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1章・戦火繚乱編
38、愛は唐突にやって来たり
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ラドウィンは事の他、忙しかった。
というのも、領土と民が増えた結果、多くの問題が起こったのだ。
隣人によって勝手に庭を畑にされたとか、農耕馬を勝手に使われたとか。
そういった問題が起こった。
それが町長とか村長の判断で解決出来れば良いのだが、中には隣の地区の住民とのいざこざもあって、そうなると領主が違ったので町長や村長では解決出来ない。
なので町長や村長はラドウィンに泣き付いた手紙を送った。
非は相手にあるとラドウィンの勢力内で戦争まで発展しかける所まである。
ラドウィンは毎日書類を作ってはそういった問題を取り成さねばならなかった。
そんな目の回る忙しさのラドウィンの目下の悩みは、自警団長ゴズである。
調査をしてみるとトゥートゥーが申し立てた通り、すぐにモンタアナ町民から大量の苦情が出てきたのだ。
むしろ良くもまあ今までラドウィン達の耳に入らなかったものだと感心してしまう程である。
「ゴズには悪いが、自警団長は解任だな」
ラドウィンは溜息をつきながら、ゴズを自警団長から解任するよう要請する手紙を自警団へと書くのであった。
その時、そのゴズという男と来たら、よもや自分が自警団長を解任されるとは思っておらず、真昼間から酒場に入り浸っていた。
上等な琥珀色の酒をゴクゴクと飲み、顔を真っ赤にしている。
彼は酒代を払わずにツケにしていた。
酒場の亭主は貯まった酒代を払って欲しいと穏便に伝えようとしたが、ゴズは据わった目で睨み付けるので亭主は黙ってしまう。
「俺はこの町を守ってやっているのだ。良いか。戦争があればラドウィン様もタッガルさんも兵を引き連れて行っちまう。そんな時にこの町を守るのはこの俺様だぞ」
確かにゴズは乱暴者ではあったが、喧嘩などを力業で解決するし、賊が出てきた時にはすぐに討伐するように、その能力はあった。
もっとも、「俺に楯突いて良いのか。もう守ってやらないぞ」と脅しつけて酒代一杯たりとも払わない始末であったのが厄介なところだ。
さて、それから暫く後、そんな酒場にタッガルはラドウィンの手紙を持ってやって来る。
扉を開けるとチリンチリンとドアベルが小気味良く鳴って、店内の人々がじろりとタッガルを見た。
幾名かの兵を引き連れたタッガルを見ると、誰もが視線を逸らす。
真昼間から酒を煽るような連中だ。大なり小なり後ろめたい心当たりがあるのだろう。
タッガルは何とも情けない気持ちになった。
彼は開拓村として人々が移住し始めた頃のモンタアナを知っていて、気付けば故郷で暮らしていた時より長い間をモンタアナに過ごしている。
そりゃ多少の悪人は居たけど、皆が皆、貧しくも辛い開拓生活で助け合っていたものだ。
それが今や、真昼間から酒を飲んでは人目を気にしてしまうような連中が増えてしまったのである。
情けなく思わない訳が無かった。
「俺も歳をとっちまったなぁ」
昔を懐かしんで今にケチをつけるなんて、なんと歳を取ったものかとタッガルは独りごちるとカウンターへと足を進める。
亭主はニコニコ笑ってどうしたのかと聞くので、「あー。ここにゴズが居ると聞いてだな」とタッガルはゴズがどこに居るのか聞いた。
「ゴズ様ですか。つい先程まで飲んでいらっしゃいましたが、何でも強盗が現れたとかで自警団を率いて行っちまいましたよ」と答える。
モンタアナから南東へ伸びる街道で、行商人が積荷のリンゴやブドウを盗まれてたので盗人を追い掛けた所、盗人に殴られて肋骨を折られてしまったのだという。
