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第2章 交易都市トナミカ
魔大陸を目指すようです
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うーん、どうしよう。
僕の目の前には、ローガンが意識を失ってベッドに運び込まれていた。
どうにも、身体が慣れてきたことによってレベルに見合った動きができるようになったことは喜ばしいが、その分繊細な力加減を必要としていた。
僕のスキル『体力譲渡』によって、ローガンの身体的な損傷は治癒していたが、失った意識は時間によって回復するのを待つしかないようだった。
「──イスカ、そういえば「『レベルリバース』って何?」
僕は周りを見回し、ここにウォーレンや他のギルド職員がいないことを確かめるとイスカに尋ねた。
ローガンが運び込まれたのは、簡易的な治療が行えるように設計された医務室だ。
ベッドは4床しかないが、最近は使われていないのか、ベッドのシーツにはうっすらと埃が降り積もっている。
イスカは、いまだ起きないローガンを少し悲しそうに見つめると口を開いた。
「ユズキさん?ユズキさんの世界ではレベルが下がるってことはないのですか?」
うーん。そもそもレベルという概念がなくても生活のできる世界だ。
所謂、創作物、ゲーム、漫画やアニメといったエンターテイメント。
その中でしかレベルといった概念は機能していない。
「レベルというものは存在しないからね。ここの世界とは全然違うから。でも、一般的に上がったレベルが下がるということは、あまり聞かないかもしれないね」
フーシェは、僕の隣で頭に「?」を浮かべたまま僕の話を聞いている。
僕が異世界からの転生者であることは、フーシェに話してあったが、彼女にとっては僕がどこの世界から来たということは、さして問題ではないらしい。
余り興味なさそうに聞いているあたり、どこまで理解しているかはかなり疑問なところだ。
「そうですか──。それでは、おじいさんやおばあさん、老衰で亡くなりそうになってもレベルは維持されると思いますか?若い時に覚えた殲滅魔法を老衰していても連発できるなんてこと」
「いや、それは怖すぎるよ。年で物忘れをしている老人がいきなり町中で殲滅魔法なんて打った日には町が崩壊するよ!」
恐ろしい想像に僕の声は上ずってしまう。
イスカは小さく頷くと話を続けた。
「ですよね。確かに種族によってや伝説的な存在で死ぬ間際までレベルを維持したままの人もいるとは聞いたことがあります。まぁ、ほとんどおとぎ話ですけどね。普通は、ある一定の所で体に魔素やマナを貯められなくなり、身体から抜け出ていくようになるのです」
「⋯⋯それが『レベルリバース』?」
僕の言葉に、フーシェが頷く。
「ん。だから、一般的には『レベルリバース』が起こったら、冒険者の引退時って言われている。ユズキは特別、イスカやフーシェも人族以外の血が入っているから、人族よりも『レベルリバース』を起こすのはまだまだ先だと思う」
確かに、エルフと魔族といえば長命といったイメージだ。
だとしたら、このローガンと言った男性は、『レベルリバース』が原因でパーティーを追い出されてしまったのか?
