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第5章 戦争
最後の戦い 3
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「おかしいわ。本当はもっと強力な部下達がドミナントにはいるはずなのに──。それにさっきスキルで調べた時も、私の兄弟と思われる波動は感じなかったのよね」
僕の後方を駆けるリズが怪訝そうな声を挙げた。
確かにと、僕はリズの言葉に納得した。
イズ達を退けた僕達は、今まで駆け抜けてきたガイアスピアーによってくり抜かれた大穴から、適当な横道に飛び込んでいた。
メナフがさっきまで走っていた穴の先で、『消失』の2撃目を撃つために、待ち構えていないとは言い切れない。
リズによると、高度な探知スキルを使える魔族はリズしかいないらしい。そのせいで、リズはレーベンの『魔王』として、北大陸から魔大陸までのレーダーとして、幽閉生活に等しい生活をレーヴァテイン城で強いられていたのだ。
相手は僕達の正確な位置を知るのは困難である。
その結果、メナフに的を絞らせないよう動き回ることは特に重要だった。
「結構複雑な砦ですね」
イスカが前方に飛び出してきた魔族を倒しながら、右へ左へと続く通路に頭を悩ませていた。
「えぇ、でもさっき『万象の眼』を使ったお陰で、大まかな敵の波動を覚えたから、もうすぐ着くはずよ」
リズはイスカの質問に、少し上の空といった感じで返答した。
先程から魔族の少なさに何か違和感を感じているのか、リズは直ぐに黙り込んでしまった。
「ハアッ、ハアッ」
ここまで一緒に走り続けてきたセラ様も、流石に体力が尽きてきたのか、息が上がってきていた。僕は片手でセラ様の手を握り狭い通路を走り続ける。
「──ん!」
先頭を走っていたフーシェが、『危険察知』に反応を感じたのか警戒感を一気に引き上げた。
そして、両手に持つ双剣『アースブレイカー』を握る手に力を込めた。
「そこね」
「私にも感じます」
リズとイスカも嫌な空気を感じたのか、緊張した面持ちで前方に見えてきた扉を見つめた。
「──メナフなら、扉を開けた瞬間にメーシェの『消失』を撃ち込んでくるかもしれないわ」
もう、リズは父親のことを「お父様」と呼ばなかった。
そして、何かの結論に達したのか覚悟を決めた顔で、壁を指差した。
「この壁を全部吹き飛ばして。フーシェは『消失』対策で『神喰らい』を展開」
「ん。了解」
「分かった、『風障壁』と『エアボム』を使うよ」
僕は壁に向けて『風障壁』を展開、そして同時に障壁の外側に圧縮した空気を球体状に閉じ込めた『エアボム』を複数設置した。最高位の魔法ではないが、砦の壁を吹き飛ばすには充分すぎる威力だろう。
「『エアボム』発動!」
狭い通路に大爆発が起きた。
魔力によって純粋に風魔法のみを閉じ込めた『エアボム』は、さながら熱産生を全く使わないダイナマイトといったところか。
爆風は壁を吹き飛ばし、視界が一気に開けた。
「──!」
砦の外に出たのか、暗い空と先程までは見えなかった三日月状の月が宙に浮かんでいた。
「──ふむ、やはりイズでは足止めに失敗したか」
ズンと腹に響く声が聞こえてきた。
この冷酷かつ、自分以外にまるで興味がないといった声。
「メナフ!」
僕の視界の先には、『エアボム』で吹き飛ばした壁の破片など、全く影響を受けていないといった様子のメナフが立っていた。
そしてその隣には──
「──!!」
「酷い!」
「メナフ!」
「何て非道な──」
仲間たちが怒りを露わにした。
僕も、メナフの隣にある物を確認すると怒りに震えた。
そこには、大きな透明な器に満たされた液体の中で、意識なく浮かんでいるメーシェの姿があった。
