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21、赤衣
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ゼスティの話を聞いた三人は驚いた。
百年前に存在した幻のアーク帝国。
その時代からの生き残りが目の前にいたのだ。
レゼンが「ありえない! だとしたらなぜ、こんな若々しいのですか!」と立ち上がった。
「分からないけど、心当たりがあるとしたら天使に会ったからかな?」
ゼスティはそう答える。
ゼスティ自身、なぜ自分が老いないのか分からない。
ただ、考えられる理由はあの日、アーク帝国が滅亡した時、天使に出会い、あの全てを滅した光に呑み込まれてなお生き残れたからだろうか?
レゼンはその回答に納得できない。
なぜならゼスティは光聖教徒では無いからだ。
信徒では無い者に神が力を授けるなど信じられない。
もしもゼスティの話が本当だとしたら、何のために自分は信仰を捧げているのだ。
そんなレゼンをゼスティがなだめる。
「まぁまぁ。本当に天使が原因で不老になったのかは実際のところ分からないんだ。そう興奮しなさんなって」
レゼンは納得した訳じゃなかったが「大人げなかったです」とメガネの位置を直しながら座った。
「ところで、昔も暗黒の地に来た事があるなら、どこかで補給できそうな所を知ってるか?」
バルンが聞く。
ゼスティは太陽の位置を確認しながら「確か、あっちに村があったはずだ」と南東の方角を指さした。
とはいえ正確に場所を把握してる訳じゃない。
歩いた距離と太陽の位置から直感で導き出しただけだ。
「ま、お爺ちゃんの年の功を信じましょか」とイーナが焚き火を消した。
「おいおい。お爺ちゃんって……。まあお爺ちゃんか」とゼスティは苦笑するのだった。
そうして四人は南東の方へ歩く。
そこには魔人の村があるはずだ。
かつて魔王の娘ジュールカレアはその村から王城へ戻る途中で魔物に襲われていた。
ゼスティは村に行ったことは無いが、ジュールカレアの話では魔人の集落があるはずだ。
そこで、何らかの補給が……まあ、受け取れないだろう。とゼスティは思った。
「もしも補給を断られたら略奪するしか無いかのう」
バルンが髭を撫でる。
「まあ、相手は魔人ですからね。こちらも生きる為には仕方ないでしょう」
レゼンの言葉にイーナが「あのさぁ。『魔剣』の管理を頼みに行くのに喧嘩売るような真似はできないだろ」とジトッと眉をひそめた。
「じょ、冗談ですよ」
レゼンは誤魔化すように笑う。
しかしレゼンの案も選択肢の一つであることは間違いなかった。
魔剣を魔王の元へ届ける前に飢え死んでも仕方ないのだ。
もちろん略奪策は最後の手段だ。
ではどうしたものか?
四人がそう考えていると、ドォン! と爆発音がした。
それから鬨の声もだ。
――戦争の音だ!
四人が音のした方を見ると小山のような丘の向こうから黒煙が上がっている。
急いで丘を登り、その上に伏せた。
丘の向こうには村がある。
深い穴の堀に囲まれた村だ。
青黒い岩の城壁に囲まれた村。
その村の前に何十人もの魔人達が集まっていた。
城壁には黒い跡がついている。
火の魔術の跡だ。
「いつまで籠城してるつもりだ。さっさと門を開けろ」
そう言ったのは村の前に集まる魔人達を束ねる魔人だ。
魔人にしては珍しい小太りな男である。
城壁の上に魔人が姿を見せると「何を言うかフォルオーグ。間もなく我らが王の軍が来るから震えて待つがいい」と答えた。
フォルオーグと呼ばれた小太りな魔人はせせら笑う。
「馬鹿め。俺こそが新しき王だ! かかれぇ!」
わあ! と鬨の声をあげて攻め手が城壁へ寄せた。
身体強化の魔術で堀を飛び越える。
しかし城壁を登る高さは足りず、一旦、城壁に取り付いた。
まるでトカゲのようにピタッと壁に取り付くのだ。
だがこれこそ防御側の思惑である。
攻め手が堀を飛び越えて城壁に取り付いた隙に上から魔術を放った。
火球に燃える者、水球に摩擦を失い転落する者、風に吹き飛ばされたり、岩石を食らう者がいる。
「落とせ落とせ! とにかく王の援軍が来るまで耐えるのだ!」
