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【第二部】二章 そうそう平穏ではいられない
十四、新天地と初顔合わせ
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その後は特に何もなく、予定より二日日程を過ぎてから、僕等は無事にトーカシア国王陛下及び、皇太子殿下や王族の方々へ謁見することができた。国王陛下はアッシュゴールドの長い髪に見事なトーカシアブルーの瞳を持った方だった。ずいぶん昔だけれど、お爺様がこの方との会談で後れを取ったことがあると聞いたこともある。さすがはブライトルの御父上と言ったところだろうか。
ご兄弟四人の内、ウィンストン王太子殿下とブライトルは王妃様に。下のお二方は国王様のお顔立ちに似ていた。髪は全員王妃様似の見事なシルバーだ。そのせいか、トーカシアブルーを受け継いだウィンストン殿下とブライトルはそっくりだった。
盛大なパーティーが開かれたのは、トーカシアの王城に滞在して三日目の夜のことだった。
ニュドニア製の照明器具には恐らく一番明度の高い蓄電式ライトが使用されている。天井付近には、四方全てに独特の曲線を描く植物が彫られていて、伝承に残る女神が着けていたと言われる髪飾りと同じ黄金色で彩られている。
トーカシア国だけではなく、主要な交易国からも招待客が訪れているから、会場には様々な特色の礼服を着た人々で溢れている。
まるで体に布を巻き付けて腰紐で結んだだけのように見える女性の服は、実はその国の特産である偏光生地のドレスだ。角度によっては際どい部分が見えそうなのに、不必要な色気を出さないように綿密な計算をされているそうだ。
かと思えば、目と両腕以外の全てを隠した男性もいる。頭にはカラフルな羽飾りの付いた大きな帽子をかぶっていて、スラッと高い身長にフィットした服は真っ白だ。他人に感情を出すのをよしとしない文化なのだそうだ。
まずはブライトルがゆっくりと入場する。トーカシア国王の前まで到着すると、フルーリア王女が入場し、二歩遅れてイアン、その斜め後ろに僕が続いた。紹介されるままトーカシア式の礼を取り、ファンファーレと共にパーティーが始まった。まるで王族かのように一列に並ぶと、順番に招待客と挨拶を交わし、その後はそれぞれ会場へ出た。まだ十四歳のフルーリア王女や、こういった場に不慣れなイアンにはニュドニアから来てもらった優秀な人が側近だ。僕はブライトルの婚約者候補として彼と二人で動くことになっている。
やはりトイメトアの決戦についての話が多かったけれど、僕個人への質問もかなりの量だった。鳴り物入りでやってきた庶民が、第二王子の婚約者候補で果ては婚姻の約束をしている状態だ。面白くない者、取り入ろうとする者など、思惑なんて数えられないだろう。
「こんにちは、エドマンド様。私ともお話をお願いしてよろしいでしょうか?」
「もちろんです、レディ。貴方はトンプセン家の……?」
「覚えてくださって光栄です。ええ、トンプセン家当主、シルヴィアです。ブライトル殿下とは幼少の頃より親交を持たせていただいております」
「殿下から伺っております。とても優秀な方だと。こちらこそ、お会いできて光栄です」
僕は社交用の笑みを浮かべた。残念ながら、こういった笑みを浮かべることはできる。以前のエドマンドでは難しかったのだけれど、いつか必要になると思って練習していた。多少引き攣っているのは、まあ、ご愛嬌ってやつだろう。
それにしても、トンプセン家。僕はチラっとブライトルに意識を向ける。彼は他の招待客と話し込んでいるようだから、お面を一枚多く被ることにした。これは、絶対にボロを出すことはできない。
シルヴィア様は四十代だと聞いていたけれど、とてもそうは見えない。精々三十代前半と言ったところだ。焦げ茶色の長い髪に青みのあるシルバーの瞳、顔つきも大人しいのに、視線の流れと立ち居振る舞いで人の目を集めている。体も鍛えているようだし、アンチエイジングにも余念がないようだ。この人は『分かっている』側だ。自分がどんな動きをするかで、相手がどんな印象を持つのか、を分かっている。
