うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

文字の大きさ
42 / 166
第2章 交易都市トナミカ

魔大陸を目指すようです

しおりを挟む
うーん、どうしよう。
 僕の目の前には、ローガンが意識を失ってベッドに運び込まれていた。
 どうにも、身体が慣れてきたことによってレベルに見合った動きができるようになったことは喜ばしいが、その分繊細な力加減を必要としていた。

 僕のスキル『体力譲渡』によって、ローガンの身体的な損傷は治癒していたが、失った意識は時間によって回復するのを待つしかないようだった。

「──イスカ、そういえば「『レベルリバース』って何?」

 僕は周りを見回し、ここにウォーレンや他のギルド職員がいないことを確かめるとイスカに尋ねた。
 ローガンが運び込まれたのは、簡易的な治療が行えるように設計された医務室だ。
 ベッドは4床しかないが、最近は使われていないのか、ベッドのシーツにはうっすらと埃が降り積もっている。
 イスカは、いまだ起きないローガンを少し悲しそうに見つめると口を開いた。

「ユズキさん?ユズキさんの世界ではレベルが下がるってことはないのですか?」

 うーん。そもそもレベルという概念がなくても生活のできる世界だ。
 所謂、創作物、ゲーム、漫画やアニメといったエンターテイメント。
 その中でしかレベルといった概念は機能していない。

「レベルというものは存在しないからね。ここの世界とは全然違うから。でも、一般的に上がったレベルが下がるということは、あまり聞かないかもしれないね」

 フーシェは、僕の隣で頭に「?」を浮かべたまま僕の話を聞いている。
 僕が異世界からの転生者であることは、フーシェに話してあったが、彼女にとっては僕がどこの世界から来たということは、さして問題ではないらしい。
 余り興味なさそうに聞いているあたり、どこまで理解しているかはかなり疑問なところだ。

「そうですか──。それでは、おじいさんやおばあさん、老衰で亡くなりそうになってもレベルは維持されると思いますか?若い時に覚えた殲滅魔法を老衰していても連発できるなんてこと」

「いや、それは怖すぎるよ。年で物忘れをしている老人がいきなり町中で殲滅魔法なんて打った日には町が崩壊するよ!」

 恐ろしい想像に僕の声は上ずってしまう。
 イスカは小さく頷くと話を続けた。

「ですよね。確かに種族によってや伝説的な存在で死ぬ間際までレベルを維持したままの人もいるとは聞いたことがあります。まぁ、ほとんどおとぎ話ですけどね。普通は、ある一定の所で体に魔素やマナを貯められなくなり、身体から抜け出ていくようになるのです」

「⋯⋯それが『レベルリバース』?」

 僕の言葉に、フーシェが頷く。

「ん。だから、一般的には『レベルリバース』が起こったら、冒険者の引退時って言われている。ユズキは特別、イスカやフーシェも人族以外の血が入っているから、人族よりも『レベルリバース』を起こすのはまだまだ先だと思う」

 確かに、エルフと魔族といえば長命といったイメージだ。

 だとしたら、このローガンと言った男性は、『レベルリバース』が原因でパーティーを追い出されてしまったのか?
 そう思うと、目に見えてレベルが下がってしまう『レベルリバース』は冒険者達にとって最後通告のようなものなのかもしれない。

「──うっ」

 ローガンが、少し顔をしかめたのを確認した僕たちは、腰かけていたベッドから立ち上がる。
 僕とイスカが心配そうにのぞき込むと、白髪、鼻の下にも白い髭を品よく蓄えたローガンの目がうっすらと開いた。

「大丈夫ですか?」

 イスカが思わず、ローガンの手を握って話しかける。
 初めは、なかなか焦点が合わなかったローガンの瞳が、やがてくっきりと像を結び、視界にイスカを捉えるとにっこりとほほ笑んだ。

「おぁ、目覚めると素敵な翡翠色の瞳をしたエルフのお嬢さんに起こされるとは夢のようだ。先ほどまで見た顔ということは、まだ私は天に召されたわけではないらしい」

 エルフクォーターにとって劣等感を惹起させる翡翠色の瞳を褒められたためか、イスカの耳が思わずボッと赤くなってしまう。

 うん、少し嫉妬してしまうね。

「おぉ、ユズキ様。先ほどは見事でした、この年寄りの我儘に付き合って頂き申し訳ない。貴方がリーダーであれば、魔大陸に行くことを誰が止めることができるでしょうか」

 ローガンは上体をゆっくりと起こすと、先ほどまでレイピアを握っていた右手を所在なく見つめている。

「⋯⋯潮時、いや引導を渡してもらったということですね」

 ローガンの右手がカタカタと揺れている。
 その手には、いまだレイピアを握っているようだ。

「──僕は少し事情があって。普通なら、貴方の動きには一切の隙がなかった。僕が貴方と同じレベルであれば、僕は手も足も出ずに負けていたでしょう」

 その言葉に偽りはない。
 僕はレベルに任せた、動体視力と機動力が成せた力技だ。同レベルで真向勝負ならば、僕は踏み込むこともローガンの攻撃に対処することもできなかっただろう。

「事情⋯⋯もしかして、ユズキ様は私の主人でありパーティーのリーダー、ジェイク様と同じように『勇者』なのですか?」

「えっ!?いや違います!!」

 ローガンの言葉にびっくりした僕は思わず大声を上げてしまった。

「ん。違う。ユズキはてんせーしゃ」

 よく分かっていないフーシェが、知った風に口を挟むものだから。
 いや、そのドヤ顔をしている姿は可愛いのだけど、絶対言葉の意味を分かっていないよね!