そう言う城壁の魔人と共に魔術を使うのは女子供ばかりであった。
そのような光景を見たイーナが「仲間割れ?」と眉をひそめる。
ゼスティが「元々、魔人は一枚岩じゃない」と説明した。
強き者が他者を従える資格があるという価値観の魔人。
魔王デルビュイオル亡き今、どうやら我こそ新しき魔王だという連中が乱立しているらしい。
それに、今回の侵略が失敗したのも逆風だ。
魔人達の寿命は長い。
アーク帝国との戦いで多くの魔人達が死んだ百年後に二度目の敗戦だ。
多くの魔人達にもデルビュイオルの二度の失敗は容認できないのだろう。
もはやデルビュイオルの娘、ジュールカレアに魔人達の制御は利かない。
「同族同士で争うとは、やはり愚かですね」
レゼンの言葉にバルンが「その言葉、リボンがついて返ってくるな」と指摘した。
ゼスティが「さて、戦争してるんじゃボクらのやれる事は無いか」と先に行こうと考える。
しかしイーナは「先に行く? なんでよ」と言うのだ。
これにバルンとレゼンは顔をしかめ「戦争をしてるんだぞ? しかも魔人同士だ」と指摘する。
自分達には無関係の戦争に首を突っ込むのか? と驚いた。
「当たり前だろ。私達は傭兵団。戦争ある所に私達あり!」
そう言って立ち上がる。
「で? どっちに味方するんじゃ?」
「恩を売るなら負けてる方ってね」
イーナは三人に待つよう伝え、ビュッと風を残して駆けた。
その頃、戦争はいよいよ攻め手が城壁を登り白兵戦へともつれ込んでいた。
フォルオーグの魔人達は皆訓練された兵士なのに対し、村の防衛は明らかに非戦闘員である。
「ひん剥いてちまえ!」と血走った目の男達は女のローブを破こうとした。
守り手側は阿鼻叫喚になる。
何とか抵抗しようとするも身体強化魔術は使えないらしい。
単純な腕力で抑え込まれ、ローブを破かれた。
その時、天頂より舞い落ちる小さな人影がある。
「まったく……男ってのはどいつも……」
人間であろうが魔人であろうが男というのは変わらない。
馬鹿で、愚かで、卑怯者だ。
か弱い女を力で屈服させて従えようなどとても容認できない。
イーナは激しい風に髪とマントをなびかせながら背中の剣を抜く。
魔王の魔剣だ。
「救世主イーナが助太刀する!」
城壁に着地すると同時に剣を叩き付ける。
瞬間、城壁の一部が砕けて弾け飛んだ。
城壁に張り付く攻め手が吹き飛ぶ。
飛んできた瓦礫に何人かの攻め手が潰された。
もうもうと煙が上がる中、イーナの影が動く。
女達を手篭めにしようとする男達を次々と切り伏せた。
そして煙が上がる頃にはすっかり城壁の敵を無効化し、そのまま城壁のヘリに立っていたのだ。
煙が晴れてイーナの姿を見た魔人達は「人間だ!」と悲鳴をあげる。
攻め手からも守り手からも、この世の悪魔を見たような絶叫であった。
助けたはずの女性など引きつけを起こして倒れたほどだ。
「なんか……ヒーローの出現ってイメージと違うな……」
イーナは胡乱げな目で頬をかいた。
想像なら突然の助けに喝采でもあるかと思ったが、まるで家の中で害虫でも見つけたような悲鳴だ。
まあいいと気を取り直し、「我が名はイーナ」と剣を振り上げる。
魔王デルビュイオルの大剣だ。
イーナの身の丈を優に超える大剣を軽々と振り回し、「魔王の剣をジュールカレアへ返しに参った!」と雄弁に名乗ったのである。
彼女の名乗りに「ええい! 魔王の剣を人間に奪われるなどデルビュイオルは魔人の恥さらしだ!」とフォルオーグが怒鳴った。
「大剣を取り返せ!」
号令に従い、魔人達がイーナへ襲い掛かる。
しかしイーナは強かった。
神から力を与えられたイーナをたかが一魔人共にどうすることもできない。
魔人は近づくと途端に吹き飛ばされた。
その様子を見たフォルオーグはすぐに「撤退! 撤退!」と呼ばわる。
城から距離を取りつつ包囲し直して、「不用意に近付くな」と厳命した。
イーナは城壁の上から村を包囲する敵軍を見る。
「動く気配は無さそうだな」と思った。
「人間! 動くな」
そんなイーナの事を村の人々が囲み、手を向けた。
イーナはニヤリと笑う。
「助けてあげたのに随分な歓迎じゃないか」
そう言いながら周りを見た。
やはり、女子供ばかり。
唯一の男の魔人もよく見ればイーナとそう変わらない年齢に見えた。
