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第三章 運命なんて言葉じゃちょっと無理がある

二十六、イアンv.s.エドマンド

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 長めの戦闘描写があります。苦手な方は中盤を飛ばして読んでください。



「それは、どういう……?」
「ブライトル殿下は本当にエドを気に入っているのですね」
「俺がエドマンドと話していると、ブライトル殿下も一緒になることが多いしね」
「仲がいいのですね」
「そうなんだよ。学園でもよく一緒にいるんだ」

 そこまで言われるほど仲良く見えているのか?
 他に人がいると口調を崩すことができないから、結果的に二人きりになることが多いだけで……。

「そこまで仲がいいわけではないと思いますが……」

 二人が少し困った顔をして同時に首を傾げる。テンポが似ているんだよな、この二人。素直に可愛い。

「エドマンドはそう思っているの?」
「私はお似合いだと思っていますよ?」

 何で二人とも少し残念そうなんだ?

「ブライトル殿下はトーカシア国の第二王子でいらっしゃいますので、そう言っていただけるのは光栄です。それでは演習場に行きましょう」

 どうもさっきから風向きが悪い。
 僕はこの二人には弱いし、早々に話を切り上げた。


 演習場の周りには、師団長クラスの人やどこから聞きつけたのか沢山の兵士が集まってきていた。
 それだけイアンと僕の注目度が高い証拠だ。

「ごめん、エドマンド……。こんなに大事になるとは思わなくて……」
「構わない。慣れている」
「あはは。エドマンドらしいや。じゃあ、汎用機でいい?」
「ああ。お前も汎用機か?」
「うん、俺も」
「イアン! 使用許可を出す!」
「え! 師団長?」

 横から割り込んだのは第三師団長だった。横で副長らしき人が焦った顔をして取りなしている。

「いいでしょう! フルーリア王女殿下ぁ!」

 その声で全員が王女を見る。パチパチと大きな瞳が瞬きを繰り返して、花のように微笑んだ。

「承知しました。私の名の下に、グロリアスの使用を許可します」

 その場が一気にざわめいた。
 イアンがグロリアスを使用できることを知っているのは師団長クラス以上だ。観衆のほとんどがどういうことなのか分からないだろう。あちらこちらから「グロリアス?」とか「グロリアスってあの?」と疑うような声が聞こえる。

 イアンが王女の元へ行く。

「いいんですか? フルーリア王女」
「構いません。そろそろ発表する時期でしたから。あの、その――」
「なんですか?」
「か、勝ってください……! 応援していますっ!」
「はい、勝ちます! ありがとう!」


 イアンは王女からグロリアスを受け取ると、演習場に戻ってきて祈るように両手で持つ。

 一方の僕はというと、混乱している。原作にこんな話はなかったからだ。
 この時点でエドマンドは、イアンがグロリアスを使用できるという情報を得ている。でも、実際にグロリアスを装備した彼と対峙するのはもう少し先だったはず。しかもそれは、内々のお遊びみたいなものだった。そのとき初めてエドマンドはイアンに負けるんだ。

 ジッとイアンを見つめた。ここまで大事になったら、今さら止めることはできない。
 戦争が始まっている以上、このイベントが起こったところでニュドニアの勝利が大きく揺らぐことは少ないんだろう。と思うしかない。

「エドマンド、今日こそ勝つから」

 イアンが宣言する。いい顔をしている。これが漫画なら『次回、イアンはライバルに勝てるのか……!』みたいな見出しが付いていたな。
 非公式とは言え、グロリアスを試合に使うのは初めてのことだ。
 ――ブライトルも見たかっただろうな。彼がいないことが残念なような、愉快なような気持ちだ。

