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第1章 中立自由都市エラリア
レッサードラゴン(?)を狩るようです①
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無事に目覚めた。
ということは、寝ている間に大型モンスターに襲われなかったということだ。
抗えない眠気から目覚めると、右側にフーシェ、左側にイスカという配置は変わらない。
3人が身を寄せ合っている窪みは青年の体躯の僕と、小柄ながら少女が二人肩を寄せ合っていると、身動き一つとることができない。
肩の凝りはレベルなど関係ないのか、腰の痛みを含め身体中が固まってしまったみたいだ。
視界が暗いのは、フーシェが張ってくれた魔物除けの布に頭上を覆われているためだ。
年季が入った古びた布だが、効果があるということは、何度もフーシェの命を救ってきたのだろう。
もし、これが願掛け程度なんて暴露されたら……
うん、知らないってことも大事だよね。
僕は起き上がるために体を起こす。
二人はまだ起きない。
僕は自分が抜けることで二人が倒れてしまわないよう、二人を背中を岩にしっかりと寄りかからせてあげる。
そーっと、そーっと
這い出るように、布から顔を出すと、やはりヒカリキノコとヒカリゴケが青白く輝いているおかげで、周囲はぼんやりと明るい。
聞き耳を立てるが、周囲はシンと静まり返っていて敵性魔物やモンスターの気配はない。
まぁ、スキルも経験もない僕なのだから、イスカやフーシェであれば何かを感じてしまうのかもしれないけれど。
ただ、どうしてもこの布を出ていかなければいけない確固たる理由が僕にはあった。
そう、尿意だ。
身体を預けていた岩肌は、もちろん暖かいとはいえず僕の背中から冷気を与え続けていた。
トイレが近くなることも自明の理だ。
フーシェが布を張った場所は少し開けた場所までくると、なるほど余程の注意を払わなければ、あの岩場に人が隠れているなどと思わないだろう。
僕自身、二人が眠っているところを見失わないように移動し、かつトイレとして活用できそうな場所を探すと用を足した。
ちなみに、本当は危険なのでダンジョン内はトイレであってもバディで動くことが常識だそうだ。
でも、そこは男性1女性2のパーティー。女の子2人でバディを組めても僕が女の子のトイレに付き合うことはできない。
そう思っていたけど、普通のパーティーではそんなことは関係なく、トイレに行きたい者同士でバディを組むとフーシェに教えられた。
フーシェ曰く、「羞恥心を守ったせいで死ぬなんてことは、みんなしない」とのこと。
あれ?でも僕には1人で行けって言ったよね?
別についてきてほしい訳ではないが、2人に理由を聞いてみると理由は本当に単純なものだった。
──どんな敵が来ても、レベル9000越えのユズキは殺せない。
うん、なんかね。分かってましたよ。
しかし、実際に1人で異世界の森や洞窟で用を足すということは、なかなかに心細いものなんだよ。
ハァ、早く帰ろう。
僕は、手持ちの水の魔石に魔力譲渡を行い水を起こすと、手を洗いそそくさと二人が眠る場所へと戻るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、探索を進める僕たちは、そろそろ中層と深層の狭間近くまで降りてきていた。
ここもかなり危ない場所ではあるが、一応は『それなりの冒険者達が稼げる場所』ではあるらしい。実際、鍾乳洞の一部には、特殊な鉱物が含まれており、持ち帰るだけでかなりの高値で買い取られるのだそうだ。
しかし、僕たちの目的はレッサードラゴンを倒すこと。マジックポーチがあるとしても、あまり採掘に時間をかけるわけにもいかない。
「何か少し息苦しい気がします」
隣に歩くイスカが、少し表情を曇らせる。
疲労の色は見えるが、仮眠を取ったことは心理的なストレスの改善に大きな影響を与えたのか、その言葉には休息前より活力が戻ってきている。
「ん。きっと『危険察知』」
フーシェの指摘にイスカは、あっ!と気づいたのかソワソワと当たりを見渡した。
「こんなに重苦しい感じは初めてです。これがレッサードラゴンの放つプレッシャーですか?」
イスカの質問にフーシェは暫し考えた後口を開いた。
「そうかもしれないし、ただ強い魔物がうろついているだけかもしれない。私が知っているのは中層まで。これ以降は本当に未知のエリア」
スッとフーシェが指差した方を見ると、確かに周囲を照らすコケ達の青白い光がほんのりと赤色に変わっている。
見るからに危険の色だね。
「どっちにしろ、ここも狭間だから深層の魔物も現れたりする。ミドラからはレベル25では行かない方がいいと言われていたから」
つまり、ここから先は文字通り最低でもレベル25以上が必要な高レベル地域となる。
「ミドラさんは踏み入れたことはあるの?」
フーシェは首を横に振る。
「少し入ったけど、敵のレベルに対して旨味が少ないって言って止めたらしい」
レベル42のミドラさんが止める!?
