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いずれ菖蒲か杜若
しおりを挟む雷に打たれたかと思った。
体中を物凄い電流が駆け巡って、俺の思考回路はぶっ壊れてしまった。
絶対抱かれたい。
1回でいいからめちゃくちゃにされたいと思った。
名前も知らないその人に、俺は人生初めての劣情を全身全霊でぶつけることになる。
「はぁぁ格好いい……」
袴田剣護くん、隣の区の学校に通ってて同じ学年、身長181センチで体重68キロ、8月生まれのB型で趣味はショッピング。使っているシャンプーは美容院専売のめちゃ良い匂いのやつで、すれ違う時にほのかに香って最高だ。たまたまいつもより早い時間のバスに乗ったら彼が乗ってきて、一目で恋に落ちた。
綺麗な黒髪のマッシュヘアに首筋がよく見える刈り上げがセクシーだ。太めの眉毛はツリ目の瞳と相まって強そうな印象を受けるけれど、笑うとギャップがあって可愛い。鼻は高めで横顔がキレイすぎる。薄い唇に控えめな口元からたまに覗く八重歯が超キュートだ。ラフでゆるい服が好きなようで、今日もバックプリントの黒いロングシャツにジーンズを着こなしている。たまに友達と思わしき人と一緒に乗ってくることがあり、その際の会話で発せられる声も少しハスキーで心地好い。交友関係が広いのか一緒に乗ってくる人物は毎回違っていた。
ああ、俺も彼の隣の席に座って他愛のない話をしたい。
「ストーカーか?てかいつもみたいに引っかけりゃいいじゃん」
「袴田くんはそんなんじゃないから、まじで」
隠し事等が苦手な俺は全てを同級生兼幼馴染に打ち明けている。初めて袴田君を見た時から抱いた気持ちを相談し、可能な限りのリサーチまで頼んでいる。というより面白半分で勝手に調べてくれたのだが、結果として俺は情報を得ているので助かっていた。
袴田くんは見た目の麗しさもさることながら学業面でも優秀で、学生間では割りと有名だった。俺はバカで超底辺校ゆえに世界が違いすぎて知らなかったが。それでも名前や学校名などはもちろん、色々な噂はすぐに聞くことができた。
誰がどう見てもモテる男なのは間違いないので予想はしていたが、恋愛遍歴がすごいらしい。
付き合った女性は数知れず、男性とも同じくらい経験があるという話だ。ただ期間はいずれも短く誰とも長続きしないのは彼に何かしらの問題があるのでは、ともっぱらの噂だ。
端から見る限り彼は非の打ち所がない好青年なのでにわかには信じがたいが、俺は人づてにしか彼を知らないので判断のしようがない。
「なんていうか、初恋、ぽいし……大事にしたいんだわ」
「初恋!!ぶは!おまっ、く、うそだろ?!」
「セフレとも全員縁切った」
「ハァ?!お前が!え、ドッキリ?」
「んな意味ないことするか!真剣なの俺は!!」
袴田くんの恋愛遍歴にそんなに興味が無いのは、単に俺が人の事を言える立場ではないからだ。
俺、塩谷郁人は好きだと言われれば好きになるし、嫌いと言われれば嫌いになってしまうタイプの人間だ。自分で言うのもどうかと思うが見た目も悪くないし、お前ならいけると男に言われることもまぁ少なくない。そんなだから今までお付き合いした人数だけなら男女合わせて結構いる。
それにセックスが好きだ。気持ち良いし、楽しいし暇潰しにもちょうどいい。ケツでイけるようになってからは男ばかりを相手にしているので、最初からそれを目的に声をかけるヤツもいる。それで俺がビッチと呼ばれているのは知っているが、不本意ではある。セックスなんてスポーツみたいなものだし、特に男同士では子供も出来ないのだから愛とか言うやつのが変だろと思っていた。
誰でも誘われたら一緒に運動するだろ、なんでそれがセックスってだけで貶められなきゃいけないんだ。と、幼馴染に話したら、価値観の違いはお互いを受け入れることから始まる……などと難しい事を言い出したので寝てしまった。
結局何を言われてもセックスしている間は何も考えなくていいので、どうでもよくなってしまった。
しかしそんな俺の前に現れたのが袴田くんだ。
