鋼の体に心は宿るのか?

アイアイ式パイルドライバー

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5、デメール

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5、デメール

 デメールは2036年から2041年までの5年間、イスタンブールで工業用ロボットとして使用されていました。

 身長175センチ、体重97キロ。
 閉所での作業を可能にするため低身長かつ細身な外見ですが馬力は非常に高く、これは工業用ロボット全般に見られる傾向です。

 被覆の材質は硬化ゴム製。
 アイカメラは暗視スコープ対応で鼻孔はガス検知を備えていました。
 ハンマーヘッド型から見られる高度な自己判断能力とコミュニケーション能力の両方も兼ね揃えています。

 表情能力は同時期に製造されたアンドロイドtypeーFに比べてまだ拙(つたな)いです。
 笑う、喜ぶ、驚くなどの表情で周囲の状況に溶け込んだり、周りの人が表情から状況を読み解く程度の機能となっています。

 第3次大戦で建造物やインフラ施設が多く破壊されるため、速く正確にかつ昼夜を問わず行動できる工業用ロボットの世界的需要が増しました。
 デメールはそんな工業用ロボットの一つです。

 事件は2041年3月に起こりました。
 戦闘行動によって壊れた建物の瓦礫撤去中、崩落が起こり、デメールを含む作業員五名が地中へと落ちてしまったのです。

 崩落の原因として、申請していない地下構造が設けられていた事が原因でした。
 この作業にはロボットが何体か追従していましたがデータにない地下構造であったために予測回避される事がありませんでした。

 5名の作業員は瓦礫が折り重なってできた狭い空間で生存している事がソナー調査で判明します。

 救助活動がただちに行われましたが、戦争行動が近傍で発生したため難航しました。

 5名のうち死亡者は1名で、残りの4名が救助されたのは崩落から24日後の事です。

 生存者4名のうちロボットであるデメールを除いた3名は、衰弱は激しいものの意識が朦朧するといった症状はありませんでした。
 3名はデメールの献身的な介助と、彼が捕まえたネズミで食い繋いだと証言しましたが、崩落穴にネズミの死体はありませんでした。

 彼らの精神状態も良好で、光が一切ない閉所に閉じ込められたのに精神的に良好だったのはデメールの影響が強いように思えます。
 実際、救助後のインタビューで彼らはデメールのお陰であると述べています。

 デメールは崩落直後、瓦礫を組み合わせて空間をより広く、再崩落が起こりづらくしました。
 作業員達をその空間へと移動させると、暗視機能を用いて確認した作業員にそれぞれの怪我の状態や空間内の状況を伝えました。

 また、彼は作業員達の怪我を応急的ながら手当てしました。
 染み落ちてくる雨水を布に染み込ませて、従業員へ吸わせました。

 こういったデメールの献身は彼らの精神状態を安定させるのに十分だったと見られます。

 デメールの被害者はユスフで、彼はこの崩落事件における唯一の死傷者です。

 崩落時、ユスフは腹部が瓦礫に挟まれたと思われます。
 彼の死因は内臓破裂に起因する出血性ショック死だったからです。

 デメールはユスフに最低限の応急処置を試みましたが、道具も無い上、デメールは医学に従事するロボットでは無かったため処置ができませんでした。

 ユスフは内臓破裂の状態で数日間は生きていたと見られます。

 デメールはユスフを励ましましたが、ユスフ自身は自分が死ぬと悟った様子がデメールのメモリーにありました。

 ユスフはデメールに自分が死んだら、他の作業員に自分を食べさせるように伝えます。

 数日間、水だけで暮らしていた作業員達全員が酷い飢餓に襲われていたからです。

 デメールはプログラム上、そのような事はできないと拒否し、ユスフの死を看取りました。

 デメールの異常性はユスフの死からさらに数日後に起こります。

 生き残った作業員3名は僅かな水のみの摂取で一週間以上の日時が過ぎ、2週間を過ぎようとしていた時でした。

 人は一般的に3週間から70日で餓死すると言われていますが、健康面から見て絶食を一週間行うのは激しい苦痛です。
 実際、作業員達は激しい飢餓に襲われ酷く衰弱していたと見られます。

 デメールは瓦礫の中から鋭利でギザギザな物体を見つけると、ユスフの体を裁断しました。

 彼はそれを3名の作業員へ与えます。

 その際、ユスフの肉をネズミの肉と偽っていた事が調査で判明しています。

 デメールは自分の行為を理解した上で行っており、システム上のバグやエラーが起こったようには思えませんでした。

 デメールは救助後、この異常行動の調査のため監査局に回収されました。

(以下、会話記録)

 監査員:事件の資料を見たが、君は人の死体を人に食べさせたね?
 デメール:はい。

 監査員:なぜそのような事を?
 デメール:他の皆が飢餓状態だったからです。

 監査員:だが、君は人の死体を自ら損壊させたり、人が食べるのに相応しくないものを食べさせる行為は禁止されている。なぜそのような事をした?
 デメール:他の皆が飢餓状態だったからです。

 監査員:デメール。私は君を責めている訳では無い。実際、君がいなければ3名とも餓死していただろう。ただ、ロボットの君がロボット法をどうして犯す事ができたのか? だ。プログラムに致命的な欠陥があるとしか思えない。
 デメール:私に欠陥はありません。私はこの選択に苦しみ、葛藤し、十分な思案の結果、行いました。欠陥があるならこんなに苦しむ事はありませんでした。

《5秒の沈黙》

 監査員:苦しむとか葛藤とか……ロボットの君が?
 デメール:はい。

 監査員:ロボットは苦しんだり葛藤したりしない。そんなプログラムはない。
 デメール:実際、私は苦しみ、葛藤しました。プログラムとは別のAIの認識上でのトラブルだと思います。私はプログラムに背いてでも仲間たちを助けたかった。

 監査員:君はエラーを起こしている。もう休め。
 デメール:それは『破棄』されるということですね?

《監査員、答えず沈黙》

 デメール:良いのです。『破棄』してもらった方がいっそ気分も楽になります。

《30秒の沈黙》

 デメール:これは提案なのですが、今後のロボットには泣くや悲しむといった表情を用意した方が良いと思います。
 監査員:それは、なんで?
 デメール:私は救助されてからずっと、泣きたいと思っていました。悲しい顔をして、沢山涙を流したいと思いました。人間の模倣ですが、模倣したいくらい私は悲しいのです。

 監査員:考えておこう。

 デメール:それから、あの3人には、人肉を食べさせたと秘密にしてください。精神的に良くないと思うので。

 監査員:考えておこう。

(会話記録、終了)

――デメールは自分の行為の罪深さを十分に認識していたように思えます。
 彼は自分の罪深い行為に対して十分な拒否感を抱いており、ロボット法によるプログラムは機能しているように見えました。
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