それならば、必要なレベルはS級パーティーで挑むダンジョンではないのか?
その事実に驚愕するが、そうでもなければドラゴンの装備の価値は、もっとお求め安くなっているのかもしれない。
ズシリ、ズシリ
「ユズキさん!」
地鳴りのような足音がわずかながらに僕の耳に届くと同時に、イスカが身構えるように小さな声で呟いた。
その足音は、振動を生み出し五感を研ぎ澄ませば、足元に軽い揺れを感じさせた。
「ん。ヤバいやつ」
フーシェが放つ言葉にも、明らかな警戒の声色が混じっている。
あまり表情を表に出さないフーシェが警戒する相手だ。レッサードラゴンと言わない辺りから、別の脅威が僕たちに迫っているということだ。
「あれは?」
「ん。グランドゴーレムかクリスタルゴーレム。どっちもレベル50になる化け物」
僕の質問に、フーシェは素早く布を片付けながら返答する。
レベル50。明らかにミドラさんより高いじゃないか!
思わず背筋が冷たくなる。
その心配をよそに、フーシェは落ち着いてという風に僕とイスカに両手を出して動きを制した。
「ん。あれはヤバいけどかなり巨体。ここには入ってこれない」
フーシェがツンツンと天井を指さす。
うーん、ここだと天井まで約20メートルほどあるんだけど、ここに入ってこれないなんて巨人もいいところじゃないか!!
その巨体に相対することを想像するだけで絶望感だ。
フーシェもそれには同意らしく、小さく頷く。
「ここからは、なるべく狭い道を歩く。不用な消耗は避けたい」
僕とイスカは、お互いに顔を見合わせ頷く。
そして、ほんのりと赤く染まるコケとキノコを目指して歩き出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ユズキさん!!」
イスカの声に僕は後ろを振り向く。
気づけば、真っ赤に燃え上がる火球が僕の目の前へと飛来する。
僕は、瞬間洞窟の床を蹴って跳躍すると迫りくる火球を避けた。
空中でクルリと回転をする僕の眼下には2体の敵が見える。
ワニのような身体、その体躯は5メートル程にもなり、見た目以上に動きは俊敏だ。身体は厚く鎧のようなウロコに覆われており、真っ赤な瞳は獲物を見つけるようにギラギラと周囲を見渡している。口からはテラテラと湿り気を帯びた舌が顔を出し、息をするたびに燃え上がる炎が生まれては空中へと消えていく。
ファイアリザードと呼ばれるその個体は、2体が僕を挟み込むように回り込んでいたのだ。
「『青水球』!!」
イスカが叫び、組み上げていた魔法術式をファイアリザードに向けて放つ。
バギッ!バシャン!!
しかし、ファイアリザードは俊敏な動きでイスカの一撃を躱すと、その吸盤のような足でテカテカとした鍾乳洞の壁を駆け上がった。
まるでヤモリだ!
そして、ヒカリキノコやヒカリゴケが薄赤く光っているせいか、少し距離を取られるだけで非常に見えにくいのが厄介この上ない。
「『ニニ斬り』!」
機動性の高いフーシェが、壁に逃げたファイアリザードを追って双剣を煌めかせる。
放った斬撃は2つに分かたれると、ファイアリザードの前後を挟撃するように飛翔した。
ギャオンッ!
衝撃を喰らい、ファイアリザードが10メートルはある高さから落下する。
「⋯⋯固い!」
手ごたえに不満を感じたフーシェが歯がゆそうに呟く。
「行きます!『重攻撃』!!」
フーシェによって撃墜され、洞窟の床へとファイアリザードが叩きつけられた瞬間を見計らって、イスカが剣を両手に構え振り下ろす。
ゲギャッ!!