彼女達は皆、一様に恐れの色を顔に浮かべている。
人間が怖いのだ。
村に男が居ない理由はイーナにも分かる。
先の戦争で殆どが戦死したからだろう。
哀れには思わない。
人間にも多くの人が死んだ。
戦争は平等に死を振りまく。
そこにあるのは弱肉強食の摂理だけだ。
とはいえ、戦争は終わった。
少なくともイーナが彼女達と殺し合う理由は無い。
彼女は自分がジュールカレアに会いに来た事と、この魔剣を魔人達に返しに来たのだと伝えた。
その道中で食べ物が欲しいので、この村を助ける代わりに食べ物を渡して欲しいと頼む。
魔人達は半信半疑だったが、城を包囲する敵軍をどうにかしてくれるなら食べ物を与えようと言った。
それでイーナも了承する。
日が暮れて夜になった頃、イーナの手引きでゼスティ達も闇も紛れて村の中に入った。
村唯一の青年魔人と長老の家で作戦を話し合う。
家では多くの老魔人たちがイーナ達に手を向けていた。
落ち着いて話などできる空気では無かったが、地図を開いてイーナ達は話し合いの卓につく。
「お前達人間の事を信用できないのは分かってくれ」
青年の言葉に「負い目を感じる必要は無いな。人間だって魔人相手にこのくらいはする」とイーナは答えた。
魔術を向けられるのは良い気がしない。
しかし、その警戒はお互い様だ。
青年は燭台――魔人の燭台は奇妙な燃える石が皿に乗っている――をテーブルの上で滑らせながら、「敵軍はこちら」と指を指す。
「王の援軍はこちらから来るだろう」
魔王城から援軍を呼んでおり、それまで耐える必要があると言った。
「そんな事はまどろっこしいよ。私達が突撃、終わり」
良いでしょ? とイーナが青年を見る。
青年は顔をしかめた。
「そんなこと、デルビュイオル様しかできない」
人間ごときが偉大な魔王デルビュイオルの真似事などできるわけが無いと考えている。
ゼスティが「ま、人間が無茶をするくらいどうでもいいだろ?」と肩を竦めた。
青年は納得していない様子だったが、人間を思いやる必要も無いと考えて許可する。
そうして翌朝、フォルオーグが再び攻城を開始した。
攻め寄せる魔人達を眼下にイーナは城壁に立つ。
「おうおう。来なすったねえ!」
得意満面という顔のイーナにゼスティが「油断するなよ」と伝えた。
「分かってるよ。もう戦争にお遊び感覚で参加したりしないさ」
じゃ、防衛はよろしく。
イーナは城壁を蹴り、敵軍に向けて跳躍する。
背中の大剣を抜き、着地と共に振り下ろした。
地面の一部が弾け飛び、魔人達が宙を舞う。
グググと足に力を込めた。
そして、解き放たれたバネのようにイーナの体は前に飛び出る。
目指すのは大将首フォルオーグだ。
フォルオーグはその時、円柱状の石椅子に座って丸々と太ったネズミの丸焼きを食べていた。
イーナが向かってくるのに気付くと、小骨をぷっと吐き出して「人間の小娘が」と悪態をつく。
周りには護衛の魔人達がいた。
フォルオーグは周りを見て「俺が小娘の足を止める。囲んで倒せ」と命じると、両手を地面に付ける。
一直線に飛んでくるイーナの前に地面から壁が現れた。
大剣を振るい壁を弾き飛ばす。
壁が砕けて煙と化した。
その煙の向こうからさらに壁が現れる。
「うわ!」
イーナが顔を腕で覆う。
壁にぶつかった。
ボロボロと壁が崩れる。
さらにその向こうにも壁があり、イーナはその壁も破壊しながら体勢を崩した。
派手に転びながら幾つもの壁を破壊してようやくイーナは止まる。
「いたた……」
瓦礫の上で頭を撫でるイーナ。
そのイーナをフォルオーグ護衛の精鋭達が囲んだ。
一斉に魔術を使う。
火と風の魔術だ。
二つの魔術が一斉に放たれ、火災旋風と化してイーナを包む。
「どっこいしょお!」
対してイーナは大剣を思い切り地面に叩き付けた。
地面が抉れてクレーターとなり、弾けた大岩が辺り一面を襲う。
魔人達は飛来する岩に急いで伏せた。
間に合わなかったものは岩の直撃に悶絶したり、あるいは頭部を吹き飛ばされて絶命する。
「熱っついなぁ! もう!」
凹んだ地面から髪の先を燃やしているイーナが登ってきた。
そのような姿を見たフォルオーグは「あわわ」と怯える。
まるで悪魔ではないか!