ゴズはその話を聞くとすぐに酒場を出て行ったのでタッガルとは入れ違いになっていた。
仕事はちゃんとするのだなとタッガルは苦笑した。
これでもう少し人に優しくなれればこのような問題にもならなかったのだ。
しかし、もうゴズは解任せねばなるまい。
そして人から巻き上げた金や店のツケを全て支払い、自警団長の地位を利用して殴る蹴るの暴行を加えた人に賠償をせねばならなかった。
タッガルが南東の街道へと向かう頃、ゴズは既に南東の街道に到着して通行人に怪しい人の噂を聞き込んだ。
石畳の敷かれた街道である。
近隣の村を往復する馬車や村人が多い。
それで、時々、二十歳そこそこの女がやって来ては食料を脅し取って行く事があると分かった。
食料を盗られていた被害者は何人かいたのに怪我人が出るまで問題にならなかったのは、その強盗というのが結構な美人だかららしい。
むしろ目の保養で、食べ物くらいあげたくなるほどだったようだ。
そのような話を聞いたゴズは上機嫌となった。
彼は連れてきた二人の自警団員を見て、どうせ相手は罪人なんだから『好きなだけ楽しもう』じゃないかと下卑た笑みを浮かべたのである。
女は街道沿いの山に住んでいるらしいと噂を聞き付けたので、その山へと向かった。
山はオークの木が成る緩やかな坂道だ。
麓の木々は建材に利用されて殆ど伐採されていたが中腹からは視界を狭めるほどの密生地となる。
そんな山道は途中から尾根に変わって、尾根伝いにゴズは進んだ。
どこに強盗の女の痕跡があるのか分からないので四方に注意を払う。
ぬかるみに靴の跡は無いか。枝は折れていないか。
そういった、人間の形跡を探る。
時折、鹿か何かの鳴き声が響く尾根道を進んで行った。
すると、「引き返せ」と女性特有の甲高い声が森に響くのである。
ゴズは足を止めて辺りを見渡す。
緑の葉が少し揺れている尾根は視界が悪くて声の出処は分からなかった。
「俺はゴズ。モンタアナの自警団長だ。貴様は強盗を繰り返して人を傷付けた。大人しく捕まるなら悪いようにはせん」
ゴズが声高に言う後ろで二人の自警団員はクスクス笑った。
大人しく捕まるなら悪いようにはしないなどと、口からでまかせでしかないからだ。
しかしどうだろう?
ゴズの口車に乗ったか乗ってないか、彼らの背後の茂みがガザガサ音をたてると槍を持った女が一人姿を見せた。
二十歳そこそこの麗しい女だ。
鋭く勝気な目をして、四肢は薄い筋肉によって見事引き締められている。
十五で成人を迎えるこの国にとって二十歳はまさに大人の色香溢れる魅力的な年齢と言えた。
げんにゴズなど、彼女の容姿を一目見ると口を半開きに見蕩れてしまう程である。
そんなゴズの背を団員がつついて、襲いましょうかと聞いた。
女は槍を持っていて、どうやら武芸の心得はありそうだったが森のような木の茂る場所で長物を使うのは難しい。
武芸の心得はあろうとも戦素人のようだと分かる。
これなら男三人で掛かれば容易に倒せよう。
しかし、ゴズは振り向くやいなや団員の頭を殴り抜けたのである。
「馬鹿野郎! そんな事をやってみろ。俺が今すぐてめえの頭をかち割って下らねえ考えを起こせないようにしてやる!」
などとゴズは喚いた。
いきなり頭を殴られて団員は納得いかない。
なぜ頭を殴られないといけないのかと不服だ。
ゴズはそんな団員に今すぐ山を降りて、自分と彼女を二人きりにするよう命ずる。
「団長だけで楽しむなんてズルい」
団員はゴズが、彼女を独り占めするに違いないと思った。
だけどゴズは彼の発言を軽率な言葉だと殴りつけ、口をこれ以上開く前に山を降りるよう命じたのである。
団員達がしぶしぶと山を降りていく。
