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九章 胸騒ぎ

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 そんなことで文化祭の日々はあっという間に過ぎてしまった。一日目は自分のクラスのシフトもあり、その後も結局、舟渡と的場の後をつけてばかりいたためまともに楽しむことができなかった。そんなことに嫌気を刺した私は二日目、思いっきり楽しんだ。家庭科部のシフトを適当にこなし、昼からはずっと真妃たち家庭科部の友達と一緒に行動した。他クラスの縁日や脱出ゲーム、二年生のクラス主催の屋台や喫茶など、様々な出し物を巡っては遊びまわっていたのだった。そういえば琴乃はどこをまわっていたのだろうか。結局、琴乃と二日目に初めて会ったのは、文化祭が終わった後のクラスでのホームルームの時だったのだけど、その時に訊きそびれてしまった。


「はい、これ捨ててきて」
 この日、私は文化祭の片づけに追われていた。私たちの学校では文化祭は三日目の午前まで開催し、それが終わり午後になった瞬間、一斉に片づけ作業となる。私は大きな透明のビニール袋に入ったごみを捨てに行くところだった。袋の中身がちらっと見える。
 あっ、私たちが作った花……。
 袋の中で色紙やリボンなどと一緒にくしゃくしゃになった黄色や桃色の花飾りが目についた私は、しみじみと哀愁を感じてしまった。
「あー、疲れたー」ふと時計を見ると十四時三十七分。十三時ごろから片づけを始めていたのに、まだ一時間三十分ほどしか経っていなかった。もう三時間くらい片づけをした気分になっていた私は疲労感を感じながら落ち込んでいた。廊下に立ちぼうっと教室を眺めていると、慌ただしく動くクラスメイト達の中に琴乃の姿が見えた。琴乃は何一つ文句を言わずてきぱきと片づけをこなしている。しかも他の人に指示までしている。
「さすが優等生……。やっぱ違うなー」
 そう呟きながら、私はいやいや目の前の散らかった教室に入っていった。

 私はまた廊下を歩いていた。今度はごみ捨てではない。本来教室にあるべきはずの机や椅子を取りに向かっているのである。片づけもいよいよ終盤に近づいていた。
 やった、もうすぐ終わりだ。あー、でも重いからいやだなー。
 そんなことを考えていると、気づけば物置教室の前まで辿り着いていた。
「物置教室……、あっ!」
「あっ、西谷……」
 気が付くのと同時に彼の声がした。
 そうだ! 物置教室には舟渡がいるんだった!
 少々気を取り直した私は、無意識のうちにキョロキョロし、的場がいないことを確認すると、早速話しかけた。
「舟渡くん、この前は荷物ありがとう」
「あ……あー、西谷が仮装してたやつか、いいよ別に」
「仮装って……ちょっとー、そのことはあまり言わないでよ~」あんな醜態をさらしてしまった過去の自分を思い出し、私はまた体が火照ってくるのを感じた。
「それより、机と椅子取りに来たんだろ? うちら一Bのはここらへんだ」
 窓際の一角に二段積みで積まれている机の山を指さしながらそう言い残し、舟渡は大量の机と椅子が並ぶ荷物教室の中を、ところどころにできた狭い隙間をすり抜けながら教室の奥の方へ行ってしまった。
 あっ、これもしかしてチャンスかも!
 舟渡に私への思いを確かめる絶好のチャンスだとを確信した私は、再度辺りをキョロキョロ見回した。そして、他に人影が見えないのを確認するや否や、恥ずかしさと対峙しながら口を開いた。
「あっ、あの……、舟渡くん……。その……、私……」
「えっ……? あっ、なかなか似合ってたぞ、魔女の衣装」
「なっ⁉」
 ちっがーう! そんなことどーでもいーわ!
 コスプレが褒められて内心少しだけうれしかったけど、そんなことはどうでもよかった。私はあんたの自分への思いを知りたいのだ。
「……あのさ、舟渡く……」
「おーい、D組だけど机はどこだー?」再度舟渡へ訊こうとした途端、ほかの人が来てしまった。またとない舟渡が一人きりになる絶好のチャンスを、私は逃してしまった。
「あ……、ああー、今行く!」
 舟渡は入り口に見える人影の方へ向かっていった。去り際に、「ごめんな、また後で。気を付けて持ってけよー」そう言って舟渡は荷物教室の当番へと戻ってしまった。
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