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Episode3
切り伏せる勇者
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アーコはルージュがどこにいるかは把握できていなかったが、自分の後方へと念波を飛ばした。魔族たちはザートレが死ぬか、少なくとも手傷を負っているはずだと思い込んでいる様だったからだ。正面から馬鹿正直に現れてしまっては、再び人質を盾にされる。
ところが、ザートレ達が現れる前に事態は一変する。
両陣にとってキーパーソンであるトスクルが、突如として鋭い頭痛に襲われたように頭を抱えた香と思うとその場に膝をついたのだ。彼女はパーティの最も後方にいたため、唯一対面しているアーコだけがそれに気が付くことができた。
そして、そのままイナゴの群れのこちらに先頭が差し掛かった時、トスクルは小さく、それでいて全員の耳に届くような鋭い声を出した。
「…ラスキャブに酷いことしないで」
「え?」
と、声を漏らしたのは誰かは分からない。もしかすると全員が同じく出した疑問符だったのかも知れない。
いずれにしても、その声は襲来するイナゴたちの羽音に掻き消されてしまった。
集まってきたイナゴは迷うことなくラスキャブの元に向かった。尋常ではない勢いでラスキャブを捕らえている布を食い破り、ついでにその術師たる魔族までもを襲う。誰の目にも、ラスキャブを助けようとしているのは明らかだった。
「ト、トスクル! 何をしていやがる!?」
仲間の声にもトスクルは反応しない。一心不乱にイナゴの群れを操ることに集中している。まさかの裏切り的行為に、魔族たちは混乱した。
今度はアーコがそれを見逃さなかった。再び植物を操る魔法を使い、攻勢に打って出る。
「『下生の勇者』っ!」
アーコが生み出した草人間は、今度は捕獲でなく殴打による攻撃で魔族たちを制圧していった。イナゴに妨害され、まともな応戦ができない魔族たちは咆哮なのか、悲鳴なのかも分からない声を上げて逃げ惑っている。
するとその内の一人が、イナゴをどうにか掻き分けてトスクルに近づいていく。
「トスクルっ! 止めろ! 何してんだ、テメエっっ!」
けれどもトスクルは答えない。飽くまで取り憑かれたように魔法を使うだけだった。その事に怒りを爆発させた男は、自棄になって自分の鋭い爪を振り上げた。
「止めろ、クタンセ! そいつを殺したら、オレ達も…」
必死に止める仲間の声も届かず、クタンセと呼ばれた魔族は殺意に満ち満ちた眼でトスクルを捕らえ、獲物を狩る虎のように喉首を目掛けて爪を振り下ろした。
だが、その刹那。クタンセの腕は身体を離れ、空高く上がった。その腕が地面に落ちてくる前に、夥しい出血と絶叫とか辺りに広がった。
トスクルの目の前には、彼女を守るかのように立ち塞がり、一切の隙を見せずに残心をするザートレの姿があった。
◇
「ザートレ、前にいる長髪の男がボスだ。何かの情報を持っているから殺すなよ」
アーコはそう叫んで、ピオンスコを助け起こすとラスキャブと合流した。オレは敵意を長髪の魔族に向けることでソレの返事とする。
ボスと称されるだけあって、確かにこの男だけ纏っているオーラの質が違う。
その時、ドサリと何かが倒れる音が聞こえた。ちらりと目を向ければ、オレが庇った魔族の女が顔中に脂汗をかいて昏睡している姿が目に入った。その瞬間にイナゴたちが砂になって崩れ落ちていく。恐らくは自分のキャパシティ以上の魔力を使ってしまい、失神してしまったのだろう。
という事は、こいつがトスクルという奴か・・・?
