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終わりの始まり

温度差

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子供を寝かせた菜美が無言で席についた。
さっきまで子供がいたリビングの空気とはまるで違う……

「何で約束の一ヶ月過ぎたのに今まで何も言うてこないの?」 と冷たく菜美が言う。

「え? 待ってたんだけど……」 と俺は明るめに答える。 

「離婚のことだけど子供の親権は私ね」
「養育費は二人で十万」
「あなたは近々この家から出て行ってください」と菜美が不機嫌そうに言った。

俺は焦った。 まさかいきなりここまで話されるとは思っていなかった……
俺は再度確認した。
「離婚原因はお互いの価値観が違うからだな?」

「そう」 菜美が言う。
「あなたはもういらない」
「いなくても困らないので一緒にいる意味無い」
と菜美が続けて話す。

「子供がいるんだぞ」
「父親がいなくなるんだぞ」 と俺は言う。

「いなくはならない」
「離婚してもあなたは間違いなくあの子たちの父親よ」 と菜美が答える。

「もし、菜美が一人で出て行くようになったらどうする?」 と俺は質問した。

「ありえない、そんなこと無理」 と菜美が言う。

「菜美はそれを俺にしろと言うてるんだよ?」
「俺だって子供と離れたくない」
「できるならこの家族でもう一度やり直したい」
「離婚はいつでもできる」
「お互い嫌なところあるだろうけどもう一度だけ頑張っていかないか?」 と俺は続けて話した。

「確かにこの一ヶ月間のあなたは良かった」
「なぜもっと早く変わってくれなかったの?」
「今更遅い、逆に腹立つ」 と菜美が寂しそうに話す。

「ごめんなさい」 素直に俺は謝った。

「とりあえず、あなたが今更どう動こうが私の気持ちは変わらない」 菜美は言う。

「じゃあ、離婚したくない俺とこれ以上話しても何もかわらない」 俺は言う。

「あなたは最後の最後まで邪魔するのね」 と菜美は呟き席を外した。

俺はこんな話になるとは思っていなかった。
何とか仲直りして終わったらコンビニに行き、アイスでも買ってきてあげようかなくらいにしか考えてなかった。

とりあえず離婚については拒否だ。 菜美から離婚理由を聞いても昔のことばかり言われるのが納得いかない。
今が良かったらそれで良くないか? これが男と女の差なのか?

納得できない俺は考えた。
何か菜美は隠していないか?
そもそも隠れて夜遊びしてたんだ。
「不倫か?」 そう思う人は多いだろう。
俺もそのなかの一人だ!
だが聞いても答えるわけない。
探偵か…… いや、お金に余裕がない。

とりあえず様子を見よう。
これは長い戦いになりそうだ……
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