神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行

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本音の星明り

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「ありがとうございました!···エヘヘ?···お疲れ様です~」
 宇留の姉、須舞 柚雲ゆくもは、仕事終わりにホームステイ先の祖父母宅まで車で送迎してくれた同僚を笑顔で見送る。そして走り去る車をポッとした表情でしばらく見つめていた。


 
 I県、軸泉市。須舞 頼一郎らいいちろう邸。

「ああ!ユックちゃん!早く!」
「おうわ!おばあちゃん!」
 柚雲が玄関を開けようとすると、祖母のはなが心配そうに玄関を開けて柚雲を家の中へと急かした。
 柚雲が居間に到着すると、報道特番のせわしいアナウンスが祖父の頼一郎をテレビに釘付けにしていた。

 T都湾内で異常気象、氷結現象を確認、都民に避難指示、国防隊有事出動か?

「ウル······!」
 柚雲は悲痛な表情でテレビ画面を見ながら呟いた。





 T都湾内中央では、氷の島が巨大化を続けていた。
 青白い閃光が海中に走る度、キシン!キシュン!と乾いた繊維が弾かれるような音と共に波で軋む氷が増えていく。
 その氷結島ひょうけつとうの上空に辿り着いた超巨大アクプタンは連結を解除し、三機でホールドしていたエギデガイジュを直下のモーニンググローリーの雲塊中に落とす。
 雲の中を抜け落ちるエギデガイジュは何故か減速し、程よい落下速度で氷結島に落ちた。
 足下の氷が砕け、浮かぶ氷の島があらゆる方向に少々揺れる。エギデガイジュはバランスを取る事をしなかったが、転びそうになる事は無い。

 ヌゴゴゴゴ······

 続けて降って来たのは超巨大アクプタン三機だった。氷結島を三点で囲むように、縦になってほぼ同時に角から着水する。その大きさと不釣り合いな、決して大きくない波が発生したかと思うと、更に氷結島がほぼ瞬時に拡張していく。
 エギデガイジュは、その波で揺れる氷結島の上で歩幅を微調整する。背負ったレンズを市街地の方向に向け、まるで照準器スコープを覗くような姿勢を見せた。



 

 デリューワールドの衣懐学園。

 二年B組?、周辺の暗い廊下にばらまかれた分厚い本。最がスマホのライトで照らすその一冊一冊から大量のページが抜け流れて直線的に広がったかと思うと、ページの束はある箇所で二股に別れた。
 それは足のように屈伸すると、腰のバネだけでヒョイと跳ねて立ち上がる。
 表紙の頭部?の少し下からは、南京玉すだれのようにページが左右に展開し両腕になった。
「ベレレレレ!」
 本の端を指先で弾くような声で唸った本人間ブックマン達は、暗い廊下に居るBチームの生徒達にユラユラとに迫った。
「ひゃあああ!」
 イサヤは腰が抜け、立てないで居る。
「うわ!」
 逃げるか?、助けるか?、照らすか?パニックになっている最の横を、磨瑠香が駆け抜ける。
「ハアッ!」
 イサヤの顔の横から伸びた黄色と黒のツートンカラーのコーンバーの先端が、ドシッと本人間の腹を突く。
 前屈みになって後退る本人間を、磨瑠香はいつの間にか持っていたコーンバーでもう一撃。本人間の腕ごと横から振り叩いた。
 本人間は、車に撥ね飛ばされたような凄まじいスピードで廊下の壁に叩き付けられ、表紙と紙の束になる。叩き付けられた壁は割れたように穴が開き、塞がるまでの短い間、赤紫色にボオッと微かに光る模様が見えていた。
「!やっぱり変なトコなんだ!」
 テシッ!テシッ···
 磨瑠香が考えていると奥から足音。どうやらまだ廊下の奥から本人間は涌いてくるらしい。
「こっち!戻ろっ!」
 磨瑠香は片手でイサヤを抱き起こし、Bチームの面々で教室に戻る事にした。
「だガァ!」
 突然、逃げる宿里の背中に分厚い本の表紙面がぶつかる。その分厚い本は床に落ちる寸前、ページの隙間からシュルルと腕を伸ばし、よろける宿里の足に絡み付いた。
「うわっ!うわーーー!」
 ベシッッ!
 紙の腕にまたもや磨瑠香がコーンバーを突き立てる。ページは千切れ、残った腕のページはもがくように本の隙間に引き込まれて戻った。磨瑠香はその本をコーンバーで弾いて、奥に追いやる。
「早く行こう!本が敵なんて!バチが当たりそう!」
「お、おー···ありがと、藍罠さん···」
 そう言いながらコーンバーを構える磨瑠香に促され、宿里は立ち上がり教室へと向かった。



