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存 在 感
しおりを挟むニックネーム、豊宿さんが登山旅行に赴いた時のお話。
登山を翌日に控えた彼女が、とある地方のレトロ感溢れる食堂でラーメンを食べ終えたところ、食器を下げに来た店主の高齢女性との雑談中、あるお話。と称して提案があったそうです。
「お客さん、登山って○○山に登るの?」
特にスケジュールを隠す必要のなかった豊宿さんは、その通りですと店主に伝えました。難易度の低い山でしたが、もし遭難した場合、自分が○○山に登った事を知っている地元の人が少しでも多い方がいいとその時は思ったそうです。
「ゲームとかで採取ミッションとかあるじゃないですか?あれみたいでテンションあがっちゃって!」
店主から告げられたのは、ある花の採取だったそうです。
「登山好きとして高山植物を荒らすのはカンベンと最初は拒否ったんですけどね?」
店主は、当の花は保護指定のない花であること。山の中腹に生えているであろう事。今が恐らく咲いている頃であろう事に続けて、他に誰もいない食堂で奇妙なテストを豊宿さんに仕向けて来ました。
「ずっと前を向いててね?って言われて、店主はスーーっとテーブルを回り込んで私の横に移動しました」
「前を向いてても、スコーし横がボンヤリと見えるでしょう?その花はね?この横ボンヤリの視界の端にしか見えないし映らないから!」
「最初は意味がわからなくて。なんかその花は、自分が動物に見られないようにする為の能力を持っているすごく珍しい花だそうで、半信半疑?本当迷ったんですけど面白いと思って参加する事にしました」
続けて店主が出した報酬の条件は、依頼報酬として本日の食事代無料。採取は出来なくてもOK。採取成功報酬として一本あたり五千円を支給という条件でした。
ですが、こうして我々が豊宿さんにお話を聞いている時点で、我々が豊宿さんを確保して更なる好条件で交渉したという事実を存じ上げた上で、続きをお読み下さい。
「本当に気楽に、片手間感覚で登山中は可能な限り視界の端を意識してました。すると中腹よりちょい上頃に差し掛かった時ですかねぇ?落ちてる白いハンカチを見つけた時のように、んん?っと思って道をほんのちょい戻りました」
豊宿さんは道を戻り、視界の端を強く意識して再びゆっくりと歩き直しました。
「うお!!っって思って!あったーーと喜んで?一度視界を横に向けると本当に見えなくて、視線を反らそうとすると見える白い花が本当にあったんです!」
豊宿さんは前を向いたまま横歩きでゆっくりと花に迫ります。すぐ側にある雑木の根元辺りに生えた白い花のシルエットがボンヤリと見えていたそうです。
「触れたら本当に植物で、ホント近くで直視しても手触りだけで見えないんですよ!!」
豊宿さんは可能な限り手で根本を掘り返し、根ごと引き抜いて用意していた保冷バッグに入れました。花はバッグの中に入ってもまだ見えず、相変わらず存在感を示しているのは手触りのみでした。
ですが豊宿さんは、勢いに任せて花を採集したはいいものの、このまま登山を続行すれば恐らく花が枯れてしまう可能性がある事を危惧しました。
「もうすごいものを見つけた!って事実とお花の心配ですぐにその日の登山は諦める事が出来ました。それでもうちょっとで登山口まで下りてきた所で···そこからあとは【みなさん】お察しの通りで···」
実は我々もその花の調査の為、前日から現地入りし、周辺を調査する傍ら豊宿さんをマークしていました。
そこからあと、とは登山口まで下りてきた豊宿さんを襲撃した人物が居た事です。
スタンガンを持った小柄な男が走って豊宿さんに襲い掛かった為、豊宿さんを密かに尾行していた我々のスタッフが男を止めに入りました。恐らく男の狙いは彼女の持つ“見えない花„だったのでしょう。
男は土地勘があったのか器用に藪の中を逃げ回り、我々から逃げ切ってしまったように“見え„ましたが···フフフ···
後の調査で、食堂の高齢女性店主は決して責任者などではなく、期間限定で休業していた食堂を勝手に開業していた無関係の人間だという事もわかりました。
見えない花についてはその依頼者に代わって我々が取り引きを行い回収。豊宿さんとも様々なお約束をさせて頂き、引き続きその山の調査、依頼者の捜索を行う事にもなりました。
皆さんも手に負えない程おかしい、と思ったら、安全な内に、深く関わらずにフェードアウトする事をおすすめいたします。
※同意の上、事情聴取から一部抜粋、改変等を行い掲載しました。
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