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Episode1
試す勇者
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ドリックスは亜人種に分類される魔物だが、魔法などといった小細工は一切してこないはない。ただただ純粋に呪術的に強化された筋力を使って肉弾戦を挑んでくる。体毛は生半可な魔法を弾き飛ばすし、その反面、肉体は鋼のように固い。
単純明快。だからこそ恐ろしい。
だが、封じられていた力を返して貰った上に剣を使える今のオレにしてみれば敵じゃない。それでも魔王に届いていないと言うのが、何よりも悔しいが・・・。
この辺りで相手取る中では最上級の敵だ。オレはどうせならと、思い付いただけで済ましていた技の試しを試みる。
「ルージュ、策がある。オレの考えを見て、無理そうなことがあれば言ってくれ」
そういうと、すぐに頭の中に返事が響く。
(何一つ問題ない。思いきりやってくれ)
とは言っても、思い切りやるつもりはさらさらない。仮に全身全霊でやって、オレの考え通りの威力がでるのだとしたら、恐らく地形が変わってしまうだろう。それにドリックスの肉が取れないというのもいささか勿体ない。
念のため、馬車から距離を取り背に隠せるようにドリックスを誘導する。それで気が付いたのだが、個体としてはかなり弱い部類に入る。だがそれでも、後ろに控えている奴らを殺すには十分すぎる脅威だ、手を抜きはしない。
火の魔力をルージュに伝播させる。
魔力を込めると言う行為は普通の剣なら多少の強度増加や切れ味の強化が見込めるが、今の剣は普通とは言えぬ魔剣だ。込められた魔力を刀身から「放出」することも可能のはず。鞘の記憶の中の戦士の一人が使っていたのを見て参考にさせてもらった。その上、オレとルージュは文字通り人剣一体の連携が取れるのだから、相乗効果は計り知れない。
剣を下から思い切りよく振り上げる。火焔が切れ味を帯びて切っ先から飛び出し、ドリックスを両断する。この技は単純に攻撃力が上がるだけでなく、物理的攻撃と魔法攻撃が同時に行える技だ。ドリックスのような多くの攻撃に対して丸い耐性を持っている相手には有効に働く場面が多いだろう。それに今回は威力を単体用に抑えたが、本気を出せば広範囲にも飛ばせるから多数相手にも使えるはずだ。
想定通りの結果に、オレは満足した。一先ず『冠の夏』とでも名付けよう。
技の試しの副産物としてドリックスの肉が手に入るのも喜ばしいかった。アーコの言う通り、食肉としてみたなら最高レベルだ。オレも過去に二度しか口にしたことがない。思えば、最低火力の威力にしたとはいえドリックスクラスでなければ跡形もなく吹き飛んでいたかもしれない。そういう意味でも、かなり理想的な敵だったと言えるだろう。
つい得意気になって鞘に剣をしまってしまう。納刀する瞬間こそが最も戦士として美しく見えると言うのがオレの子供の頃からの美学なのだが、今のところ理解者は少ない。
戦利品を担いで馬車へと戻る。やはり力が戻っているので、軽々しく運べる。
技と納刀の余韻に浸って周りをよく見ていなかったが、リホウド族と商人たちは唖然として固まっていた。が、それを尻目にオレがドリックスの血抜きや解体を始めると我を取り戻したのか、ある者は安堵の息を漏らし、ある者は抱き合い、ある者は今更鬨の声を上げたりして各々が喜びを表現していた。
無理もない。オレだって駆け出しの頃にドリックスをみて生き残れたとしたら、同じように意味もなく吠えていただろうと思う。
単純明快。だからこそ恐ろしい。
だが、封じられていた力を返して貰った上に剣を使える今のオレにしてみれば敵じゃない。それでも魔王に届いていないと言うのが、何よりも悔しいが・・・。
この辺りで相手取る中では最上級の敵だ。オレはどうせならと、思い付いただけで済ましていた技の試しを試みる。
「ルージュ、策がある。オレの考えを見て、無理そうなことがあれば言ってくれ」
そういうと、すぐに頭の中に返事が響く。
(何一つ問題ない。思いきりやってくれ)
とは言っても、思い切りやるつもりはさらさらない。仮に全身全霊でやって、オレの考え通りの威力がでるのだとしたら、恐らく地形が変わってしまうだろう。それにドリックスの肉が取れないというのもいささか勿体ない。
念のため、馬車から距離を取り背に隠せるようにドリックスを誘導する。それで気が付いたのだが、個体としてはかなり弱い部類に入る。だがそれでも、後ろに控えている奴らを殺すには十分すぎる脅威だ、手を抜きはしない。
火の魔力をルージュに伝播させる。
魔力を込めると言う行為は普通の剣なら多少の強度増加や切れ味の強化が見込めるが、今の剣は普通とは言えぬ魔剣だ。込められた魔力を刀身から「放出」することも可能のはず。鞘の記憶の中の戦士の一人が使っていたのを見て参考にさせてもらった。その上、オレとルージュは文字通り人剣一体の連携が取れるのだから、相乗効果は計り知れない。
剣を下から思い切りよく振り上げる。火焔が切れ味を帯びて切っ先から飛び出し、ドリックスを両断する。この技は単純に攻撃力が上がるだけでなく、物理的攻撃と魔法攻撃が同時に行える技だ。ドリックスのような多くの攻撃に対して丸い耐性を持っている相手には有効に働く場面が多いだろう。それに今回は威力を単体用に抑えたが、本気を出せば広範囲にも飛ばせるから多数相手にも使えるはずだ。
想定通りの結果に、オレは満足した。一先ず『冠の夏』とでも名付けよう。
技の試しの副産物としてドリックスの肉が手に入るのも喜ばしいかった。アーコの言う通り、食肉としてみたなら最高レベルだ。オレも過去に二度しか口にしたことがない。思えば、最低火力の威力にしたとはいえドリックスクラスでなければ跡形もなく吹き飛んでいたかもしれない。そういう意味でも、かなり理想的な敵だったと言えるだろう。
つい得意気になって鞘に剣をしまってしまう。納刀する瞬間こそが最も戦士として美しく見えると言うのがオレの子供の頃からの美学なのだが、今のところ理解者は少ない。
戦利品を担いで馬車へと戻る。やはり力が戻っているので、軽々しく運べる。
技と納刀の余韻に浸って周りをよく見ていなかったが、リホウド族と商人たちは唖然として固まっていた。が、それを尻目にオレがドリックスの血抜きや解体を始めると我を取り戻したのか、ある者は安堵の息を漏らし、ある者は抱き合い、ある者は今更鬨の声を上げたりして各々が喜びを表現していた。
無理もない。オレだって駆け出しの頃にドリックスをみて生き残れたとしたら、同じように意味もなく吠えていただろうと思う。
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