 当然、ローガンの顔にも疑問が張り付いてしまうわけで。

「そうですよ。ユズキさんは『勇者』ではないです!ユズキさんはもっと凄いんですから!」

 あ、うん。
 褒めてくれるのはとても嬉しいんだけど、『勇者』より凄いなんて言ったら、ほらね?ローガンさんが僕のことをメッチヤ見ているよ。

「ユズキ様、貴方は一体⋯⋯」

 おっとヤバイ、これは捕まってしまったパターンだ。
 見れば、僕の腕の袖は、いつの間にかローガンの手によって握られてしまっていた。

 その様子を見たイスカが、思わず「私やってしまいました」という風に口元を抑えてしまっている。
 うん、その通りなんです。

「──分かりました。でも、場所を変えましょう」

 長い話になりそうだ。
 僕の右袖を掴んでいるローガンの手を、左手で取ると、離れた右手でローガンの上体を支えてやる。
 その僕の動きを、ローガンは信じられない者でも見るような視線を送ってくるのであった。

『友好度が上がりました。対象、ローガンに対してスキル『レベル譲渡』が可能になりました』

 マジですか。僕は脳内に響く久しぶりのセラ様AIの声にかなり動揺してしまうのだった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「つまり、ユズキ様は他の世界から来られたと?」

 真剣な表情で僕を見つめるローガンは、一通り僕の説明を聞くと何か得心したように大きく頷いた。
 ここは、ローガンがお勧めしてくれたレストラン。
 僕の目の前には、色とりどりの海鮮料理が並んでいる。

 それにしても、ここトナミカでは刺身も出てくるなんて!

 鮮やかな赤みはマグロの様だが、味はマグロよりもしっかりとしており醤油に似た調味料も、少し酸味が強いが、やもすればくどくなりそうな魚の味を上手く抑えることで調和を生み出していた。
 ゆっくりと味わいたい所ではあるが、ローガンの話を聞く姿勢が気迫に満ちており、そんな彼に見つめられている僕としては、あまり味わっている気がしない。

「えぇ。たわ言と思って頂いても構いません。ですが、僕のことを信頼してくださるのであれば、体験的にレベルを譲渡することもできますよ」

 そう言うと、ローガンは信じられないという風に僕の顔を見る。

「それが本当であれば⋯⋯一生のお願いです。そのスキルを一度私にかけて頂きますか?」

 その声は余りにも切実で──

「勿論です」

 僕は頷く他なかった。
 とはいえ、ここは死角になりやすい角席とはいえ店内。僕は、そっとテーブルの下で『レベル譲渡』により1レベル分のピースを作り出すと、そっと向かい合うローガンへとレベル譲渡を行った


 スッと、白い力の結晶が僕からローガンの体内に吸い込まれる。

「おっ?」

 身体の変化を自覚したのか、ローガンが驚き自分の両手を見つめる。
 僕は『情報共有』を使って、ローガンに向かってそのステータスが見えるように画面を開いた。
 さすがに、出会ってすぐの彼の詳細な情報を見てしまうのはマナー違反だろう。
 僕は、ステータス画面を見ないように視線を逸らす。

 隣に目を転じれば、うん。ほんと、よく食べるね2人とも。
 色とりどりに皿いっぱいに盛られていた食事は、今やそのほとんどが皿の底を覗かせている。
 少し魔族らしくワイルドに肉にかぶりつくフーシェと、対照的にニコニコと舌鼓を打ちながらも、一定の吸引力をもって食事を機械のように口へと運ぶイスカ。
 その幸せそうな顔に僕も思わず笑顔になるのだが、いくら食べてもお腹が出てしまいそうな気配がないことに僕はびっくりだ。
 レベルアップの影響なのか、この世界の謎ととして心の中にとどめておくことにしよう。

 さて、『情報共有』によって自身のステータスを確認していたローガンだったが、その目には大粒の涙が湛えられていた。
 決壊しそうなその涙は、フーシェの肘が思わずローガンに触れてしまったことにより、いとも容易く零れ落ちることになってしまった。

「この⋯⋯1レベルが下がることで私はどれだけ自分の老いを責めたことか──」

 振り絞るようにローガンは口を開く。

「私が本来のレベルであれば、今すぐにでもジェイク様の元に向かいますのに⋯⋯。いや、でもあのお方は、もはや私のことを見てはおられぬのでしょうな」

 ローガンは独白するように呟くと、その1上昇したステータス画面のレベル項目を悔しそうになぞった。

「あの、その『勇者』様は今どちらへ⋯⋯」

 咀嚼を終えたイスカが口元を軽く拭くと、ローガンに質問する。
 その問いに、暫しローガンは沈黙を以て答えたものの、フーシェの「ん。遅い」という彼女らしい突っ込みのお陰で覚悟が決まったのか、その重い口を開くとこう言うのだった。

「『勇者』がやることと言えばただ一つ、魔大陸『レーベン』に向かって『魔王』討伐しかありませんよ」





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...