うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第1章 中立自由都市エラリア

レッサードラゴン狩りに行くようです②

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先を行くフーシェは、まるで道を知っているかのようにローム大森林を歩いていく。

「来たことがあるの?」

僕の質問にフーシェは頷く。

「ん。おっかぁと、何回もクエストで来たことある。おっかぁは、星屑亭の主だけど気分転換にギルドの依頼をこなしていた。……暇潰し感覚」

そう言いつつ、フーシェは小山のような荷物を背負ったまま、枝葉を最小限の動きで避けて歩く。

まるで忍者だ。

その動きに感嘆しつつも、フーシェのレベルが5年間全く上がらないことに僕は違和感を感じていた。

「フーシェが、僕とイスカの仲間になりたかった理由。レベルについても聞いてもいいかな?」

聞きにくい話題だったかと思ったが、フーシェは小首を傾げて振り向いたくらいで、また前を向いて歩き始める。

「ん。ユズキはレベルを上げる上で『3つの壁』があることを聞いたことがある?」

勿論、僕は聞いたことがない。
イスカも首を横に振る。

「お父さんもレベルは高かったようでしたけど、私を冒険者にするつもりもなかったので、聞いたことはないです」

それを聞いた、フーシェは前を歩きながら1本指を立てた。

「冒険者はよく『3つの壁』にぶつかると言う。1つ目は『努力の壁』」

フーシェは立てる指を2本へ増やす。

「2つ目は『才能の壁』」

言われると納得する壁だね。
努力、才能の次となると3つ目は何なのだろう?

「3つ目は『限界の壁』、または『試練の壁』と言われる」

そう言うと、フーシェはくるりと振り返り立ち止まる。

「フーシェは、レベルが25から上がらない。多分『3つ目の壁』が原因。それを壊したい」

そういう、フーシェの言葉には力強さが宿っていた

「それって──」

「ユズキさん!」

僕が続けようとした時、イスカが突然言葉を遮り周囲を警戒した。

──敵!?

フーシェを振り返ると、瞬時に背負っていた荷物を地面へと下ろす。どうやら、ワンタッチで背負い紐が外れるような仕組みを採用しているらしい。
既に、その手はベルトにある双剣を掴み、抜き放っている。

「ん。イスカ合格。ユズキ、遅い」 

言われるとショックだが、全然気づかなかった。

片や『危険察知』のスキルを持っているイスカと、ミドラとダンジョンに挑んでいる経験者のフーシェ。

二人は当たり前のように、僕よりも早く臨戦態勢を整えると一方向に視線を向ける。

「ん。この臭いゴブリンが6体、距離300」

え、全然臭わないよ?

「凄い、風下なのに種族まで分かるんですか?」

風向きからすれば、こちらは風下に当たる。
それなのに、フーシェは気配だけでなくモンスターの種族まで推察してみせた。

「ん。普通は分からない。私の嗅覚が異常に高いのと、森だからたまに風向きが変わった時にぶつかりあった風に運ばれて臭いが飛んできた。あいつらは臭いから種族まで分かった」

なんだか、チートな能力がなくてもチートしている気がするよ。

レベルを上げて物理で殴るタイプの僕としては、仲間の能力に感嘆するが、二人だけ気づいて僕だけ気付けないというのは、かなり悲しい。

「イスカ、レベルを『回収』して、もう一度『レベル譲渡』をかけるかい?」

僕の問いにイスカは頷く。

『対象、イスカ、フーシェ両名への『レベル譲渡』可能な範囲は15です。実行しますか』

前よりも、イスカにかけられるレベルは上がっている。
これも、ワイバーンを倒してイスカ自身の基礎能力が向上しているためだろう。

「ん。フーシェは今はいらない。必要だったら『能力値譲渡』だけお願い」

フーシェには、僕のスキルについて説明はしていた。
しかし、それを彼女が望まないのであれば理由があるのだろう。

「分かった。行くよ、『回収』──そして『レベル譲渡アサイメント』!」

フッと、イスカの身体から譲渡していた11レベル分のエネルギーを凝縮した立方体が浮かび上がると、白い光の帯を空中に漂わせながら僕の身体に回収される。
立方体が身体に吸い込まれると、少し懐かしい感覚が僕を襲った。

