々と心配事は募っていたが、今は何よりも件の蝿の強さについて考察しなければならないと思った。
◇
「あの蝿は一体なんだったんだ?」
ラスキャブに直球の疑問を投げかける。
「わ、わかりません。自由に動いていいよ、と念じたら勝手に動き始めて・・・」
「いや、問題は行動ではなくて、あの蝿自身の強靭さであろう」
「ああ。まさかルージュが弾き飛ばされるとは夢にも思わなかった。全力だったんだろう?」
「全力だった・・・正確には魔法を使わないレベルでの全力だがな」
「それにしたって異常過ぎる」
何をどう考えても一匹の蝿があれ程までの力を得たことの説明ができない。すると、ぼそりとルージュが言った。
「・・・ラスキャブと出会った時に戦った熊がいただろう」
「あ、あの時は、その必死で…」
「責めている訳ではない。あの蝿の個としてのポテンシャルは、大よそだがあの熊くらいあったと感じる」
「クローグレと同じくらいの強さがあったと?」
「ああ。たかだか蝿と思って侮って立ち向かったのが、あの失態の原因だな」
ルージュは唇を噛んだ。
そう聞いた時、オレの中に一つの仮説が思い浮かんだ。あの蝿と森で戦ったクローグレの強さの程度が同じくらいであったとするなら、他に考えようもない。
「ラスキャブ」
「は、はい。何でしょうか?」
「オレ達と戦った時も、あのクローグレを蘇らせていたのか?」
「そうです。とは言っても私の魔法で操れるようにしてましたが・・・」
「となると、あの蝿の出鱈目な強さについて一つ仮説がある」
「聞こう」
ルージュは関心顔を向けてきた。オレは頭に過ぎった内容を上手くまとめながら徐に語り始める。
「確証はないがラスキャブは蘇らせた死体の強さは全て一定になるんじゃないのか。ともすればクローグレとポテンシャルが同程度だったというもの頷ける」
「なるほど。確かにそう考えれば納得だ。しかし…」
「何か引っかかるか?」
「それは屍術そのものの性質なのか?」
「どういう意味だ?」
「この世界にはアンデットが存在しているが、奴らの強さは別々だ。術師の力量に応じて蘇生された者の強さが決まるというような理屈だと多数の屍術師がいることになるが、屍術というのは希少な部類に入る魔術なのだろう?」
ルージュの指摘はもっともだ。とはいえオレ自身も屍術について言うほどの見分がある訳じゃない。強さを振り分けることができるかもしれないし、時間経過などで強さが劣化するなど、いくつかの考えは浮かぶ。
だがそれを言う前にラスキャブが口を挟んできた。
「き、基本的に皆さんが遭遇するアンデットというのは、あくまで自然発生するものです。魔力の乱れなどで生まれた膿のようなものが偶々死体に入って動いているだけですので」
まるで子供でも知っている常識を諭すかのように言われてしまった。アンデットの発生については高位の魔術師たちが結論を出せずにいる事なのに。そしてそれ以上にラスキャブがそれを口にしたことに驚いた。
「お前、記憶があるのか?」
「今ふと頭の中に出てきたんです。何だかその手の知識がぐわんぐわんと…」
ラスキャブは立ちくらみを起こしたようにへたり込んでしまった。
「混乱しているようだな。一先ずラスキャブの術の一端は知れた。危険な術だが、そもそも危険でない術などない、使い方をこれから考えればいいだけだ」
オレは頷いて答えた。
「その通りだな。ルージュもラスキャブは少し休んでいろ。とにかく今はこの拘留が一早く解かれるのを祈るしかない」
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