ただでさえ恐ろしい人間だが、火傷と憤怒の顔はまさに悪魔。
こんな悪魔と戦ってなどいられない。
フォルオーグはすっかり怯えて、ピュイと口笛を吹いた。
岩の影から大トカゲが姿を現す。
その大トカゲの背に乗ると「さらばだ!」と手綱を振るって逃げるのだ。
待て! とイーナはその後を追おうとした。
しかし、突如として太ももに痛みが走ったため追えなかった。
イーナの右足、太ももには聖地ラトゥユゥで蛇尾の魔物に噛まれた傷がある。
その傷が開いて血がだくだくと流れていた。
「もう! こんな時に……!」
腰ベルトから応急処置用の包帯を取り出して右足に巻く。
その間に敵軍は「フォルオーグ様が撤退した! 我らも退くぞ!」と戦場から次々と逃げ去った。
イーナは逃げる敵軍を見ながら包帯を巻き、つまらなそうに舌打ちをする。
「ちぇ。本当なら追撃できたのに……」
ビッと包帯を指先の力だけで破いて太ももに結ぶと、イーナは村に戻った。
村では魔人達がイーナの強さにすっかり怯えた様子だ。
しかし、元々魔人自体、強者に従う本能が強いためイーナの強さを前に羨望とも尊敬ともつかぬ畏敬の念もあった。
若い魔人もイーナの活躍を喜び、戦いの指揮をとってくれないかと頼んだ。
「私は、そんな指揮を執るような事は好きじゃないんだよ」
イーナは困ってそう言うのである。
そんなイーナが足を引きずっているのにゼスティは気付いた。
「怪我をしたのか?」
「いや、ラトゥユゥで魔物に噛まれた傷が開いただけだ」
イーナの説明にレゼンが「あの時、私は確かに傷は治癒しましたよ」と眉をひそめる。
イーナの傷を癒したのはレゼンだ。
実際、彼が聖術で傷を癒したのはゼスティ達も見ていた。
完治した傷が開くなどおかしな話だ。
「そんな事言っても傷が開いたんだから仕方ないでしょ」
村の長老の家に戻り、イーナは包帯を外す。
だくだくと血が流れて、包帯は既に真っ赤に染っていた。
「本当ですね」
レゼンはそう訝しみながらイーナの傷に聖術を当てる。
温かな光が彼女の太ももを覆い、傷を治した。
「ん。ありがと」
イーナはすっかり痛みの無くなった足で軽く飛び跳ねる。
どこも異常は無い。
「ようし。これでまた戦えるな」
イーナはそう笑った。
とはいえ、フォルオーグはイーナの脅威を十分に認識しただろう。
少なくとも、イーナが居る限り村に手を出しはしない。
それは王都からの援軍が来るまで村は安全だという事を示した。
イーナはフォルオーグと戦いたかったので、その話を聞いて残念に思う。
そんなイーナに長老の魔人が「まあまあ。村を守って頂いたのですから、どうぞ村のもてなしを受けてくだされ」と言った。
イーナ達はすっかり村から受け入れられていたのだ。
――その頃、フォルオーグは撤退し、自分の治める村に戻る。
村というより砦といった出で立ちの集落だ。
小高い丘の上、城壁に囲まれた集落の中、一際大きな建物の中でフォルオーグは怒りを露にしている。
「ええい! 忌々しい人間め!」
そう言って石の椅子を蹴飛ばした。
倒れた椅子の背もたれが砕けて壊れる。
それがますますフォルオーグをイラつかせた。
「俺に許可なく壊れるんじゃあない!」
怒りに任せて椅子をドカドカと踏み付ける。
「随分と……お怒りのようですね……」
囁くような声が室内に響いた。
その声は男でも女でもない、フォルオーグが聞いた事も無い声である。
「誰だ!?」
聞き慣れない声にフォルオーグが辺りを見渡す。
侵入者であろうか?
そう思うフォルオーグの目の前に赤いローブの人が立っていた。
まさに目の前、一歩しか離れていない距離だ。
フードを目深に被り、顔には真っ白な仮面を付けている。
「勇者イーナ……彼女は人間の神に選ばれた存在……」
そう言う赤いローブの人物へフォルオーグは咄嗟に魔術を放った。
火炎の魔術を右手から飛ばすが、ローブにを貫いて火炎は石の壁にぶつかる。
焦げ跡のついたローブがヒラリと床に落ちた。
中身が無い。
「どこに消えた?」
フォルオーグが眉をひそめると「私なら勇者イーナを殺せます」とすぐ背後から囁きかれた。
フォルオーグは驚きのあまり飛び退き、椅子の瓦礫に足をとられて尻餅をつく。
「な、なんだお前は! 誰なんだ!」
フォルオーグが喚くが赤いローブの人物は意にもかけない。
ゆっくりと体を前に倒し、フォルオーグの眼前へ顔を持ってきた。
真っ白な仮面には一つだけ穴が空いている。
穴の向こうに真っ赤な瞳が爛々と輝いていた。
「私を信じなさい……。勇者イーナを殺して差し上げます」
フォルオーグは抵抗が無駄だと理解し、観念して乾いた笑いを浮かべた。
「お、面白い。あの人間の小娘を殺せるものなら殺してみろ!」
フォルオーグの言葉に赤い瞳がニコリと笑う。
「もうすぐ、人間の地より人の兵隊がやってくる……。その者達を支援なさい」
そう言うと赤いローブは顔を離した。
同時にローブがギュルっと渦を巻き、小さく小さくなって消える。
「に、人間の軍隊を俺に支援しろだぁ?」
フォルオーグは赤いローブの言葉を思い出し、その「ありえない」命令に困惑するのだった。
百年前に存在した幻のアーク帝国。
その時代からの生き残りが目の前にいたのだ。
レゼンが「ありえない! だとしたらなぜ、こんな若々しいのですか!」と立ち上がった。
「分からないけど、心当たりがあるとしたら天使に会ったからかな?」
ゼスティはそう答える。
ゼスティ自身、なぜ自分が老いないのか分からない。
ただ、考えられる理由はあの日、アーク帝国が滅亡した時、天使に出会い、あの全てを滅した光に呑み込まれてなお生き残れたからだろうか?
