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Episode4
歯噛みする造反者
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やがて魔王はひとしきりの時間を過ごした後、転移魔法でも使ったのか淡い光と共に消え失せてしまった。トマスはそこでようやく石塔に近づくことができた。その時に初めて自分のいる空間がドーム状の洞窟になっている事が分かった。
壁面は咲き乱れた花の光によって照らされており、岩肌に奇妙な文様が浮かんでいる。それはよく見てみると細かく刻まれた無数の文字だった。
幼いトマスが理解できたのは未だに謎だが、その文字は『螺旋の大地』のかつての歴史を記したもの。
もう何年も前の出来事なのに、トマスの脳裏にはその時の思い出がリアルな質感と共にいつまでも色あせずに残っていた。あのあと、どうやって家に戻ったのかも思い出せないというのに。
それでもこの世界の歴史が改竄されているかも知れないという妄想に耽るには十分すぎる出来事だった。
他の者が聞けば、「そんなものは大方夢に決まっている」。
と一蹴されてもおかしくない出来事かも知れない。けれども、様々な不信に点在的な意識を持っているトマスにとっての魔王は見返りなしに信じられる相手ではなくなっている。
いや、明確な反抗心を持っていると言ってもいいだろう。彼女はすでに誰の目に見ても明らかな造反者なのだから。
◇
半ば気絶するように自らの過去の回想に耽っていたトマスは、ふと自我を取り戻す。見れば既にタークラプとそのお供は消え失せていた。いつの間にかそれほどまで長い時間が経っていた。
「大丈夫か?」
すぐ真横から重厚な声で尋ねられた。
「ああ。問題ない」
「こんな状態で詰問されているのに、昼寝とはな」
「酷い子守唄のせいで、嫌な夢を見たよ。まあ夢から覚めても悪夢みたいなものかしら?」
「なら、さっさとベットからでないとな」
二人はそんな軽口を言い合った。それだけで傍で会話の聞こえていた者たちは多少なりとも英気を養う事ができた。
あの二人が諦めていないのなら、自分たちも諦めない。
そんな気にさせる様な不思議な統率力が、トマスとジェルデには備わっていたらしい。
けれども。現実はそうもいかない。
二人は軽口を言い合うくらいの抵抗が関の山なのだ。ダメージは思いの外大きいし、武器もない。ここに捕らえられている囚人たちだけでは到底反逆はできない。その上、救助も見込めない。
このままでは敵が何かミスを仕出かすか、さもなくば第三者の介入を待つというような、指揮とはかけ離れたアイデアしか浮かんでこない。
「せめてあなたの無事だけでも知らせることができたらね…」
トマスは冗談ではなく、本気でそう思ったありのままをジェルデに向かって呟いた。
ジェルデは五大湖港にそれぞれ存在する英傑の内の一人。ルーノズアを代表する。
当然人の流れの多くなる『囲む大地』の五大湖港は魔獣や魔族、盗賊などから人命財産を守ることが最重要課題となる。その為に、各町には腕っぷしが自慢の猛者たちが実践の場と報酬を目的に多く集う。
英傑はその中の長とも呼べる存在だ。彼らは場所と状況によっては町長や商工会長よりも大きな発言権を持つ。
特に今回は魔王の軍勢に進行させるという想定される中で最悪の有事。
恐らくは残った町民たちの士気を削ぐために、ジェルデは死んだと伝えられているはず。だからこそ、彼が生きている事を知らせられれば戦況を大きく傾けることができるかも知れない。
魔王の気配が無くなった今が最大の好機だというのに…。
壁面は咲き乱れた花の光によって照らされており、岩肌に奇妙な文様が浮かんでいる。それはよく見てみると細かく刻まれた無数の文字だった。
幼いトマスが理解できたのは未だに謎だが、その文字は『螺旋の大地』のかつての歴史を記したもの。
もう何年も前の出来事なのに、トマスの脳裏にはその時の思い出がリアルな質感と共にいつまでも色あせずに残っていた。あのあと、どうやって家に戻ったのかも思い出せないというのに。
それでもこの世界の歴史が改竄されているかも知れないという妄想に耽るには十分すぎる出来事だった。
他の者が聞けば、「そんなものは大方夢に決まっている」。
と一蹴されてもおかしくない出来事かも知れない。けれども、様々な不信に点在的な意識を持っているトマスにとっての魔王は見返りなしに信じられる相手ではなくなっている。
いや、明確な反抗心を持っていると言ってもいいだろう。彼女はすでに誰の目に見ても明らかな造反者なのだから。
◇
半ば気絶するように自らの過去の回想に耽っていたトマスは、ふと自我を取り戻す。見れば既にタークラプとそのお供は消え失せていた。いつの間にかそれほどまで長い時間が経っていた。
「大丈夫か?」
すぐ真横から重厚な声で尋ねられた。
「ああ。問題ない」
「こんな状態で詰問されているのに、昼寝とはな」
「酷い子守唄のせいで、嫌な夢を見たよ。まあ夢から覚めても悪夢みたいなものかしら?」
「なら、さっさとベットからでないとな」
二人はそんな軽口を言い合った。それだけで傍で会話の聞こえていた者たちは多少なりとも英気を養う事ができた。
あの二人が諦めていないのなら、自分たちも諦めない。
そんな気にさせる様な不思議な統率力が、トマスとジェルデには備わっていたらしい。
けれども。現実はそうもいかない。
二人は軽口を言い合うくらいの抵抗が関の山なのだ。ダメージは思いの外大きいし、武器もない。ここに捕らえられている囚人たちだけでは到底反逆はできない。その上、救助も見込めない。
このままでは敵が何かミスを仕出かすか、さもなくば第三者の介入を待つというような、指揮とはかけ離れたアイデアしか浮かんでこない。
「せめてあなたの無事だけでも知らせることができたらね…」
トマスは冗談ではなく、本気でそう思ったありのままをジェルデに向かって呟いた。
ジェルデは五大湖港にそれぞれ存在する英傑の内の一人。ルーノズアを代表する。
当然人の流れの多くなる『囲む大地』の五大湖港は魔獣や魔族、盗賊などから人命財産を守ることが最重要課題となる。その為に、各町には腕っぷしが自慢の猛者たちが実践の場と報酬を目的に多く集う。
英傑はその中の長とも呼べる存在だ。彼らは場所と状況によっては町長や商工会長よりも大きな発言権を持つ。
特に今回は魔王の軍勢に進行させるという想定される中で最悪の有事。
恐らくは残った町民たちの士気を削ぐために、ジェルデは死んだと伝えられているはず。だからこそ、彼が生きている事を知らせられれば戦況を大きく傾けることができるかも知れない。
魔王の気配が無くなった今が最大の好機だというのに…。
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