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【第二部】二章 そうそう平穏ではいられない
十二、トーカシア国へ①
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楽しかった夏はあっという間に終わりを迎えてしまった。八月の下旬。僕はブライトル、イアン、そして同じく留学することが決まったフルーリア王女と共にトーカシア国へ向かった。
道程が決して短くはないため、かなり大がかりな人数で移動し始めて、すでに四日が経っていた。これが行軍ならトーカシア国の関所を通過していてもいい頃合いだ。それでもまだやっと七割程度の進行速度なのは、あくまで要人の移動だという面が大きいだろう。それに僕等とモクトスタ適正すらないフルーリア王女では状況が違う。
湖に行ったときとは真逆で、全員とそれぞれの侍女や侍従とで大型の馬車に乗り込み移動する。その周辺はがっちりと護衛兵で囲まれているけれど、当初から、もしモクトスタで襲撃されたら僕等も動けるよう準備していた。そして、その瞬間が今だった。
「――イアン」
「うん」
「出られないのが歯がゆいよ」
「ブライトル殿下はフルーリア王女をお願いしますね」
「ああ、分かっている」
淡々とした会話の直後、車輪が沈んだのか、浮遊感がして、着地と共に馬車が左側へ傾き倒れていく。
「きゃぁっ……!」
響く悲鳴ごと包むように、全員で女性陣を庇った。王女とその侍女が抱き合い、ブライトルが二人を抱え込むと、イアンが二人の下敷きに、僕が正面の盾となる。体を突っ張って馬車が地面にぶつかる衝撃をやり過ごすと、木が折れる音、何かが割れる音や恐らく荷物が散乱する音などが辺りの喧騒に混ざる。同時に僕とイアンは頭上にある扉を蹴り開けて外へ出た。
急停車した馬車に続いていた荷馬車や騎馬が隊列を崩す。チラッと見えた僕等の乗っていた馬車の足元には大きな穴が開いていた。小型のモカト弾を使用したようだ。
――僕の最後の知識として、移動中に襲われるだろうことは分かっていた。
そもそも予兆があった。この四日間、僕を含めた高ランクのマスター全員が妙な視線を感じていたからだ。さらに宿泊のために街や村に着いても、少なからず妙によそよそしい人がいた。品定めするかのような視線を感じることもあったし、念のため、と気を付けていたら案の定だった。最初に感づいたのは護衛兵を率いてくれていた部隊長だった。
「恐らく、狙うとしたら――」
冷静にこれから通る道筋を吟味した部隊長の指示と予想に従って、今がある。
「久しぶりじゃないっ?」
「喜んでいる場合か?」
「だって楽しいんだ! ――起きろ! ブレイブ!」
その体に真っ赤な粒子を纏いながら、イアンが飛び掛かって来る賊の突き出した槍を掴み引っ張ると、賊の腹に蹴りを入れた。視界の端にその様子をおさめながら僕は首元にネックレスとして付けていたモクトスタに触れた。まさか最初から実戦で見せることになるとは思っていなかった。
「来い! リバティ……!」
僕の声に反応して、モカト特有の青白い粒子が立ち昇る。新しいモクトスタ。僕が、僕であるための、生きるためのモクトスタ。
名前はすぐに決まった。『リバティ』勝ち取った自由、独立と言う意味だ。
目の端に最初に映るのは、くるくると体の周りを回る三つの小さな球体だ。急所を守る比較的に厚い装甲に、武器は変わらずショートソードの二刀流にした。
飛んできたモカトガンの弾を顔を逸らして避ける。馬車の上からザッと戦況を確認して地上へ降りながらすぐに二人の鳩尾に拳を入れる。乗っていた馬車の周りは、数人の護衛兵と部隊長にイアンと僕だけで守っている状況だ。完全に分断されていることからもやはり計画性を感じる。人数はかなりいるけれど、見える範囲にモクトスタを装備している賊はいないようだ。
モクトスタには唯一と言ってもいい難点がある。
モカト粒子だ。昼でも輝きに目を引かれるほど発光する粒子によって、隠密行動には向いていない。兵器である以上長年研究されているらしいけれど、今も制御する方法が確立されていないそうだ。