レゼンはその回答に納得できない。
なぜならゼスティは光聖教徒では無いからだ。
信徒では無い者に神が力を授けるなど信じられない。
もしもゼスティの話が本当だとしたら、何のために自分は信仰を捧げているのだ。
そんなレゼンをゼスティがなだめる。
「まぁまぁ。本当に天使が原因で不老になったのかは実際のところ分からないんだ。そう興奮しなさんなって」
レゼンは納得した訳じゃなかったが「大人げなかったです」とメガネの位置を直しながら座った。
「ところで、昔も暗黒の地に来た事があるなら、どこかで補給できそうな所を知ってるか?」
バルンが聞く。
ゼスティは太陽の位置を確認しながら「確か、あっちに村があったはずだ」と南東の方角を指さした。
とはいえ正確に場所を把握してる訳じゃない。
歩いた距離と太陽の位置から直感で導き出しただけだ。
「ま、お爺ちゃんの年の功を信じましょか」とイーナが焚き火を消した。
「おいおい。お爺ちゃんって……。まあお爺ちゃんか」とゼスティは苦笑するのだった。
そうして四人は南東の方へ歩く。
そこには魔人の村があるはずだ。
かつて魔王の娘ジュールカレアはその村から王城へ戻る途中で魔物に襲われていた。
ゼスティは村に行ったことは無いが、ジュールカレアの話では魔人の集落があるはずだ。
そこで、何らかの補給が……まあ、受け取れないだろう。とゼスティは思った。
「もしも補給を断られたら略奪するしか無いかのう」
バルンが髭を撫でる。
「まあ、相手は魔人ですからね。こちらも生きる為には仕方ないでしょう」
レゼンの言葉にイーナが「あのさぁ。『魔剣』の管理を頼みに行くのに喧嘩売るような真似はできないだろ」とジトッと眉をひそめた。
「じょ、冗談ですよ」
レゼンは誤魔化すように笑う。
しかしレゼンの案も選択肢の一つであることは間違いなかった。
魔剣を魔王の元へ届ける前に飢え死んでも仕方ないのだ。
もちろん略奪策は最後の手段だ。
ではどうしたものか?
四人がそう考えていると、ドォン! と爆発音がした。
それから鬨の声もだ。
――戦争の音だ!
四人が音のした方を見ると小山のような丘の向こうから黒煙が上がっている。
急いで丘を登り、その上に伏せた。
丘の向こうには村がある。
深い穴の堀に囲まれた村だ。
青黒い岩の城壁に囲まれた村。
その村の前に何十人もの魔人達が集まっていた。
城壁には黒い跡がついている。
火の魔術の跡だ。
「いつまで籠城してるつもりだ。さっさと門を開けろ」
そう言ったのは村の前に集まる魔人達を束ねる魔人だ。
魔人にしては珍しい小太りな男である。
城壁の上に魔人が姿を見せると「何を言うかフォルオーグ。間もなく我らが王の軍が来るから震えて待つがいい」と答えた。
フォルオーグと呼ばれた小太りな魔人はせせら笑う。
「馬鹿め。俺こそが新しき王だ! かかれぇ!」
わあ! と鬨の声をあげて攻め手が城壁へ寄せた。
身体強化の魔術で堀を飛び越える。
しかし城壁を登る高さは足りず、一旦、城壁に取り付いた。
まるでトカゲのようにピタッと壁に取り付くのだ。
だがこれこそ防御側の思惑である。
攻め手が堀を飛び越えて城壁に取り付いた隙に上から魔術を放った。
火球に燃える者、水球に摩擦を失い転落する者、風に吹き飛ばされたり、岩石を食らう者がいる。
「落とせ落とせ! とにかく王の援軍が来るまで耐えるのだ!」
そう言う城壁の魔人と共に魔術を使うのは女子供ばかりであった。
そのような光景を見たイーナが「仲間割れ?」と眉をひそめる。
ゼスティが「元々、魔人は一枚岩じゃない」と説明した。
強き者が他者を従える資格があるという価値観の魔人。
魔王デルビュイオル亡き今、どうやら我こそ新しき魔王だという連中が乱立しているらしい。
それに、今回の侵略が失敗したのも逆風だ。
魔人達の寿命は長い。
アーク帝国との戦いで多くの魔人達が死んだ百年後に二度目の敗戦だ。
多くの魔人達にもデルビュイオルの二度の失敗は容認できないのだろう。
