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日曜日。射し込む朝日。目覚ましのベル。
けたたましいベル。
叩いて止める。
怒りを半ばに込めて、目覚ましを壊すように。
「その日」が来た。
憂鬱な日だ。
僕はベッドからいそいそと出て黒色の服を着ようと手に取る。
……やめた。
こんな陰鬱な気分の時に、何も陰鬱な黒い服を着る必要があるだろうか?
僕はいつもの普段着に着替えてリビングに向かう。
トントンと階段を降りながら母親を呼ぶが返事は無い。
ダイニングを見ると朝食とメモ書きが置いてあった。
メモ書きには「準備があるので先に行ってます。送れないように来てください」と書いてある。
僕は朝食を食べて、歯を磨き、そして家を出た。
嫌なほどに明るい太陽が僕の顔を焼く。
底抜けに明るい太陽に照らされた町が逆に不気味に思えた。
両親のところに行こうかと思ったが、私の足は行きたい方向とは逆に進んでいく。
気付くと近所の公園にいた。
最近、無意識にこの公園へ向かってしまう。
まるで失った時を取り戻そうとするかのように……。
ベンチに腰をかけた。
日曜の朝。
まだ誰も居ない公園。
いつもは近所の子供達で騒がしい公園は耳が痛いほどの静寂に包まれている。
スマートフォンをつけた。
時間を見るためだ。
待受に僕と女の子の画像が映っている。
ああ……しまった。待受を変えておけば良かった。
茶色がかった黒髪の女の子。
彼女の笑顔が僕を責める。
もう会えない。
君にまた会いたい。
君は僕の本から去ってしまった。
もう二度と手を繋いで歩くこともできない。
冷たい風が吹いた。
僕の頬を撫でる。
か弱く、静かに吹き抜ける風だ。
そんな風に黄色い花が揺れている。
たんぽぽだ。
一輪だけ、公園の真ん中に花を開いている。
誰にも踏まれること無く……いや、踏まれていたのだろう。
何度も何度も踏まれて、折れた。
それは歪な折り目のついた茎かは分かる。
それでも力強く茎を伸ばして花開いたたんぽぽだ。
僕はそのたんぽぽを手にしようと思った。
手を伸ばした時、ふと君の言葉を思い出す。
たんぽぽが好きだと言うから、茎を手折(たお)ろうとした時、「可哀想だよ」と言った君。
好きな花を枯らしたくない。
君はそう言ったね。
その思い出に僕は手を引っこめた。
それならせめて写真を撮ろう。
スマートフォンをたんぽぽに向けた時、風で花弁が揺れ動いた。
たんぽぽの花弁が僕に向く。
まるで僕を励ますように見えた。
思えば、君はそうやってたんぽぽのように僕を見つめて微笑んだね。
「大丈夫だって心配するなよ。あんたはいつも心配性なんだから」
コトン――
たんぽぽが君の優しい瞳に見えて思わずスマートフォンを手から落としてしまった。
あるいは、君がたんぽぽに宿って僕を励ましてくれたのだろうか?
「ありがとう。元気が出た」
僕はスマートフォンを拾った。
良かった。
画面にヒビは無い。
僕は改めてたんぽぽを写真に収めた。
たんぽぽの写真が太陽のように輝く花弁を開いている。
僕はスマートフォンをポケットにしまった。
急げば間に合うかな。
まあちょっと遅れても僕の親にドヤされるくらいか。
僕はそう思いながら駆けた。
君の眠る場所に向かって。
けたたましいベル。
叩いて止める。
怒りを半ばに込めて、目覚ましを壊すように。
「その日」が来た。
憂鬱な日だ。
僕はベッドからいそいそと出て黒色の服を着ようと手に取る。
……やめた。
こんな陰鬱な気分の時に、何も陰鬱な黒い服を着る必要があるだろうか?
僕はいつもの普段着に着替えてリビングに向かう。
トントンと階段を降りながら母親を呼ぶが返事は無い。
ダイニングを見ると朝食とメモ書きが置いてあった。
メモ書きには「準備があるので先に行ってます。送れないように来てください」と書いてある。
僕は朝食を食べて、歯を磨き、そして家を出た。
嫌なほどに明るい太陽が僕の顔を焼く。
底抜けに明るい太陽に照らされた町が逆に不気味に思えた。
両親のところに行こうかと思ったが、私の足は行きたい方向とは逆に進んでいく。
気付くと近所の公園にいた。
最近、無意識にこの公園へ向かってしまう。
まるで失った時を取り戻そうとするかのように……。
ベンチに腰をかけた。
日曜の朝。
まだ誰も居ない公園。
いつもは近所の子供達で騒がしい公園は耳が痛いほどの静寂に包まれている。
スマートフォンをつけた。
時間を見るためだ。
待受に僕と女の子の画像が映っている。
ああ……しまった。待受を変えておけば良かった。
茶色がかった黒髪の女の子。
彼女の笑顔が僕を責める。
もう会えない。
君にまた会いたい。
君は僕の本から去ってしまった。
もう二度と手を繋いで歩くこともできない。
冷たい風が吹いた。
僕の頬を撫でる。
か弱く、静かに吹き抜ける風だ。
そんな風に黄色い花が揺れている。
たんぽぽだ。
一輪だけ、公園の真ん中に花を開いている。
誰にも踏まれること無く……いや、踏まれていたのだろう。
何度も何度も踏まれて、折れた。
それは歪な折り目のついた茎かは分かる。
それでも力強く茎を伸ばして花開いたたんぽぽだ。
僕はそのたんぽぽを手にしようと思った。
手を伸ばした時、ふと君の言葉を思い出す。
たんぽぽが好きだと言うから、茎を手折(たお)ろうとした時、「可哀想だよ」と言った君。
好きな花を枯らしたくない。
君はそう言ったね。
その思い出に僕は手を引っこめた。
それならせめて写真を撮ろう。
スマートフォンをたんぽぽに向けた時、風で花弁が揺れ動いた。
たんぽぽの花弁が僕に向く。
まるで僕を励ますように見えた。
思えば、君はそうやってたんぽぽのように僕を見つめて微笑んだね。
「大丈夫だって心配するなよ。あんたはいつも心配性なんだから」
コトン――
たんぽぽが君の優しい瞳に見えて思わずスマートフォンを手から落としてしまった。
あるいは、君がたんぽぽに宿って僕を励ましてくれたのだろうか?
「ありがとう。元気が出た」
僕はスマートフォンを拾った。
良かった。
画面にヒビは無い。
僕は改めてたんぽぽを写真に収めた。
たんぽぽの写真が太陽のように輝く花弁を開いている。
僕はスマートフォンをポケットにしまった。
急げば間に合うかな。
まあちょっと遅れても僕の親にドヤされるくらいか。
僕はそう思いながら駆けた。
君の眠る場所に向かって。
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