そう思うと、目に見えてレベルが下がってしまう『レベルリバース』は冒険者達にとって最後通告のようなものなのかもしれない。
「──うっ」
ローガンが、少し顔をしかめたのを確認した僕たちは、腰かけていたベッドから立ち上がる。
僕とイスカが心配そうにのぞき込むと、白髪、鼻の下にも白い髭を品よく蓄えたローガンの目がうっすらと開いた。
「大丈夫ですか?」
イスカが思わず、ローガンの手を握って話しかける。
初めは、なかなか焦点が合わなかったローガンの瞳が、やがてくっきりと像を結び、視界にイスカを捉えるとにっこりとほほ笑んだ。
「おぁ、目覚めると素敵な翡翠色の瞳をしたエルフのお嬢さんに起こされるとは夢のようだ。先ほどまで見た顔ということは、まだ私は天に召されたわけではないらしい」
エルフクォーターにとって劣等感を惹起させる翡翠色の瞳を褒められたためか、イスカの耳が思わずボッと赤くなってしまう。
うん、少し嫉妬してしまうね。
「おぉ、ユズキ様。先ほどは見事でした、この年寄りの我儘に付き合って頂き申し訳ない。貴方がリーダーであれば、魔大陸に行くことを誰が止めることができるでしょうか」
ローガンは上体をゆっくりと起こすと、先ほどまでレイピアを握っていた右手を所在なく見つめている。
「⋯⋯潮時、いや引導を渡してもらったということですね」
ローガンの右手がカタカタと揺れている。
その手には、いまだレイピアを握っているようだ。
「──僕は少し事情があって。普通なら、貴方の動きには一切の隙がなかった。僕が貴方と同じレベルであれば、僕は手も足も出ずに負けていたでしょう」
その言葉に偽りはない。
僕はレベルに任せた、動体視力と機動力が成せた力技だ。同レベルで真向勝負ならば、僕は踏み込むこともローガンの攻撃に対処することもできなかっただろう。
「事情⋯⋯もしかして、ユズキ様は私の主人でありパーティーのリーダー、ジェイク様と同じように『勇者』なのですか?」
「えっ!?いや違います!!」
ローガンの言葉にびっくりした僕は思わず大声を上げてしまった。
「ん。違う。ユズキはてんせーしゃ」
よく分かっていないフーシェが、知った風に口を挟むものだから。
いや、そのドヤ顔をしている姿は可愛いのだけど、絶対言葉の意味を分かっていないよね!
当然、ローガンの顔にも疑問が張り付いてしまうわけで。
「そうですよ。ユズキさんは『勇者』ではないです!ユズキさんはもっと凄いんですから!」
あ、うん。
褒めてくれるのはとても嬉しいんだけど、『勇者』より凄いなんて言ったら、ほらね?ローガンさんが僕のことをメッチヤ見ているよ。
「ユズキ様、貴方は一体⋯⋯」
おっとヤバイ、これは捕まってしまったパターンだ。
見れば、僕の腕の袖は、いつの間にかローガンの手によって握られてしまっていた。
その様子を見たイスカが、思わず「私やってしまいました」という風に口元を抑えてしまっている。
うん、その通りなんです。
「──分かりました。でも、場所を変えましょう」
長い話になりそうだ。
僕の右袖を掴んでいるローガンの手を、左手で取ると、離れた右手でローガンの上体を支えてやる。
その僕の動きを、ローガンは信じられない者でも見るような視線を送ってくるのであった。
『友好度が上がりました。対象、ローガンに対してスキル『レベル譲渡』が可能になりました』
マジですか。僕は脳内に響く久しぶりのセラ様AIの声にかなり動揺してしまうのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「つまり、ユズキ様は他の世界から来られたと?」
真剣な表情で僕を見つめるローガンは、一通り僕の説明を聞くと何か得心したように大きく頷いた。
ここは、ローガンがお勧めしてくれたレストラン。
僕の目の前には、色とりどりの海鮮料理が並んでいる。
それにしても、ここトナミカでは刺身も出てくるなんて!
