献身聖女が癒したものは

朝雨

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第三話

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「ここだ」

カインスが案内したのは、城の東に立つ塔だった。
王城の中庭に建つ、街の中でもいちばん高い建造物である。

扉を押し開けると、中はだだっ広い空間で、人の気配はまるでない。
壁には神の石像が飾られていた。ずいぶんとサイズは小さいが。

「聖女ね…。やれやれ、父上にも困ったものだ」
「はい…? あの、カインス様…」
「ああ結構。そんな表情を浮かべる必要はない。これは父の命令だ、そこに私の意思を挟むべきではない」

謁見時のただ冷静な表情とは違う、どこか嫌悪感を抱かせる冷たさを放つカインスの様子に、ソフィアは思わず一歩後ずさった。

「ふん、ずいぶん警戒されたものだな。まあいい…この塔が、君の暮らす場所であり、使命を果たす聖堂というわけだ」

そう言って、カインスはぐるりと部屋を見渡し、再びふんと鼻を鳴らす。

「君も知ってのとおり、我が国はいずれ来る侵略と闘争に備え、軍備を拡張している。しばらくは訓練で傷ついた兵士たちの傷を癒す手伝いをしてくれたまえ」
「兵士の方、ですか。わかりました」

兵士など、生まれ育った領内では見かけることは少なかったが…聖堂を訪れる行商人たちから、たびたび話を聞くことはあった。

カイラ王国と隣接する他国間では、すでに戦争が始まっているという。目的は領土拡大であり、資源の確保であり、力の誇示であり、もしかすればエゴを満たすためなのかもしれない。

今この瞬間も、どこかで戦火が上がっている。
数日歩き続けるだけでその光景にたどり着くことができる。

「…ふぅ」

こんなことばかり想像してはいけない。ソフィアは首を横に振り、小さくため息を吐いた。

そんなソフィアの様子をカインスは一瞥したあと、別の話題を切り出した。

「それから、伝え聞く結界の力とは何だ?」
「え…結界、ですか…?」

淡々と質問してくるカインスに、しかしソフィアは答えることができない。
結界? それは一体何のことだろうか。

「その様子では何も知らないようだな」
「はい、申し訳ありません」

カインスは特に表情を変えることなく続けた。

「いいだろう。君、文字は読めるな? 我が城に備えられた図書館に行き、結界について調べたまえ。君たち聖女が持つ力の一つと聞いているが、発現できれば今後の王政に大いに役立つだろう」
「本を読んでもよろしいのですか? 嬉しいです。結界のこと、調べてみます」
「後ほど侍女たちが生活の手伝いに来るだろう。塔の上階を含め自由に使いたまえ。城内を歩くことも特に問題はない。ただし、我々王族の許可なく城から出ることは許さん」
「かしこまりました」

言い終えると、カインスは踵を返しさっさと塔を出ていった。

静まり返った部屋でソフィアは一息つこうとしたが、まずは状況を確認しようと塔を登ることにした。

冷たい石が丁寧に組まれた階段を一定間隔で進んでいく。
2階の扉を開けるとベッドや机、ドレッサーが見えた。どうやら自室として使えるようだ。

続いて3階に上がると、1階と同じく何もない広間だった。
ただ、隅にはずいぶん年季の入った椅子が置かれている。
かつては使い道があったのだろうか。

4階も同じくがらんとした空間。
窓を開けると、爽やかな風が入り込んできた。

ふと見下ろすと、街道をゆっくり進む馬車が見えた。
見覚えのある、我が家の馬車だ。

「お父様!」

思わず声を上げるが、きっと届くことはないだろう。

「さようならお父様! さようなら…!」

ソフィアは涙をこらえ、大きく手を振った。
どうか貴方達の今後が幸せになりますように。
そう願いを込めて、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
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