「ありがとうございます。ぜひエドマンド様とお話をする機会をいただきたいと思っておりました。でもまずは、お怪我がなくて安心いたしました。襲撃の一報を受けた際は、血の気が引きました」
「ご心配をおかけいたしました。少し手こずりましたが、こうして怪我無くトーカシア国へ来ることができました」
女性らしい仕草なのに、油断できない何かを感じる。なのに、強さを押し出すわけでもない。食えないタイプというのがこういう人なのだろう。
「そんな……! エドマンド様はグリーンランクのマスターだと聞き及んでおります。手強い賊でもいましたか?」
「ええ、まあ。いずれ正式に開示されるかと」
「そうでしたか。では、できるだけ心穏やかに待つとします。……オレンジジュースがお好きなのですか?」
シルヴィア様が僕の手元のグラスへそっと視線を落とす。未成年の僕に酒が配られることはない。このような場でそれ以外に飲めるものは限られている。基本的には果物水かジュースか、冷たいお茶で、その種類も少ないものだ。
「ご存じの通り、ニュドニアは農作物には向かない土壌をしていますから。新鮮な果実はやはり興味を引かれますね」
「そうなのですね。では、ぜひ我が家へいらしてください。珍しい果物がたくさんありますから、ゆっくりニュドニア国のお話もお聞きしたいですし」
「魅力的なお誘いありがとうございます。まだ学生の身ですから、後日改めてお返事いたしますね」
「勿論です。いいお返事を期待しております。それでは、今日はこの辺で」
「ええ、楽しい時間をありがとうございました」
時間にしてほんの数分なのに、シルヴィア様が去った途端にドッと疲れを感じた。真意が読めないというのはこんなに大変なのか。お爺様に一矢報いることができたのは、相手の詳しい情報があったから以上のものはないようだ。
前世の僕は記憶力と演技力にちょっと自信がある程度の普通の人間だったし、今の僕はまだ若い。今日の所は、決定打を打たせずに躱せただけでも及第点だと思いたい。
まずはブライトルに相談して今後の身の振り方を決めていく必要がある。ある程度の予想はしていたけれど、僕を利用したい人や排除したい人が履いて捨てるほどいる社会なのだ。貿易国家の厳しさを身を持って知った気がする。
手元のオレンジジュースに目を落とす。グラスの半分以上を減らしたそれは、ドロッとしていて、果実の甘味が強くて、どうしようもなく美味しかった。
ご兄弟四人の内、ウィンストン王太子殿下とブライトルは王妃様に。下のお二方は国王様のお顔立ちに似ていた。髪は全員王妃様似の見事なシルバーだ。そのせいか、トーカシアブルーを受け継いだウィンストン殿下とブライトルはそっくりだった。
盛大なパーティーが開かれたのは、トーカシアの王城に滞在して三日目の夜のことだった。
ニュドニア製の照明器具には恐らく一番明度の高い蓄電式ライトが使用されている。天井付近には、四方全てに独特の曲線を描く植物が彫られていて、伝承に残る女神が着けていたと言われる髪飾りと同じ黄金色で彩られている。
トーカシア国だけではなく、主要な交易国からも招待客が訪れているから、会場には様々な特色の礼服を着た人々で溢れている。
まるで体に布を巻き付けて腰紐で結んだだけのように見える女性の服は、実はその国の特産である偏光生地のドレスだ。角度によっては際どい部分が見えそうなのに、不必要な色気を出さないように綿密な計算をされているそうだ。
かと思えば、目と両腕以外の全てを隠した男性もいる。頭にはカラフルな羽飾りの付いた大きな帽子をかぶっていて、スラッと高い身長にフィットした服は真っ白だ。他人に感情を出すのをよしとしない文化なのだそうだ。
まずはブライトルがゆっくりと入場する。トーカシア国王の前まで到着すると、フルーリア王女が入場し、二歩遅れてイアン、その斜め後ろに僕が続いた。紹介されるままトーカシア式の礼を取り、ファンファーレと共にパーティーが始まった。まるで王族かのように一列に並ぶと、順番に招待客と挨拶を交わし、その後はそれぞれ会場へ出た。まだ十四歳のフルーリア王女や、こういった場に不慣れなイアンにはニュドニアから来てもらった優秀な人が側近だ。僕はブライトルの婚約者候補として彼と二人で動くことになっている。