鮮やかな赤みはマグロの様だが、味はマグロよりもしっかりとしており醤油に似た調味料も、少し酸味が強いが、やもすればくどくなりそうな魚の味を上手く抑えることで調和を生み出していた。
ゆっくりと味わいたい所ではあるが、ローガンの話を聞く姿勢が気迫に満ちており、そんな彼に見つめられている僕としては、あまり味わっている気がしない。
「えぇ。たわ言と思って頂いても構いません。ですが、僕のことを信頼してくださるのであれば、体験的にレベルを譲渡することもできますよ」
そう言うと、ローガンは信じられないという風に僕の顔を見る。
「それが本当であれば⋯⋯一生のお願いです。そのスキルを一度私にかけて頂きますか?」
その声は余りにも切実で──
「勿論です」
僕は頷く他なかった。
とはいえ、ここは死角になりやすい角席とはいえ店内。僕は、そっとテーブルの下で『レベル譲渡』により1レベル分のピースを作り出すと、そっと向かい合うローガンへとレベル譲渡を行った
スッと、白い力の結晶が僕からローガンの体内に吸い込まれる。
「おっ?」
身体の変化を自覚したのか、ローガンが驚き自分の両手を見つめる。
僕は『情報共有』を使って、ローガンに向かってそのステータスが見えるように画面を開いた。
さすがに、出会ってすぐの彼の詳細な情報を見てしまうのはマナー違反だろう。
僕は、ステータス画面を見ないように視線を逸らす。
隣に目を転じれば、うん。ほんと、よく食べるね2人とも。
色とりどりに皿いっぱいに盛られていた食事は、今やそのほとんどが皿の底を覗かせている。
少し魔族らしくワイルドに肉にかぶりつくフーシェと、対照的にニコニコと舌鼓を打ちながらも、一定の吸引力をもって食事を機械のように口へと運ぶイスカ。
その幸せそうな顔に僕も思わず笑顔になるのだが、いくら食べてもお腹が出てしまいそうな気配がないことに僕はびっくりだ。
レベルアップの影響なのか、この世界の謎ととして心の中にとどめておくことにしよう。
さて、『情報共有』によって自身のステータスを確認していたローガンだったが、その目には大粒の涙が湛えられていた。
決壊しそうなその涙は、フーシェの肘が思わずローガンに触れてしまったことにより、いとも容易く零れ落ちることになってしまった。
「この⋯⋯1レベルが下がることで私はどれだけ自分の老いを責めたことか──」
振り絞るようにローガンは口を開く。
「私が本来のレベルであれば、今すぐにでもジェイク様の元に向かいますのに⋯⋯。いや、でもあのお方は、もはや私のことを見てはおられぬのでしょうな」
ローガンは独白するように呟くと、その1上昇したステータス画面のレベル項目を悔しそうになぞった。
「あの、その『勇者』様は今どちらへ⋯⋯」
咀嚼を終えたイスカが口元を軽く拭くと、ローガンに質問する。
その問いに、暫しローガンは沈黙を以て答えたものの、フーシェの「ん。遅い」という彼女らしい突っ込みのお陰で覚悟が決まったのか、その重い口を開くとこう言うのだった。
「『勇者』がやることと言えばただ一つ、魔大陸『レーベン』に向かって『魔王』討伐しかありませんよ」
僕の目の前には、ローガンが意識を失ってベッドに運び込まれていた。
どうにも、身体が慣れてきたことによってレベルに見合った動きができるようになったことは喜ばしいが、その分繊細な力加減を必要としていた。
僕のスキル『体力譲渡』によって、ローガンの身体的な損傷は治癒していたが、失った意識は時間によって回復するのを待つしかないようだった。
「──イスカ、そういえば「『レベルリバース』って何?」
僕は周りを見回し、ここにウォーレンや他のギルド職員がいないことを確かめるとイスカに尋ねた。
ローガンが運び込まれたのは、簡易的な治療が行えるように設計された医務室だ。
ベッドは4床しかないが、最近は使われていないのか、ベッドのシーツにはうっすらと埃が降り積もっている。
イスカは、いまだ起きないローガンを少し悲しそうに見つめると口を開いた。
「ユズキさん?ユズキさんの世界ではレベルが下がるってことはないのですか?」
うーん。そもそもレベルという概念がなくても生活のできる世界だ。
所謂、創作物、ゲーム、漫画やアニメといったエンターテイメント。
その中でしかレベルといった概念は機能していない。
「レベルというものは存在しないからね。ここの世界とは全然違うから。でも、一般的に上がったレベルが下がるということは、あまり聞かないかもしれないね」
フーシェは、僕の隣で頭に「?」を浮かべたまま僕の話を聞いている。
僕が異世界からの転生者であることは、フーシェに話してあったが、彼女にとっては僕がどこの世界から来たということは、さして問題ではないらしい。
余り興味なさそうに聞いているあたり、どこまで理解しているかはかなり疑問なところだ。
「そうですか──。それでは、おじいさんやおばあさん、老衰で亡くなりそうになってもレベルは維持されると思いますか?若い時に覚えた殲滅魔法を老衰していても連発できるなんてこと」
「いや、それは怖すぎるよ。年で物忘れをしている老人がいきなり町中で殲滅魔法なんて打った日には町が崩壊するよ!」
恐ろしい想像に僕の声は上ずってしまう。
イスカは小さく頷くと話を続けた。
「ですよね。確かに種族によってや伝説的な存在で死ぬ間際までレベルを維持したままの人もいるとは聞いたことがあります。まぁ、ほとんどおとぎ話ですけどね。普通は、ある一定の所で体に魔素やマナを貯められなくなり、身体から抜け出ていくようになるのです」
「⋯⋯それが『レベルリバース』?」
僕の言葉に、フーシェが頷く。
「ん。だから、一般的には『レベルリバース』が起こったら、冒険者の引退時って言われている。ユズキは特別、イスカやフーシェも人族以外の血が入っているから、人族よりも『レベルリバース』を起こすのはまだまだ先だと思う」
確かに、エルフと魔族といえば長命といったイメージだ。
だとしたら、このローガンと言った男性は、『レベルリバース』が原因でパーティーを追い出されてしまったのか?