その背を見送ると、ゴズはドスドスと腐葉土を踏みしめて女へと近付いた。
瞬間、女が槍を突きつけてゴズに近付くなと警告する。
美しい眼だ。
警戒心を携えた眼は危険な色香を放っている。
「私を捕まえに来たのだろう? だが、私は捕まるつもりは無い」
女はゴズが、自分を捕まえに来たと聞いて逆に倒してやろうと姿を現したのだ。
だが、ゴズは顔を左右に振った。
そして片膝をついたのである。
その行動に女が眉を訝しませる。
ゴズは槍の穂先を目の前にしながら、「俺ァあんたに惚れた! 結婚してくれ!」と声を大にしたのだ。
女はキョトンとした後、眉に皺を寄せて怒りの形相を見せる。
というのも、彼女はこのような状況で求婚されて『馬鹿にされた』と感じたのだ。
敵意や怯懦を向けられるならともかく、恐れも怒りも見せないゴズの態度に心底腹が立ち、酷い侮辱を受けたと思う。
だけれどゴズは本気だった。
一目惚れだ。
彼はもちろん男として性欲というものは今まであったけど、女を心の底から愛おしく思ったのは初の事だ。
彼自身、恋に落ちていく心を上手くコントロール出来ず、つまり、直接的にぶつける事しかできなかった。
だけど、女はゴズの恋愛感情をふざけたものだと受け入れない。
「私を捉えるつもりが無いなら今すぐ山を出て行って二度と顔を見せるな」
そのように拒絶された。
すると、元々乱暴者で暴力的なゴズだ。
彼が自分の望みを叶える方法と言えば幼少期より、殴り蹴り、屈服させて従わせるという手段だったから、彼自身の恋愛感情を成就させる為に女へと襲いかかった。
槍の穂先を手で払って、雄叫び一発、飛び掛ったのである。
だが、女は槍の柄を素早く回して石突でゴズの横面(よこつら)をぶっ叩いたのだ。
目の前で火花が散ったような感覚にゴズは襲われたけど、構わず地面を踏み込んで女へと猪突猛進した。
ところが、女はこんな木々の密集する場所でどうやったのか、槍をグルグル回してゴズの顎先を叩いて鳩尾を打ち、膝を払って手首を殴打した。
距離が近かった為に穂先で突かれなかったのは幸いであったが、これだけしこたまに打たれてはゴズも地面へと無様に這いつくばる事となった。
なんでこんなに強いのだとゴズは驚く。
ゴズだって自警団長を任されるくらいだから並の強さでは無い。
しかしそんなゴズが赤子の手をひねるように打ちのめされてしまったのだ。
ただの強盗とは思えない女である。
ゴズは冷徹な目で見下ろす彼女を見つめ返し、「なんてミステリアスな人なんだ」とさらに心が惹かれた。
「頼むよ! 俺と結婚してくれよ!」
女は初めて狼狽えた顔を見せる。
これだけ叩きのめされてなお、異常な好意を見せるのだから恐れずにはいられないものだ。
「なんなんだお前は」
女が心底不気味なものを見るかのような目をしながら聞くと、「俺様はゴズってんだ。自警団長だけど......でも今はそんな事はどうだって良いんだ。俺ァあんたに心底イカレちまったんだ」とその思いの丈をぶつけたのである。
女はどうすれば良いのか分からない様子であった。
結婚を受け入れるつもりは毛頭ないが、さりとて好意を向けてくる相手を打ちのめす趣味も無かったのだ。
困惑して黙っている女を、ゴズはキラキラとした目で返事を待った。
すると、山の下の方から誰かがゴズの名を呼びながら駆け上がってくる。
自警団員の二人だ。
女からの返事を待っていたゴズは大層腹を立てて顔を真っ赤にする程である。
立ち上がって、今すぐ山を駆け下りて団員の首を絞めて殺してやろうかと思う。
ところが、山の下から聞こえて来た声が「タッガルさんがこっちに来ます」と言うのだ。
「え! タッガルが!?」
タッガルは当然ながらゴズに用があってやって来たのだが、ゴズはそう思わなかった。