自分の意志で抱かれたいと思ったのは初めてで、こんなに四六時中他人のことで頭がいっぱいになったのも初めてだった。セフレとセックスしてる時も集中できないし、目の前のコイツが袴田くんだったらと思ってしまう。
袴田くんという存在をもっと知りたいし俺だけの袴田くんになって欲しい。
日に日にその気持ちが大きくなって、ある日これが所謂『恋』というものだと気がついた。
そしてその瞬間に、俺は今まで世話になったチンコ達の連絡先をすべて消した。
それからは今までセックスに充てていた時間を袴田くんリサーチに使っている。新しい情報を得る度に心が満ち足りていった。しかしとある噂をよく耳にするようになり、複雑な気持ちになっていた。
「いや?むしろあの噂が本当ならお前とピッタリじゃね」
幼馴染の言う噂とは、『袴田剣護の好みに合えば絶対抱いてくれる』というものだ。たとえ付き合いが浅くても条件が合えばホテルに直行らしい。
実際に連れ込んでいる所を目撃した人はちらほらいて、中には1度だけ抱いて貰ったという女の子の話もあった。最高だったのに何故か別れ話を切り出されそれっきりとなったが、とても紳士的で文句はなく美しい思い出となっているとの事だ。その女の子は今まで1度も恋人が出来たことがなかったが、袴田くんから声をかけられ関係を持ったらしい。
その話を聞いて嫉妬に狂いかけたが、俺にもチャンスがあるのだと思い直して正気を保った。
「誰とでも寝るクソビッチとヤリチンとか相性ピッタリだろ」
「は?うっざ……袴田くんヤリチンじゃねーし」
「じゃあ確かめて来いよ!俺はヤリチンに賭けるわ。負けた方がメシおごりな」
「のった。吠え面かくなよ」
大爆笑する幼馴染を尻目に、俺は気合いを入れた。
リサーチ時に知った彼愛用のシャンプーを手に入れたので、これで会話のきっかけが出来たも同然だ。あとは出会いタイミングを待つだけだ。
同じ時間のバスでも、毎回彼が乗ってくるわけではないので多少時間がかかることは覚悟して臨む。
声をかけると決めた翌日は雨だった。
残念ながら袴田くんが来る確率は低い。天気の悪い日はほとんど姿を現さないのだ。週間天気予報を確認すると、来週頭までスッキリしない空模様で気合いが空回りしそうな予感に肩を落とす。
いつも袴田くんの乗車するバス停が近づいてきたが、人影は見当たらない。
まぁ焦ることはないと、スマホを取り出して幼馴染にメッセージを送る。今日は無理そう、と。
するとバスのドアが開く音がした。ギリギリで乗客が来たらしい。ちらりと視線を投げた先には、なんと袴田くんがいた。
少し濡れていて、これが水がしたたる的なやつだと理解できた。所々濡れて貼り付いた服が色っぽすぎて直視出来ず、思わず両手で目を覆った。
傘を持っていないようで全体的にしっとりしてしまっている。寒そうだが俺はタオルなんて持っていない。何かしたいがどうしようと思っていると、なんともう袴田くんが下車するバス停ではないか。
慌てて追いかけて降り、思わず傘を差し出した。
「あの、これ以上濡れたら風邪引きますよっ」
「え?ああ……そう、かもね」
驚いた様子の袴田くんだが、それより驚いているのは俺の方だ。体が勝手に動いてしまい、この後の事を全く考えていない。どうしようと固まっていたら、袴田くんがはにかんだ。
「ね、そのままだと君も濡れるよ?良かったら一緒に雨宿りする?」
「え、あ、はい!」
「ちょっと歩くから、借りるね」
相合傘で歩き出す。お互い片方の肩が収まらず濡れてしまっているが、そんなことは気にならなかった。
俺は今、あの袴田くんと一緒にいる。
その事実を噛みしめるのに忙しく、着いた先がラブホテルだと気づいたのはチェックインした後だった。
「え、あの、袴田くん、ここって」
「ラブホ。ていうか俺の名前、知ってたんだ?」
濡れた上着を脱ぎ、ハンガーにかける動作が眩しい。均整のとれた半裸を惜し気もなく晒し、こちらに近づいてくる。まともに見れなくて下を向くが、長く美しい指に顎をくすぐられ上を向かされる。
「ぁ、あの……」
「君、いつもバスで俺のこと見てたでしょ」
「それは、その」
顔が近い。めっちゃいい匂い。耳元で囁かないでくれ、興奮して鼻血が出そう。てか見てたのバレてたのかよ、あひ、顎くすぐらないでくれ!