そして再び、今度は僕の身体からレベル15分の容積の立方体が構成される。
その立方体の大きさは、先程の立方体に比べて少し大きい。
身体から力が抜ける感覚は一瞬。
立方体はフワリと浮かび上がると、目指すイスカの胸に飛び込むように宙を舞った。

スッ

「ん、んんっ」

光が体内に吸い込まれると、その力の奔流にイスカが身震いする。
声が艶かしい所は仕様なのだろうか?

これ、男にかけても同じだとどうしよう。

むさい男性が、艶のある声を上げるのは──うん。僕には需要がないね。

「なんだか、スキルが増えましたけど、確認する間が危険なのでステータスは後で見ましょう」

イスカの提案に僕も同意だ。
これで、イスカのレベルは14から29へと上がったこととなる。
一瞬にして、フーシェのレベルを超えてしまったわけだが、フーシェは気にしている様子はない。

「ん。距離100、そろそろこっちに気づく」

フーシェのしゃがめというジェスチャーで、僕とイスカは慎重に腰を落とした。
しゃがみ込むと、生い茂る草木が僕達の身体をうまく隠蔽してくれる。

「ゴブリンが近づいてきて、フーシェが出たら合図」

フーシェの言葉に僕達は頷く。

ワイバーンの時とは違う、ベイルベアーと相対したときのような緊張感。
それは、敵が複数体いることから生まれるものなのかもしれない。

ジリジリと時間は過ぎていき、フーシェは「もう少しだ」と合図を僕達に送る。

グャッ、ギャッ!
ギギ!
グーギャッ、ギャッ!

数十メートルまでゴブリン達が近づいてきたのか、草木を分けて進むゴブリン達の声が耳元へと届く。
その鳴き声に興奮している様子はない。生い茂る草木の香りが、僕たちの匂いを薄めてくれているのだろうか。

僕達はタイミングを待つ。
フーシェは、最も効果的な奇襲のタイミングを見計らっていた。

スッとフーシェの親指が立った。

行く気だ!

次の瞬間、フーシェは文字通り風のように姿勢低く飛び出すと、ゴブリンの進行方向から見て最後尾の2体へ斬りかかった。

ギイッ!
ギャッ!

地面を流れる川のように、淀みない動きで近づくフーシェにゴブリン達は反応できない。
僕とイスカが飛び出した時には、フーシェは既に一体のゴブリンの喉元を切り裂き、もう、一体の武器を持っている手を切り落とした。

ギャオオッ!!

腕を切り落とされたゴブリンが悲鳴をあげる。
残された4体は、即座に背中合わせの円陣のような配置を組むと僕達に対して威嚇を始めた。

ギャッ!
ギオッ!ガッキャッ!

「『火炎球ファイヤーボール』!」

そのゴブリン達に対し、イスカは『初級魔法』である『火炎球ファイヤーボール』を投げつけた。
まさか、火が飛んでくるとは思っていなかったであろうゴブリン達は、密集していることが仇となった。

一瞬の迷いが、ゴブリン達の動きを止めさせ、『火炎球ファイヤーボール』の射線上にいたゴブリンが被弾して焼け焦げる。

ギャッ!

即座に逃げに転じたゴブリン達を見てフーシェが叫ぶ。

「逃げたら、群れに知らせる。回り込んで!」

見れば、腕を吹き飛ばされたゴブリンも肩口を押さえながら、必死に逃走しようとしている。

「分かった!」

僕も足に力を込めると、一気に距離を詰める。

ギャオゥ!!