きっとタッガルはこの女性を引っ捕えに来たに違いないと思ったのである。
なので、今すぐ逃げようとダズが女に提案するのだが、女はフンと鼻を鳴らした。
「何者か知らないが私の槍にかかればなんぼの者か」
彼女は気の強い顔に違わず随分と強気のようだ。
それも仕方ないほどの腕前である事は認めざる得ない話であるが。
しかし、ゴズはそんな彼女をなだめた。
タッガルは領主ラドウィンの父から仕える忠臣で、彼に危害を加えようものならモンタアナの戦力全てが敵に回りかねない危険を説いたのである。
だけど彼女は聞く耳を持たずに「モンタアナ如きが何するものぞ。私にとっては幾千幾万の兵など塵芥(ちりあくた)に等しい」と戦う気なのだ。
するとゴズはガバと立ち上がるなり、いきなり彼女の体を抱きかかえたのである。
不意を突かれた女は抵抗も出来ずにお姫様のような形で抱っこされ、面食らった。
恥ずかしさから降ろせとも命令する。
だけどゴズは降ろす素振りを見せず、山の下から登ってくる団員に「今すぐ逃げるぞ。急げ」と言うなり尾根道を走り出したのだ。
ゴズは彼女を危険な目に遭わせたくなかったのである。
逃げるだなんてプライドの許さない女は幾らか喚いていたが、抱きかかえられていてはお得意の槍も振るえない。
なのでとうとう観念すると、「どこに逃げるんだ」とゴズに聞いた。
ゴズは「さあな」と言う。
「考えてないのか?」
「いや、ひとまず身を隠すんだよ。それからの事はその後考えりゃ良いだろ」
ゴズは二人の団員と女を連れて山の奥へと姿をくらました。
それからラドウィン領内の各地で四人組の強盗が現れて騒ぎとなる。
四人組は各地で追われては逃げて、追われては逃げて、回り回って帝都へとやって来たのは一ヶ月後の夏真っ盛りな時期であった。
というのも、領土と民が増えた結果、多くの問題が起こったのだ。
隣人によって勝手に庭を畑にされたとか、農耕馬を勝手に使われたとか。
そういった問題が起こった。
それが町長とか村長の判断で解決出来れば良いのだが、中には隣の地区の住民とのいざこざもあって、そうなると領主が違ったので町長や村長では解決出来ない。
なので町長や村長はラドウィンに泣き付いた手紙を送った。
非は相手にあるとラドウィンの勢力内で戦争まで発展しかける所まである。
ラドウィンは毎日書類を作ってはそういった問題を取り成さねばならなかった。
そんな目の回る忙しさのラドウィンの目下の悩みは、自警団長ゴズである。
調査をしてみるとトゥートゥーが申し立てた通り、すぐにモンタアナ町民から大量の苦情が出てきたのだ。
むしろ良くもまあ今までラドウィン達の耳に入らなかったものだと感心してしまう程である。
「ゴズには悪いが、自警団長は解任だな」
ラドウィンは溜息をつきながら、ゴズを自警団長から解任するよう要請する手紙を自警団へと書くのであった。
その時、そのゴズという男と来たら、よもや自分が自警団長を解任されるとは思っておらず、真昼間から酒場に入り浸っていた。
上等な琥珀色の酒をゴクゴクと飲み、顔を真っ赤にしている。
彼は酒代を払わずにツケにしていた。
酒場の亭主は貯まった酒代を払って欲しいと穏便に伝えようとしたが、ゴズは据わった目で睨み付けるので亭主は黙ってしまう。
「俺はこの町を守ってやっているのだ。良いか。戦争があればラドウィン様もタッガルさんも兵を引き連れて行っちまう。そんな時にこの町を守るのはこの俺様だぞ」
確かにゴズは乱暴者ではあったが、喧嘩などを力業で解決するし、賊が出てきた時にはすぐに討伐するように、その能力はあった。
もっとも、「俺に楯突いて良いのか。もう守ってやらないぞ」と脅しつけて酒代一杯たりとも払わない始末であったのが厄介なところだ。