もはやデルビュイオルの娘、ジュールカレアに魔人達の制御は利かない。
「同族同士で争うとは、やはり愚かですね」
レゼンの言葉にバルンが「その言葉、リボンがついて返ってくるな」と指摘した。
ゼスティが「さて、戦争してるんじゃボクらのやれる事は無いか」と先に行こうと考える。
しかしイーナは「先に行く? なんでよ」と言うのだ。
これにバルンとレゼンは顔をしかめ「戦争をしてるんだぞ? しかも魔人同士だ」と指摘する。
自分達には無関係の戦争に首を突っ込むのか? と驚いた。
「当たり前だろ。私達は傭兵団。戦争ある所に私達あり!」
そう言って立ち上がる。
「で? どっちに味方するんじゃ?」
「恩を売るなら負けてる方ってね」
イーナは三人に待つよう伝え、ビュッと風を残して駆けた。
その頃、戦争はいよいよ攻め手が城壁を登り白兵戦へともつれ込んでいた。
フォルオーグの魔人達は皆訓練された兵士なのに対し、村の防衛は明らかに非戦闘員である。
「ひん剥いてちまえ!」と血走った目の男達は女のローブを破こうとした。
守り手側は阿鼻叫喚になる。
何とか抵抗しようとするも身体強化魔術は使えないらしい。
単純な腕力で抑え込まれ、ローブを破かれた。
その時、天頂より舞い落ちる小さな人影がある。
「まったく……男ってのはどいつも……」
人間であろうが魔人であろうが男というのは変わらない。
馬鹿で、愚かで、卑怯者だ。
か弱い女を力で屈服させて従えようなどとても容認できない。
イーナは激しい風に髪とマントをなびかせながら背中の剣を抜く。
魔王の魔剣だ。
「救世主イーナが助太刀する!」
城壁に着地すると同時に剣を叩き付ける。
瞬間、城壁の一部が砕けて弾け飛んだ。
城壁に張り付く攻め手が吹き飛ぶ。
飛んできた瓦礫に何人かの攻め手が潰された。
もうもうと煙が上がる中、イーナの影が動く。
女達を手篭めにしようとする男達を次々と切り伏せた。
そして煙が上がる頃にはすっかり城壁の敵を無効化し、そのまま城壁のヘリに立っていたのだ。
煙が晴れてイーナの姿を見た魔人達は「人間だ!」と悲鳴をあげる。
攻め手からも守り手からも、この世の悪魔を見たような絶叫であった。
助けたはずの女性など引きつけを起こして倒れたほどだ。
「なんか……ヒーローの出現ってイメージと違うな……」
イーナは胡乱げな目で頬をかいた。
想像なら突然の助けに喝采でもあるかと思ったが、まるで家の中で害虫でも見つけたような悲鳴だ。
まあいいと気を取り直し、「我が名はイーナ」と剣を振り上げる。
魔王デルビュイオルの大剣だ。
イーナの身の丈を優に超える大剣を軽々と振り回し、「魔王の剣をジュールカレアへ返しに参った!」と雄弁に名乗ったのである。
彼女の名乗りに「ええい! 魔王の剣を人間に奪われるなどデルビュイオルは魔人の恥さらしだ!」とフォルオーグが怒鳴った。
「大剣を取り返せ!」
号令に従い、魔人達がイーナへ襲い掛かる。
しかしイーナは強かった。
神から力を与えられたイーナをたかが一魔人共にどうすることもできない。
魔人は近づくと途端に吹き飛ばされた。
その様子を見たフォルオーグはすぐに「撤退! 撤退!」と呼ばわる。
城から距離を取りつつ包囲し直して、「不用意に近付くな」と厳命した。
イーナは城壁の上から村を包囲する敵軍を見る。
「動く気配は無さそうだな」と思った。
「人間! 動くな」
そんなイーナの事を村の人々が囲み、手を向けた。
イーナはニヤリと笑う。
「助けてあげたのに随分な歓迎じゃないか」
そう言いながら周りを見た。
やはり、女子供ばかり。
唯一の男の魔人もよく見ればイーナとそう変わらない年齢に見えた。
彼女達は皆、一様に恐れの色を顔に浮かべている。
人間が怖いのだ。
村に男が居ない理由はイーナにも分かる。
先の戦争で殆どが戦死したからだろう。
哀れには思わない。
人間にも多くの人が死んだ。
