魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode5

見当つける勇者

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辿り着いた件の入り江から出発してオレはすぐに狼の姿になった。普通なら船で港につくのが常なので迷う事もないが、あんな形で『螺旋の大地』に上陸したため街を探すところから始めなければならない。



 地図もなければ土地勘もない。かつて上陸をしたのは事実だが、十二分な探索をした訳ではないので、こればかりは仕方のない事だ。



 だからこそ、この狼の姿が役に立つ。この姿を取ると五感は元より、理外の感覚までが鋭敏に研ぎ澄まされる。なのでゴトワイの街の場所も風と星と月を見ただけで大よそ見当が付いた。何度体験しても不思議な感覚だ。



『螺旋の大地』は土地そのものが螺旋状になっている訳ではない。中央にある山が螺旋の円錐のような形をしているのがその名の由来だ。山と言うよりも巨大な塔が建っていると言った方がより正確かも知れない。



 山の麓にはその塔の入り口とも言える門がある。一度くぐると中からは開かない仕組みになっているらしく相応の覚悟を以て望まなくてはならない。



 そう言う意味では魔族たちがアレを「不帰の門」と呼んでいたことも理解できる。



『螺旋の大地』そのものは船さえあれば『囲む大地』との行き来が可能だ。現に交易用の港も存在している。今、目指している街もその港が軸になっている。ただし生息している魔獣のレベルも高く、他にも魔族の襲来が日常茶飯事であったので防衛の観点から規模はとても小さかったと記憶している。住民たちもそれに対応するために屈強な者達がほとんだ。女子供であっても魔術や剣術を体得しており、最低限の戦闘はこなせるように教育されていた。



 尤もこの知識も八十年前のものだからどこまで信用できるかは定かではない。



 すると明らかに人の手で整備された道に出た。とは言っても木を切り倒した程度の乱暴なものだった。だがこの道を見つけた事でオレの感覚に真実味を持たせることができた。オレは立ち止まって、アーコを見た。



「アーコ」

「どした?」

「ゴトワイの場所が何となく掴めた。またオレをデカくできるか? 全員乗せていく」

「任しときな」



 言うが早いかアーコはオレに巨大化の魔法をかける。見る見るうちにオレの身体は周囲の木々を追い抜かんばかりに大きくなった。同時に身体中の血液が沸騰したかのように熱く滾り出す。そう言えば強制的に興奮状態になってしまう事を忘れていた。



 熱情を必死に抑えてオレは四足を折りたたんで伏せをした。



 毛を掴んで座る五人分の重みを感じ取る。そして合図を一つ飛ばすとオレは風の如く走り出した。

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