そう思うと、目に見えてレベルが下がってしまう『レベルリバース』は冒険者達にとって最後通告のようなものなのかもしれない。
「──うっ」
ローガンが、少し顔をしかめたのを確認した僕たちは、腰かけていたベッドから立ち上がる。
僕とイスカが心配そうにのぞき込むと、白髪、鼻の下にも白い髭を品よく蓄えたローガンの目がうっすらと開いた。
「大丈夫ですか?」
イスカが思わず、ローガンの手を握って話しかける。
初めは、なかなか焦点が合わなかったローガンの瞳が、やがてくっきりと像を結び、視界にイスカを捉えるとにっこりとほほ笑んだ。
「おぁ、目覚めると素敵な翡翠色の瞳をしたエルフのお嬢さんに起こされるとは夢のようだ。先ほどまで見た顔ということは、まだ私は天に召されたわけではないらしい」
エルフクォーターにとって劣等感を惹起させる翡翠色の瞳を褒められたためか、イスカの耳が思わずボッと赤くなってしまう。
うん、少し嫉妬してしまうね。
「おぉ、ユズキ様。先ほどは見事でした、この年寄りの我儘に付き合って頂き申し訳ない。貴方がリーダーであれば、魔大陸に行くことを誰が止めることができるでしょうか」
ローガンは上体をゆっくりと起こすと、先ほどまでレイピアを握っていた右手を所在なく見つめている。
「⋯⋯潮時、いや引導を渡してもらったということですね」
ローガンの右手がカタカタと揺れている。
その手には、いまだレイピアを握っているようだ。
「──僕は少し事情があって。普通なら、貴方の動きには一切の隙がなかった。僕が貴方と同じレベルであれば、僕は手も足も出ずに負けていたでしょう」
その言葉に偽りはない。
僕はレベルに任せた、動体視力と機動力が成せた力技だ。同レベルで真向勝負ならば、僕は踏み込むこともローガンの攻撃に対処することもできなかっただろう。
「事情⋯⋯もしかして、ユズキ様は私の主人でありパーティーのリーダー、ジェイク様と同じように『勇者』なのですか?」
「えっ!?いや違います!!」
ローガンの言葉にびっくりした僕は思わず大声を上げてしまった。
「ん。違う。ユズキはてんせーしゃ」
よく分かっていないフーシェが、知った風に口を挟むものだから。
いや、そのドヤ顔をしている姿は可愛いのだけど、絶対言葉の意味を分かっていないよね!