ていうか何だこの展開、空気がめちゃくちゃピンクな気がするんだけど。うそ、まじか。展開早すぎるけどいいのかこれ。
「君、可愛いから俺も気になってたんだよね……」
「んっ」
うおおおおキスしちゃった!あ、舌が入ってきた……ちょっとミント味がする。もう頭が回らなくてされるがままいっぱい吸われた。雨に濡れて体は冷えているのに、顔だけがとても熱くなった。
「ふふ、ほんと可愛いね。一緒に風呂入ろうか」
本当に愛しくて堪らないといった表情で、優しく手を引かれる。袴田くん、俺のこと可愛いだって。実は両思いだったって事だろうか。だとしたら幸せすぎる。もうどうにでもしてくれ。
部屋に設置されているスケスケのバスルームに、お湯が張られていくのをぼんやりと見ていた。
「そうだ、名前は?」
「い、郁人……」
「郁人ね。俺のことは剣護でいいよ」
そう言って微笑んで頭を撫でられているこの瞬間は果たして現実なのだろうか。ずっと夢を見ているような心地で、あんなに抱かれたいと思っていたのに既に満足している自分がいる。
隣で肩を寄せて俺を見つめる袴田くんは本物だろうか。いや、こんな人物が他にいてたまるか。柄にもなく緊張して未だに視線が合わせられない。
「緊張してる?大丈夫、優しくするから」
「ひゃい」
耳たぶをかじられただけで昇天しそうだ。
手慣れた様子で準備を進める袴田くんは、きっと噂通り手が早いヤリチンなのかもしれない。賭けは俺の負けになるが、そんなことはどうでもいい。大事なのは俺が袴田くんに選ばれたということだ。初めて見た瞬間から抱かれたいと思っていた悲願が達成されるのだ。となれば最高の思い出にしなければいけない。袴田くん任せにせず、俺も何かしなくては。
「け、剣護……」
「どうしたの、郁人」
とは言え名前を呼ぶだけで精一杯だ。しかも俺の名を袴田くんが呼んだことで考えていたことを忘れてしまった。録音したい。もう一回呼んで欲しい。
「あー、その、何かすることないかなって」
「じゃあ服、脱いじゃおうか」
袴田くんの手が俺の服を撫でる。直接肌に触れたわけでもないのに、そこだけ熱を持ったように感じた。モタモタしていると脱がされそうな気がしたので、慌てて自分で脱ぎ始めた。脱いでいる間もずっと見られているのが分かる。下着1枚になって手が止まってしまった。こんなことは今までなかったので、どうしたら良いのかわからず視線が泳ぐ。
「郁人、こっち向いて……ちゃんと俺を見て」
言われるがまま顔をあげると、目の前に袴田くんがいて視線が絡んだ。反射的に下を向きそうになったが、それは叶わなかった。袴田くんのおでこが、俺のおでこに、くっついたのだ。鼻先が微かに触れあってくすぐったくて恥ずかしい。
「あ、や……っ」
「マジでかわいい……もっと声聞かせて」
下着の上からチンコをなぞられた。袴田くんの指が何か別の生き物のように動いている。触られた場所の全てが気持ちよくて、セックスしたくて堪らなくなる。もっと触って欲しくなって、腰を押し付けてしまう。
「いい、きもちいい、すきっ、エッチしたい」
「……あれ、積極的になった?実はエロいんだ?」
「う、ダメ……?」
「全然いいよ、俺は好き」
楽しそうに笑いながら俺の下着の中に手を入れて、直接シゴいてくれた。もう先走りが洪水のように止まらない。袴田くんの手を俺の先走りで濡らしたことにも興奮して、ケツが疼いて仕方ない。
「もうぐっちょぐちょじゃん、パンツ意味ないね」
「あん、あっ」
「俺もヤバいかも………………ん?」
ベッドに押し倒され、濡れて肌に貼り付く下着を少し強引に脱がされる。袴田くんの手がチンコからケツに向かって指がアナルに触れて止まった。
いよいよ、と期待に胸が膨らんだが、袴田くんは固まったまま動かない。
「どうしたの……?」
「お前、処女じゃないな」
「え、うん」
「帰る」
そう言うと袴田くんは立ち上がり、身支度を始めた。突然すぎて訳が分からなかったが、このチャンスを逃せない一心で俺はドアの前に立ち塞がった。
洗面所から手を洗って出てきた袴田くんは無表情だった。さっきまで俺を見つめていた優しい眼差しはどこにもない。
「どけ」
「急にどうしたの、俺何か悪いことした?」
「いいからどけよ」
「理由くらい言ってよ!」
ため息をつく袴田くんは、俺の知っている袴田くんとは別人のようだった。
「お前が非処女だから」
「え?」
「処女にしか興味ねーんだよ俺は!分かったらどけやクソビッチ」
なんてことだ。
俺はどう頑張っても袴田くんには抱いて貰えないということか。
いやしかしほんの数分前まではイケる雰囲気だった。ここで諦める訳にはいかない。
「嫌!俺は袴田くんとセックスするまでどかない」
「じゃあ処女になって出直してこいよ」
「わかった!」
「あ?」