スキルによって数倍に膨れ上がったイスカの剣戟が、運よく腹部を見せたファイアリザードの身体を真っ二つに切り裂いた。
「イスカ!離れる!!」
フーシェの叫びに、ハッと気づいたイスカが慌てて後方に飛び下がった。
次の瞬間
ゴホオオッ!!
突如、ファイアリザードの裂けた腹の中から、火山が噴火するかの様に火柱が立ち上がったかと思うと、ファイアリザードの身体を包み込み、その身を焦がしてしまった。
「腹にある『炎袋』が破けた!真っ二つになったら避ける!」
倒し方を間違えると、とてつもなく危険な生物。
僕は、着地して相対するもう一匹との距離感を図ると、じりじりとその距離を詰める。
ゴウッ!!
僅かな予備動作で、ファイアリザードの喉が揺れたかと思うと、今度は正面から火球が放たれた。
「はっ!」
僕は前方に飛ぶと共に、スライディングをするように火球の下を潜り抜ける。
火球の熱は一瞬僕の肌を焦がすが、レベル差によって痛みは感じない。
今だっ!!
眼前に迫るファイアリザードの口による嚙みつきの攻撃を間一髪で回避すると、そのまま僕はファイアリザードの顎を剣で串刺しにする。
見た目はワニと同じなら、嚙む力は強くとも、開ける力は弱いはず!!
僕の読みは当たったのか、ファイアリザードは開くことのできなくなった口に苦しみ、地面の上をゴロゴロとローリングを行い始めた。
「大人しく⋯⋯しろっ!!」
暴れ狂うファイアリザードの前足の一本を僕は無理やり掴むと、地面へ叩きつける。
レベル9984(イスカに15譲渡済み)の力は伊達じゃないっ!
グッググッ!
口を開くこともできないファイアリザードの目が大きく見開かれる。
「これで終わりだ!!」
およそ戦士の風貌ににあるまじき行動に僕は出た。
振りかざした張り手を渾身の一撃を持って、ファイアリザードの脳があると思われる場所に振り下ろした。
バヂッ!!
弾けるような衝撃音を残して、ファイアリザードの頭部の骨は完全に破壊された。
恐らく脳も破壊されたのだろう。ジタバタと筋肉の反射でしばらくその巨体は地面を叩いていたが、やがて全く動かなくなっていった。
激闘のおかげか、音が止んだ洞窟内は静かだ。
シンと静まり返った洞窟内で、僕とイスカは思わず力が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまった。
明らかに今までで一番危険な戦いだった。
本来、緊張感を残さなければいけないのだが、すぐに態勢を整えることができなかった。
「ん。あんな方法でファイアリザードを倒すなんて初めて見た。さすがフーシェのユズキ」
あれ、いつの間に僕はフーシェの所有物になったのだろうか?
耳の良いイスカが気づいたのか、ゆっくりと腰を起き上がりながらフーシェを指さす。
「あぁっ!私のって!フーシェちゃん、ユズキさんのこと本気なのですか!?」
うん、僕への評価は親愛度になっているからね。なんて口が裂けても言えない。
フーシェが僕に好意を持っていることをイスカは知っていたが、さすがに「私の彼氏」みたいな言い方をされると、焦りが生じたみたいだ。
もちろん、僕がイスカを裏切ることはないのだけど──
「ん。イスカがOKくれるまで手は出さない」
「もう!そんなこと言いませんよ!!」
そんなやり取りは、見ていて微笑ましい。
「みんな、一回水を飲もう」
そう言って僕は立ち上がる。
「!!」
「!!」
突如、じゃれあっていたイスカとフーシェが電撃に打たれたように動きを止めた。
「どうしたの!!」
声をかけた瞬間、僕も動きを止めてしまう。
さっきまでの視界、その一部が明らかに異なる様相を見せていた。
──オオオンッ
福音のような低い金属音が響き渡る。
今まで壁と思われていた洞窟の壁が剥がれ落ちる。
否、剥がれ落ちたのではない。
動き出したのだ。
僕たちがいるファイアリザードと戦った洞窟内を見上げる。
遥かに休息を取っていた場所よりも高い天井が頭上にはあった。
「クリスタル⋯⋯ゴーレム。レベル50台のやつ」
抑揚がないのではない、感情が死んだような声でフーシェはポツリと呟いた。
ということは、寝ている間に大型モンスターに襲われなかったということだ。
抗えない眠気から目覚めると、右側にフーシェ、左側にイスカという配置は変わらない。
3人が身を寄せ合っている窪みは青年の体躯の僕と、小柄ながら少女が二人肩を寄せ合っていると、身動き一つとることができない。
