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松葉 弦奈 編
転生なんてお断り その1
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人は生まれることを選ぶ事が出来ない。生まれてくる時代を、国を、場所を、親を、そして生まれてくる事そのものを。誰一人として、そこに自由があった者などいない。
もし、選ぶことが許されていたのであれば。
私は、生まれたくなかった。
目の前は真っ暗だった。目蓋を閉じているのではないかと錯覚するが、自分の両の手は視認できる。
夢をみているような気分だ。こんな暗くて、静かで、落ち着くような場所。夢だとしか思えなかった。
「お目覚めですか?松葉 弦奈さん。」
背後から声が聞こえる。振り返ろうとすると頬がひんやりと冷たい感触をとらえ、私はようやく自分が床らしきものに寝そべっているのだと気がついた。
頭の角度を変えて上を見上げる。そこには、同い年くらいの女の子が綺麗な姿勢で立っていた。几帳面に切り揃えられたショートボブの髪と童顔が相まってか、スーツには着られている印象が拭えない。
「・・・誰?」
「申し遅れました。私は転生カンパニー所属転生請負人、巡谷と申します。
まずはこの度ご臨終なされた貴女にお悔やみを申し上げますと共に、今後の転生についてご案内するべく参上いたしました。」
そう言って巡谷は屈んで視線を揃え、名刺を差し出してくる。私は上体を起こして、それを受け取る体裁だけ見せた。
「・・・へぇ。転生ってことは私、死んだの。」
「はい。残念ながら。」
ぼんやりと記憶が戻ってくる。そういえば、車にでも轢かれた気が・・・
その瞬間、私を強い吐き気が襲った。
「大丈夫ですか?ここにお水もありますから、喉の違和感がある程度とれたら、これで口をすすいでください。」
「・・・ありがと。」
「気にしないでくださいね。事故死の方には、その・・・特によくある事なので。」
呼吸は落ち着いてきたが、頭の中はまだゴチャゴチャしていた。
死んだこと自体にも動揺していたが、私がここまで自分の死に対してショックを受けていることに狼狽した。
その戸惑いを吐き棄てるように、巡谷から水を受け取り口をすすいだ。
「・・・えっと、それで。転生、だっけ?」
「ええ。死後の選択の1つです。万物はその形質を保つ為に、須らく世界を循環する理になっています。生命もまた同様に循環するために、転生というシステムが存在して」
「しない。」
「・・・えっ?」
巡谷の表情が笑顔のまま固まる。ここまで良くしてもらっておいて少し申し訳なくなるが、私の選択は、変わらない。
「私は、転生なんてしない。」
「あ、あの、でも・・・」
予想外だったのか、私を見たり天を仰いだりしながらアタフタとしている。そして、しばらくして咳払いで自分を落ち着かせていた。
「え、えっと。少し待っててくださいね。転生をお断りされる場合の対応が少し特殊で・・・」
どうやら異例だったようだ。どこかに駆けて行って、そのまま巡谷は闇に消えてしまった。
こんな反応をされるということは、みんな再び生まれることを望んだのだろうか。改めて自分のような例が特殊だと言われると、さらに心に決めていたソレが重たくのしかかる。
別に、人生が嫌なわけではない。死にたがっていたわけでも、生きていくことが嫌いなわけでもない。
私は、ただ生まれたくないのだ。二度と。
体育座りをして、膝に頭を埋めて考え込んでいると、不意に声が聞こえた。
「あら、あなたね?転生お断りの子っていうのは。」
ふと顔をあげると、そこにはオカマがいた。
長身で肩ほどまでありそうな髪を結んでいるオネエさん。不思議なことに、パッと見ただけで男だと分かったのに、よく見てみると女性らしさが滲み出て来る。
「・・・何者?」
「オネエさんは尾花。さっきの子の先輩、みたいなものかしら。はい、これ名刺。」
何故言い淀んだのかはさておき、似たような名刺を差し出したということは似たような存在のようだ。
どうしても転生させたいのだろう。おそらくこの人物は私を説得するつもりだ。
「何度も言うけど、私は・・・」
「分かってるわ。生まれたくない、でしょ?
