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Episode1
呼び出される勇者
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それから一時間が経つか、経たないかしたころ。
物置部屋の戸をノックする者があった。寝入っていたラスキャブをルージュがそっと起こすのを見届けてから返事をした。廊下には未だ疑いの念を払拭しきれずに怯えた様な目をした亭主が立っていた。
「一先ずこっちに来てもらえるか」
警戒心を少しも隠さない態度でそう言った。オレ達はその指示に黙って従う。とにかく今は下手に出て、事なきを得ることに専念する。
ところが意外な事に案内されたのは、応接室のような小奇麗な部屋であった。一介の宿屋であるから、むしろこんな部屋があるだけマシといったところだろうが、それでも宿泊用の部屋を思えばかなりいい造りだと言える。
その部屋の中には先客がいた。ルージュとラスキャブは見覚えがないだろうが、オレがあの蝿を退治した時にいた身なりの良さそうなリホウド族の男とその従者だ。リホウド族の猫らしい髭が少し下がっているところを見るに、年は結構行っているのかもしれない。従者は同じくリホウド族の女だったが、存在感がかなり薄い印象を受けた。言われなければ気が付かないような希薄な雰囲気を纏っている。
その二人に加えてオレ達三人、亭主が部屋に入ると流石に狭くなった。
亭主が気を使っているのを見て、中々の上客なのだろうと勝手に予想する。それが関わっているかは分からないが、男から漂う品の良さと身なりとはどうにもちぐはぐに思えてならない。
「先ほどは助けて頂きましてありがとうございます」
男はそう言って頭を少し下げてきた。
まさか、礼を言われるとは思っていなかったので少々気を取られたが、すぐに自分を取り戻して答えた。
「いや、あの部屋に入り込んだからそこで倒しただけだ。結果としては助けた形になったかもしれないが、礼を言われることではない」
「あなたがどう思っていたとしても、助けられた側にとっては同じことです」
「…まあ、何でもいいさ。どのみち怪我人が出なくて何よりだった」
男は椅子に腰かけると、オレ達にも対面の椅子に腰かけるように促した。未だにらみを利かせてくる亭主の前を通り、言われるがまま椅子に座る。二人掛けの椅子だったが、ルージュとラスキャブは後ろに立ったままだった。
「では、改めまして自己紹介と参りましょうか。私はメカーヒーといいまして『蝋燭の輝き』に所属しております、しがない商人でございます。仕事の都合でこの街のこの宿にいたという次第でして」
「『煮えたぎる歌』のザートレだ」
「ほう。『煮えたぎる歌』の!」
メカーヒーと名乗った男はさらに見直したといった風な顔つきになった。
「どおりでお強い訳だ。納得です」
「…ところで、オレ達は何でここに呼び出されたんだ?」
騎士団や自警隊がやってくるのを待っているという雰囲気ではない。しかし、亭主の顔を見るに疑いが晴れて無罪放免になったという事でもなさそうだった。
オレの問いにメカーヒーはリホウド族特有の笑みを見せた。口元からは鋭さが鈍った牙がのぞいている。
「あなたに是非とも引き受けて頂きたい依頼があるのです」
「依頼?」
物置部屋の戸をノックする者があった。寝入っていたラスキャブをルージュがそっと起こすのを見届けてから返事をした。廊下には未だ疑いの念を払拭しきれずに怯えた様な目をした亭主が立っていた。
「一先ずこっちに来てもらえるか」
警戒心を少しも隠さない態度でそう言った。オレ達はその指示に黙って従う。とにかく今は下手に出て、事なきを得ることに専念する。
ところが意外な事に案内されたのは、応接室のような小奇麗な部屋であった。一介の宿屋であるから、むしろこんな部屋があるだけマシといったところだろうが、それでも宿泊用の部屋を思えばかなりいい造りだと言える。
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その二人に加えてオレ達三人、亭主が部屋に入ると流石に狭くなった。
亭主が気を使っているのを見て、中々の上客なのだろうと勝手に予想する。それが関わっているかは分からないが、男から漂う品の良さと身なりとはどうにもちぐはぐに思えてならない。
「先ほどは助けて頂きましてありがとうございます」
男はそう言って頭を少し下げてきた。
まさか、礼を言われるとは思っていなかったので少々気を取られたが、すぐに自分を取り戻して答えた。
「いや、あの部屋に入り込んだからそこで倒しただけだ。結果としては助けた形になったかもしれないが、礼を言われることではない」
「あなたがどう思っていたとしても、助けられた側にとっては同じことです」
「…まあ、何でもいいさ。どのみち怪我人が出なくて何よりだった」
男は椅子に腰かけると、オレ達にも対面の椅子に腰かけるように促した。未だにらみを利かせてくる亭主の前を通り、言われるがまま椅子に座る。二人掛けの椅子だったが、ルージュとラスキャブは後ろに立ったままだった。
「では、改めまして自己紹介と参りましょうか。私はメカーヒーといいまして『蝋燭の輝き』に所属しております、しがない商人でございます。仕事の都合でこの街のこの宿にいたという次第でして」
「『煮えたぎる歌』のザートレだ」
「ほう。『煮えたぎる歌』の!」
メカーヒーと名乗った男はさらに見直したといった風な顔つきになった。
「どおりでお強い訳だ。納得です」
「…ところで、オレ達は何でここに呼び出されたんだ?」
騎士団や自警隊がやってくるのを待っているという雰囲気ではない。しかし、亭主の顔を見るに疑いが晴れて無罪放免になったという事でもなさそうだった。
オレの問いにメカーヒーはリホウド族特有の笑みを見せた。口元からは鋭さが鈍った牙がのぞいている。
「あなたに是非とも引き受けて頂きたい依頼があるのです」
「依頼?」
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