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Episode3
覗き込む勇者
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―・―・―・―・―
魔族たちの記憶は見知らぬ部屋から始まっていた。こいつらもラスキャブ達と同じく『螺旋の大地』から『囲む大地』に送られてくる時に記憶を操作されていたようで、その時に感じていた混乱や気持ち悪さまでもが伝わってきた。
足に力が入らないのか、全員が地面にへたり込みながら虚ろな心持ちで部屋の床を見ている。
その時、不意に女の声がした。
『気分はどうですか?』
『『・・・』』
誰一人として返事はしない。ぼんやりとした頭で、女の顔を見るのが精一杯といった様子だ。
目の前に立っていた魔族の女は、全身が真っ白だった。服装、髪、肌の全てが気持ち悪い程に白く、不気味な透明感を持っている。唯一、手に持っている杖が清々しい程に邪気を孕んでいる。
女は全員の視線に気が付くと、ピクリと頭から生えている猫の耳を小刻みに動かす。こいつが、先に話に出ていたソリダリティという女と見て間違いなさそうだ。
『まだ、少し混乱していますか?』
そう言って杖を振ると、清々しい香りが鼻をくすぐった。連中はその魔法のお陰か、徐々に意識をハッキリとさせていく。
『ええと・・・』
『頭ははっきりとはしていないかもしれませんが、もう少し休めば大丈夫ですよ』
『あなたは?』
『私はソリダリティといいます。訳あってあなたたちに仕事をお願いしたいと思って、ここに来てもらいました』
『仕事・・・・・?』
『ええ。こちらの指示通りに動いてもらうだけなので、難しいことはありませんから』
ソリダリティは、魔族たち五人に向かって『囲む大地』に存在する五つの港町を襲い、住人たちを『螺旋の大地』へと船で誘導させるように促した。しかし、残念ながらそんな事をする理由までは言及していなかった。
魔族たちは微妙に残る記憶を頼りに、反論をし始める。
『む、無理だ。そんなこと、俺達だけでできる訳がない』
『大丈夫。一人、強力な仲間を付けますから』
『強力な仲間・・・?』
『ええ。まだ準備が整ってないんですけどね』
ソリダリティが呟くと、扉の外からそれを否定する声が聞こえてきた。
『いや、もう支度は終わったよ』
声と共に、部屋の中に別の三人が入ってきた。
一人はトスクル。
もう一人は、また見知らぬ女。
そして…その二人に挟まれるように立っていたのが、他ならぬ魔王本人だった。
奴の顔を見た瞬間、全身の血が沸いたかのように熱くなり、記憶を垣間見ている事も忘れて飛び掛かりそうになってしまう。
魔王は相変わらず飄々とした態度で口を開いた。
『記憶を弄るついでに、魔法力を上げておいた。そのせいで体力は落ちているけど実用には耐えられるだろう。後の事は、レコットに任せるよ』
レコットだと・・・?
オレは魔王の視線の先を見た。すると、再びソリダリティの耳が小刻みに反応した。そして怒ったような、それでいてはにかんだ表情を浮かべて返事をする。
『タスマ様。私の事はソリダリティとお呼びください』
魔族たちの記憶は見知らぬ部屋から始まっていた。こいつらもラスキャブ達と同じく『螺旋の大地』から『囲む大地』に送られてくる時に記憶を操作されていたようで、その時に感じていた混乱や気持ち悪さまでもが伝わってきた。
足に力が入らないのか、全員が地面にへたり込みながら虚ろな心持ちで部屋の床を見ている。
その時、不意に女の声がした。
『気分はどうですか?』
『『・・・』』
誰一人として返事はしない。ぼんやりとした頭で、女の顔を見るのが精一杯といった様子だ。
目の前に立っていた魔族の女は、全身が真っ白だった。服装、髪、肌の全てが気持ち悪い程に白く、不気味な透明感を持っている。唯一、手に持っている杖が清々しい程に邪気を孕んでいる。
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『まだ、少し混乱していますか?』
そう言って杖を振ると、清々しい香りが鼻をくすぐった。連中はその魔法のお陰か、徐々に意識をハッキリとさせていく。
『ええと・・・』
『頭ははっきりとはしていないかもしれませんが、もう少し休めば大丈夫ですよ』
『あなたは?』
『私はソリダリティといいます。訳あってあなたたちに仕事をお願いしたいと思って、ここに来てもらいました』
『仕事・・・・・?』
『ええ。こちらの指示通りに動いてもらうだけなので、難しいことはありませんから』
ソリダリティは、魔族たち五人に向かって『囲む大地』に存在する五つの港町を襲い、住人たちを『螺旋の大地』へと船で誘導させるように促した。しかし、残念ながらそんな事をする理由までは言及していなかった。
魔族たちは微妙に残る記憶を頼りに、反論をし始める。
『む、無理だ。そんなこと、俺達だけでできる訳がない』
『大丈夫。一人、強力な仲間を付けますから』
『強力な仲間・・・?』
『ええ。まだ準備が整ってないんですけどね』
ソリダリティが呟くと、扉の外からそれを否定する声が聞こえてきた。
『いや、もう支度は終わったよ』
声と共に、部屋の中に別の三人が入ってきた。
一人はトスクル。
もう一人は、また見知らぬ女。
そして…その二人に挟まれるように立っていたのが、他ならぬ魔王本人だった。
奴の顔を見た瞬間、全身の血が沸いたかのように熱くなり、記憶を垣間見ている事も忘れて飛び掛かりそうになってしまう。
魔王は相変わらず飄々とした態度で口を開いた。
『記憶を弄るついでに、魔法力を上げておいた。そのせいで体力は落ちているけど実用には耐えられるだろう。後の事は、レコットに任せるよ』
レコットだと・・・?
オレは魔王の視線の先を見た。すると、再びソリダリティの耳が小刻みに反応した。そして怒ったような、それでいてはにかんだ表情を浮かべて返事をする。
『タスマ様。私の事はソリダリティとお呼びください』
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