戦争は平等に死を振りまく。
そこにあるのは弱肉強食の摂理だけだ。
とはいえ、戦争は終わった。
少なくともイーナが彼女達と殺し合う理由は無い。
彼女は自分がジュールカレアに会いに来た事と、この魔剣を魔人達に返しに来たのだと伝えた。
その道中で食べ物が欲しいので、この村を助ける代わりに食べ物を渡して欲しいと頼む。
魔人達は半信半疑だったが、城を包囲する敵軍をどうにかしてくれるなら食べ物を与えようと言った。
それでイーナも了承する。
日が暮れて夜になった頃、イーナの手引きでゼスティ達も闇も紛れて村の中に入った。
村唯一の青年魔人と長老の家で作戦を話し合う。
家では多くの老魔人たちがイーナ達に手を向けていた。
落ち着いて話などできる空気では無かったが、地図を開いてイーナ達は話し合いの卓につく。
「お前達人間の事を信用できないのは分かってくれ」
青年の言葉に「負い目を感じる必要は無いな。人間だって魔人相手にこのくらいはする」とイーナは答えた。
魔術を向けられるのは良い気がしない。
しかし、その警戒はお互い様だ。
青年は燭台――魔人の燭台は奇妙な燃える石が皿に乗っている――をテーブルの上で滑らせながら、「敵軍はこちら」と指を指す。
「王の援軍はこちらから来るだろう」
魔王城から援軍を呼んでおり、それまで耐える必要があると言った。
「そんな事はまどろっこしいよ。私達が突撃、終わり」
良いでしょ? とイーナが青年を見る。
青年は顔をしかめた。
「そんなこと、デルビュイオル様しかできない」
人間ごときが偉大な魔王デルビュイオルの真似事などできるわけが無いと考えている。
ゼスティが「ま、人間が無茶をするくらいどうでもいいだろ?」と肩を竦めた。
青年は納得していない様子だったが、人間を思いやる必要も無いと考えて許可する。
そうして翌朝、フォルオーグが再び攻城を開始した。
攻め寄せる魔人達を眼下にイーナは城壁に立つ。
「おうおう。来なすったねえ!」
得意満面という顔のイーナにゼスティが「油断するなよ」と伝えた。
「分かってるよ。もう戦争にお遊び感覚で参加したりしないさ」
じゃ、防衛はよろしく。
イーナは城壁を蹴り、敵軍に向けて跳躍する。
背中の大剣を抜き、着地と共に振り下ろした。
地面の一部が弾け飛び、魔人達が宙を舞う。
グググと足に力を込めた。
そして、解き放たれたバネのようにイーナの体は前に飛び出る。
目指すのは大将首フォルオーグだ。
フォルオーグはその時、円柱状の石椅子に座って丸々と太ったネズミの丸焼きを食べていた。
イーナが向かってくるのに気付くと、小骨をぷっと吐き出して「人間の小娘が」と悪態をつく。
周りには護衛の魔人達がいた。
フォルオーグは周りを見て「俺が小娘の足を止める。囲んで倒せ」と命じると、両手を地面に付ける。
一直線に飛んでくるイーナの前に地面から壁が現れた。
大剣を振るい壁を弾き飛ばす。
壁が砕けて煙と化した。
その煙の向こうからさらに壁が現れる。
「うわ!」
イーナが顔を腕で覆う。
壁にぶつかった。
ボロボロと壁が崩れる。
さらにその向こうにも壁があり、イーナはその壁も破壊しながら体勢を崩した。
派手に転びながら幾つもの壁を破壊してようやくイーナは止まる。
「いたた……」
瓦礫の上で頭を撫でるイーナ。
そのイーナをフォルオーグ護衛の精鋭達が囲んだ。
一斉に魔術を使う。
火と風の魔術だ。
二つの魔術が一斉に放たれ、火災旋風と化してイーナを包む。
「どっこいしょお!」
対してイーナは大剣を思い切り地面に叩き付けた。
地面が抉れてクレーターとなり、弾けた大岩が辺り一面を襲う。
魔人達は飛来する岩に急いで伏せた。
間に合わなかったものは岩の直撃に悶絶したり、あるいは頭部を吹き飛ばされて絶命する。
「熱っついなぁ! もう!」
凹んだ地面から髪の先を燃やしているイーナが登ってきた。
そのような姿を見たフォルオーグは「あわわ」と怯える。
まるで悪魔ではないか!
