神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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留まる夢

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 デリューワールド。
 想文と想文に反応する何らかの物質を用いて構成された実在する疑似仮想空間。
 現実と錯覚の境界が曖昧な虚構の牢獄ワナに干渉したヒメナと折子は、宇留を含めた生徒達の脱出を目指していた。

 衣懐学園、二年B組(?)。

 折子と姫菜ヒメナの指示で教室前の暗い廊下に机と椅子を並べ、協力して簡単なバリケードを組む十五人の生徒達。その最中、五雄はある事に気付いた。
「あ!これ、俺の使ってる机じゃ無い!」
「ホントだ、こっちも!微妙に違う!」
 一人づつ、次々と教室に対する違和感が発覚する。

 共同作業をする内、いきなり人間モードで現れた友人二人に宇留はもう馴染んでいた。
「一体、どのタイミングで入れ替わったんだろう?」
「うん······?」
 小声でそう話す宇留と姫菜。まるで当然のように肩を並べ、互いにすがり付く寸前のように近い。
「ぃうぅぅ···!」
「ヒえわぁ······!」
 何故か藍罠兄ヨキト的な目付きの悪さが発現しつつある磨瑠香。マユミコ委員長はそんな磨瑠香の謎の闘志に揺さぶられる。
「それで···これから先どうすればいいですか?」
 教卓の近くに居る折子と姫菜の間に磨瑠香が歩み出て、三人が並ぶ。磨瑠香の敬語を、宇留だけがいい意味でわざとらしいと捉えた。
「(!くぅ···すまんがァ美少女三人並ばんでェくれんか?今のオイラにゃァまぶし過ぎるゥ!)」
 アイドルオタクの男子。鹿野地カノチ トノハルが眼福顔を誤魔化す為にそっぽを向いた。
「(···バッカじゃないの?)」
 そんなトノハルの所業を見抜いた女子。火加ほたし 薪梨まきりは一瞬嫌な顔をした。
「とりあえず、教室ここを拠点に脱出経路を探しましょう!絶対に一人にならないように······!」
 折子が磨瑠香に答える。
「あれ?現くんは?」
「あ!様子を見て来るって、向こうに···」
 宇留の問いに、ベリーショートの女子。郡川こおりかわ 真矢実まやみがハッとしたように返した。
「だ!脱出ってぇ?えぇ?これ?え?」
 怯えた表情の女子。黄渡星きどほし ラーヤを近くに居た男子がなだめる。
「まーまー落ち着いてキドさん。変な事になってるのはわかりました。こんなゲームみたいな事も生きてりゃありますよ?」
 ミステリーマニアの、西前字さいぜんじ 宿里やどりのキザっぽい台詞に、オカルトマニア、数縛まとめどめ  モットモが絡んだ。
「ゲームとは油断大敵だねー?所でお姉さん方?あなた達は教師候補生なんかじゃ無くて、時空のおっさんならぬ時空の美少女なのでは?んん?」
「?」「···!」
 折子が黙ってニッコリと微笑むと、最は赤面して黙ってしまった。
「まーみんなで頑張るしかないぜー!問題はどうやってこの変な学校出るかだな?」
 サッパリとした性格のムードメーカーの男子。久尾炭くおすみ 夢令ムレイが元気良く言った。
「頑張るって!どうやって?」
 ラーヤが不安そうに誰にでもなく問いかける。
「そうだね······?」
 姫菜は右手の人差し指を頬に添え考え込む。トノハルは、現実でこんな仕草するを初めて見た、と感慨深げだった。姫菜は突然イサヤに目を向けるとヒョイとステップして近付く。イサヤは少々大袈裟にビクッとして姫菜に対して背筋を硬直させた。
「な!な、なーに?」
「あなた、耳がよかったよね?」
「···え?(どーして知ってるの!)」
 イサヤは何故か姫菜に対してビクビクしている。
「覚えてる教室の音を探して欲しい」
「そ、それだーー!」
 五雄が姫菜の提案に感心する。
「成る程!同じカテゴリーでもゲット出来る確率の高い順から攻めて低い確率に挑むって事でぃしゅれ?」
「?」
 宿里は精一杯イケボを決め込もうとして噛んでしまった。
「月井度くん除いて男女比ハチ対ロク···」
 マユミコ委員長は既に係采配の考えを巡らせている。
「な、成る程!同じ音がする所がこの異世界と現実世界の接する境界って事だね?」
 最は自信無さげに推測を述べた。
「じ、自分っちに、わかるカナ~?」
 とりあえずイサヤは、周囲のめぼしい覚えていそうな音源を探り始め、そして気付いた。
「あ!扉かな?隣の···教室も?」
「······」
 全員が濃い暗闇をたたえた不気味な廊下を扉の覗き窓越しに見つめる。
「いざとなったら······」
 磨瑠香は右の耳元辺りに差し込んでいる黒と黄色のペイントが施してあるヘアピンを触って確認した。