「それで、どうやったら処女に戻れるの?」
「……ビッチな上にバカかよ……最悪だな」
汚物を見るような目で舌打ちをされながら罵倒されても、やっぱり袴田くんはかっこいい。想像していたのとは違うけど、きっとこれが素の袴田くんだ。ありのままの姿を晒してくれている事が嬉しい。こんな扱いされても気持ちは変わらない自分に安心した。
やっぱり絶対に袴田くんとセックスしたい。
処女に戻れる方法なんて俺は知らなかったけど、頭のいい袴田くんは知っているんだ、すごいな。
「……1ヶ月くらい使わなかったら戻るんじゃねーの」
「ほんと!?じゃあもう2週間してないからあと2週間だね!頑張る!」
「は?じゃああと3ヶ月、いや半年か?どんだけガバマンなんだお前……それでいて処女みたいな素振りしやがって……ほんと無理」
「ごめん……でも皆気持ちいいって褒めてくれてたよ!あ、今は全員と別れたから!袴田くんだけが好きだから!」
必死になって弁明したが、逆効果だったらしい。ドン引きされた。正直かなり堪えるが、自分で撒いたなので仕方がない。それよりも袴田くんは半年で処女に戻れると言った。
「確かに俺は誰とでもセックスしてたけど、袴田くんのこと好きになってから、セフレは全員切ったし、もう袴田くん以外としたくない……1回だけでいいから、処女になったら抱いてくれる?」
一生に一度のお願いだなんて、子供が使う言葉だが俺にとってはまさしく今この瞬間がそうだった。
まっすぐ袴田くんを見つめて言葉を待つ。時間が長く感じられる。こんな時でも少しでも長く同じ空間にいられることが嬉しい。
眉間に寄せられたシワを視線でなぞっていたら、袴田くんの今日一番のため息が出た。
「……わかったからどけ」
「ほんと!約束だよ!俺絶対処女になるから!」
「あー頑張れ、ちなみにオナニーも禁止な」
「うん!わかった!」
荒々しくドアが閉められ、袴田くんは出ていった。
俺はいそいそと幼馴染に事の顛末を送ると、数分のうちに返信がきた。
今すぐメシをおごりに来いとのことだ。しかしパンツは湿っていてすぐ履く気にはならなかったので、軽く洗って乾くまで待つことにした。
さっき押し倒されたベッドに顔を押し付け、袴田くんの残り香を探す。あとちょっとで抱かれてたのに、とキスやペッティングを思い出して手がアナルに伸びる。
「うお、あぶね!」
自然な流れでオナニーするところだった。
今のはセーフなはずだ、触ってはいない。宣言したそばからこれでは先が思いやられる。とりあえずここから出た方がいいと判断し、パンツは買って出ることにした。
「お前はバカだ」
開口一番に言うことだろうか。そんなの自分でわかっている。
幼馴染に指定されたのはカラオケボックスで、既にいくつか料理がテーブルに並んでいた。ポテトを摘まみながら俺は反論する。
「そうだけど、今それ関係あるか?大事なのは袴田くんとセックス出来ることなんだけど」
「いやだからさ!それが無理だろって!半年使わなかったからって処女に戻るわけねーって!いや仮に戻ったとしてもよ、お前が半年の間セックスもオナニーもしないわけがないだろ!」
残念ながらその可能性はある。実際さっきオナニーしかけたのだ。
「……いや、出来るし」
「せめて即答しろ!やっぱ無理だろ?袴田もそれを見越して言ってんだよ、つまりお前とセックスするつもりなんてないんだって」
「でも」
「約束とか嘘だぜ。万が一お前が半年我慢できたとするだろ、でも袴田がそれでもまだ処女じゃないって言ったらそれで終わりだろ。また半年我慢しろとか言われたらお前、どうすんの」
確かに言われてみればそうだ。
最初は1ヶ月と言っていたが、3ヶ月でも足りないと判断され半年になった。多分俺がガバマンだから処女に戻るには時間が必要ってことなのだろう。
「それで処女になるなら、我慢する」
「あのな、締まりよくなるのが処女ってことじゃないんだ、未貫通っていうのが大事なの」
「でも袴田くんがいいって言ったらいいんだから、それは重要じゃないだろ」
幼馴染の言いたいことは、俺だって分かっている。それでも袴田くんの言う通りにするしかないのが現状だ。最終的に袴田くんとセックス出来るなら、俺は何でもやるつもりだ。そんな俺の決意が伝わったのか、幼馴染は説得を諦めたようだ。
「ああ、まぁそうね、はい、わかった、頑張って」
「拗ねんなよ、忠告ありがとな」
「醤油ラーメンと特上にぎり追加で。あとお前が半年もたない方に焼肉食べ放題1番高いコース」
「おい」
それから俺は真面目に生活した。
きちんと授業を受け、暇な時間がないようにバイトを始めた。ふとした瞬間にムラムラして仕方なかったが、今まで世話になったチンコ達を思い出して鎮めた。もう袴田くん以外の全てが俺を萎えさせるようになっていた。本当は袴田くんのことだけを考えていたいのに、そうするとムラムラしてしまう。その度に別のチンコを考えなければならない矛盾が腹立たしかった。
