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五章 異変
二
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次の日の朝も、やはり私は慌ただしく身支度を整えていた。まあ……、昨日よりは時間に余裕があったけど……。制服に着替えるとすぐにリビングに向かい椅子に腰かけ、テーブルに出されたご飯とハムエッグを近くにあったレタスサラダで丸め込み、急いでたいらげようとした。
「うっ、やばい……」
冷や汗を感じながら、近くにあったグラス入りの野菜ジュースを一気に飲み干した。
「ぷはあーっ! 危なかったー」
そんな私を見て父は「はははっ、慌てすぎだよー」笑いながらそう言った。
「もー、あなたったらー。百合絵、百合絵もう立派な女性なんだから、もう少し上品にふるまったらどうなの?」母は不機嫌そうに言った。
「はあーっ、これでも頑張って女子力上げたんだからねー! 学校ではもっとちゃんとしてるわよ!」
「ふうーん、そんなふうには見えないけど……、まあいいわ」
すぐに言い返され、母は台所へ行ってしまった。
まったく、いちいちうるさいんだから……。
そう思っていたけど、なぜか向かいの席の父は恥ずかしそうにしている。どうしたんだろう?
「百合絵……、もう少し……、足を閉じて座ってもいいんじゃないか……」
父の言葉で私は自分の足元を見て、はっとした。九月といえどもまだ夏のような暑さが続くこの日、私は夏服用の丈が短いスカートを履いていた。
もしかして……、見られてた⁉
頬が熱くなるのを感じながら私はそう思った。
気を取り直した私は、リビングにあるテレビを見た。何のニュースかはわからなかったが普段乗っている紺色の電車が写っていた。
ふと私は画面の左上の時刻に目が行った。
やばい! 琴乃に会えないどころか、遅刻しちゃう!
急いで目の前に残っていた朝食をかきこみ、「いってきまーす」そういって慌ただしく玄関へと向かった。
「いってらっしゃーい」母のその声を最後に、リビングの方からは、「……によりますと、十一月三十日の相互直通運転開始に向けて、今後も試運転を続けていくということです……」というテレビから流れるアナウンサーの声と父が食事をとる音だけが聞こえていた。
「えー、一八七二年、徳川幕府の十五代将軍慶喜は……」
先生がなんか話している。けどやばい……、今日もまたあちらの世界へ行ってしまいそうだ……。
どうもこの日も、調子は悪かった。夜遅くまで起きていたわけでもないのに、この先生の授業になると途端に眠くなってしまう。
……!
「あっ! 痛っ!」
私は何とか意識を取り戻した。今日もまた、琴乃のデコピンにより救われたのであった。
「はい、今日は三回」琴乃は私にそう言った。
「えっ……、そんなに……」
私は驚いた。全くそんなつもりじゃなかった。
「うーん、やっぱ百合絵、慢性的な寝不足なんじゃなーい」琴乃はぶっきらぼうにそういった。
「えー、ちゃんと毎日六時間寝てるけどー」
今日も居眠りをしてしまった。寝不足のはずがないのに、なぜか眠くなってしまうのだった。
「そうかー。でもなー、必要な睡眠時間ってかなり個人差があるらしいからなー」
「へえー、そうなんだー」
「百合絵なんてもしかして……、十二時間だったりして」
「えー、やだー! 私、そんなに寝ないといけないのー?」
「くっくっくっ、予想だよ予想。でも六時間じゃ全然足りないのは確実だねー」
琴乃は初めのうち、すぐ後ろの席の私が授業中にあまりにも寝てしまうものだから、そのたびにデコピンをしては起こし、不機嫌そうに注意を繰り返していた。しかしそんなことが続くにつれ、琴乃は私が眠りに落ちるのを観察するのが楽しくなったのか、私の授業中の居眠りをネタにするようになっていたのだった。
「うっ、やばい……」
冷や汗を感じながら、近くにあったグラス入りの野菜ジュースを一気に飲み干した。
「ぷはあーっ! 危なかったー」
そんな私を見て父は「はははっ、慌てすぎだよー」笑いながらそう言った。
「もー、あなたったらー。百合絵、百合絵もう立派な女性なんだから、もう少し上品にふるまったらどうなの?」母は不機嫌そうに言った。
「はあーっ、これでも頑張って女子力上げたんだからねー! 学校ではもっとちゃんとしてるわよ!」
「ふうーん、そんなふうには見えないけど……、まあいいわ」
すぐに言い返され、母は台所へ行ってしまった。
まったく、いちいちうるさいんだから……。
そう思っていたけど、なぜか向かいの席の父は恥ずかしそうにしている。どうしたんだろう?
「百合絵……、もう少し……、足を閉じて座ってもいいんじゃないか……」
父の言葉で私は自分の足元を見て、はっとした。九月といえどもまだ夏のような暑さが続くこの日、私は夏服用の丈が短いスカートを履いていた。
もしかして……、見られてた⁉
頬が熱くなるのを感じながら私はそう思った。
気を取り直した私は、リビングにあるテレビを見た。何のニュースかはわからなかったが普段乗っている紺色の電車が写っていた。
ふと私は画面の左上の時刻に目が行った。
やばい! 琴乃に会えないどころか、遅刻しちゃう!
急いで目の前に残っていた朝食をかきこみ、「いってきまーす」そういって慌ただしく玄関へと向かった。
「いってらっしゃーい」母のその声を最後に、リビングの方からは、「……によりますと、十一月三十日の相互直通運転開始に向けて、今後も試運転を続けていくということです……」というテレビから流れるアナウンサーの声と父が食事をとる音だけが聞こえていた。
「えー、一八七二年、徳川幕府の十五代将軍慶喜は……」
先生がなんか話している。けどやばい……、今日もまたあちらの世界へ行ってしまいそうだ……。
どうもこの日も、調子は悪かった。夜遅くまで起きていたわけでもないのに、この先生の授業になると途端に眠くなってしまう。
……!
「あっ! 痛っ!」
私は何とか意識を取り戻した。今日もまた、琴乃のデコピンにより救われたのであった。
「はい、今日は三回」琴乃は私にそう言った。
「えっ……、そんなに……」
私は驚いた。全くそんなつもりじゃなかった。
「うーん、やっぱ百合絵、慢性的な寝不足なんじゃなーい」琴乃はぶっきらぼうにそういった。
「えー、ちゃんと毎日六時間寝てるけどー」
今日も居眠りをしてしまった。寝不足のはずがないのに、なぜか眠くなってしまうのだった。
「そうかー。でもなー、必要な睡眠時間ってかなり個人差があるらしいからなー」
「へえー、そうなんだー」
「百合絵なんてもしかして……、十二時間だったりして」
「えー、やだー! 私、そんなに寝ないといけないのー?」
「くっくっくっ、予想だよ予想。でも六時間じゃ全然足りないのは確実だねー」
琴乃は初めのうち、すぐ後ろの席の私が授業中にあまりにも寝てしまうものだから、そのたびにデコピンをしては起こし、不機嫌そうに注意を繰り返していた。しかしそんなことが続くにつれ、琴乃は私が眠りに落ちるのを観察するのが楽しくなったのか、私の授業中の居眠りをネタにするようになっていたのだった。
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