「うぉぉぉっ!」
雄叫びと共にサーベルを持った三人に囲まれる。その背後にはモカトガンを構える男の姿も見えた。刃が届く前に頭上へ抜け出して、振り返りながら背後に隠れていた男に向かって球体を一つ飛ばすと、目視では追うのは難しいだろう速さで、それなりに鍛えられていたらしい鳩尾に見事にめり込んだ。
おおよそピンポン玉くらいのこれは、僕の意思で動かせる純粋なモカト制の鈍器だ。『ライト』の技術を基に、ニュドニアの優秀な技師たちが創ってくれた。今はまだ距離も威力もそこまでのものではないので、もう少し扱いに慣れたら細かな刃を付けるなどのアップデートをしてもいいかもしれないと思っている。
見事に意識を刈り取られた男を横目で確認しつつ、振り下ろしたサーベルに逆に振り回されることとなった三人をそれぞれ昏倒させる。
ショートソードを使うまでもなく、球体……いずれ名前を考えるべきかもしれない、と純粋なモカトの威力のみで賊のほとんどを倒していくと。見える範囲には立っている者も、こちらを狙っている者もいなくなった。ふう、と一息付くと同時に、離れたところで交戦していたイアンから通信が入る。
『エドマンド! そっち行った!』
「分かった!」
サーチに引っ掛かったのは男女の二人。こちらもモカトガンを所持していて、木々で球体を避けながら撃って来た。僕も弾を避けながら隙を見て一瞬で距離を詰める。「ヒィッ!」と女から悲鳴が上がった。男の方を気絶させると、女のすぐ側の木を拳でへし折る。ギィィと軋んだ音を立てて、真横を落ちていく細くはない木に目を見開くと、尻もちを付いて失禁した。完全に戦意喪失したようだった。
「前方、まだ数人残っているようだけど問題なさそうだ。イアン、後続はどうなっている?」
『交戦終了したみたい。馬車付近は部隊長が守ってくれていたから賊は一人も近寄ってない!』
「よし、なら捕縛して、……っ」
『エドマンドッ!』
「っ、くっ……!」
イアンの呼びかけに答える余裕はなかった。突如目の端に映ったモカト粒子と、首元を狙って突き出されたロングソード。――全く気付かなかった。
僕は咄嗟に首を逸らしながら飛び退った。想定される相手の射程距離よりもさらに遠くでショートソードをクロスさせて構える。
目の前には、仮面をつけて顔を隠し、黒いモクトスタを装備した男が立っていた。
道程が決して短くはないため、かなり大がかりな人数で移動し始めて、すでに四日が経っていた。これが行軍ならトーカシア国の関所を通過していてもいい頃合いだ。それでもまだやっと七割程度の進行速度なのは、あくまで要人の移動だという面が大きいだろう。それに僕等とモクトスタ適正すらないフルーリア王女では状況が違う。
湖に行ったときとは真逆で、全員とそれぞれの侍女や侍従とで大型の馬車に乗り込み移動する。その周辺はがっちりと護衛兵で囲まれているけれど、当初から、もしモクトスタで襲撃されたら僕等も動けるよう準備していた。そして、その瞬間が今だった。
「――イアン」
「うん」
「出られないのが歯がゆいよ」
「ブライトル殿下はフルーリア王女をお願いしますね」
「ああ、分かっている」
淡々とした会話の直後、車輪が沈んだのか、浮遊感がして、着地と共に馬車が左側へ傾き倒れていく。
「きゃぁっ……!」
響く悲鳴ごと包むように、全員で女性陣を庇った。王女とその侍女が抱き合い、ブライトルが二人を抱え込むと、イアンが二人の下敷きに、僕が正面の盾となる。体を突っ張って馬車が地面にぶつかる衝撃をやり過ごすと、木が折れる音、何かが割れる音や恐らく荷物が散乱する音などが辺りの喧騒に混ざる。同時に僕とイアンは頭上にある扉を蹴り開けて外へ出た。
急停車した馬車に続いていた荷馬車や騎馬が隊列を崩す。チラッと見えた僕等の乗っていた馬車の足元には大きな穴が開いていた。小型のモカト弾を使用したようだ。
――僕の最後の知識として、移動中に襲われるだろうことは分かっていた。
そもそも予兆があった。この四日間、僕を含めた高ランクのマスター全員が妙な視線を感じていたからだ。さらに宿泊のために街や村に着いても、少なからず妙によそよそしい人がいた。品定めするかのような視線を感じることもあったし、念のため、と気を付けていたら案の定だった。最初に感づいたのは護衛兵を率いてくれていた部隊長だった。
