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第24話 安定しないメンタル
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水曜日。透子にとっては、本来なら午前中が常連さん宅で昼からフリーの日。
けれど今日は違う。柚月の希望で訪問日が火曜から水曜に変わっていたからだ。
目覚ましの音に反応する身体は重く、布団の中で数秒だけ迷いが生まれた。
(……休みたい)
そんな思いがよぎったのは、この仕事を始めてから初めてのことだった。
けれど、体調が悪いわけではない。理由も説明できない心の乱れで、業務を放棄するわけにはいかない。
いつも通りの身支度を整え、時間ぴったりに五十嵐さん宅へ到着する。
五十嵐さんは無口な男性客で、最初と最後に挨拶を交わすだけで、作業中に会話を求められることはない。だからこそ、今日はありがたかった。
掃除さえきちんとすれば、静かに仕事を終えられる——そう思っていた。
けれど、実際に手を動かし始めると、いつも以上に動作が早くなる。拭き掃除、掃き掃除、キッチンの水垢取り。手際が良いというより、何かから逃げるような勢いで、ただ無心に作業をこなす自分がいた。
気づけば作業は予定よりもかなり早く終わっていた。
時間制で動くこの仕事では、終了時刻までの時間を埋める必要がある。透子はふと、いつもなら手をつけない細かい場所に目を向けた。
引き戸のレール、冷蔵庫の裏の隙間。。普段は「そこまでは頼まれていない」と切り分けていた部分に、無意識のうちに手を伸ばしていた。
ひとつ、またひとつと丁寧にこなしていく作業は、まるで頭の中を空にするための儀式のようだった。
「終わりました。いつも通り、確認お願いします」
五十嵐さんが自室から顔を出し、一瞥して頷く。だが、いつものように「ありがとう」とだけ言う代わりに、今日は少しだけ首をかしげながら言葉を続けた。
「いつも以上にきれいにしてくれて嬉しいけど……なんか、今日は必死というか、いつもと雰囲気が違ったね。大丈夫?」
その言葉に、透子の手が止まる。
「いつも通りのつもりでしたが……ご心配おかけして、すみません」
言いながら、内心で冷たい汗が流れる。
自分では平常心を装っていたつもりだった。それでも、無意識の焦りや動揺が動きに出てしまっていたのだ。
五十嵐さんに軽く頭を下げて玄関を後にすると、風に当たった途端に身体から力が抜けた。
(失敗した……)
プロとして、こういう乱れは見せるべきではなかった。何より、自分でも気づかないうちに態度が変わっていたことが、情けなかった。
そして、思い当たる原因はただひとつだった。
このあと向かう、柚月の部屋。
知ってしまった。けれど、知らないふりをしなければならない。
そう決めたのに、心のどこかがざわついている。いつもと同じように、掃除をし、ご飯を作るだけ。それだけのはずなのに、ほんのわずかな期待や不安が入り交じってしまっている。
深く息を吸って、透子は足元を見た。
(切り替えよう。私は、家事代行員。何も変わっていない)
小さく声に出して、歩き出す。
気合を入れ直して向かうのは、いつものあのマンション。そして、いつものあの部屋だった。
けれど今日は違う。柚月の希望で訪問日が火曜から水曜に変わっていたからだ。
目覚ましの音に反応する身体は重く、布団の中で数秒だけ迷いが生まれた。
(……休みたい)
そんな思いがよぎったのは、この仕事を始めてから初めてのことだった。
けれど、体調が悪いわけではない。理由も説明できない心の乱れで、業務を放棄するわけにはいかない。
いつも通りの身支度を整え、時間ぴったりに五十嵐さん宅へ到着する。
五十嵐さんは無口な男性客で、最初と最後に挨拶を交わすだけで、作業中に会話を求められることはない。だからこそ、今日はありがたかった。
掃除さえきちんとすれば、静かに仕事を終えられる——そう思っていた。
けれど、実際に手を動かし始めると、いつも以上に動作が早くなる。拭き掃除、掃き掃除、キッチンの水垢取り。手際が良いというより、何かから逃げるような勢いで、ただ無心に作業をこなす自分がいた。
気づけば作業は予定よりもかなり早く終わっていた。
時間制で動くこの仕事では、終了時刻までの時間を埋める必要がある。透子はふと、いつもなら手をつけない細かい場所に目を向けた。
引き戸のレール、冷蔵庫の裏の隙間。。普段は「そこまでは頼まれていない」と切り分けていた部分に、無意識のうちに手を伸ばしていた。
ひとつ、またひとつと丁寧にこなしていく作業は、まるで頭の中を空にするための儀式のようだった。
「終わりました。いつも通り、確認お願いします」
五十嵐さんが自室から顔を出し、一瞥して頷く。だが、いつものように「ありがとう」とだけ言う代わりに、今日は少しだけ首をかしげながら言葉を続けた。
「いつも以上にきれいにしてくれて嬉しいけど……なんか、今日は必死というか、いつもと雰囲気が違ったね。大丈夫?」
その言葉に、透子の手が止まる。
「いつも通りのつもりでしたが……ご心配おかけして、すみません」
言いながら、内心で冷たい汗が流れる。
自分では平常心を装っていたつもりだった。それでも、無意識の焦りや動揺が動きに出てしまっていたのだ。
五十嵐さんに軽く頭を下げて玄関を後にすると、風に当たった途端に身体から力が抜けた。
(失敗した……)
プロとして、こういう乱れは見せるべきではなかった。何より、自分でも気づかないうちに態度が変わっていたことが、情けなかった。
そして、思い当たる原因はただひとつだった。
このあと向かう、柚月の部屋。
知ってしまった。けれど、知らないふりをしなければならない。
そう決めたのに、心のどこかがざわついている。いつもと同じように、掃除をし、ご飯を作るだけ。それだけのはずなのに、ほんのわずかな期待や不安が入り交じってしまっている。
深く息を吸って、透子は足元を見た。
(切り替えよう。私は、家事代行員。何も変わっていない)
小さく声に出して、歩き出す。
気合を入れ直して向かうのは、いつものあのマンション。そして、いつものあの部屋だった。
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