当然、ローガンの顔にも疑問が張り付いてしまうわけで。
「そうですよ。ユズキさんは『勇者』ではないです!ユズキさんはもっと凄いんですから!」
あ、うん。
褒めてくれるのはとても嬉しいんだけど、『勇者』より凄いなんて言ったら、ほらね?ローガンさんが僕のことをメッチヤ見ているよ。
「ユズキ様、貴方は一体⋯⋯」
おっとヤバイ、これは捕まってしまったパターンだ。
見れば、僕の腕の袖は、いつの間にかローガンの手によって握られてしまっていた。
その様子を見たイスカが、思わず「私やってしまいました」という風に口元を抑えてしまっている。
うん、その通りなんです。
「──分かりました。でも、場所を変えましょう」
長い話になりそうだ。
僕の右袖を掴んでいるローガンの手を、左手で取ると、離れた右手でローガンの上体を支えてやる。
その僕の動きを、ローガンは信じられない者でも見るような視線を送ってくるのであった。
『友好度が上がりました。対象、ローガンに対してスキル『レベル譲渡』が可能になりました』
マジですか。僕は脳内に響く久しぶりのセラ様AIの声にかなり動揺してしまうのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「つまり、ユズキ様は他の世界から来られたと?」
真剣な表情で僕を見つめるローガンは、一通り僕の説明を聞くと何か得心したように大きく頷いた。
ここは、ローガンがお勧めしてくれたレストラン。
僕の目の前には、色とりどりの海鮮料理が並んでいる。
それにしても、ここトナミカでは刺身も出てくるなんて!
鮮やかな赤みはマグロの様だが、味はマグロよりもしっかりとしており醤油に似た調味料も、少し酸味が強いが、やもすればくどくなりそうな魚の味を上手く抑えることで調和を生み出していた。
ゆっくりと味わいたい所ではあるが、ローガンの話を聞く姿勢が気迫に満ちており、そんな彼に見つめられている僕としては、あまり味わっている気がしない。
「えぇ。たわ言と思って頂いても構いません。ですが、僕のことを信頼してくださるのであれば、体験的にレベルを譲渡することもできますよ」
そう言うと、ローガンは信じられないという風に僕の顔を見る。
「それが本当であれば⋯⋯一生のお願いです。そのスキルを一度私にかけて頂きますか?」
その声は余りにも切実で──
「勿論です」
僕は頷く他なかった。
とはいえ、ここは死角になりやすい角席とはいえ店内。僕は、そっとテーブルの下で『レベル譲渡』により1レベル分のピースを作り出すと、そっと向かい合うローガンへとレベル譲渡を行った
スッと、白い力の結晶が僕からローガンの体内に吸い込まれる。
「おっ?」
身体の変化を自覚したのか、ローガンが驚き自分の両手を見つめる。
僕は『情報共有』を使って、ローガンに向かってそのステータスが見えるように画面を開いた。
さすがに、出会ってすぐの彼の詳細な情報を見てしまうのはマナー違反だろう。
僕は、ステータス画面を見ないように視線を逸らす。
隣に目を転じれば、うん。ほんと、よく食べるね2人とも。
色とりどりに皿いっぱいに盛られていた食事は、今やそのほとんどが皿の底を覗かせている。
少し魔族らしくワイルドに肉にかぶりつくフーシェと、対照的にニコニコと舌鼓を打ちながらも、一定の吸引力をもって食事を機械のように口へと運ぶイスカ。
その幸せそうな顔に僕も思わず笑顔になるのだが、いくら食べてもお腹が出てしまいそうな気配がないことに僕はびっくりだ。
レベルアップの影響なのか、この世界の謎ととして心の中にとどめておくことにしよう。
さて、『情報共有』によって自身のステータスを確認していたローガンだったが、その目には大粒の涙が湛えられていた。
決壊しそうなその涙は、フーシェの肘が思わずローガンに触れてしまったことにより、いとも容易く零れ落ちることになってしまった。
「この⋯⋯1レベルが下がることで私はどれだけ自分の老いを責めたことか──」
振り絞るようにローガンは口を開く。
「私が本来のレベルであれば、今すぐにでもジェイク様の元に向かいますのに⋯⋯。いや、でもあのお方は、もはや私のことを見てはおられぬのでしょうな」
ローガンは独白するように呟くと、その1上昇したステータス画面のレベル項目を悔しそうになぞった。
「あの、その『勇者』様は今どちらへ⋯⋯」
咀嚼を終えたイスカが口元を軽く拭くと、ローガンに質問する。
その問いに、暫しローガンは沈黙を以て答えたものの、フーシェの「ん。遅い」という彼女らしい突っ込みのお陰で覚悟が決まったのか、その重い口を開くとこう言うのだった。
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