さて、それから暫く後、そんな酒場にタッガルはラドウィンの手紙を持ってやって来る。
扉を開けるとチリンチリンとドアベルが小気味良く鳴って、店内の人々がじろりとタッガルを見た。
幾名かの兵を引き連れたタッガルを見ると、誰もが視線を逸らす。
真昼間から酒を煽るような連中だ。大なり小なり後ろめたい心当たりがあるのだろう。
タッガルは何とも情けない気持ちになった。
彼は開拓村として人々が移住し始めた頃のモンタアナを知っていて、気付けば故郷で暮らしていた時より長い間をモンタアナに過ごしている。
そりゃ多少の悪人は居たけど、皆が皆、貧しくも辛い開拓生活で助け合っていたものだ。
それが今や、真昼間から酒を飲んでは人目を気にしてしまうような連中が増えてしまったのである。
情けなく思わない訳が無かった。
「俺も歳をとっちまったなぁ」
昔を懐かしんで今にケチをつけるなんて、なんと歳を取ったものかとタッガルは独りごちるとカウンターへと足を進める。
亭主はニコニコ笑ってどうしたのかと聞くので、「あー。ここにゴズが居ると聞いてだな」とタッガルはゴズがどこに居るのか聞いた。
「ゴズ様ですか。つい先程まで飲んでいらっしゃいましたが、何でも強盗が現れたとかで自警団を率いて行っちまいましたよ」と答える。
モンタアナから南東へ伸びる街道で、行商人が積荷のリンゴやブドウを盗まれてたので盗人を追い掛けた所、盗人に殴られて肋骨を折られてしまったのだという。
ゴズはその話を聞くとすぐに酒場を出て行ったのでタッガルとは入れ違いになっていた。
仕事はちゃんとするのだなとタッガルは苦笑した。
これでもう少し人に優しくなれればこのような問題にもならなかったのだ。
しかし、もうゴズは解任せねばなるまい。
そして人から巻き上げた金や店のツケを全て支払い、自警団長の地位を利用して殴る蹴るの暴行を加えた人に賠償をせねばならなかった。
タッガルが南東の街道へと向かう頃、ゴズは既に南東の街道に到着して通行人に怪しい人の噂を聞き込んだ。
石畳の敷かれた街道である。
近隣の村を往復する馬車や村人が多い。
それで、時々、二十歳そこそこの女がやって来ては食料を脅し取って行く事があると分かった。
食料を盗られていた被害者は何人かいたのに怪我人が出るまで問題にならなかったのは、その強盗というのが結構な美人だかららしい。
むしろ目の保養で、食べ物くらいあげたくなるほどだったようだ。
そのような話を聞いたゴズは上機嫌となった。
彼は連れてきた二人の自警団員を見て、どうせ相手は罪人なんだから『好きなだけ楽しもう』じゃないかと下卑た笑みを浮かべたのである。
女は街道沿いの山に住んでいるらしいと噂を聞き付けたので、その山へと向かった。
山はオークの木が成る緩やかな坂道だ。
麓の木々は建材に利用されて殆ど伐採されていたが中腹からは視界を狭めるほどの密生地となる。
そんな山道は途中から尾根に変わって、尾根伝いにゴズは進んだ。
どこに強盗の女の痕跡があるのか分からないので四方に注意を払う。
ぬかるみに靴の跡は無いか。枝は折れていないか。
そういった、人間の形跡を探る。
時折、鹿か何かの鳴き声が響く尾根道を進んで行った。
すると、「引き返せ」と女性特有の甲高い声が森に響くのである。
ゴズは足を止めて辺りを見渡す。
緑の葉が少し揺れている尾根は視界が悪くて声の出処は分からなかった。
「俺はゴズ。モンタアナの自警団長だ。貴様は強盗を繰り返して人を傷付けた。大人しく捕まるなら悪いようにはせん」
ゴズが声高に言う後ろで二人の自警団員はクスクス笑った。
大人しく捕まるなら悪いようにはしないなどと、口からでまかせでしかないからだ。
しかしどうだろう?