肩の凝りはレベルなど関係ないのか、腰の痛みを含め身体中が固まってしまったみたいだ。
視界が暗いのは、フーシェが張ってくれた魔物除けの布に頭上を覆われているためだ。
年季が入った古びた布だが、効果があるということは、何度もフーシェの命を救ってきたのだろう。
もし、これが願掛け程度なんて暴露されたら……
うん、知らないってことも大事だよね。
僕は起き上がるために体を起こす。
二人はまだ起きない。
僕は自分が抜けることで二人が倒れてしまわないよう、二人を背中を岩にしっかりと寄りかからせてあげる。
そーっと、そーっと
這い出るように、布から顔を出すと、やはりヒカリキノコとヒカリゴケが青白く輝いているおかげで、周囲はぼんやりと明るい。
聞き耳を立てるが、周囲はシンと静まり返っていて敵性魔物やモンスターの気配はない。
まぁ、スキルも経験もない僕なのだから、イスカやフーシェであれば何かを感じてしまうのかもしれないけれど。
ただ、どうしてもこの布を出ていかなければいけない確固たる理由が僕にはあった。
そう、尿意だ。
身体を預けていた岩肌は、もちろん暖かいとはいえず僕の背中から冷気を与え続けていた。
トイレが近くなることも自明の理だ。
フーシェが布を張った場所は少し開けた場所までくると、なるほど余程の注意を払わなければ、あの岩場に人が隠れているなどと思わないだろう。
僕自身、二人が眠っているところを見失わないように移動し、かつトイレとして活用できそうな場所を探すと用を足した。
ちなみに、本当は危険なのでダンジョン内はトイレであってもバディで動くことが常識だそうだ。
でも、そこは男性1女性2のパーティー。女の子2人でバディを組めても僕が女の子のトイレに付き合うことはできない。
そう思っていたけど、普通のパーティーではそんなことは関係なく、トイレに行きたい者同士でバディを組むとフーシェに教えられた。
フーシェ曰く、「羞恥心を守ったせいで死ぬなんてことは、みんなしない」とのこと。
あれ?でも僕には1人で行けって言ったよね?
別についてきてほしい訳ではないが、2人に理由を聞いてみると理由は本当に単純なものだった。
──どんな敵が来ても、レベル9000越えのユズキは殺せない。
うん、なんかね。分かってましたよ。
しかし、実際に1人で異世界の森や洞窟で用を足すということは、なかなかに心細いものなんだよ。
ハァ、早く帰ろう。
僕は、手持ちの水の魔石に魔力譲渡を行い水を起こすと、手を洗いそそくさと二人が眠る場所へと戻るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、探索を進める僕たちは、そろそろ中層と深層の狭間近くまで降りてきていた。
ここもかなり危ない場所ではあるが、一応は『それなりの冒険者達が稼げる場所』ではあるらしい。実際、鍾乳洞の一部には、特殊な鉱物が含まれており、持ち帰るだけでかなりの高値で買い取られるのだそうだ。
しかし、僕たちの目的はレッサードラゴンを倒すこと。マジックポーチがあるとしても、あまり採掘に時間をかけるわけにもいかない。
「何か少し息苦しい気がします」
隣に歩くイスカが、少し表情を曇らせる。
疲労の色は見えるが、仮眠を取ったことは心理的なストレスの改善に大きな影響を与えたのか、その言葉には休息前より活力が戻ってきている。
「ん。きっと『危険察知』」
フーシェの指摘にイスカは、あっ!と気づいたのかソワソワと当たりを見渡した。
「こんなに重苦しい感じは初めてです。これがレッサードラゴンの放つプレッシャーですか?」
イスカの質問にフーシェは暫し考えた後口を開いた。
「そうかもしれないし、ただ強い魔物がうろついているだけかもしれない。私が知っているのは中層まで。これ以降は本当に未知のエリア」
スッとフーシェが指差した方を見ると、確かに周囲を照らすコケ達の青白い光がほんのりと赤色に変わっている。
見るからに危険の色だね。
「どっちにしろ、ここも狭間だから深層の魔物も現れたりする。ミドラからはレベル25では行かない方がいいと言われていたから」
つまり、ここから先は文字通り最低でもレベル25以上が必要な高レベル地域となる。
「ミドラさんは踏み入れたことはあるの?」
フーシェは首を横に振る。
「少し入ったけど、敵のレベルに対して旨味が少ないって言って止めたらしい」
レベル42のミドラさんが止める!?