「恐らく、狙うとしたら――」
冷静にこれから通る道筋を吟味した部隊長の指示と予想に従って、今がある。
「久しぶりじゃないっ?」
「喜んでいる場合か?」
「だって楽しいんだ! ――起きろ! ブレイブ!」
その体に真っ赤な粒子を纏いながら、イアンが飛び掛かって来る賊の突き出した槍を掴み引っ張ると、賊の腹に蹴りを入れた。視界の端にその様子をおさめながら僕は首元にネックレスとして付けていたモクトスタに触れた。まさか最初から実戦で見せることになるとは思っていなかった。
「来い! リバティ……!」
僕の声に反応して、モカト特有の青白い粒子が立ち昇る。新しいモクトスタ。僕が、僕であるための、生きるためのモクトスタ。
名前はすぐに決まった。『リバティ』勝ち取った自由、独立と言う意味だ。
目の端に最初に映るのは、くるくると体の周りを回る三つの小さな球体だ。急所を守る比較的に厚い装甲に、武器は変わらずショートソードの二刀流にした。
飛んできたモカトガンの弾を顔を逸らして避ける。馬車の上からザッと戦況を確認して地上へ降りながらすぐに二人の鳩尾に拳を入れる。乗っていた馬車の周りは、数人の護衛兵と部隊長にイアンと僕だけで守っている状況だ。完全に分断されていることからもやはり計画性を感じる。人数はかなりいるけれど、見える範囲にモクトスタを装備している賊はいないようだ。
モクトスタには唯一と言ってもいい難点がある。
モカト粒子だ。昼でも輝きに目を引かれるほど発光する粒子によって、隠密行動には向いていない。兵器である以上長年研究されているらしいけれど、今も制御する方法が確立されていないそうだ。
「うぉぉぉっ!」
雄叫びと共にサーベルを持った三人に囲まれる。その背後にはモカトガンを構える男の姿も見えた。刃が届く前に頭上へ抜け出して、振り返りながら背後に隠れていた男に向かって球体を一つ飛ばすと、目視では追うのは難しいだろう速さで、それなりに鍛えられていたらしい鳩尾に見事にめり込んだ。
おおよそピンポン玉くらいのこれは、僕の意思で動かせる純粋なモカト制の鈍器だ。『ライト』の技術を基に、ニュドニアの優秀な技師たちが創ってくれた。今はまだ距離も威力もそこまでのものではないので、もう少し扱いに慣れたら細かな刃を付けるなどのアップデートをしてもいいかもしれないと思っている。
見事に意識を刈り取られた男を横目で確認しつつ、振り下ろしたサーベルに逆に振り回されることとなった三人をそれぞれ昏倒させる。
ショートソードを使うまでもなく、球体……いずれ名前を考えるべきかもしれない、と純粋なモカトの威力のみで賊のほとんどを倒していくと。見える範囲には立っている者も、こちらを狙っている者もいなくなった。ふう、と一息付くと同時に、離れたところで交戦していたイアンから通信が入る。
『エドマンド! そっち行った!』
「分かった!」
サーチに引っ掛かったのは男女の二人。こちらもモカトガンを所持していて、木々で球体を避けながら撃って来た。僕も弾を避けながら隙を見て一瞬で距離を詰める。「ヒィッ!」と女から悲鳴が上がった。男の方を気絶させると、女のすぐ側の木を拳でへし折る。ギィィと軋んだ音を立てて、真横を落ちていく細くはない木に目を見開くと、尻もちを付いて失禁した。完全に戦意喪失したようだった。
「前方、まだ数人残っているようだけど問題なさそうだ。イアン、後続はどうなっている?」
『交戦終了したみたい。馬車付近は部隊長が守ってくれていたから賊は一人も近寄ってない!』
「よし、なら捕縛して、……っ」
『エドマンドッ!』
「っ、くっ……!」
イアンの呼びかけに答える余裕はなかった。突如目の端に映ったモカト粒子と、首元を狙って突き出されたロングソード。――全く気付かなかった。
僕は咄嗟に首を逸らしながら飛び退った。想定される相手の射程距離よりもさらに遠くでショートソードをクロスさせて構える。
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