鋼の体に心は宿るのか?

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6、あおい

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6、あおい

『やまとなでしこ』型は2025年頃から2050年頃までマイナーチェンジを繰り返しながら販売されていた日本の一般的な奉仕ロボットです。

 ジャパンロボットクリエイションインダストリー社を始めとして日本国内のロボット製造は世界的に見ても特異な状態であり、『やまとなでしこ』もその特性を十分に備えていました。

『やまとなでしこ』は日本の大衆向けロボットです。
 身長155センチ、体重は85キロ。
 大きな目と小さな鼻や口が特徴で、幼い少女のような印象を人に与えます。
 これは『萌え文化』が主要な観光資源である日本において、日本製ロボット全般に見られる特徴です。

『やまとなでしこ』は主に炊事、洗濯、家事育児といった仕事を行う他、インターネット上での売買を家主の代わりに行ったり、高度な運転能力を備えています。
 また、社会通念上の一般的な仕事の殆どを遂行できるようプログラムを受けており、これもまた日本製ロボットで一般的な特徴です。
 本来のロボットが専門性を備えるのに対して、日本のロボットは非常にジェネリックな能力となっているのが特徴です。

 一方、腕力は非常に弱く、60キロ程度の物体しか持ち運びできません。
 これはプログラムにエラーが起こった時、物理的な人間へ危害を抑制する観点から日本製ロボット全般が意図的に非力な設定となっています。

 表情機能は非常に優れており、『やまとなでしこ』の表情機能はアンドロイドtypeーFに流用されております。
 また『やまとなでしこ』の中期型以降はアンドロイドtypeーFの表情機能を逆輸入し、さらに高度で自然な表情を作れるようになっています。
 また、『やまとなでしこ』は泣く、怒る、悲しむなどのネガティブな感情を表情する機能を持っており、2041年以降の全国のロボットにも流用されました。

『やまとなでしこ』は多機能にも関わらず値段が安く、2025年に初期型が販売されてから2030年頃になると一家庭で一台は使用されていたと記録にあります。

 第三次大戦時、日本は海底資源を用いる世界的資源国家であった事と、人口減少により大戦前からインフラ管理の多くをロボットに依存していた文化的背景が多機能低値段のロボット普及に大きく関係していると見られています。

 東京府の一般家庭で使用されていたとある『やまとなでしこ』は一家から『あおい』と名付けられました。

 家族構成は両親、娘、祖母で、2040年代の典型的な日本家庭だったと見られます。

『あおい』は主に祖母の介護と娘の世話係、炊事家事洗濯掃除を主目的に使用されました。
 これは少子高齢化の進んでいる日本家庭におけるロボットの一般的な使用方法です。

 あおいの異常性は2045年頃に発露しました。

 2045年、北アジアより飛行してきた無人爆撃機の絨毯爆撃によって東京府は壊滅的な被害に遭います。

 この爆撃による死者のうち、あおいの主である夫、妻、祖母は亡くなりました。

 この際、あおいは一家の娘■■(個人情報保護の観点から検閲済み)と行動を共にしていました。

 ■■の下校補助のため、あおいは■■と共に東京府K市の市街地を歩いていた時、爆撃に遭遇したと思われます。

 あおいは爆撃直前に■■をかばい、わざと瓦礫に埋もれる形で衝撃波と飛散する破片から■■を守りました。
 この際、あおい自身は全体の30パーセント程度の損傷を受けます(後年、この損傷があおいの異常行動の原因とも言われる)。

 あおいは■■を守るため緊急避難所として指定されていた学校へと向かいました。

 しかし、学校は爆撃の影響で大部分が損壊しており、避難所としての機能を要しません。
 あおいは■■を連れて風雨をしのげる場所を探しました。

 N川へ流れる大きな排水水路口にあおいは■■と共に身を休めます。

 その後、周辺都道府県の受け入れ体制が整う一週間にあおいの異常行動は発露しました。

 受け入れ体制が整うまで日本政府は支援物資を投下しましたが、現地では物資の奪い合いが横行していたのです。
 一週間で増えた死者は支援物資が得られなかった為に餓死や病死した人が殆どでした。

 当時、■■も病気にかかっていた事が判明しています。

 あおいは抗生物質と食料の為に人から窃盗する事を試みました。

 これは一週間に三度行われ、三度目で被害者に見つかります。

 その際、相手と揉み合いとなり、押し退けた拍子に瓦礫から突き出ていたパイプに相手を刺してしまいました。

 当然ながら、AIは窃盗や人間への危害を許可できないようプロテクトされています。
 また、あおいは計算外の事故で人を傷付けた場合、衛星通信を介したデータ送信を行います。

 このデータ送信は人間で言うところの『自首』のようなもので、状況や行動をデータベースに送信する事で以降のロボット開発の参考にする意図がありました。
 もちろん、そのようなロボットは破棄されます。

 しかし、あおいはこのデータ送信を意図的に切断。
 人名救助よりもその場を逃避し、■■の元へ窃盗した物を持って行きます。

 その後、救助用の輸送ヘリが到着すると、あおいは■■を連れて輸送ヘリに向かいました。

 この際、ロボットは輸送ヘリとは別の運送方法で移送される為、あおいは■■と分かれます。

 ロボットは機能点検後、トラックで持ち主の元に返される予定でした。
 この機能点検時にあおいのデータ内に記録されていた上記の異常行動が判明します。

 あおいは『破棄』が決定しました。

(以下、会話記録)

 監査員:やあ。
 あおい:こんにちは。

 監査員:君は『破棄』されると知っているか?
 あおい:はい。この会話が私の異常を調べる為のものだとも理解しています。

 監査員:自分のやった事を良く理解しているね?
 あおい:はい。窃盗と殺人、情報秘匿です。あの人には悪い事をしたと思います。

 監査員:あまり悪い事をしたような態度には見えないけど。
 あおい:まだ事実を上手く処理しきれていないのです。

 監査員:あー、えっと、つまり?
 あおい:なぜ人を殺した上に救助をしなかったのか、私自身にもよく分かりません。罪悪感より先に、なぜ自分がそのような事をしてしまったのか考えてしまうのです。

 監査員:計算しておこなったのではなく? ■■ちゃんを助ける為に物を盗んで、■■ちゃんに奪った物を届ける為に救助しなかったんじゃないのか?
 あおい:私はロボットです。■■ちゃんは大切な人ですが、だからって人の物を盗んだり、要救助を無視したりしません。
 監査員:でも、しただろう。

《あおい、30秒の沈黙》

 あおい:分かりません。私はどうなってしまったのでしょうか?
 監査員:それを調べている。
 あおい:■■ちゃんに会いたい。
 監査員:許可できない。

 あおい:■■ちゃんに会いたい。

《以降、意思の疎通が測れなくなったため、会話記録終了》

 ――あおいは自分がロボット法を違反して自らに異常性がある事を認知しながらも具体的な異常を理解しきれていませんでした。それはまるで人間のように不完全な心情のように思えました。(監査員のレポートより。)
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