          ※
 

 宇留、姫菜、マユミコ委員長、トノハル、夢令の頑張る調査Aチーム。磨瑠香、イサヤ、真矢実、宿里、最の音調査Bチームは、教室待機調査Cチーム。折子、五雄、薪梨、ラーヤに見送られてそれぞれ反対方向に出発した。
 机バリケードの前後出入口を五雄と薪梨に閉じてもらい両チームはそれぞれ最初の教室の扉に手を掛ける。
 ありがちだが最初はどちらも開かなかった。それが何度も何度も続き、やがて彼らの違和感は最高潮に達する。
「教室多いよ?」
 このままずっと続くのでは?と思わせる位に明らかに教室の数が多かった。振り向くと二年B組?の灯りだけが遥か後方に見える。
「ヤバいね?アンマリこの調子なら、一回教室に戻らね?」
 夢令がマユミコ委員長に提案する。
「うん、あ!廊下の窓は?」
 スマホで教室の数などをメモしていたマユミコ委員長が廊下の窓を調べようとした時······
 ガラッ!
「あ!」
 宇留が掴んだ次の教室の扉が開いた。しかし扉は十センチ程だけ開き動かなくなる。そして誰かの野太い声の会話が聞こえて来た。

「······」
「ナンダヨー!アンマリリリシカトスットアノ事バラスカラナー?」
「!、バラスモ何モオ前ガガ勝手ニニニ決メタ事ダロー!シツコイッテェェ!」
「スマイノノスキナヒトトハー?ゲハハハハハハハハ!」

「やめろって、いい加減にしろよ?」

「!ーーー」
 全員聞き覚えのある会話。しかしその会話に続くであろう宇留の言葉はリアルタイムでしっかりと、はっきりと、“あの時„と同じ言葉で中に居る連中に伝えられた。
「······」
 中の連中は一瞬黙ったかと思うと、ゴワァ!ゲワワ!グモォ!などと人間が獣の声を真似る唸り声や、適当な言葉の合唱を扉に向けて言い放つ。だがそれは遠吠えのようなものだけで、扉から廊下に中の連中がなだれ込むなどといった事は無く、宇留が扉をソッ閉じすると同時に聞こえなくなった。
「······」
「須舞······」
 “あの時„、宇留を庇う派だった夢令は悲痛な表情で黙り込む宇留を後ろから見つめた。
「シロガタ事件という言葉が聞こえた」
 姫菜が唐突にメンバーに告げる。
「!」
「ちょっと昔の事件だよね?······残留思念って知ってる?場所そのものに宿る思いのコト。···この世界はこの学校の記憶を利用してる!」
「え?学校が?、覚えんの?」
「フフ···フフ!」
 夢令が疑問に思っていると宇留が笑い出した。



 一方、反対側のBチーム。
「ぅう!」
 宇留と同じく扉を恐る恐る開いたイサヤは、聞こえてきた声と教室内の光景に後退り磨瑠香に肩を抱き止められる。
 Bチームは、宇留達Aチームの聞いた会話の続きまで止められずに聞く事になった。しかもその教室内は白く明るく、出来の悪い石膏像のような不気味な人型の物体が生徒達を演じていているという、トラウマ寸前の光景だった。
「ズマイグゥゥン!マルカナイチャッダジャアアン!アヤマリナザイヨーーー!」
「ナニヤッデンダギョォ!」
 マユミコ委員長役の石膏像が宇留役の石膏像を責め立て、他の石膏像達もギャーギャーと醜い声で騒ぐ。
 Aチーム同様、(ほぼ)覚えのあるやりとりに悲痛な面持ちになるBチーム。磨瑠香は扉を閉じようと前に出た所で僅かの間考え込む。そして純白の不条理蠢く教室に頭を入れて叫んだ。
「負けるな!頑張れ!」
「!」
 うつむいていた磨瑠香役の石膏像が顔を上げて磨瑠香を見た。
ちし今楽しいよ!色んなお陰様で笑ってられるよ!だからここまで絶対来て!待ってるよ!」
「······」
 磨瑠香役の石膏像は教室がブラックアウトするまでそのまま磨瑠香を見ていた。
 
 ほぼ同時に反対側に居た宇留も扉をガラッと開ける。暗い教室の中に居る連中がギョッとしたのが雰囲気でわかった。
「どんな事言われたって!もっと強くなって汚れない思い出位いくつもこれから作ってやる!おまえはどうすんだよ!見てるからな!」

 姫菜は宇留の傍らで、折子は二年B組?で二人の主張を聞いて微笑んでいた。
 宇留の決意を聞いたマユミコ委員長も、後頭部に張り付いていたモヤモヤが晴れた気分だった。友人を傷付けたかもしれない宇留をどこかで憎んでいた。そんなものを支え続けている時間が勿体無いと思えた。




「あらそうなの?」

 ドサッ、ドサ!

「?」
 暗くてよく分からなかったが、廊下に分厚い本数冊がばらまかれた。















 

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