献身聖女が癒したものは

朝雨

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第五話

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「これなんてどうですか? もう100年くらい前の本なので、ちょっと傷んできてるし文字も読みにくいけど、中身のおもしろさは保証します!」

そう言ってリゲルが手渡してきたのは、手のひらからはみ出す程度の小さな本。真白かったであろう表紙はしっかり黄ばんでいるが、パラパラとめくると中はたいして傷んでいないようだ。

目次を見てみると、北に輝くあの眩しい星に関する伝承や、南西の赤い星にまつわる神話が書かれているようだった。

「ありがとうリゲルさん。今読みたかった本そのままだわ!」
「どういたしましてー!」

微笑むソフィアにリゲルも満面の笑みを返す。

「リゲルさんは凄いわ、すぐにこんな本を選んでくれるなんて。この部屋にある本全部を読んだことがあるのかしら」
「あははは、任せてください! もちろん全部読んだことがありますって言いたいところなんですけど、実際はまだまだで…。でもタイトルや目次についてはひととおり目を通してますから!」
「それを覚えているだけでも本当に凄いと思うわ。ふふ、これからもよろしくお願いします」

ソフィアが深々と頭を下げると、リゲルはあわあわと両手を振った。

「や、やめてくださいよソフィアさん! これがボクの仕事なんですから、そんなにお礼を言われることでも、感心されることでもないんです。ただ…」
「ただ?」

ソフィアが聞き返すと、リゲルは少々寂しそうな顔をしてから続けた。

「最近はほとんど誰もこの部屋に寄ってくれなくなりました。ここにある本はほとんど王様が集めてくださったそうなんです。でも、お年を召したせいかだんだんと本を読まれることはなくなってしまったみたいで…」
「まあ…そうだったのですね」
「それに、カインス様は全然興味を持ってくれないんです。ずっと戦争のことばかりお考えだし、ここに立ち寄ってくれることがあっても、いつも地図ばっかり見て」

寂しそうに語るリゲルを見て、ソフィアも悲しげな表情になっていく。

「ソフィアさん、ボクはですね、ここにある本を街の人たちみんなが読んでくれたらいいのにって思うんです。それに、世界にはもっとたくさんの本がありますよね、昔王様がやってたみたいに、ボクももっと本を集めに行きたいなあ」
「それは素敵な夢だわ! リゲルさんならきっと叶えられます!」
「そ、そうかな…? でもソフィアさんがそう言ってくれるなら、できる気がしてきました!」
「ふふ、そうだったら嬉しいわ」

そうして二人は笑い合い、再び本についての話を続けた。

楽しい時間はあっという間に過ぎていき、日が傾いてあたりは夕方の景色に変わっていった。

「いけない、そろそろ塔に戻らなくっちゃ」
「大丈夫ですか?」
「ええ、そんなに慌てる必要はないんだけど、テーブルやお茶の用意をしておきたくて」
「はは、ソフィアさんは優しいなあ」

そう言ってリゲルは笑い、ふと、カウンターに置いてあった本を手に取った。

「ソフィアさん、これをどうぞ」
「これは…? どんな本なのかしら」
「結界についてのことが書かれた本です。部屋のいちばん奥、ほとんど触ったことのない文献が山積みになったところで見つけました」
「まあ! ありがとうございます! これでカインス様の命令を果たせるわ」

それはこの城に来た日、王子カインスに言われたことだった。
図書室で聖女の結界について調べよ、と。

喜ぶソフィアの様子を見てて、しかしリゲルはどことなく不安げな顔を浮かべた。

「本当は、この本をお渡しするかちょっと迷ったんです…」
「それはどうして?」
「結界っていうものの説明は書いてあるんですけど、聖女という言葉が一度も出てこなくて」
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考え込んでいると、柱時計がポーンポーンと時刻を知らせてきた。
いけない、早く塔に戻らなくては。

「ありがとうリゲルさん。この本、大切にお借りします」
「あ、はい! また来てくださいね!」
「ふふ、もちろんです。リゲルさんとお話しできるの楽しみにしてます」

そう言ってソフィアは足早に図書室を去り、部屋にはいつも通りの静寂が戻ったのだった。
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