それならば、必要なレベルはS級パーティーで挑むダンジョンではないのか?
その事実に驚愕するが、そうでもなければドラゴンの装備の価値は、もっとお求め安くなっているのかもしれない。
ズシリ、ズシリ
「ユズキさん!」
地鳴りのような足音がわずかながらに僕の耳に届くと同時に、イスカが身構えるように小さな声で呟いた。
その足音は、振動を生み出し五感を研ぎ澄ませば、足元に軽い揺れを感じさせた。
「ん。ヤバいやつ」
フーシェが放つ言葉にも、明らかな警戒の声色が混じっている。
あまり表情を表に出さないフーシェが警戒する相手だ。レッサードラゴンと言わない辺りから、別の脅威が僕たちに迫っているということだ。
「あれは?」
「ん。グランドゴーレムかクリスタルゴーレム。どっちもレベル50になる化け物」
僕の質問に、フーシェは素早く布を片付けながら返答する。
レベル50。明らかにミドラさんより高いじゃないか!
思わず背筋が冷たくなる。
その心配をよそに、フーシェは落ち着いてという風に僕とイスカに両手を出して動きを制した。
「ん。あれはヤバいけどかなり巨体。ここには入ってこれない」
フーシェがツンツンと天井を指さす。
うーん、ここだと天井まで約20メートルほどあるんだけど、ここに入ってこれないなんて巨人もいいところじゃないか!!
その巨体に相対することを想像するだけで絶望感だ。
フーシェもそれには同意らしく、小さく頷く。
「ここからは、なるべく狭い道を歩く。不用な消耗は避けたい」
僕とイスカは、お互いに顔を見合わせ頷く。
そして、ほんのりと赤く染まるコケとキノコを目指して歩き出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ユズキさん!!」
イスカの声に僕は後ろを振り向く。
気づけば、真っ赤に燃え上がる火球が僕の目の前へと飛来する。
僕は、瞬間洞窟の床を蹴って跳躍すると迫りくる火球を避けた。
空中でクルリと回転をする僕の眼下には2体の敵が見える。
ワニのような身体、その体躯は5メートル程にもなり、見た目以上に動きは俊敏だ。身体は厚く鎧のようなウロコに覆われており、真っ赤な瞳は獲物を見つけるようにギラギラと周囲を見渡している。口からはテラテラと湿り気を帯びた舌が顔を出し、息をするたびに燃え上がる炎が生まれては空中へと消えていく。
ファイアリザードと呼ばれるその個体は、2体が僕を挟み込むように回り込んでいたのだ。
「『青水球』!!」
イスカが叫び、組み上げていた魔法術式をファイアリザードに向けて放つ。
バギッ!バシャン!!
しかし、ファイアリザードは俊敏な動きでイスカの一撃を躱すと、その吸盤のような足でテカテカとした鍾乳洞の壁を駆け上がった。
まるでヤモリだ!
そして、ヒカリキノコやヒカリゴケが薄赤く光っているせいか、少し距離を取られるだけで非常に見えにくいのが厄介この上ない。
「『ニニ斬り』!」
機動性の高いフーシェが、壁に逃げたファイアリザードを追って双剣を煌めかせる。
放った斬撃は2つに分かたれると、ファイアリザードの前後を挟撃するように飛翔した。
ギャオンッ!
衝撃を喰らい、ファイアリザードが10メートルはある高さから落下する。
「⋯⋯固い!」
手ごたえに不満を感じたフーシェが歯がゆそうに呟く。
「行きます!『重攻撃』!!」
フーシェによって撃墜され、洞窟の床へとファイアリザードが叩きつけられた瞬間を見計らって、イスカが剣を両手に構え振り下ろす。
ゲギャッ!!