オレがそんな憶測をしたとき、放たれた殺気に身体が思わず反応した。顔を正面に向きなす時間すらなかったので、直感に身を任せて左側へと倒れ込む。紙一重のところで、今まで首のあった位置を何かが通過した。
見れば長髪の男が、自らの頭髪に魔法をかけて巨大な刃物を作り出していた。それはまるで独立した意思を持っているかのように、自在に伸びてはオレに襲いかかってくる。
しかし、先ほどの攻撃は殺気に反射してしまった結果であり、冷静に相手の力量を計ると避けるまでもない攻撃だった。先端部分は硬質鋭利化が出来ているが、動きの柔軟性を保つために、根元に行けば行くほど柔らかくなっているの明確だ。一撃目を剣で往なして、相手の予想外の方向へ吹き飛ばすと、それに頭ごと引っ張られて大きく体勢を崩した。
長髪の魔族はオレの動きにまるで対応できず、勢いそのままに剣の柄をみぞおちへ叩き込むと、うめき声もあげずに崩れ落ちてしまった。
ところが、ザートレ達が現れる前に事態は一変する。
両陣にとってキーパーソンであるトスクルが、突如として鋭い頭痛に襲われたように頭を抱えた香と思うとその場に膝をついたのだ。彼女はパーティの最も後方にいたため、唯一対面しているアーコだけがそれに気が付くことができた。
そして、そのままイナゴの群れのこちらに先頭が差し掛かった時、トスクルは小さく、それでいて全員の耳に届くような鋭い声を出した。
「…ラスキャブに酷いことしないで」
「え?」
と、声を漏らしたのは誰かは分からない。もしかすると全員が同じく出した疑問符だったのかも知れない。
いずれにしても、その声は襲来するイナゴたちの羽音に掻き消されてしまった。
集まってきたイナゴは迷うことなくラスキャブの元に向かった。尋常ではない勢いでラスキャブを捕らえている布を食い破り、ついでにその術師たる魔族までもを襲う。誰の目にも、ラスキャブを助けようとしているのは明らかだった。
「ト、トスクル! 何をしていやがる!?」
仲間の声にもトスクルは反応しない。一心不乱にイナゴの群れを操ることに集中している。まさかの裏切り的行為に、魔族たちは混乱した。
今度はアーコがそれを見逃さなかった。再び植物を操る魔法を使い、攻勢に打って出る。
「『下生の勇者』っ!」
アーコが生み出した草人間は、今度は捕獲でなく殴打による攻撃で魔族たちを制圧していった。イナゴに妨害され、まともな応戦ができない魔族たちは咆哮なのか、悲鳴なのかも分からない声を上げて逃げ惑っている。
するとその内の一人が、イナゴをどうにか掻き分けてトスクルに近づいていく。
「トスクルっ! 止めろ! 何してんだ、テメエっっ!」
けれどもトスクルは答えない。飽くまで取り憑かれたように魔法を使うだけだった。その事に怒りを爆発させた男は、自棄になって自分の鋭い爪を振り上げた。
「止めろ、クタンセ! そいつを殺したら、オレ達も…」
必死に止める仲間の声も届かず、クタンセと呼ばれた魔族は殺意に満ち満ちた眼でトスクルを捕らえ、獲物を狩る虎のように喉首を目掛けて爪を振り下ろした。
だが、その刹那。クタンセの腕は身体を離れ、空高く上がった。その腕が地面に落ちてくる前に、夥しい出血と絶叫とか辺りに広がった。
トスクルの目の前には、彼女を守るかのように立ち塞がり、一切の隙を見せずに残心をするザートレの姿があった。
◇
「ザートレ、前にいる長髪の男がボスだ。何かの情報を持っているから殺すなよ」
アーコはそう叫んで、ピオンスコを助け起こすとラスキャブと合流した。オレは敵意を長髪の魔族に向けることでソレの返事とする。
ボスと称されるだけあって、確かにこの男だけ纏っているオーラの質が違う。
その時、ドサリと何かが倒れる音が聞こえた。ちらりと目を向ければ、オレが庇った魔族の女が顔中に脂汗をかいて昏睡している姿が目に入った。その瞬間にイナゴたちが砂になって崩れ落ちていく。恐らくは自分のキャパシティ以上の魔力を使ってしまい、失神してしまったのだろう。
という事は、こいつがトスクルという奴か・・・?
オレがそんな憶測をしたとき、放たれた殺気に身体が思わず反応した。顔を正面に向きなす時間すらなかったので、直感に身を任せて左側へと倒れ込む。紙一重のところで、今まで首のあった位置を何かが通過した。
見れば長髪の男が、自らの頭髪に魔法をかけて巨大な刃物を作り出していた。それはまるで独立した意思を持っているかのように、自在に伸びてはオレに襲いかかってくる。
しかし、先ほどの攻撃は殺気に反射してしまった結果であり、冷静に相手の力量を計ると避けるまでもない攻撃だった。先端部分は硬質鋭利化が出来ているが、動きの柔軟性を保つために、根元に行けば行くほど柔らかくなっているの明確だ。一撃目を剣で往なして、相手の予想外の方向へ吹き飛ばすと、それに頭ごと引っ張られて大きく体勢を崩した。
長髪の魔族はオレの動きにまるで対応できず、勢いそのままに剣の柄をみぞおちへ叩き込むと、うめき声もあげずに崩れ落ちてしまった。
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