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逆襲の君
しおりを挟む宇留はアンバーニオン ソイガターの中で、氷結島へと落ちて行くガルンシュタエンの残骸を見送っていた。
せめて気休めにでもクッション代わりにそこにあって欲しかった島の霧は無情にも晴れ、氷結島の暗いシルエットを海上にボンヤリと浮かび上がらせた。
途端に宇留が座っていたソイガターが輝いて感触が消える。アンバーニオン ソイガターも変身を解除し、通常形態のアンバーニオンに戻った。
操玉の輝きが治まると、浮かぶ宇留達の目の前に普通サイズの茶トラ猫がぐったりと浮かんでいた。
「アッカ!」
「アッカ···」
宇留はアッカを引き寄せ抱き留める。
アッカは目を閉じたままコニョコニョと口先を動かす。宇留には何も聞こえなかったが、宇留の胸元で琥珀越しにアッカと顔を突き合わせていたヒメナが、その言葉を代弁した。
「すっからかんだって。ちょっと休むそうよ?」
「ぁ···アッカ······ありがとう!」
宇留は腕の中のアッカを更に抱き寄せ、撫でるように頭に手を寄せた。具合は悪そうではあるが、目に見えた外傷は無い。アッカは一瞬ゴロッと喉を鳴らしたが、思い立ったようにそれを止め、プースーと寝息を立てて眠り始めた。
宇留は、操玉と転送室の間にある樹液状の宝甲で満ちた調整室にアッカを送り込んだ。居心地は良くないだろうとは思ったが、感覚を繋ぐ操玉に居るよりは回復力が高いと判断した。
宇留はアンバーニオンを氷結島に向かわせ、ガルンシュタエンの様子を見ようと試みる。だが後方に迫る殺気に振り返らざるを得なかった。
ゲシャアアアアン!
最初に視界に入ったのは、単剣を袈裟斬りに振り落とすリゲルナイドの姿だった。単剣が生贄になるかのように砕け散る代わりに、アンバーニオンの胴体に走った太刀筋に沿う宝甲がバキバキと割れてヒビが入る。
そしてすぐにアンバーニオンの喉元がリゲルナイドの右手によって鷲掴みにされた。アンバーニオンはこれ以上相手の右手に力が入らないように右腕を握り潰さんばかりに掴み返す。
「う!、ぐ!アラ···ワルくん?!」
違和感。赤く光る目がアンバーニオンを睨む。
「久しぶりだな?アンバーニオン」
リゲルナイドは器用に言葉を口に出した。
「!、ゲルナイドじゃない?まさか!············エグジガン??!」
「琥珀の姫よ。先の猫には敬意を評す。地元を離れ、力が少ないにも関わらず我々の叡知を打倒するとは見事···」
!
エグジガンの声を聞いた宇留の脳裏にフラッシュバックが走る。幾つもの閃光が重なる記憶。だがすぐに痛みが宇留を現実に引き戻した。
ヴァギュクククッ!
リゲルナイドは握力を上げる。膨らんでいく筋肉に、リゲルナイドの腕を押さえ込むアンバーニオンの握力が押し返されていく。
「が!あああ!」
T都湾の海中では、鬼磯目の船体にエグルドーゴのアンカーワイヤーが絡み付き、今まさに彼女は捕らわれようとしていた。
「さあ!オマエは何者だ!このまましょっぴかせてモラ······!」
······!
リキュストは鬼磯目の雰囲気が変化したのを鋭敏に感じ取った。ワイヤーに絡まった獲物は相変わらずゆっくりと傾いていくおにかますを見つめたままで、自分の置かれた状況など興味が無いといった素振りだった空気が一変する。
パズン!ヅン!ギュヅン!
どういう原理かアンカーワイヤーが断ち切られ、その度に鬼磯目の船体がオレンジ色のオーラに包まれてゆく。
「な!なんだ!?」
鬼磯目はゆっくりとエグルドーゴの方を向き始める。
·みんなを!アキサを!よくもー!
振り返った鬼磯目の船体は濃いオレンジ色のオーラに包まれていた。
艦首両側面の装甲の一部が赤熱化して目のように赤く輝き海水を沸騰させる様子は、滂沱の涙を思わせる。
オレンジ色のオーラは捕獲爪の周囲に集中して揺らぎ、水中に投影された琥珀の牙は約二倍の大きさになっているように見えた。
ジャキッ!ジャッキ!
そしてその牙が、通常の開閉プロセスを踏まずに、任意で開閉を繰り返す。
グギャアアアアアアアアアアァン!
鬼磯目の牙が最大限に開き、吠えると同時にオレンジ色のオーラが強く輝く。目元の沸騰にオーラの輝きが反射して、それは琥珀の涙を彷彿とさせた。
「ぬ!う!嘘だろ!なんだコイツぁ!?」
エグルドーゴのコックピットにあるディスプレイには、咆哮声紋一致 味方 と通知があったが、リキュストはそれどころでは無く通知に気が付かなかった。
リキュストが狼狽えている間に、鬼磯目は生物のような俊敏な動きで、既に水中ユニットに噛みついていた。高い水圧に耐える重装甲をまるでカラッと揚げられた春巻の皮のようにパキピシと噛み割っていく怪物の牙の嫌な音。
「ぬー!まーたかヨォーー!!」
ボシュ!