袴田くんのことはこっそり見守っていたが、相変わらず色んな男女とお付き合いがあった。俺が知る限りこの半年で5人は袴田くんに抱かれている。絶対俺が1番俺が袴田くんのことを好きなのに、と悔しくなった。しかし袴田くんにとっては、それよりも処女かどうかのほうが重要なのだ。
そしてその事実を思い知らされる度に俺の決意は固くなった。
おかげで順調に時は流れ、間も無く約束を果たす日がこようとしている。季節は流れ、袴田くんの服も厚手になり露出が減ったが何を着ててもかっこいい。スマホが新しくなっていて、俺もすぐに同じものに変えた。バイトしてて良かった、これも袴田くんのおかげだ。
「あ、塩谷君」
「ども」
いつものバスでこっそり袴田くんを見守っていたら、バイト先の先輩に声をかけられた。
「これから学校?」
「そっす。先輩このバス使ってましたっけ?」
「たまたまね、自転車壊れちゃって」
「あーそれは大変すね」
なんて世間話をしていたら、袴田くんが下りた。ああ、貴重な袴田くん摂取時間が削られてしまった。もう今日の楽しみは終わったので、イヤホンを取り出し音楽を流す。
「塩谷君さ、今度の休みっていつ?映画のチケットあるんだけど」
「あー、基本今勉強してるんで」
「偉いけど息抜き必要じゃない?」
「こないだしたんで、しばらく大丈夫すね」
この先輩は何かと俺を気にかけてくれるけど、正直ありがた迷惑だった。めちゃくちゃいい人だと思うけど袴田くん以外はまじで眼中にない。
もうすぐ約束の日といこともあり、なおさらだった。その事を思うだけでドキドキするのだ。多幸感に浸っていると、先輩が近づいて耳打ちしてきた。
「……噂で聞いたんだけど、塩谷君てエッチ上手なんでしょ?オレとしてくれない?」
テンションが一気に下がった。
めっきりご無沙汰なので忘れていたが、こういうヤツを見分けるのが俺は上手かったはずだ。袴田くんに夢中になるあまり鈍ったらしい。道理でやたら親切だと思った。
「俺、もうそういうのしてないっす」
「うそ、毎日違う人としてるんでしょ?」
「やめました、好きな人いるんで」
何をそんなに驚いているのだろう。俺がビッチだったのは約半年も前の話なのに。もしかしたらセフレの誰かが突然音信不通になった腹いせに吹聴して回ってるのかもしれない。
それがもし袴田くんの耳に入っていたら、俺は純潔を証明するのに手間取りそうだ。そうだったとしたら絶対許さない。
イライラを募らせながらバスを下りる。先輩も下りていたが、別に一緒に歩く義理はないのでさっさと学校へ向かう。
「塩谷君、ごめん!怒ったの?」
何か言いながら追いかけて来ているようだが、音楽に集中して知らないふりをする。袴田くんの時間を邪魔されたこともあり、先輩とは今後シフトをずらしてもらおうと考えていると腕を掴まれた。
「なんすか」
「話聞いてよ!」
近くの公園のトイレに引きずり込まれた。ものすごい力で、抵抗しても無駄だった。掴まれた腕が痺れている。先輩は必死の形相で俺を睨んだ。
「塩谷君ってオレのこと好きなんでしょ!なのになんでそんな態度なの、おかしいよ!」
「……は?」
「いつも1番最初に挨拶してくれるし、話しても笑ってくれるじゃん!男なのにって思ってたけど、噂聞いたからオレもいいかなって思ったのに!」
何を言っているのか全くわからない。
同じ国の言葉で間違いないはずなんだが、さっぱり意味が分からなかった。いい人どころかヤバい人だ。
「そういう態度なら優しくするのやめるからね!塩谷君が悪いからだよ!」
先輩はそう言って俺を壁に叩きつけた。火事場の馬鹿力というやつだろうか、相当お怒りのようだ。このままでは俺は手酷く犯されてしまうだろう。掴まれていた腕はもう感覚がなく、抵抗に使えそうにない。どうしたものかと思っていると、先輩が俺の服に手を力任せに引きちぎった。シャツのボタンが弾け飛び床を転がる。
「これで外は歩けないよね?でも大丈夫、着替えは用意してるよ。言うこと聞いてくれたらあげるね」
器物破損、犯罪だ。勉強して覚えたのだ、これも袴田くんのおかげ。なんて呑気にしている場合ではない。今すぐ逃げなければならないのに、退路が見当たらなかった。このまま犯されるのだけは本当に勘弁だ。袴田くん以外の人間とセックスなんて考えたくもない。
「塩谷君、そんな顔しないで、笑ってよ」
「じゃあこんなことしないで下さい」
「それは君のせいだろおお!」
殴られる。そう思って身構えたが、衝撃はいつまで経っても来なかった。恐る恐る目を開けてみると、先輩は床に寝そべっていた。
「未遂、だよな?」
「え、なんで……袴田くんが」