スキルによって数倍に膨れ上がったイスカの剣戟が、運よく腹部を見せたファイアリザードの身体を真っ二つに切り裂いた。
「イスカ!離れる!!」
フーシェの叫びに、ハッと気づいたイスカが慌てて後方に飛び下がった。
次の瞬間
ゴホオオッ!!
突如、ファイアリザードの裂けた腹の中から、火山が噴火するかの様に火柱が立ち上がったかと思うと、ファイアリザードの身体を包み込み、その身を焦がしてしまった。
「腹にある『炎袋』が破けた!真っ二つになったら避ける!」
倒し方を間違えると、とてつもなく危険な生物。
僕は、着地して相対するもう一匹との距離感を図ると、じりじりとその距離を詰める。
ゴウッ!!
僅かな予備動作で、ファイアリザードの喉が揺れたかと思うと、今度は正面から火球が放たれた。
「はっ!」
僕は前方に飛ぶと共に、スライディングをするように火球の下を潜り抜ける。
火球の熱は一瞬僕の肌を焦がすが、レベル差によって痛みは感じない。
今だっ!!
眼前に迫るファイアリザードの口による嚙みつきの攻撃を間一髪で回避すると、そのまま僕はファイアリザードの顎を剣で串刺しにする。
見た目はワニと同じなら、嚙む力は強くとも、開ける力は弱いはず!!
僕の読みは当たったのか、ファイアリザードは開くことのできなくなった口に苦しみ、地面の上をゴロゴロとローリングを行い始めた。
「大人しく⋯⋯しろっ!!」
暴れ狂うファイアリザードの前足の一本を僕は無理やり掴むと、地面へ叩きつける。
レベル9984(イスカに15譲渡済み)の力は伊達じゃないっ!
グッググッ!
口を開くこともできないファイアリザードの目が大きく見開かれる。
「これで終わりだ!!」
およそ戦士の風貌ににあるまじき行動に僕は出た。
振りかざした張り手を渾身の一撃を持って、ファイアリザードの脳があると思われる場所に振り下ろした。
バヂッ!!
弾けるような衝撃音を残して、ファイアリザードの頭部の骨は完全に破壊された。
恐らく脳も破壊されたのだろう。ジタバタと筋肉の反射でしばらくその巨体は地面を叩いていたが、やがて全く動かなくなっていった。
激闘のおかげか、音が止んだ洞窟内は静かだ。
シンと静まり返った洞窟内で、僕とイスカは思わず力が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまった。
明らかに今までで一番危険な戦いだった。
本来、緊張感を残さなければいけないのだが、すぐに態勢を整えることができなかった。
「ん。あんな方法でファイアリザードを倒すなんて初めて見た。さすがフーシェのユズキ」
あれ、いつの間に僕はフーシェの所有物になったのだろうか?
耳の良いイスカが気づいたのか、ゆっくりと腰を起き上がりながらフーシェを指さす。
「あぁっ!私のって!フーシェちゃん、ユズキさんのこと本気なのですか!?」
うん、僕への評価は親愛度になっているからね。なんて口が裂けても言えない。
フーシェが僕に好意を持っていることをイスカは知っていたが、さすがに「私の彼氏」みたいな言い方をされると、焦りが生じたみたいだ。
もちろん、僕がイスカを裏切ることはないのだけど──
「ん。イスカがOKくれるまで手は出さない」
「もう!そんなこと言いませんよ!!」
そんなやり取りは、見ていて微笑ましい。
「みんな、一回水を飲もう」
そう言って僕は立ち上がる。
「!!」
「!!」
突如、じゃれあっていたイスカとフーシェが電撃に打たれたように動きを止めた。
「どうしたの!!」
声をかけた瞬間、僕も動きを止めてしまう。
さっきまでの視界、その一部が明らかに異なる様相を見せていた。
──オオオンッ
福音のような低い金属音が響き渡る。
今まで壁と思われていた洞窟の壁が剥がれ落ちる。
否、剥がれ落ちたのではない。
動き出したのだ。
僕たちがいるファイアリザードと戦った洞窟内を見上げる。
遥かに休息を取っていた場所よりも高い天井が頭上にはあった。
「クリスタル⋯⋯ゴーレム。レベル50台のやつ」
抑揚がないのではない、感情が死んだような声でフーシェはポツリと呟いた。
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