献身聖女が癒したものは

朝雨

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第六話

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夕方の賑やかな時間が過ぎ、いつもどおりの静かな夜。
蝋燭の火がぼんやりと灯る中、ソフィアはうーんと背伸びをした。

リゲルが選んでくれた本の内容はとても興味深かった。

月明かりから生まれた金色の鹿の話、悲恋の末に命を捨てるしかなかった男女が神の力で星座になった話、星空の河を渡って遠い世界に旅立った白鳥の話…。

まだ蝋燭もないころに、夜はきっと星空や月明かりが今よりずっと大切だったのだろう。

この物語を考えた人たちは、どんな星空を見上げていたのだろうか。
もしかしたら、全部本当にあったことなのかもしれない。

そんな物思いに耽りながら、ソフィアはもう一冊のカバーに触れた。

リゲルが選んでくれたものとは正反対の、黒い表紙の分厚い本。ずいぶんと大きいので、ついつい両手で抱きかかえるような持ち方になってしまう。

ここに結界についてのことが書いてあるという。

内容は使命に関わることだし、眠る前の少々ぼんやりした頭で読むのもよくないか…と思い、明日の朝に読もうとしていたのだが。

どうしてもその本の存在感が気になってしまい、ソフィアはふっと一息ついてから本のページをめくった。

内容は、カイラ王国の神話や歴史についてのものだった。

この城があるあたりには大昔祠があったとか、そこに祀られていた神様たちは遠い東の空からやってきたとか。

中にはソフィアが幼い頃に教えてもらった伝承もあった。
森に住む妖精たちの話だ。
木々の蜜を集め、動物たちと木の実を交換し、時には森に迷い込んだ人間をからかっては笑う小さな妖精たち…。

幼い頃に出会うことはなかったけれど、いまは聖女として少し不思議な力が使えるのだから、もしかしたら会えるかもしれない。

そんな想像をしてふふっと笑ってから、ソフィアがページをめくると、そこには1ページ全面を使った挿絵が載っていた。

大きな太陽と月、散りばめられた星と雲、地平線を覆うように描かれた森。
その手前には城があり、その城の屋根からまるでベッドの天蓋のようにドーム状のベールのようなものが描かれていた。

「これは…?」

何だろう。

いや、これだ。直感が働いたことをソフィアは自覚した。

結界。
きっとこれは結界の絵だ。

隣のページに目をやると、先ほどまでの神話伝承の列挙とはまったく違う字体で小さな文字がまばらに書かれている。
この本がどのような編纂の上で作られたかはわからないが、明らかに先ほどまでと筆者が違う。

「ええと…なんだろう、ちょっと違う文字…?」

読もうとするが、ところどころに見慣れない文字が並んでいてスラスラと目で追うことが難しい。
決して長い文章ではないが、しっかりと向き合わなければならないようだ。

ソフィアは姿勢を正して、指先でなぞるようにして文章を追う。

『内側と、外、分ける…。カーテン、祈りと、…光が広がること。守ること。

『炎を断ち、水を断ち、寄せ付けない光。

『守りであり、拒否であり、遮断である。それを結界と呼ぶ。

ああ、やっぱり…!

ソフィアの勘は当たっていた。この挿絵と説明は結界を表しているのだ。
城一つをまるごと包み込むような大きな光のカーテンが、守ることにつながる…。

「守る、か…。じゃあ、きっとこのお城は、戦争で攻められているのね…」

漠然と、そんなことを想像する。
挿絵に兵隊が描かれているわけではないが、城を守る必要があるのなら、それはきっと戦いの最中なのだろう。

ということは、カインス様の思惑は、この結界の力を戦争に使いたいということだろう。
いざ攻め込まれた時のために、守りの力を持っておきたいのではないか。

と、考えてみたものの、ソフィアはその悲惨さを今ひとつ想像することができない。
生まれて18年、身の回りに戦争は起こらなかった。
そういった悲劇が起こっていることは知っているが、体験したことはない。

やがてカイラ王国も戦火に飲まれる火が来るのだろうか?
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