先輩の横には、袴田くんが立っていた。
手にはスタンガンのようなものを持っている。まさかそれを先輩に使ったのか。いやそれよりどうしてこんな所にいるんだろう。
「いいから来いよ。手当てしてやる」
「え、でも」
「あーもういいから黙ってついて来い」
袴田くんにそう言われて、従わない理由がない。
破られた服のままトイレから出ようとしたら、袴田くんが上着をかけてくれた。
「バカ、そんな格好見られたらマズイだろ」
「そうだよね、あ、ありがと……」
どうしてここにいるのかも不思議だけど、なんだかとても優しいのも不思議だ。ラブホで別れて以来の接触にドキドキが止まらない。上着から袴田くんが香って、抱き締められている気分になる。
どんどん先を歩いていく袴田くんについて行った先は、またしてもラブホだった。無言で進む袴田くんに何と話しかけたらいいか分からず沈黙が続く。
「座って」
部屋に入ってすぐ袴田くんは手当てをしてくれた。叩きつけられた時にできた小さなキズも、丁寧に消毒してくれた。
「腕、痛むか?他にもどこか痛い所は」
「ないない!腕ももう全然平気!ありがとう!」
袴田くんが側にいるだけで、痛みも苛立ちも何もかもが何処かへいってしまった。それどころかむしろ調子が良いくらいだ。今なら先輩をワンパン出来そうなくらいの無敵感すらある。
本当に俺の世界は袴田くんを中心に回っているのだ。
「袴田くんとまた話せてすっごい嬉しいよ」
「……そんな事よりさっきのアイツ、なに?もしかしてしょっちゅうあんな目に遭ってる?」
袴田くんの表情は険しい。もしかして心配してくれているのだろうか。
「バイト先の先輩、俺とセックスしたいんだって。断ったら襲ってきたけど……あんなのは初めてだよ。それよりどうして袴田くん助けてくれたの?」
「別に。歩いてたらお前が引きずられて行くのが見えたから」
「袴田くん、いつものバス停で降りたよね?あそこから歩いたの?遠いよ?」
「俺には俺の用事があんだよ」
そう言って立ち上がり、黙って俺を見つめる。俺も間近で見る久しぶりの袴田くんを目に焼き付けた。なんだか不機嫌そうだけど、ちょっと怖い雰囲気も格好よさを際立たせている。何をしても様になるなんて、さすが袴田くんだ。
うっとりしていると静かにベッドに押し倒された。
「……処女かどうか確かめてやるよ」
「え、でもまだ半年じゃな、あっ、」
俺の言葉は聞かず、袴田くんは俺の下半身を露出させた。膝下で衣服を留められ両足は揃ったまま固定される。その足を持ち上げられ俺のケツが露になると、袴田くんが顔を近づけていった。俺の視界は持ち上げられた両足で塞がっていて、実際には袴田くんが何をしているのかは見えない。けれど至近距離で観察されているのだけは確実だった。今まで感じたことのない羞恥心が込み上げてくる。
「うう……」
「へえ、見た目はだいぶ綺麗になったな」
「ぅううんっ」
ひた、と冷たい粘液を塗り込められた指に触れられた。フチをくるくると何度もなぞられ、だんだん熱を上げていく。久しぶりの感覚に声が出そうになるが、きっと処女は激しく喘いだりしないだろうと思い唇を噛んで我慢する。
「っ、ん、ぅ」
「キツいか?……辛かったら教えて」
ゆっくりと指が入ってきた。
あの袴田くんの美しい指が、と思うだけで興奮して息が荒くなる。袴田くんはどんな表情をしているんだろう。顔を見たいが俺の両足が邪魔だ。袴田くんの声はずっと優しくて、甘えても許される気がした。
「ぁ、袴田くん、顔、見せてほしい」
「ああ。そうだな、俺も見たい」
1度袴田くんが離れ、俺の両足を下ろし服を全て脱がせてくれた。腕やキズを庇うように慎重な手つきや真剣な眼差しが最高にかっこいい。そして俺の服の上に袴田くんの服が重なった。袴田くんも脱いだということは。
「もしかして抱いてくれるの」
「正直言うと、最初からずっとしたかった」
柔らかい唇が頬に落ちる。いつか見た、優しい瞳。
想像もしていなかった言葉に、感極まって泣きそうになる。
「俺のこと好きな子って視線で分かるから、郁人のことは結構前から気づいてた」
「うそ、すご……まじか」
「よくあることだし。そう、それで傘貸してくれた日の挙動は完全に処女だったし、あの日は会う約束してた女が生理で無理になったからちょうどいいと思った」
ああ、それで。来ないと思っていたのに来たし、やたら展開が早かったのも納得した。
「非処女に勃ったことないのに郁人だけは違ったから。こんなの初めてで混乱したよ……それでめちゃくちゃな事言ったのは、悪かったと思ってる」
「縦割れするくらい使い込んでるんだから相当ビッチでどうせすぐ他の男に股開くんだろうって思ってたけど、ちゃんと約束守ってる郁人を見て俺は考え直した」
