うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

海戦 1

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 日中はひんやりと感じた程度の風も、夜になると海風が強まり、服の隙間から入ってくる冷たい風は、肌を刺すように冷たい。

 イスカは風が吹きすさぶ甲板の上から、漆黒に染まる海面を凝視した。
 闇の中、真っ黒な絵の具が塗り込められたかの様な海に、ゾッとする程の恐怖心を覚えるのは、きっとエルフの血が森と共に歩んでいることからくる、潜在的な恐怖心からだけではないはずだ。

 船員達の合図で、船は音もなくスルリと桟橋を離れる。

 イスカが恐怖心を煽る海面から視線を戻し、振り返ると甲板には、多くの見知った顔があった。

「何だい?ユズキから離れて寂しくなったのかい?」

 イスカの前に現れたのは、見上げる程に長身の大鬼族オーガの女性船長ビビだ。彼女は、腕を組みながらイスカを見下ろすと、ニヤリと笑った。
 そう、今イスカが乗るこの船はトナミカの旗艦『トルルージュ』ではなく、ユズキ達がレーベンに渡る時に使った『レグナント号』だった。
 そのため、甲板で帆を張る作業をしている船員達にも見覚えがあった。

「寂しいのは勿論ですけど──。でも、トナミカの。いえ、魔族と人族との共存の道を断たないためにも、しっかり役目を果たしたいと思っています」

 イスカが軽く胸に手を当てて答える。

「ヒュー、真面目だねぇ。大鬼族オーガからすれば、背筋が凍っちまうよ。ほれ、後ろのフーシェ。あれくらいの気構えが丁度いいんだよ」

 親指でビビが後ろを指差す。
 そこでは、面白そうに船員達の動きを見るばかりか、まるで猫の様にマストを駆け上がり、遠ざかるトナミカの街並みに視線をこらしているフーシェの姿があった。
 すっかり船員達とも馴染んでいるのか、ちょこまかと動くフーシェのことを、誰もが温かい目で見守っている。

「おーい、船長。ここにいたのか。今回は本当に助かったのじゃ、恩に着る」

 灯り一つない甲板の上、小柄なニンムスがビビに声をかけた。

「おぅ、ギルドマスター!こんな大役を魔族に任せるなんて、あんたにしかできない采配だねぇ」

 ビビの言葉にフフンッと、ニンムスは得意げに鼻を鳴らした。

「それほどに信頼しておるということじゃよ。こんな灯りもなく海に出ていけるのは、夜目に長けた魔族でもないと無理じゃからな」

 ニンムスはそう言うと、頼もしそうに船員達を見回した。

「あ、あの。どうして、予定を早めて会議の後に出発したのですか?ビビ船長達もトナミカには着いたばかりですよね?」

 夕方の会議の後まで、ユズキ達を留めおいていたニンムスだったが、会議の後に出てきた言葉は、まさかの今から作戦を開始するという、会議の内容を完全に無視したものだったからだ。

「ふむ、海にも出たしもういいじゃろう。そうじゃな、理由は2つ。欺瞞と保険じゃよ」

 ニンムスはイスカの横に立つと、遠ざかるトナミカに灯る灯を眩しそうに見つめた。

「ほれ、昼の最後に噛み付いてきた男がおったじゃろう?バグダス。あいつは、裏ではグリドールと繋がっておる。ま、本人はバレていないと思っているようじゃがな」

 何気なく話すニンムスに、イスカは驚愕した。

「それと、本来はジェイク達『希望の剣』は5人パーティーじゃ。勇者のジェイク、騎士のグスタフ、支援術士のヤン、回復術士のリアーナ。そして、『斥候』のマルティじゃ。船が港に着いた時か、そもそも乗っていなかったのかは分からないんじゃが、兎に角にもマルティは捕まってはいない。それなら、こちらの情報はグリドールに筒抜けと考えてもおかしくないじゃろう」