半狂乱のように手にしていた石斧で攻撃をしてくるが、僕はその一撃を素手の拳で殴り返す。

バギャッ

素手で石斧が粉々になるというあり得ない現象を作り出しながら、僕は右手に構えた剣で斬り伏せた。
手に残る不快な感覚は、肉を断ち一撃の元ゴブリンを絶命させた。

「『一つ斬りひとつぎり』」

フーシェが小さく叫び、スキルを口にすると双剣を一閃させる。
キィンッと金属音を響かせたかと思うと、フーシェの剣は逃走するゴブリンを背後から斬り裂き、その一撃はゴブリンの体幹を真っ二つにしてしまった。

残り2体!!

僕が振り返ると、腕を斬られたゴブリンと、手に槍を構えたゴブリンが向かう先はイスカだった。

「イスカ!」

四方へ逃げるゴブリンに気を取られ、少し距離が離れてしまったことに僕は後悔する。
しかし、対するイスカはしっかりと両手に剣を構えると、小さく息を吐いた。

ギャッ!
ギャッ!

体当たりをするように、手を失ったゴブリンが捨て身のような攻撃を仕掛けてくる。
後ろに控えるゴブリンが、槍を携えて、何とかイスカの隙をつこうとピッタリと走ってくる。

1体でも、逃げ残ればいい。

ゴブリンの知恵に感嘆する思いだが、その夢はイスカによって閉ざされることとなった。

「『剣舞踊ソードロンド』」

まるで舞踏のような、流れるように軽快なステップをイスカは刻んだかと思うと、一体目の体当たりをしてくるゴブリンをいなすかのように剣で切り裂き、その勢いを力と変えて、2体目が放つ槍の一撃を絡め取った。

槍を宙に巻き上げられ、無防備となったゴブリンに対し、イスカが容赦のない一撃を流れるように決めた。

ギャァァッ!

断末魔のような声を出してゴブリンが倒れた。

緊張感からか、僕の喉はカラカラだ。
しかし、全て敵は倒れ伏している。

「ん。」

フーシェの親指がグッと、上がった。
その姿に、僕とイスカも親指を上げる。

こうして、3人パーティーでの初戦闘は、無事終わることとなったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後、敵が出てくることはなかった。
聞けば、この森は大型のモンスターが数多くいるため、小型のモンスターは積極的に争い合うことは少ないようだった。

そして僕達は今、テントを構え野宿の準備をしている。
火まで起こすことは、狼煙になってしまうのではと心配したが、フーシェ曰く、これで人間がいると分かり小型のモンスターは近づかないという。

「大型が来たら?」

僕の恐る恐るの質問に、フーシェは少し考えた後、何を言っているのだという風に首を傾げた。

「ん。普通は逃げる。でも、このパーティーは普通じゃない。だから最悪ユズキが戦えば万事解決」

いや。そうなのかもしれないけど、人をリーサル・ウェポンのように捉えるのはおかしくないのかな?

今日の戦いで分かったことだが、四方に敵が分散されると、このパーティーは複数の敵に対処するのが難しい。

草原のような開けている所では、イスカの魔法も狙いをつけやすいが、このような森の中では障害物が多すぎた。

「ごめん、フォローに入れなくて」

結局、イスカは無事にゴブリンを倒すことができたのだが、あの時のイスカが低レベルであったらと思うとゾッとした。

「いえ、このローム大森林はダンジョンとしては中級冒険者から上級冒険者が訪れる所です。初戦闘でユズキさんは頑張っていました。私も、もっと気をつけますね!」

リーダーである僕は、自分がプレイヤーとなってしまうことで、イスカに近づくゴブリン達に気づくことができないでいた。
これはゴブリンを逃さないように、仕方がないとはいえ、僕が深追いをしてしまったが故に起こってしまったことだ。

これは、リーダーとして改善策を考えるための良い機会とはなったけど……

仲間が欲しいな。

3人では対処しにくい戦況を初めから経験したおかげか、僕の頭は戦略を練るために一層早く回り始めるのだった。
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