「俺が処女を抱きたいのは、何も知らない状態で全部リードしてやって、違う世界を見せて新しいステージに立たせてやりたいっていうか……まぁ、俺のエゴだ。だから非処女に興味なかった」
「それは相手をちゃんと見てないって事だ。でもそれで良かった、同じ相手とは2度としないから。でも郁人のことは気になって仕方なかった」
「自分でも驚いたんだけど、俺って人を好きになったことなかったみたいだ。好きなのは処女を奪うことの、ただのヤリチンのマジでクズだけど……郁人の事は本気で好きだ」
袴田くんはずっと、俺から目を離さなかった。時々言いにくそうに目を臥せたりしたけど、全部本当のことを包み隠さず話してくれたと思う。
いつも自信満々で余裕があってクールでかっこいい袴田くんとは違う。言葉を選びながら一生懸命伝えようとする姿に、初めて可愛いと思った。
俺の中にまた知らない感情が溢れてくる。
「うん。俺も、セックスが好きなだけで人を好きになったことはなくて、袴田くんに会わなかったら多分ずっとそうだった。こんな気持ち初めてで、どうしたらいいのか分かんないけど、袴田くんが好き」
俺達は抱きしめあった。素肌がくっついて、温かくて、鼓動が心地よかった。セックスしなくてもこんなに満ち足りた気持ちになれるなんて知らなかった。でもこれはきっと、袴田くんじゃなきゃ分からなかったことだ。
袴田くんも同じ気持ちだと嬉しい、そう思って見つめていたら、優しく笑ってキスしてくれた。
キスなんて数えきれないほどしてきたけど、初めてしたかのようにドキドキして顔が熱くなった。
「郁人、真っ赤」
「袴田くんも」
「名前で呼んで」
呼ぼうとしたら、開けた口に舌を捩じ込まれた。触れあうだけでは得られない快感が急に押し寄せ、体が跳ね上がる。同時にアナルに指が入ってきた。
半年近く禁欲生活をしてきた身には強すぎる刺激だ。
口内を巧みに蹂躙され、アナルの中も拡げられ、呼吸をするだけで精一杯だった。剣護の指がイイトコロを掠め、すぐに俺の体は反応する。久しぶりといえど体はしっかり覚えていたようで、刺激される度にビクビクと内腿が震えた。もちろん剣護はそれを見逃さず執拗に攻め立てるものだからすぐにイきそうになってしまう。だが制止しようにも俺の舌は剣護にフェラされているし、手もいつの間にか俺の頭上でまとめて押さえられていた。
百戦錬磨の手管を垣間見た俺は半ば諦めて快感に身を委ねた。触られなくてもチンコは勃ってるし、それは剣護も同様だった。腹の上で擦れあうのが気持ちよくて、ぬるぬると逃げるチンコを追いかけるように腰を動かす。剣護も気持ちよくなっているのか一瞬動きが止まった。
「っはぁ、あぁ、剣護、待って、イっちゃう」
「ん、見せて、我慢出来なくなって出しちゃうとこ見たい」
「そんな、一緒がいい、のにぃ、いっ」
「うん、後でな」
ローションを足して剣護は俺のチンコをシゴき始めた。アナルにはもう指が3本入っていて、スムーズに抜き差し出来るようになり速度も早い。完全に射精させるための動きに耐えられるはずもなく、呆気なく俺は射精した。
尿道を通過していくのがわかるほど、粘度の高い精液が大量に出た。溜まりに溜まっていたのでしばらく放心していたように思う。その間も剣護は頭を撫でながら、精液を絞り出すように俺のチンコをシゴき続けていた。
「可愛かったよ、郁人」
スッキリはしたが、物足りない。
ケツがずっと疼いていて、早く突っ込んで欲しかった。剣護のチンコは反り返って我慢汁がダラダラなのに、顔は余裕を取り繕っているのが気に入らなかった。
「剣護も可愛いとこ見せて」
剣護のパンパンに張った亀頭を手のひらで撫で付けながら、カリを指でくすぐる。そのまま竿を包むように柔く握って、ひくつくアナルに押し当てた。
ぷちゅ、と我慢汁とローションが混ざる音がした。
「あ……ごめん、処女っぽくなかったね」
「郁人なら何でもいいよ」
「ぅあ、あああッ!」
深呼吸を1回した後、いきなり奥まで突き入れられた。開発済みの俺の中は久しぶりのチンコに歓喜し、易々と飲み込む。空いていた隙間がみっちりと埋められ、少しの間そのまま密着を堪能した。
「すご、ゆっくり挿れるつもりだったのに止められなかった……苦しくないか?」
「全然平気……それより緩くない?ちゃんと締まってる?」
「うん、すげーいいよ、処女よりいい」
「あは、良かった。じゃあいっぱいシようね」
最高だった。
好きな人に求められることが気持ちいいなんて、もっと早く知りたかった。半年分を取り戻すかのように俺達は愛し合った。
「はぁ、あ、すき、剣護、だいすきっ」
「ん、俺も、好き……すき、郁人が、好き」
