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Episode3
引き戻される勇者
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『ああ、そうだった。でも、名前を変えるなんて面倒なことしなくてもいいのにさ。君たちもそうは思わない?』
魔王はまるで意味の分かっていない魔族たちにそんな疑問を投げかけてきた。勿論、本人もまともな返事を期待してはない。
記憶を消されているせいで、魔族たちは誰一人として目の前の男を魔王とは認識できていなかった。が、隠していても滲み出る迫力を本能的に感じ取り、誰一人として不審な動きをする者はいない。
『で、本題に戻るけどさ。エンビションがこの子の調整をしてくれたから、いつでもだせるってさ』
『そうでしたか。ありがとうございます』
…。
レコットと呼ばれた女が魔王に対して朗らかに微笑み、仲睦まじく会話をしている。これはルージュ達に見せられている記憶の断片だ、そうやって状況を客観的に整理することで、辛うじて理性を保つことができていた。全身の毛穴が開き、凍傷に似た痛みが全身を走っていく。
そしてオレは更に驚天動地する。
魔王は、何の脈絡もなくレコットに唇を重ねたのだ。レコットはそれを僅かに驚いた様子を見せたものの、当たり前のようにそれを受け入れている。放置された魔族の連中共々どうしたいいのか分からず、ただただ唖然としている。
悪戯に混乱を生み出した魔王は、それから何を言うでもなくトスクルを残すと、気怠そうな欠伸をしつつ、もう一人の女を連れて部屋の外へと出て行った。
するとレコットは何事もなかったかのように、こちらに向き直ると平然とした口調で告げる。
『では、準備も整ったようですから詳しく説明しますね』
そうして向けられた笑顔にオレはうすら寒い何かを感じた。
・―・―・―・―・―
そこまで見たところで、オレは現実の世界に引き戻された。オレの精神がブレブレなせいでこれ以上記憶を見せるのが危険だと二人に判断されたらしい。
事実、登山でもしてきたかのように息が上がり全身には汗をかいていた。
「大事ないか、主よ」
「…ああ」
「中々ショッキングな内容だっただろ?」
「まあな」
などと強がって見せても、動揺は隠しきれていないから余計に滑稽に映るかも知れない。
しかし、その分収穫も多い情報だったといえる。
トスクルは自前の能力を高く買われて利用されていたとみて間違いないだろう。あれだけのイナゴを操れるとしたら、街一つを占領することは不可能ではない。何かしらの方法で能力を底上げしていたような事も言っていたので、尚更だろう。
そして、もう一つ。オレのかつてのパーティは、やはり姿を意図的に変えて魔王に従属している。確認はできていないが、あの様子ではバトンとシュローナの二人も魔族の姿を得て何かしらの活動をしている可能性が高い。
「こいつらの記憶を踏まえて、これからはどうする?」
「…フェトネックの事を思えば、やつらは『囲む大地』で何かを画策しているんだろう。ともすれば、少しでも早く魔王の城を目指した方がいい。戦力が分散しているうちに…叩く」
「いいのか? 俺とルージュの狙いは魔王だが、お前はパーティの奴らにも一矢報いたいんだろ?」
「どの道、草の根分けてでも全員を殺す事に変わりはないんだ。そこは気にしないさ、むしろ悪戯に勝率を下げる様なことはしたくはない」
「なるほどね…」
◆
その時、オレは天啓をひらめく。なぜ、そんな事を思いついたのか自分でもよく分からない。頭で止めるよりも先に、オレは自分の考えをアーコへ打ち明けて伺いを立てていた。
「アーコ、相談がある」
魔王はまるで意味の分かっていない魔族たちにそんな疑問を投げかけてきた。勿論、本人もまともな返事を期待してはない。
記憶を消されているせいで、魔族たちは誰一人として目の前の男を魔王とは認識できていなかった。が、隠していても滲み出る迫力を本能的に感じ取り、誰一人として不審な動きをする者はいない。
『で、本題に戻るけどさ。エンビションがこの子の調整をしてくれたから、いつでもだせるってさ』
『そうでしたか。ありがとうございます』
…。
レコットと呼ばれた女が魔王に対して朗らかに微笑み、仲睦まじく会話をしている。これはルージュ達に見せられている記憶の断片だ、そうやって状況を客観的に整理することで、辛うじて理性を保つことができていた。全身の毛穴が開き、凍傷に似た痛みが全身を走っていく。
そしてオレは更に驚天動地する。
魔王は、何の脈絡もなくレコットに唇を重ねたのだ。レコットはそれを僅かに驚いた様子を見せたものの、当たり前のようにそれを受け入れている。放置された魔族の連中共々どうしたいいのか分からず、ただただ唖然としている。
悪戯に混乱を生み出した魔王は、それから何を言うでもなくトスクルを残すと、気怠そうな欠伸をしつつ、もう一人の女を連れて部屋の外へと出て行った。
するとレコットは何事もなかったかのように、こちらに向き直ると平然とした口調で告げる。
『では、準備も整ったようですから詳しく説明しますね』
そうして向けられた笑顔にオレはうすら寒い何かを感じた。
・―・―・―・―・―
そこまで見たところで、オレは現実の世界に引き戻された。オレの精神がブレブレなせいでこれ以上記憶を見せるのが危険だと二人に判断されたらしい。
事実、登山でもしてきたかのように息が上がり全身には汗をかいていた。
「大事ないか、主よ」
「…ああ」
「中々ショッキングな内容だっただろ?」
「まあな」
などと強がって見せても、動揺は隠しきれていないから余計に滑稽に映るかも知れない。
しかし、その分収穫も多い情報だったといえる。
トスクルは自前の能力を高く買われて利用されていたとみて間違いないだろう。あれだけのイナゴを操れるとしたら、街一つを占領することは不可能ではない。何かしらの方法で能力を底上げしていたような事も言っていたので、尚更だろう。
そして、もう一つ。オレのかつてのパーティは、やはり姿を意図的に変えて魔王に従属している。確認はできていないが、あの様子ではバトンとシュローナの二人も魔族の姿を得て何かしらの活動をしている可能性が高い。
「こいつらの記憶を踏まえて、これからはどうする?」
「…フェトネックの事を思えば、やつらは『囲む大地』で何かを画策しているんだろう。ともすれば、少しでも早く魔王の城を目指した方がいい。戦力が分散しているうちに…叩く」
「いいのか? 俺とルージュの狙いは魔王だが、お前はパーティの奴らにも一矢報いたいんだろ?」
「どの道、草の根分けてでも全員を殺す事に変わりはないんだ。そこは気にしないさ、むしろ悪戯に勝率を下げる様なことはしたくはない」
「なるほどね…」
◆
その時、オレは天啓をひらめく。なぜ、そんな事を思いついたのか自分でもよく分からない。頭で止めるよりも先に、オレは自分の考えをアーコへ打ち明けて伺いを立てていた。
「アーコ、相談がある」
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