献身聖女が癒したものは

朝雨

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第四話

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ソフィアが城に入ってから2週間が経った。

塔の1階は、いつも昼頃から混みあってくる。
カインスに言われていたとおり、訓練で傷ついた兵士たちが度々聖女の癒しを求めて通うようになったからだ。

日によって人数はバラバラだが、一度何十人という兵士が一様に両腕にあざを作って集まってきたことがある。
一斉に同じ動きをしたのだろうか…ソフィアには正確な想像をすることはできないが、訓練が過酷であろうことだけはわかる。

そんな兵士たちを一度に癒すことができればいいのだが、そううまくはいかない。
ソフィアの両手は二つしかなく、また癒しの光が届く範囲にも限界がある。

この人たちを少しでも早く元気づけるにはどうしたらよいのだろう。
こうやって訓練している人たちと同じように、私のこの力もだんだんと上達していったらよかったのに。

こうした歯痒さを抱えながら懸命に力を使うソフィアを見て、兵士の多くは心を動かされ、逆にソフィアの体力を気遣うようになった。

そして、ソフィアの元を訪れるのは兵士だけではない。
いつの間にか、城で働く侍女やメイドたちが仕事の合間を見つけては押し掛けてくるようになったのだ。

王族のティータイムのお世話が終わった夕暮れ時、ソフィアの塔はいちばんの賑わいを見せる。
毎日、数人のメイドたちがソフィアのもとを訪れ、場内の様子や来客の風貌、王族のちょっとした仕草の違いなどを話題にして思い思いの会話を楽しんだ。

「聞いとくれよソフィア、王様ったらお昼にねえ…
「まあ、本当ですか? うふふ…
「そういえばカインス様も…
「そうそう、それでね…

もともとは城にきたばかりのソフィアの身の回りの世話や、その心中を気遣っての訪問だったのだが、いつの間にかそこは賑やかな時間を過ごせる憩いの場となっていた。

こうしたわけで、昼は兵士たち、夕方にはメイドたちと毎日接することになり、ソフィアは寂しさに飲み込まれることもなく、明るい気持ちのまま毎日を過ごすことができていた。

その様子を少々納得のいかない表情で覗き見る男がいる。
カインスだ。

城の人間と馴れ合うことに問題はない。むしろ歓迎されるべきだろう。些細な出来事だ。
要点はそこではない。

「ふん、聖女ね…。町医者に比べればはるかに有用であることは認めるが、片田舎の領に援助を施すほどの価値があの女にあるとは思えん。父の気まぐれにも困ったものだ」

誰に伝えるわけでもない。しかし本音はこうだ。
王国の繁栄につながらないのなら、彼女は必要ないのだから。

「カインス様、会議の準備が整いました」
「わかった、今行く」
 
衛兵の呼びかけにカインスは短く返事をし、その場を離れた。


想像していたよりも遥かに賑やかで楽しい毎日を過ごす中、ソフィアにはもう一つ楽しみにしていることがあった。

それは、塔の反対側…城内の西側2階にある図書室に通うこと。

カインスに指示された、聖女の力による結界について調べることが責務だが、それ以上に、さまざまな物語や詩集、思想論を読むことができるのは、ソフィアにとって、とても楽しいことだった。

ある日の昼下がり。兵士たちが去り、メイドたちがおしゃべりに現れる前の、1日の中でぽっかりと空いた隙間のような時間に、ソフィアはウキウキしながら図書室へ向かう。

その部屋までの廊下はいつもしんと静まりかえっており、ソフィアの足音だけがコツコツと響いていた。
窓が大きく取られているおかげで、日中はとても明るい。

やがて図書室の扉にたどり着き、軽くノックをする。
すると中から「はあい」と間延びした返事がかえってきた。

扉を開け、中に進むと背の低いカウンターがある。
そこには先ほどの返事の主が座っていた。

「こんにちはリゲルさん」
「ソフィアさんこんにちはっ!」

ソフィアのあいさつに返したのは、図書室の管理を担当するリゲルだった。
城にいる人々の中でも、その恰幅の良さと柔和な笑顔が一際印象的だ。

「今日はどんな本をお探しですか?」
「そうですね、今日は…星にまつわる物語を読んでみたいです」
「じゃあ…そうだ、東の国の神話伝承をまとめた本がいくつかありますよ!その国は星座という考え方がなくて…」

ソフィアの一言にさっそく触発されたのか、リゲルは楽しそうに説明をしながら部屋の奥の方に向かう。
ソフィアはふふっと笑ってからその後を追った。
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