「どうぞ」
「ああ」

 先ほどの副長らしき人から汎用機のモクトスタを借り受けて、何で僕はあの人のことを考えているんだろうと我に返った。
 振り切るように顎を反らした。

「僕に勝つ、か……。グロリアスを扱えていればまだ可能性はあるかもな」

 我ながら風格のあるセリフを言った。本当に生意気だ。イアンが押し負けている。

「勝つ! フルーリア王女とも約束したんだ!」
「僕も負けるわけにはいかないな」
「審判は私が預かろう。両者、モクトスタの装備を」

 第三師団長が演習場に進み出る。

「オープン」
「起きろ! ブレイブ!」

 ブレイブ。イアンがグロリアスの一番に付けた名前だ。名実共に全てがイアンの物になっている証拠だ。
 仮に彼が使えなくなっても、グロリアスとの相性が合う相手が現れるまではこの名前になる。

 ブレイブはスピード特化型のモクトスタだ。武器は鍵爪。腕と足元に偏った装甲をしていて、胴体は比較的攻撃が通りやすい。簡易飛行が可能で、弾数に限りはあるものの中距離砲撃もできる。珍しい真っ赤なモカトの粒子がキラキラと煌めいている。

 対してこっちは一般的な装備の汎用機だ。全体的に防御力はあるけど、スピード、攻撃力共に劣るし、ましてや飛行機能なんて付いていない。
 この時点で彼がどの程度使いこなしているかは分からないけど、あっちがチート仕様なら、こっちには情報チートがある。

「二人とも準備はいいな? 勝利条件は俺が止めるか、どちらかが降参するまでだ。それじゃあ、始めろ!」

 その言葉と同時にイアンが特攻をかけてきた。反応した頃にはすでに目の前だ。長い鍵爪が胴体の辺りを狙って横に薙ぐ。
 後ろに飛んで避けると、全身の筋肉を使って前に出る。すぐに汎用機に備わっている三つの武器の内、槍を出して低い軌道で前に突き出した。
 体勢を崩していた所へ飛び出してきた槍を、利き足に力を入れて回転するかのように回避するイアン。

 その動きは予測していた!

 僕は槍を大型のナイフに変えて前へ出る。
 イアンの左手の鍵爪が回転の速度を乗せて顔面目掛けて襲い掛かる。
 左腕で頭をガードしつつ、イアンの首元にナイフを突きつけた。

 ガキィンッ……!

 防具と鍵爪がぶつかった音がする。
 ナイフはイアンの右手に防がれていた。
 同時に後ろに飛び離れる。

 ここまで飛行機能も中距離砲も使っていない。
 使えないのか、温存しているのか。だったら――。

「ブースト、トリプル」

 僕は大量にモカトを放出し、一時的にさらに運動機能を高めることができる技を使用する。
 イアンの目が驚愕に見開かれる。
 あからさまに驚いているな? 
 ブーストのトリプルは、その負荷からインディゴランクの僕じゃあ、まだ使用できないはずの技だ。
 実は、僕はもうブルーを飛び級してグリーンに昇格する話が出ている。
 まだお前には話していなかったな? イアン。

 僕はブレイブに負けないほどのスピードで近づくと、剣を出してイアンの左肩から斜めに振り下ろす。
 イアンは両腕を交差して剣を受け止めた。

 瞬間、剣を消してナイフに切り替える。この汎用性の高さがこちらの強みだ。その体勢のまま、思い切り下から上へナイフを切り上げようとした、その時――!

 ダン!
 ダン、ダン!

 腹と足に衝撃が走った。その場に崩れ落ちる。
 中距離砲を打ってきた!

 負ける……!

 そう思って、頭を両手でガードした。
 けど、いつまで経っても攻撃が来ない。ゆっくりと腕を下ろすと、苦しそうな顔をしたイアンが装備を解いて片膝を付いていた。

「お前……」
「そこまで! 勝者エドマンド・フィッツパトリック!」

 モクトスタの解除。やっぱりまだ完全には装備できていなかったらしい。ブレイブが解除されてしまったのだ。

「おい、イアン?」

 装備を解いて近づこうとすると、第三師団長が間に割り込んできた。

「ちょっと無茶しすぎだな。こいつは少し休ませる。エドマンド様、あんたも早めに帰ってくれ」

 グロリアスを間近で見られたくなかったのかもしれない。仕方なく引く。
 周囲からは期待と羨望と好奇の入り混じった視線が降ってきた。なるほど、早めに帰れと言うのはこういうことかと納得した。
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