「メーシェ!助けに来た!!」
フーシェが感情を爆発させた。
しかし、その問いかけに器の中のメーシェが瞳を開くことはなかった。
「無駄だ劣化品よ。洗脳で操っていたレーベンより、全く別の方法で支配下においている」
メナフはそう言うと、興味がないといった風に『限定覚醒進化』を果たしたフーシェを見たが、直ぐに思い返すことがあったのか、少し眉をあげた。
「出来損ないと言えども、スペアくらいにはなりそうだな」
本当に、極自然なことといった調子でメナフはフーシェのことを、メーシェのスペア成りうると評価を下した。
これほどまで、人の生死を自分の利益の為に犠牲にすることを厭わないのか。
気付くと、僕は両手が白くなるほど握りしめていた。
そんな僕を制する様に、リズが一歩前へ出る。
「なんだ、リズか。最早お前は存在する意義は、そのスキルにしかない。私に尽くさぬのなら、価値はないと同義だ」
『限定進化』したリズの姿にまるで興味を示さないメナフは、親子の情愛を全く感じさせない声をあげた。
「──ッ」
リズが、一瞬だけ悲痛な表情を浮かべた。
僅かな期待、その感情が完全に断たれたことをリズは感じたのだろう。
「メナフ、単刀直入に言うわ。この島の転移──ドミナントの魔族の生命を使ったでしょ」
──!!
リズの驚愕に値する推論に、僕は恐怖を感じた。
しかし、メナフは表情を全く変えない。
そして、直ぐに抑揚のない声をあげた。
「そうだ」
その姿は、先日レーヴァテインでセラ様を見て興奮していた面影はなかった。そのことに僕は違和感を、いや嫌な気配を感じていた。
メーシェも魔力を消費する『神喰らい』を油断なく3つ浮遊させて対峙している。
何事にも興味を尽かした、いや。この場を制圧することなど造作もないといった、圧倒的な自信がメナフの落ち着きを形作っていた。
メナフの視線が動き、怯えるセラ様の視線と交差する。
そこでようやくメナフは口元に笑みを浮かべた。
「さぁ、神殺しを始めようじゃないか。そして、私はより上位の存在へと成り代わるのだ」
僕の後方を駆けるリズが怪訝そうな声を挙げた。
確かにと、僕はリズの言葉に納得した。
イズ達を退けた僕達は、今まで駆け抜けてきたガイアスピアーによってくり抜かれた大穴から、適当な横道に飛び込んでいた。
メナフがさっきまで走っていた穴の先で、『消失』の2撃目を撃つために、待ち構えていないとは言い切れない。
リズによると、高度な探知スキルを使える魔族はリズしかいないらしい。そのせいで、リズはレーベンの『魔王』として、北大陸から魔大陸までのレーダーとして、幽閉生活に等しい生活をレーヴァテイン城で強いられていたのだ。
相手は僕達の正確な位置を知るのは困難である。
その結果、メナフに的を絞らせないよう動き回ることは特に重要だった。
「結構複雑な砦ですね」
イスカが前方に飛び出してきた魔族を倒しながら、右へ左へと続く通路に頭を悩ませていた。
「えぇ、でもさっき『万象の眼』を使ったお陰で、大まかな敵の波動を覚えたから、もうすぐ着くはずよ」
リズはイスカの質問に、少し上の空といった感じで返答した。
先程から魔族の少なさに何か違和感を感じているのか、リズは直ぐに黙り込んでしまった。
「ハアッ、ハアッ」
ここまで一緒に走り続けてきたセラ様も、流石に体力が尽きてきたのか、息が上がってきていた。僕は片手でセラ様の手を握り狭い通路を走り続ける。
「──ん!」
先頭を走っていたフーシェが、『危険察知』に反応を感じたのか警戒感を一気に引き上げた。
そして、両手に持つ双剣『アースブレイカー』を握る手に力を込めた。
「そこね」
「私にも感じます」