ただでさえ恐ろしい人間だが、火傷と憤怒の顔はまさに悪魔。
こんな悪魔と戦ってなどいられない。
フォルオーグはすっかり怯えて、ピュイと口笛を吹いた。
岩の影から大トカゲが姿を現す。
その大トカゲの背に乗ると「さらばだ!」と手綱を振るって逃げるのだ。
待て! とイーナはその後を追おうとした。
しかし、突如として太ももに痛みが走ったため追えなかった。
イーナの右足、太ももには聖地ラトゥユゥで蛇尾の魔物に噛まれた傷がある。
その傷が開いて血がだくだくと流れていた。
「もう! こんな時に……!」
腰ベルトから応急処置用の包帯を取り出して右足に巻く。
その間に敵軍は「フォルオーグ様が撤退した! 我らも退くぞ!」と戦場から次々と逃げ去った。
イーナは逃げる敵軍を見ながら包帯を巻き、つまらなそうに舌打ちをする。
「ちぇ。本当なら追撃できたのに……」
ビッと包帯を指先の力だけで破いて太ももに結ぶと、イーナは村に戻った。
村では魔人達がイーナの強さにすっかり怯えた様子だ。
しかし、元々魔人自体、強者に従う本能が強いためイーナの強さを前に羨望とも尊敬ともつかぬ畏敬の念もあった。
若い魔人もイーナの活躍を喜び、戦いの指揮をとってくれないかと頼んだ。
「私は、そんな指揮を執るような事は好きじゃないんだよ」
イーナは困ってそう言うのである。
そんなイーナが足を引きずっているのにゼスティは気付いた。
「怪我をしたのか?」
「いや、ラトゥユゥで魔物に噛まれた傷が開いただけだ」
イーナの説明にレゼンが「あの時、私は確かに傷は治癒しましたよ」と眉をひそめる。
イーナの傷を癒したのはレゼンだ。
実際、彼が聖術で傷を癒したのはゼスティ達も見ていた。
完治した傷が開くなどおかしな話だ。
「そんな事言っても傷が開いたんだから仕方ないでしょ」
村の長老の家に戻り、イーナは包帯を外す。
だくだくと血が流れて、包帯は既に真っ赤に染っていた。
「本当ですね」
レゼンはそう訝しみながらイーナの傷に聖術を当てる。
温かな光が彼女の太ももを覆い、傷を治した。
「ん。ありがと」
イーナはすっかり痛みの無くなった足で軽く飛び跳ねる。
どこも異常は無い。
「ようし。これでまた戦えるな」
イーナはそう笑った。
とはいえ、フォルオーグはイーナの脅威を十分に認識しただろう。
少なくとも、イーナが居る限り村に手を出しはしない。
それは王都からの援軍が来るまで村は安全だという事を示した。
イーナはフォルオーグと戦いたかったので、その話を聞いて残念に思う。
そんなイーナに長老の魔人が「まあまあ。村を守って頂いたのですから、どうぞ村のもてなしを受けてくだされ」と言った。
イーナ達はすっかり村から受け入れられていたのだ。
――その頃、フォルオーグは撤退し、自分の治める村に戻る。
村というより砦といった出で立ちの集落だ。
小高い丘の上、城壁に囲まれた集落の中、一際大きな建物の中でフォルオーグは怒りを露にしている。
「ええい! 忌々しい人間め!」
そう言って石の椅子を蹴飛ばした。
倒れた椅子の背もたれが砕けて壊れる。
それがますますフォルオーグをイラつかせた。
「俺に許可なく壊れるんじゃあない!」
怒りに任せて椅子をドカドカと踏み付ける。
「随分と……お怒りのようですね……」
囁くような声が室内に響いた。
その声は男でも女でもない、フォルオーグが聞いた事も無い声である。
「誰だ!?」
聞き慣れない声にフォルオーグが辺りを見渡す。
侵入者であろうか?
そう思うフォルオーグの目の前に赤いローブの人が立っていた。
まさに目の前、一歩しか離れていない距離だ。
フードを目深に被り、顔には真っ白な仮面を付けている。
「勇者イーナ……彼女は人間の神に選ばれた存在……」
そう言う赤いローブの人物へフォルオーグは咄嗟に魔術を放った。
火炎の魔術を右手から飛ばすが、ローブにを貫いて火炎は石の壁にぶつかる。
焦げ跡のついたローブがヒラリと床に落ちた。
中身が無い。
「どこに消えた?」
フォルオーグが眉をひそめると「私なら勇者イーナを殺せます」とすぐ背後から囁きかれた。
フォルオーグは驚きのあまり飛び退き、椅子の瓦礫に足をとられて尻餅をつく。
「な、なんだお前は! 誰なんだ!」
フォルオーグが喚くが赤いローブの人物は意にもかけない。
ゆっくりと体を前に倒し、フォルオーグの眼前へ顔を持ってきた。
真っ白な仮面には一つだけ穴が空いている。
穴の向こうに真っ赤な瞳が爛々と輝いていた。
「私を信じなさい……。勇者イーナを殺して差し上げます」
フォルオーグは抵抗が無駄だと理解し、観念して乾いた笑いを浮かべた。
「お、面白い。あの人間の小娘を殺せるものなら殺してみろ!」
フォルオーグの言葉に赤い瞳がニコリと笑う。
「もうすぐ、人間の地より人の兵隊がやってくる……。その者達を支援なさい」
そう言うと赤いローブは顔を離した。
同時にローブがギュルっと渦を巻き、小さく小さくなって消える。
「に、人間の軍隊を俺に支援しろだぁ?」
フォルオーグは赤いローブの言葉を思い出し、その「ありえない」命令に困惑するのだった。
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