ゴズの口車に乗ったか乗ってないか、彼らの背後の茂みがガザガサ音をたてると槍を持った女が一人姿を見せた。
二十歳そこそこの麗しい女だ。
鋭く勝気な目をして、四肢は薄い筋肉によって見事引き締められている。
十五で成人を迎えるこの国にとって二十歳はまさに大人の色香溢れる魅力的な年齢と言えた。
げんにゴズなど、彼女の容姿を一目見ると口を半開きに見蕩れてしまう程である。
そんなゴズの背を団員がつついて、襲いましょうかと聞いた。
女は槍を持っていて、どうやら武芸の心得はありそうだったが森のような木の茂る場所で長物を使うのは難しい。
武芸の心得はあろうとも戦素人のようだと分かる。
これなら男三人で掛かれば容易に倒せよう。
しかし、ゴズは振り向くやいなや団員の頭を殴り抜けたのである。
「馬鹿野郎! そんな事をやってみろ。俺が今すぐてめえの頭をかち割って下らねえ考えを起こせないようにしてやる!」
などとゴズは喚いた。
いきなり頭を殴られて団員は納得いかない。
なぜ頭を殴られないといけないのかと不服だ。
ゴズはそんな団員に今すぐ山を降りて、自分と彼女を二人きりにするよう命ずる。
「団長だけで楽しむなんてズルい」
団員はゴズが、彼女を独り占めするに違いないと思った。
だけどゴズは彼の発言を軽率な言葉だと殴りつけ、口をこれ以上開く前に山を降りるよう命じたのである。
団員達がしぶしぶと山を降りていく。
その背を見送ると、ゴズはドスドスと腐葉土を踏みしめて女へと近付いた。
瞬間、女が槍を突きつけてゴズに近付くなと警告する。
美しい眼だ。
警戒心を携えた眼は危険な色香を放っている。
「私を捕まえに来たのだろう? だが、私は捕まるつもりは無い」
女はゴズが、自分を捕まえに来たと聞いて逆に倒してやろうと姿を現したのだ。
だが、ゴズは顔を左右に振った。
そして片膝をついたのである。
その行動に女が眉を訝しませる。
ゴズは槍の穂先を目の前にしながら、「俺ァあんたに惚れた! 結婚してくれ!」と声を大にしたのだ。
女はキョトンとした後、眉に皺を寄せて怒りの形相を見せる。
というのも、彼女はこのような状況で求婚されて『馬鹿にされた』と感じたのだ。
敵意や怯懦を向けられるならともかく、恐れも怒りも見せないゴズの態度に心底腹が立ち、酷い侮辱を受けたと思う。
だけれどゴズは本気だった。
一目惚れだ。
彼はもちろん男として性欲というものは今まであったけど、女を心の底から愛おしく思ったのは初の事だ。
彼自身、恋に落ちていく心を上手くコントロール出来ず、つまり、直接的にぶつける事しかできなかった。
だけど、女はゴズの恋愛感情をふざけたものだと受け入れない。
「私を捉えるつもりが無いなら今すぐ山を出て行って二度と顔を見せるな」
そのように拒絶された。
すると、元々乱暴者で暴力的なゴズだ。
彼が自分の望みを叶える方法と言えば幼少期より、殴り蹴り、屈服させて従わせるという手段だったから、彼自身の恋愛感情を成就させる為に女へと襲いかかった。
槍の穂先を手で払って、雄叫び一発、飛び掛ったのである。
だが、女は槍の柄を素早く回して石突でゴズの横面(よこつら)をぶっ叩いたのだ。
目の前で火花が散ったような感覚にゴズは襲われたけど、構わず地面を踏み込んで女へと猪突猛進した。
ところが、女はこんな木々の密集する場所でどうやったのか、槍をグルグル回してゴズの顎先を叩いて鳩尾を打ち、膝を払って手首を殴打した。
距離が近かった為に穂先で突かれなかったのは幸いであったが、これだけしこたまに打たれてはゴズも地面へと無様に這いつくばる事となった。
なんでこんなに強いのだとゴズは驚く。
ゴズだって自警団長を任されるくらいだから並の強さでは無い。
