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3 呼び出しと旅立ち③
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「さーて、こんなもんかしら」
呼び出しの翌日、リリアは早々に荷物をまとめ終わっていた。ベッドに積み上げたカバンはわずか3つ。どれも持ち歩くには不便だが、貴族令嬢の引っ越し荷物にしてはあまりにも少ない。
リリア自身はドレスではなく、ブラウスにズボン、ブーツと、野山を歩くことを想定した服装だ。目的地であるバージンレイクまでは馬車と徒歩で半日かかるのだ。
「さすがですお嬢様。もう一回り大きいカバンをご用意しておりましたが」
「あらアンネリース、わざわざありがとう」
アンネリースは細身の見た目に反して軽々とカバンを抱え上げた。そのまま廊下に向かい、振り返る。
「他にお荷物はございますか?」
「もう大丈夫よ」
「枕はお持ちになられましたか」
「もちろん! すべての命は安眠から始まるわよね」
「おっしゃる通りかと」
「とりあえず数着の衣服があれば人前には出られるもの。ドレスなんて邪魔くさいし。あとは現地調達の方が楽」
「かしこまりました」
「じゃ、行ってくるわね」
「はい、まいりましょう」
「え?」
予想に反する言葉に、リリアは訝しげな顔でアンネリースを見た。その表情に合わせるでもなく、マイペースにアンネリースは告げる。
「このアンネリース、お嬢様にお供させていただきます」
「お供って…ちょっと、本気で言ってるの?」
「はい。昨晩旦那様、奥様方にはお伝えしました。リリア様の身の回りのお世話はこの私が」
「…そう。それは、とっても嬉しいわ!」
リリアはアンネリースの手を取りがっしりと握手する。
「じゃあ思いっきり頼っちゃうわよ」
「お任せください」
アンネリースは小さくほほ笑み一礼した。
屋敷の玄関口に人影はない。見送りは止められているのだろう。アレクサンダーではなく、マリアンヌに。なるべく気にはしないつもりだったが、こうもはっきり態度に出されるとリリアはだんだんと腹が立ってきた。独り言のはずが、いつの間にかロビーに響き渡るかのような大声になっていく。
「ああ、いま思い出しても忌々しい目つきだわ!」
腹いせに騒々しく足音を立てながら玄関を出る。さすがに扉を蹴破るのは我慢した。代わりに、横に付き従うアンネリースにぶつぶつと文句を聞かせることにする。
「以前から噂になってたじゃない、マリアンヌが兄様と私を屋敷から追い出そうとしているとことは」
「ミハエル様が家を出られた時も、突然のことでございましたね」
「言われる側にとってはねー。結局兄様が出ていった理由はよく知らないけど、あの女が絡んでるのは間違いないわ。とはいえ、お父様の命令は絶対に覆らないし。まあいいわ、それで次は私よ。一体どんな難癖を付けてくるかと思えば、父様をそそのかし出奔させる命令だけ。あんなシンプルな命令ってある? 拍子抜けもいいとこ!」
「リリア様の品行方正な立ち振る舞い、加えてご学業、教養へのひたむきさは学院で教育を担当されていたマリアンヌ様も重々ご承知だったことでしょう。落ち度を探しても何も見つからないとご理解されていたはず」
「ふふ、素敵な褒め言葉をありがとう。おかげで良い気分」
とは言え、この屋敷においてアレクサンダーが指示したことには誰も逆らえないのだから、その理由は「リリアの顔を見たら今朝から気分が悪くて」「リリアに命を奪われる夢を見て」程度で問題ないのだ。大事なのは、当主がそう決めて命令することにあるのだから。
「思ったよりご機嫌で何よりだ、姉上」
「はあ?」
不意に背後から話しかけられ、リリアは瞬時に苛立ち交じりの声で返事をする。
振り返ると、弟であるアーブルが偉そうに腕を組んで立っていた。リリアと同じく父譲りの赤毛の少年。見下すような目つきと口角を吊り上げた憎たらしい笑顔がマリアンヌそっくりだ。
呼び出しの翌日、リリアは早々に荷物をまとめ終わっていた。ベッドに積み上げたカバンはわずか3つ。どれも持ち歩くには不便だが、貴族令嬢の引っ越し荷物にしてはあまりにも少ない。
リリア自身はドレスではなく、ブラウスにズボン、ブーツと、野山を歩くことを想定した服装だ。目的地であるバージンレイクまでは馬車と徒歩で半日かかるのだ。
「さすがですお嬢様。もう一回り大きいカバンをご用意しておりましたが」
「あらアンネリース、わざわざありがとう」
アンネリースは細身の見た目に反して軽々とカバンを抱え上げた。そのまま廊下に向かい、振り返る。
「他にお荷物はございますか?」
「もう大丈夫よ」
「枕はお持ちになられましたか」
「もちろん! すべての命は安眠から始まるわよね」
「おっしゃる通りかと」
「とりあえず数着の衣服があれば人前には出られるもの。ドレスなんて邪魔くさいし。あとは現地調達の方が楽」
「かしこまりました」
「じゃ、行ってくるわね」
「はい、まいりましょう」
「え?」
予想に反する言葉に、リリアは訝しげな顔でアンネリースを見た。その表情に合わせるでもなく、マイペースにアンネリースは告げる。
「このアンネリース、お嬢様にお供させていただきます」
「お供って…ちょっと、本気で言ってるの?」
「はい。昨晩旦那様、奥様方にはお伝えしました。リリア様の身の回りのお世話はこの私が」
「…そう。それは、とっても嬉しいわ!」
リリアはアンネリースの手を取りがっしりと握手する。
「じゃあ思いっきり頼っちゃうわよ」
「お任せください」
アンネリースは小さくほほ笑み一礼した。
屋敷の玄関口に人影はない。見送りは止められているのだろう。アレクサンダーではなく、マリアンヌに。なるべく気にはしないつもりだったが、こうもはっきり態度に出されるとリリアはだんだんと腹が立ってきた。独り言のはずが、いつの間にかロビーに響き渡るかのような大声になっていく。
「ああ、いま思い出しても忌々しい目つきだわ!」
腹いせに騒々しく足音を立てながら玄関を出る。さすがに扉を蹴破るのは我慢した。代わりに、横に付き従うアンネリースにぶつぶつと文句を聞かせることにする。
「以前から噂になってたじゃない、マリアンヌが兄様と私を屋敷から追い出そうとしているとことは」
「ミハエル様が家を出られた時も、突然のことでございましたね」
「言われる側にとってはねー。結局兄様が出ていった理由はよく知らないけど、あの女が絡んでるのは間違いないわ。とはいえ、お父様の命令は絶対に覆らないし。まあいいわ、それで次は私よ。一体どんな難癖を付けてくるかと思えば、父様をそそのかし出奔させる命令だけ。あんなシンプルな命令ってある? 拍子抜けもいいとこ!」
「リリア様の品行方正な立ち振る舞い、加えてご学業、教養へのひたむきさは学院で教育を担当されていたマリアンヌ様も重々ご承知だったことでしょう。落ち度を探しても何も見つからないとご理解されていたはず」
「ふふ、素敵な褒め言葉をありがとう。おかげで良い気分」
とは言え、この屋敷においてアレクサンダーが指示したことには誰も逆らえないのだから、その理由は「リリアの顔を見たら今朝から気分が悪くて」「リリアに命を奪われる夢を見て」程度で問題ないのだ。大事なのは、当主がそう決めて命令することにあるのだから。
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