きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ

文字の大きさ
15 / 45
第二章【青梅雨のアーチをくぐり抜け】

日柴喜家との出会い②

しおりを挟む
 その部屋にいた青年を見て真詞はそう口にした。

 彼は焦げ茶色の長い髪を無造作に結んで、日本人に一般的な黒い瞳をしている。シンプルな着流しを着て、布団から起き上がったばかりのような様子だ。

 状態がよくないのか、顔色は真っ白で頬もコケてる。よく見れば手首には筋が浮かんでいるし、点滴の管が繋がっていた。

 明らかに病床にある、弱々しい姿。でも、眉の形に目の形。鼻の長さに唇の厚さ。全てがまるで巡のものだった。

 他人の空似? いや、違う。違うとよく当たる勘が訴える。彼は巡だ。巡と同じものを持っている。

「輝一郎くん。どうしたの? 話があるって」
「ああ、久しぶりだな。体調はどうだ?」
「正直、よくないかな。ほら、とうとう繋がれちゃった」

 茫然自失とする真詞を置き去りにして、二人は話を始めた。輝一郎と目の前の青年は親しい仲のようだ。使用人に比べれば輝一郎の口調が砕けている。

「えっと……?」

 岬と呼ばれた青年が真詞を見る。

「俺のクラスメイトだ。お前にも紹介しておこうと思って」
「そうだったんだ。初めまして。日柴喜岬と言います。輝一郎くんをよろしくね」
「渡辺真詞クンだ。渡辺クン、岬は俺の従兄なんだ」
「え、は、初め、まして……?」

 岬と名乗った青年が不思議そうな顔をしている。好奇心と親切心。そして、少しの警戒心。――知らない相手を見る目だ。ドッドと心臓が大きな音を出し始めた。

「渡辺君だね。よろしく。……どうかした?」

 挙動不審な真詞を見て、流石に不審に思ったのだろう。岬が笑みの形を少し崩す。

「あ、いえ、いや、あの……どこかで、会ったこと、ありませんか……」
「ああ、俺も実はそう思ってたんだけど、どこだろう。覚えてる?」
「い、え……」

 そう返事をして力なく首を振る。と紹介された青年から目を離すことができない。

「そっか。それで?」
「渡辺クンが本題だ。彼はきっとお前の助けになる」
「それって……。彼が何か知ってるってこと?」
「それに関しては後で話す。ところで岬、昨日の睡眠時間は?」

 真詞は完全に置いてきぼりだったけど、そもそも会話が耳に入ってきていなかったので丁度良かったのかもしれない。

 しとしとしと。雨の音だけがやけにリアルだ。

「そう……。分かった。――昨日は十時十九分から今朝の六時十二分まで、だよ」

 そこまでで会話を終えると、二人はこちらに視線を寄越した。状況が掴めずぼんやりとしながら首を傾げる。岬が苦く笑った。

「寝すぎだろ?」
「え、と……。そう、ですね……?」
「俺はね、この睡眠時間がもう五年以上続いてるんだ」
「五年?」
「正確には段々と伸びていってるんだ。睡眠時間が。すごいでしょ」
「岬は反復性過眠症だと診断されている」

 口々に伝えられる情報に思考が完全に固まる。自分が一体何を聞かされているのか分からなかった。ただただ視線だけが忙しなく二人の間を行き来する。

「充分な睡眠時間を取っているのに、突然眠ってしまう病気だ。岬は毎日不可解なくらい熟睡する。努力では起きていることはできないし、何があっても絶対に起きない。そして、その時間は少しずつ長くなってきているんだ。原因不明の病だと、病院からも対処療法しかされていない。けど――」

 そこで一度言葉を切ると、輝一郎は聞いたことのある言葉を使った。

「渡部クン、俺は、岬がかなり厄介な相手の神稚児(みちご)に選ばれたせいで眠りについているんだと確信している」

 そう言うと何かの意思を持っている瞳で真詞を見る。いっそ睨みつけると言ってもいいくらいに強い視線だった。

「前置きが長くて悪かった。混乱させていると思う。けど、こちらも必死なんだ。なぁ、渡辺クン。君が会っているのは岬だろう? さっき君は岬を見て明らかに驚いた顔をしていた。君は岬を知っている。そうだな?」

 真詞は停止してしまっていた思考を必死で回転させた。

 正直なところ、輝一郎の話は半分も理解できていない。

 でも、できる限り全力を持って顔に力を込めた。

 脳裏に過る藤色の髪の男。やけに俗っぽい巡。何より、同一人物にしか見えない巡と岬。

 グッと口をつぐんで岬を見た。彼はどこか縋るような顔で真詞を見ていた。解決方法があるのなら知りたいと思っているのだろう。理解はできる。恐らく神稚児とやらになったことで長年苦労してきたのだ。

 しかし――。

 右手で左の肘の辺りをギュッと握りしめる。視界の隅に岬がこちらを見ているのが見える。バツが悪くなって反対側に視線を逸らした。

「何の話かもよく分かってないのに、一体なんなんだ」
「そうだな。ごめん。でも岬を助けたい。そのために協力して欲しいんだ」

 また口を閉じた。本当は巡に不利益になるかもしれないことは話したくない。けど、もしかしたら藤色の男への対処方法が見つかるかもしれない。

「――岬さん、に聞きたいことがある」
「分かった。外すよ」

 真詞が苦々しく言うと、輝一郎は気を悪くした様子もなくすんなりと部屋を出て行った。

 耳をそばだたせて彼の気配が遠のくのを確認してから岬に視線を戻した。彼はまるで面接をするかのような顔をしていた。
「え、と。岬、さんは今いくつ、ですか?」
「二十一だよ。神稚児は十六歳の誕生日に攫われる。高校はほとんど行けずに中退したんだ。大検取って、今は通信大学に通ってる。好きな食べ物は唐揚げ。嫌いな食べ物は茄子。最近は手作りの蒸し饅頭にハマってるかな。それから――」
「ま、待ってくれ。ストップ!」
「どうしたの?」
「一気に言われても……」
「ああ、そうだよね。ごめん。でも、起きている間のことも知りたいかなって。違いや共通点、それから、俺を助けたいと思うかどうか、とかかなって」

 岬が小さく口元を緩めて、確信を持った目で見つめてくる。

 真詞は、ああ、巡なんだな、と妙に実感した。優しいのに食えない所とか、鈍感なのに頭の回転が良い所、変に甘やかさない所。何より、全く同じ造りの顔で見覚えのある表情をされてしまっては、もう両手を上げるしかない。

 色の違う瞳が、どこか食えないものを宿して微笑む。

「どういうことなのか、教えて欲しい……」
「聞いてくれるの?」
「そうせざるを得ないようにしたくせに、よく言うな」
「そうだよね、ごめん。でも、ありがとう」
「別に……。メリットも、ありそうだから……」

 真詞がそこまで言うと、呼んでもいないのに輝一郎がやってきて状況のすり合わせが行われることになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

誰かの望んだ世界

日燈
BL
 【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。  学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。  彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。  過去との邂逅。胸に秘めた想い――。  二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。  五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。――たった一つの願い。  終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…? ――――  登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。  2024/11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

処理中です...