 本人間達は宇留達Aチームにも迫る。
 数体歩み寄ってきた本人間達の表紙かおが開き、マジックでグシャグシャに描き殴られたような黒い顔のページが液晶でもない紙の上で動いてギャォォォォ!と大口を開けて吠えた。
「てやあああっ!」
 姫菜は普通に本人間達の中心に突っ込み、特撮ヒロイン顔負けのシャープな動きで打撃や体術を繰り出し、本人間達を組伏せていく。
「す!スッゲェーー!」
 マユミコ委員長、夢令、トノハルは姫菜のキャラ変貌ぶりに度肝を抜かれていた。
 (···ここが、イメージの世界だってんなら···)
 ある日の精神世界での特訓を思い出した宇留も、姫菜に負けじと本人間に詰め寄り、逆手の掌底を本人間の胸元にねじ込む。
「イメージ!」
 バズンッッッ!
 ギュエエエエエ!
 電撃と閃光がほとばしり、本人間は吹き飛び倒れ、僅かに炎上し廊下を照らした。
「須舞!スゲー!なにそれ?!」
 夢令の問いに、宇留は困る。
「あ!っと、ま、マジックだよ(スットボケ)、照臣くんに教えて貰ったんだ!」
「そ、そうなんだ······(に、しちゃあ電柱の機械に雷が落ちた時みたいな音だったぞ?)さすが予防接種の針折っちまう奴はスゲ···」
「まだ来る!逃げよう!」
 ハイキックを蹴り終えたシューズの先を、キュッと廊下の摩擦力で止めた姫菜はファイティングポーズをキープしたまま夢令の言葉を遮り宇留達に告げる。
「?」
 宇留もなるべく注意していたが、確かにこんな足音がするような廊下ではなかったと感じていた。


「あ!こっち!早く!」
「宇留ーーーー!」
 薪梨と五雄が両チームに気付き、机バリケードの出入口を解放して全員を招き入れ、バリケードの出入口と教室の扉を閉めて鍵を掛ける。
 宇留、姫菜、磨瑠香を除くABチームが息を整えていると、トノハルが慌てる。
「どうすんだよ!あんなのが居るんじゃ?···」
 ガタン!「わああ!」
 机バリケードを押す本人間達!·········だが数秒経ってもバリケードは何故か崩れない。ガタガタと動かしは出来るものの、撤去にまでは至らないようだ。
「来ない?のかな?」
「来ないったって!いつまでもつか!」
 薪梨の予感を最が覆そうとする。
「ごめんね?須舞くん」
 マユミコ委員長の突然の謝罪に全員が押し黙る。
委員長やいずみさん?」
「······私達、ちゃんと謝ってなかった。ごめんなさい···」
 続いて薪梨も宇留と磨瑠香に告げる。
「確かに···波風立てないダケのごめんでちょい落ち着いたのイイコトに、みんなスルーしようとしてた。けどそれじゃダメだよね?改めてごめんね?磨瑠香···須舞くん···」
「ホタちゃん···」「火加さん···」
「こんな時に!とか、もうナイよな?」
 宿里がトノハルの背中をポンと叩く。
「そ!そうだ!前向きのエナジーだ!」
 トノハルは恥ずかしそうな苦笑いを宇留に向け、パンとひとつ柏手をうった。
「ごめんなさい······」
 ラーヤが黒板にごめんねの文字を描きながら言った。
「みんなぁ······」
 五雄が皆の心持ちに感動し、宇留と磨瑠香は少し恥ずかしそうな表情かおをした。
「しかしなんか、お化け屋敷みて~なのな?」
「······?んんん?」
 最が教室を見渡していると、イサヤが黒板を怪訝そうに見つめる。
「この黒板アナログ?」
「あ!そうだ!」
 普段の二年B組の黒板は電子黒板を使っている。今ここに設置されているのは、タッチペンでは無く、真新しいチョークが用意されて板に専用のペイントが施されたアナログ仕様の黒板だった。
「キドちゃん!モッカイ黒板になんか描いてもらってもいい?」
「ふぇ?モッカイ?」
 イサヤにリクエストされたラーヤが黒板にもう一度書き込む。
 何故かシャープペンシルか鉛筆でノートに書き込む音がした。
「ホラ!やっぱり変だよ!黒板にチョークで書く音じゃ無い!」
 イサヤが黒板に書かれた もういっかい の文字に向かって憤る。
「そりゃ、全部変だけど···」
「書くは、書く?開けるは開ける?」
 薪梨の疑問が琴線に触れ、宿里は顎に指先を当て推理モードに入った。
「開ける···?」
 マユミコ委員長は机から放り出され、散乱する誰の物ともつかないペンケースを手に取る。授業は端末がメインなので使う機会は殆ど無いが、一応クラスメート全員が用意しているものだった。マユミコ委員長がそのチェック柄のペンケースのファスナーを開けた時だった。

 ガラッ!

 窓ガラスを開ける音がペンケースのファスナーから響いた。

「あーーー!わかった!開けよう!カタッパシから開けてみよう!」
 イサヤがハツラツとした声をあげる。
「コォの世界!そんなに頭が良く無いんじゃない?書くは書くで開けるは開けるれ!」
「カンタン仕分けでしか“考えれない?„ってか?」
 再びイケボを決め込もうとした宿里が再び噛む、気付いた最も何か開ける物を探し始める。
 全員がその目的に向き合おうとしていると······
 
「何かあったのよ···」
「「!」」
 突然、折子が告げた。
「みんなの以前の気持ちは大体わかったわ。でも“その時„······今みたいな奇妙な力で“何か······„あったんだと思う······」
「丘越さん······?」

 静まりかえる教室に、廊下から本人間がバリケードを揺らす音だけが響く。

 宇留は何故か思考に浮かぶ、倉岸の嫌な笑みを払拭出来ないでいた。








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