たまらずリキュストは水中ユニットを放棄する。
キュヴォッ!
噛み砕かれ爆発する水中ユニットの衝撃をウイングユニットで防ぎ、爆発の威力を利用して離脱するエグルドーゴ本体。
「くっ!」
リキュストが振り返ると、意外にも鬼磯目は追ってきてはいなかった。だがすぐに見当違いな方向から、ニョロニョロと海蛇のような動きで鬼磯目は迫って来た。
ガーーーー···と、ゆっくり牙を開き距離を詰める鬼磯目。リキュストは脂汗をかきながら緊急脱出装置に手を添える。
「ーーーーーー!」
···だが鬼磯目は踵を返し、元来た方へと方向転換した。
「ふ···」
リキュストが安心しよう?···と
した時だった。
ズパーーーーーーーン!
鬼磯目の急速な方向転換に追随し、無理矢理引き寄せられた後方の船体がしなって、ムチのようにエグルドーゴを叩き弾いた。
ヴォゴォーーーン!!
グギャアアアアアアアアアアア!
エグルドーゴの爆発を背に、鬼磯目は再び咆哮した。
こてぃあーしゅねーちゃん?
「ぬ!」
何故かリゲルナイドはアンバーニオンを掴む手を離した。
「くはっ!な!っは!どうしたんだ?」
宇留は挙動不審なリゲルナイドとアンバーニオンの距離を開けた。
「ぅ!ゲルナイド!どういうつもりだ?」
声が聞こえた。こうていさん。俺はねーちゃんに会いに来たんだ。返して下さい。
·············
「!、ぬ!が、ガキ共···め?また来るぞ?」
リゲルナイドはガクン!とその場に浮かんだままで項垂れた。
「?!」
「アラワルくん!?」
リゲルナイドに近付いたアンバーニオンを、急に頭を上げたリゲルナイドが金色の瞳でギッと睨んだ。現は怪獣体のコントロールを取り戻したらしい。アンバーニオンはすぐに接近を停止する。
「アンバーニオン!島で待ってろ!ガルンの仇は···俺が取る!」
「あ!これからどっちの名前で呼べばいいの?ねえ!」
宇留の緊張感の無いセリフに背を向け、リゲルナイドは何処かへと飛び去った。
「何がなんだか?全く、しょうがないな···イテテテ······」
言われるまでも無くアンバーニオンも氷結島へと降りて行く事にした。
「全く!何がどっちの名前だ!」
リゲルナイドはT都湾に向かって降下しながらボヤいた。
····· ·····
リゲルナイドの体内にか細い声が響く。人間を遥かに超える聴力はその声を捉える。
「!、フェルメプンか?俺の中にも居たのか?」
うん、監視とかのちっちゃい機械は分解したげたよ?帝国のヒトタチ勝手にポクタチ改造して許せない!
「オマエのおかげだったのか、ありがとう!でも大丈夫なのかこんな事して?」
ポクタチにはまだ利用価値があるからね?大丈夫でしょ?あ!さっきコティお姉みたいなのがこの海に居たらしいよ?
「本当か?!」
うん、なんか島になった分のポクタチに想文みたいなの貰ったけど微妙に違って読めなくてお返事出来なかったけど?
「わかった!探してみよう!」
ねーゲルナイド?またアンバーニオンと戦うの?
「ああ!全く!巨大ロボットなんてもっとシリアスなもんだと思ってたのに!拍子抜けだよ!」
うん、そっか?あぅ!時間だ!もうゲルナイドの中に居れない、分解されちゃう!
「すまない!」
いいよ大丈夫だよ、ポクタチはまだまだいるし、この記憶も共有してるから。また後でね?コティお姉と会えますように!
「ありがとー!フェルメプン!」
フェルメプンとの会話が終わると共に、リゲルナイドは海中に飛び込んだ。
アンバーニオンは、ガルンシュタエンの宝甲反応を辿って氷結島へとゆっくり降りて来た。
仄かに光る氷モドキの大地と少しだけ漂う霧。
姿は見えないが、まだガルンシュタエンの気配がする。
「あ!ウリュ!あれ!」
ヒメナが白い地上にパラッと撒かれた宝甲の破片に気が付く。
「!、一ヵ所にばら撒きすぎるッ!」
「ウリュ!」
誰にでも分かりそうなバレバレ感。からの下方からの轟音。急上昇しようとしたアンバーニオンの右足を、巨大な腕が掴んだ。
「うわああああああ!」
ガギョォーーーン!
アンバーニオンはそのまま空中から引き下ろされ、地面に叩きつけられた。ギシビシと割れた宝甲が軋む。
「がぁ···!」
良く見ると、貯氷ケースのように氷モドキの欠片が貯まっていた窪みから伸びた手の主が、ガラガラと氷モドキを押し退け姿を現す。
「まさか!またアクプタン共の世話になろうとはな?」
「エシュタガ!!」
体高百メートルに迫ろうかという巨大な氷の巨人。半壊したガルンシュタエンがその胴体に収まり、アンバーニオンを見下ろしていた。
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