やはりトイメトアの決戦についての話が多かったけれど、僕個人への質問もかなりの量だった。鳴り物入りでやってきた庶民が、第二王子の婚約者候補で果ては婚姻の約束をしている状態だ。面白くない者、取り入ろうとする者など、思惑なんて数えられないだろう。
「こんにちは、エドマンド様。私ともお話をお願いしてよろしいでしょうか?」
「もちろんです、レディ。貴方はトンプセン家の……?」
「覚えてくださって光栄です。ええ、トンプセン家当主、シルヴィアです。ブライトル殿下とは幼少の頃より親交を持たせていただいております」
「殿下から伺っております。とても優秀な方だと。こちらこそ、お会いできて光栄です」
僕は社交用の笑みを浮かべた。残念ながら、こういった笑みを浮かべることはできる。以前のエドマンドでは難しかったのだけれど、いつか必要になると思って練習していた。多少引き攣っているのは、まあ、ご愛嬌ってやつだろう。
それにしても、トンプセン家。僕はチラっとブライトルに意識を向ける。彼は他の招待客と話し込んでいるようだから、お面を一枚多く被ることにした。これは、絶対にボロを出すことはできない。
シルヴィア様は四十代だと聞いていたけれど、とてもそうは見えない。精々三十代前半と言ったところだ。焦げ茶色の長い髪に青みのあるシルバーの瞳、顔つきも大人しいのに、視線の流れと立ち居振る舞いで人の目を集めている。体も鍛えているようだし、アンチエイジングにも余念がないようだ。この人は『分かっている』側だ。自分がどんな動きをするかで、相手がどんな印象を持つのか、を分かっている。
「ありがとうございます。ぜひエドマンド様とお話をする機会をいただきたいと思っておりました。でもまずは、お怪我がなくて安心いたしました。襲撃の一報を受けた際は、血の気が引きました」
「ご心配をおかけいたしました。少し手こずりましたが、こうして怪我無くトーカシア国へ来ることができました」
女性らしい仕草なのに、油断できない何かを感じる。なのに、強さを押し出すわけでもない。食えないタイプというのがこういう人なのだろう。
「そんな……! エドマンド様はグリーンランクのマスターだと聞き及んでおります。手強い賊でもいましたか?」
「ええ、まあ。いずれ正式に開示されるかと」
「そうでしたか。では、できるだけ心穏やかに待つとします。……オレンジジュースがお好きなのですか?」
シルヴィア様が僕の手元のグラスへそっと視線を落とす。未成年の僕に酒が配られることはない。このような場でそれ以外に飲めるものは限られている。基本的には果物水かジュースか、冷たいお茶で、その種類も少ないものだ。
「ご存じの通り、ニュドニアは農作物には向かない土壌をしていますから。新鮮な果実はやはり興味を引かれますね」
「そうなのですね。では、ぜひ我が家へいらしてください。珍しい果物がたくさんありますから、ゆっくりニュドニア国のお話もお聞きしたいですし」
「魅力的なお誘いありがとうございます。まだ学生の身ですから、後日改めてお返事いたしますね」
「勿論です。いいお返事を期待しております。それでは、今日はこの辺で」
「ええ、楽しい時間をありがとうございました」
時間にしてほんの数分なのに、シルヴィア様が去った途端にドッと疲れを感じた。真意が読めないというのはこんなに大変なのか。お爺様に一矢報いることができたのは、相手の詳しい情報があったから以上のものはないようだ。
前世の僕は記憶力と演技力にちょっと自信がある程度の普通の人間だったし、今の僕はまだ若い。今日の所は、決定打を打たせずに躱せただけでも及第点だと思いたい。
まずはブライトルに相談して今後の身の振り方を決めていく必要がある。ある程度の予想はしていたけれど、僕を利用したい人や排除したい人が履いて捨てるほどいる社会なのだ。貿易国家の厳しさを身を持って知った気がする。
手元のオレンジジュースに目を落とす。グラスの半分以上を減らしたそれは、ドロッとしていて、果実の甘味が強くて、どうしようもなく美味しかった。
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