「ん。小難しい話している?」

 スルリと、甲板まで降りてきたフーシェがイスカの横に駆け寄ってきた。

「まぁの。でも、お主も知っておいた方が良いことじゃぞ」

 ニンムスは笑みを作ると、優しくフーシェの頭を撫でた。
 その手が、フーシェの角に軽く触れると、フーシェはピクッと身体を震わせたが、すぐに嬉しそうにニンムスに擦り寄った。

「足の速い伝書鳥を使えば、こちらの情報なんぞすぐに渡りよる。きっと、バグダスは昼の会議で嬉しそうに筆を走らせただろうの」

「そして、ギルドマスターはそいつらの裏をかいたというわけだね」

 ビビの言葉にニンムスは頷く。

「ただ、トルルージュを派遣するのは変わらんぞ?『蒼天の灯台ブルートーチ』も明日には乗船して出港する。ジェイク達を人質交換に出すのも変わらん。まぁ、乗船はさせんがな」  

「すると、私達の役割は?」

 イスカの言葉に、ニンムスは笑った。

「言ったじゃろう?保険だと。そのことは朝になったら話そう。ほれ、寒いから中に入るのじゃ。船長!頼んでしまって申し訳ないの」

「いいってことよ。報酬ももらっているし、ウチラもトナミカにグリドールが来られたら失業だからね」

 ヒラヒラと手を振るビビに、イスカは軽く頭を下げると先を歩くニンムスへとついていった。

 船内へ続く重い木の扉を開けようとしたが、力の弱いニンムスでは扉はビクともしなかった。

「ん。開けてあげる」

 軽々とフーシェが扉を開けると、ニンムスは顔を赤くした。

「わ、ワシは頭脳派で魔力に長けておるからの⋯⋯適所では活躍するんじゃからの!」

 慌てた様子のニンムスが、急ぎ足で船内へと踏み入った。
 モワッとした、船内は相変わらず独特の香りに満ちていた。

 流石に船内には灯りが灯っているが、それでも極力光は抑えられていた。
 船内ですれ違う船員達も三人を前にすると、軽く頭を下げた。
 皆、クラーケンの一件でイスカとフーシェが実力者であることを知っているからだ。

「荒くれ者達もちょっかいをかけてこんあたり、二人の強さは本物じゃな」

 ニンムスは笑うと、船長室の扉を開けるとフカフカとしたソファーに腰をおろした。

「うーん、女3人。むさい男どもに囲まれなくて良いのは助かるのぉ」

 勿論、船長室を使う許可は得ている。
 何でも、ビビがまだ小さい頃からニンムスは彼女と交流があったという。
 ビビからすれば、ニンムスは親よりも遥かに年上の存在なのだ。

「おっ、こんな可愛いぬいぐるみなんぞ持っとるとわ。乙女なところもあるのぉ」

 ニンムスが目ざとく、船長室の隅に置かれていたぬいぐるみを見ながら笑った。

「はてさて、ようやっとトナミカから出たし、作戦も始まってしもうた。後は、英気を養うだけじゃが──」

 そこまで言葉を続けたニンムスの眼が怪しく光った。

「ほれ、この束の間の休みの間に、イスカもすること済ませたようじゃし。その辺を詳しく聞かせてもらおうかの!?」

 身を乗り出すように近づいてきたニンムスに、イスカは思わず耳まで赤くしてしまった。

「え!?いきなり、なんてこと言うんですか!!」

「むむ、ワシの鼻はごまかせんぞ。ちゃんと、一人前の女になったと分かるんじゃ」

「ん。その話、私も詳しく」

 ニンムスとフーシェの二人に迫られ、イスカは後退る。

「デ、デリカシーないですよ!」

 必死になってイスカが叫ぶ。

「ワシの屋敷使うたくせに」
「セラと不在の時間作ってあげたのに⋯⋯」

 二人の圧が物凄い。
 特に、ニンムスからの圧は鼻息が聞こえそうなほど凄まじいものがあった。

「あ──もしかして、ニンムスさんって経験が──ぐむっ!」

 その可能性に気付いたイスカだったが、その言葉はニンムスが掴んだソファーの枕を押し付けられることで、遮られることになるのだった。





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