それしか言葉が無くなったみたいに2人して言い合った。取り入れる空気も吐き出す息も何もかもが熱くて、もう体はとろけて1つになってしまったかのようだった。腰を打ち付けられる度に曖昧になった境界線を体液が滑っていく。お互いの声だけが道しるべになって、気を失わないでいられた。
もう何度も絶頂を迎えているのに、勢いが衰えるどころか増していく挿入が続く。出ていく水分なんて無くなってしまったくらいシーツはぐちゃぐちゃで、これ以上は狂ってしまいそうなほど快感が最高潮に達していた。
ドクドクと注がれる剣護の迸りで俺はまた絶頂する。数えるのは途中でやめた。
「お、あ、んああああっ……あ、ぁっふぁ……あ」
「ふ、ぅ、大丈夫か?はぁ、郁人……可愛い」
ずるりと引き抜かれた赤黒いチンコは白く濁った粘液にまみれて、俺のアナルから糸を引いていた。
剣護は脱力して動けない俺を抱き上げ、浴室に運んでくれた。お湯を張る間に口移しで水を飲ませてくれたが、ディープキスになりまた欲情してしまう。
「ん、もっと」
「ああ、ほんと可愛い」
しかし1度抱き締められただけで、水を手渡されてしまった。
「体調が万全の時にしような。久しぶりだったし疲れただろ、洗ってやるから寝てていいぞ」
どこまで神がかった男なんだろう。そう言われると一気に眠気が襲ってきた。暖かいシャワーと落ち着く剣護の匂いに瞼が重くなり、俺はたちまち意識を手放してしまった。
『じゃあ賭けは俺の勝ちだな。半年経つ前にセックスしたんだから』
「いやでも相手は剣護だよ!処女認定されたんだから無効だろ!」
「……何の話?」
幼馴染に逐一報告している俺の電話に剣護が怪訝な顔をしている。状況を把握できるわけないので当然かもしれないが、それにしては不機嫌すぎる気がする。
『あ、何近くにいんの?じゃあ聞いてくれよ、こいつが半年も我慢出来るわけない方に高級焼肉食べ放題一週間分賭けてたんだけど、負けを認めず無効とか言うから』
「しれっと変えるな!」
「随分仲がいいな。もしかして元セフレか?」
まさかの発言に俺と幼馴染は固まった。
剣護は至って真剣で、睨み付けるようにスマホに視線を送っている。
俺は意図を察して頬が緩んだが、幼馴染はドン引きしたらしい。
『あ、ありえねえ……こんなアバズレ幼馴染じゃなきゃ関わりたくもないっつの』
「幼馴染で家族みたいな付き合いしてて昔から世話焼きなだけだから!断じてない!」
多分、剣護は嫉妬している。
それが嬉しいと思ってしまうけど、誤解はして欲しくなかった。幼馴染の態度で多少は警戒を解いたようだが表情は険しい。
「……まぁいいけど。これからは何でも報告するのをやめろ。俺と郁人だけの秘密でいいだろ」
「え、うん、剣護がそうしたいなら」
『そうしてくれ、俺も助かる。じゃ焼肉楽しみにしてっからな!』
そう言って通話が切れてしまった。
いい逃げされたことに腹をたてていると、剣護が隣に座って俺を見つめる。
「俺、結構独占欲強いのかも。俺以外の人間に笑って欲しくない」
意外すぎる言葉に驚いた。
返す言葉が見つからず、驚きのまま見つめ返していると剣護の頬がじわじわ赤くなっていった。
「……あーはず……郁人のせいで俺じゃなくなってくみたいだ」
「大丈夫だよ、どんな剣護もかっこいいから!」
そう、俺の目には本人がどう思おうが、かっこいいパーフェクトヒューマンにしか映らない。そんな俺が他の人間になびくわけがないのだ。それでも唯一の友達である幼馴染だけは認めてほしくて、俺は食い下がった。
「あ、あとね、幼馴染なんだけど。俺のたった1人の友達で……できたら仲良くしてほしいんだ!俺と剣護はピッタリだって応援してくれてたんだよ、こんな俺を見捨てないし、いいやつだから」
剣護は黙って何かを考えているようだった。ダメだって言われたら、俺はどうしたらいいだろう。剣護が1番大切だけれど、幼馴染と2度と会うなと言われたら承諾はできない。空気が気まずくて緊張する。
しばらくして剣護は小さく呟いた。
「……わかった。それと焼肉、俺が奢ってやるよ。今から行けるか聞いてくれ」
「まじ!ありがとう!」
そして3人で卓を囲み、幼馴染はここぞとばかりに1番いい肉を頼みまくった。俺も大好きな人達と一緒にいられるのが嬉しくてずっと笑顔だったと思う。
剣護は幼馴染を質問攻めにしていてなかなか食べなかったのでその分も俺が食べた。
おかげでお腹がいっぱいで眠くなるという子供のような迷惑をかけることになり、剣護に連れられてお開きとなった。それでも楽しい食事会になって良かったと思う。剣護もずっと笑っていたので、幼馴染とも仲良くなれたはずだ。本当に良かった。
後で聞いた話だと、幼馴染は味がよく分からなかったらしい。高い肉を食べ慣れてないせいだろ、と剣護が笑った。
終
9
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