リズとイスカも嫌な空気を感じたのか、緊張した面持ちで前方に見えてきた扉を見つめた。
「──メナフなら、扉を開けた瞬間にメーシェの『消失』を撃ち込んでくるかもしれないわ」
もう、リズは父親のことを「お父様」と呼ばなかった。
そして、何かの結論に達したのか覚悟を決めた顔で、壁を指差した。
「この壁を全部吹き飛ばして。フーシェは『消失』対策で『神喰らい』を展開」
「ん。了解」
「分かった、『風障壁』と『エアボム』を使うよ」
僕は壁に向けて『風障壁』を展開、そして同時に障壁の外側に圧縮した空気を球体状に閉じ込めた『エアボム』を複数設置した。最高位の魔法ではないが、砦の壁を吹き飛ばすには充分すぎる威力だろう。
「『エアボム』発動!」
狭い通路に大爆発が起きた。
魔力によって純粋に風魔法のみを閉じ込めた『エアボム』は、さながら熱産生を全く使わないダイナマイトといったところか。
爆風は壁を吹き飛ばし、視界が一気に開けた。
「──!」
砦の外に出たのか、暗い空と先程までは見えなかった三日月状の月が宙に浮かんでいた。
「──ふむ、やはりイズでは足止めに失敗したか」
ズンと腹に響く声が聞こえてきた。
この冷酷かつ、自分以外にまるで興味がないといった声。
「メナフ!」
僕の視界の先には、『エアボム』で吹き飛ばした壁の破片など、全く影響を受けていないといった様子のメナフが立っていた。
そしてその隣には──
「──!!」
「酷い!」
「メナフ!」
「何て非道な──」
仲間たちが怒りを露わにした。
僕も、メナフの隣にある物を確認すると怒りに震えた。
そこには、大きな透明な器に満たされた液体の中で、意識なく浮かんでいるメーシェの姿があった。
「メーシェ!助けに来た!!」
フーシェが感情を爆発させた。
しかし、その問いかけに器の中のメーシェが瞳を開くことはなかった。
「無駄だ劣化品よ。洗脳で操っていたレーベンより、全く別の方法で支配下においている」
メナフはそう言うと、興味がないといった風に『限定覚醒進化』を果たしたフーシェを見たが、直ぐに思い返すことがあったのか、少し眉をあげた。
「出来損ないと言えども、スペアくらいにはなりそうだな」
本当に、極自然なことといった調子でメナフはフーシェのことを、メーシェのスペア成りうると評価を下した。
これほどまで、人の生死を自分の利益の為に犠牲にすることを厭わないのか。
気付くと、僕は両手が白くなるほど握りしめていた。
そんな僕を制する様に、リズが一歩前へ出る。
「なんだ、リズか。最早お前は存在する意義は、そのスキルにしかない。私に尽くさぬのなら、価値はないと同義だ」
『限定進化』したリズの姿にまるで興味を示さないメナフは、親子の情愛を全く感じさせない声をあげた。
「──ッ」
リズが、一瞬だけ悲痛な表情を浮かべた。
僅かな期待、その感情が完全に断たれたことをリズは感じたのだろう。
「メナフ、単刀直入に言うわ。この島の転移──ドミナントの魔族の生命を使ったでしょ」
──!!
リズの驚愕に値する推論に、僕は恐怖を感じた。
しかし、メナフは表情を全く変えない。
そして、直ぐに抑揚のない声をあげた。
「そうだ」
その姿は、先日レーヴァテインでセラ様を見て興奮していた面影はなかった。そのことに僕は違和感を、いや嫌な気配を感じていた。
メーシェも魔力を消費する『神喰らい』を油断なく3つ浮遊させて対峙している。
何事にも興味を尽かした、いや。この場を制圧することなど造作もないといった、圧倒的な自信がメナフの落ち着きを形作っていた。
メナフの視線が動き、怯えるセラ様の視線と交差する。
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