しかしそんなゴズが赤子の手をひねるように打ちのめされてしまったのだ。
ただの強盗とは思えない女である。
ゴズは冷徹な目で見下ろす彼女を見つめ返し、「なんてミステリアスな人なんだ」とさらに心が惹かれた。
「頼むよ! 俺と結婚してくれよ!」
女は初めて狼狽えた顔を見せる。
これだけ叩きのめされてなお、異常な好意を見せるのだから恐れずにはいられないものだ。
「なんなんだお前は」
女が心底不気味なものを見るかのような目をしながら聞くと、「俺様はゴズってんだ。自警団長だけど......でも今はそんな事はどうだって良いんだ。俺ァあんたに心底イカレちまったんだ」とその思いの丈をぶつけたのである。
女はどうすれば良いのか分からない様子であった。
結婚を受け入れるつもりは毛頭ないが、さりとて好意を向けてくる相手を打ちのめす趣味も無かったのだ。
困惑して黙っている女を、ゴズはキラキラとした目で返事を待った。
すると、山の下の方から誰かがゴズの名を呼びながら駆け上がってくる。
自警団員の二人だ。
女からの返事を待っていたゴズは大層腹を立てて顔を真っ赤にする程である。
立ち上がって、今すぐ山を駆け下りて団員の首を絞めて殺してやろうかと思う。
ところが、山の下から聞こえて来た声が「タッガルさんがこっちに来ます」と言うのだ。
「え! タッガルが!?」
タッガルは当然ながらゴズに用があってやって来たのだが、ゴズはそう思わなかった。
きっとタッガルはこの女性を引っ捕えに来たに違いないと思ったのである。
なので、今すぐ逃げようとダズが女に提案するのだが、女はフンと鼻を鳴らした。
「何者か知らないが私の槍にかかればなんぼの者か」
彼女は気の強い顔に違わず随分と強気のようだ。
それも仕方ないほどの腕前である事は認めざる得ない話であるが。
しかし、ゴズはそんな彼女をなだめた。
タッガルは領主ラドウィンの父から仕える忠臣で、彼に危害を加えようものならモンタアナの戦力全てが敵に回りかねない危険を説いたのである。
だけど彼女は聞く耳を持たずに「モンタアナ如きが何するものぞ。私にとっては幾千幾万の兵など塵芥(ちりあくた)に等しい」と戦う気なのだ。
するとゴズはガバと立ち上がるなり、いきなり彼女の体を抱きかかえたのである。
不意を突かれた女は抵抗も出来ずにお姫様のような形で抱っこされ、面食らった。
恥ずかしさから降ろせとも命令する。
だけどゴズは降ろす素振りを見せず、山の下から登ってくる団員に「今すぐ逃げるぞ。急げ」と言うなり尾根道を走り出したのだ。
ゴズは彼女を危険な目に遭わせたくなかったのである。
逃げるだなんてプライドの許さない女は幾らか喚いていたが、抱きかかえられていてはお得意の槍も振るえない。
なのでとうとう観念すると、「どこに逃げるんだ」とゴズに聞いた。
ゴズは「さあな」と言う。
「考えてないのか?」
「いや、ひとまず身を隠すんだよ。それからの事はその後考えりゃ良いだろ」
ゴズは二人の団員と女を連れて山の奥へと姿をくらました。
それからラドウィン領内の各地で四人組の強盗が現れて騒ぎとなる。
四人組は各地で追われては逃げて、追われては逃げて、回り回って帝都へとやって来たのは一ヶ月後の夏真っ盛りな時期であった。
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怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
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※小説家になろうにて掲載中
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