私はそういう子の為にここで働いてるの。名刺読んでみて?」
先ほど受け取った名刺に、改めてよく目を通す。
『転生カンパニー日本支部終点相談課心理カウンセラー 尾花 猛』
「私は貴女向けよ、弦奈ちゃん。タケちゃん、って呼んでね。」
もし、選ぶことが許されていたのであれば。
私は、生まれたくなかった。
目の前は真っ暗だった。目蓋を閉じているのではないかと錯覚するが、自分の両の手は視認できる。
夢をみているような気分だ。こんな暗くて、静かで、落ち着くような場所。夢だとしか思えなかった。
「お目覚めですか?松葉 弦奈さん。」
背後から声が聞こえる。振り返ろうとすると頬がひんやりと冷たい感触をとらえ、私はようやく自分が床らしきものに寝そべっているのだと気がついた。
頭の角度を変えて上を見上げる。そこには、同い年くらいの女の子が綺麗な姿勢で立っていた。几帳面に切り揃えられたショートボブの髪と童顔が相まってか、スーツには着られている印象が拭えない。
「・・・誰?」
「申し遅れました。私は転生カンパニー所属転生請負人、巡谷と申します。
まずはこの度ご臨終なされた貴女にお悔やみを申し上げますと共に、今後の転生についてご案内するべく参上いたしました。」
そう言って巡谷は屈んで視線を揃え、名刺を差し出してくる。私は上体を起こして、それを受け取る体裁だけ見せた。
「・・・へぇ。転生ってことは私、死んだの。」
「はい。残念ながら。」
ぼんやりと記憶が戻ってくる。そういえば、車にでも轢かれた気が・・・
その瞬間、私を強い吐き気が襲った。
「大丈夫ですか?ここにお水もありますから、喉の違和感がある程度とれたら、これで口をすすいでください。」
「・・・ありがと。」
「気にしないでくださいね。事故死の方には、その・・・特によくある事なので。」
呼吸は落ち着いてきたが、頭の中はまだゴチャゴチャしていた。
死んだこと自体にも動揺していたが、私がここまで自分の死に対してショックを受けていることに狼狽した。
その戸惑いを吐き棄てるように、巡谷から水を受け取り口をすすいだ。
「・・・えっと、それで。転生、だっけ?」
「ええ。死後の選択の1つです。万物はその形質を保つ為に、須らく世界を循環する理になっています。生命もまた同様に循環するために、転生というシステムが存在して」
「しない。」
「・・・えっ?」
巡谷の表情が笑顔のまま固まる。ここまで良くしてもらっておいて少し申し訳なくなるが、私の選択は、変わらない。
「私は、転生なんてしない。」
「あ、あの、でも・・・」
予想外だったのか、私を見たり天を仰いだりしながらアタフタとしている。そして、しばらくして咳払いで自分を落ち着かせていた。
「え、えっと。少し待っててくださいね。転生をお断りされる場合の対応が少し特殊で・・・」
どうやら異例だったようだ。どこかに駆けて行って、そのまま巡谷は闇に消えてしまった。
こんな反応をされるということは、みんな再び生まれることを望んだのだろうか。改めて自分のような例が特殊だと言われると、さらに心に決めていたソレが重たくのしかかる。
別に、人生が嫌なわけではない。死にたがっていたわけでも、生きていくことが嫌いなわけでもない。
私は、ただ生まれたくないのだ。二度と。
体育座りをして、膝に頭を埋めて考え込んでいると、不意に声が聞こえた。
「あら、あなたね?転生お断りの子っていうのは。」
ふと顔をあげると、そこにはオカマがいた。
長身で肩ほどまでありそうな髪を結んでいるオネエさん。不思議なことに、パッと見ただけで男だと分かったのに、よく見てみると女性らしさが滲み出て来る。
「・・・何者?」
「オネエさんは尾花。さっきの子の先輩、みたいなものかしら。はい、これ名刺。」
何故言い淀んだのかはさておき、似たような名刺を差し出したということは似たような存在のようだ。
どうしても転生させたいのだろう。おそらくこの人物は私を説得するつもりだ。
「何度も言うけど、私は・・・」
「分かってるわ。生まれたくない、でしょ?
私はそういう子の為にここで働いてるの。名刺読んでみて?」
先ほど受け取った名刺に、改めてよく目を通す。
『転生カンパニー日本支部終点相談課心理カウンセラー 尾花 猛』
「私は貴女向けよ、弦奈ちゃん。タケちゃん、って呼んでね。」
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