異世界転生カンパニー

チベ アキラ

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松葉 弦奈 編

転生なんてお断り その2

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「おっつかっれちゃ~ん、って、あら。今日はトモヤンひとり?」
尾花がシックな扉を開けた先には、オシャレなカフェのような空間が広がっていた。
カウンター席にはくたびれた壮年の男性が新聞を広げて煙草を咥えている。私たちの姿に気づくと軽く手を振った。
「おう、タケちゃん。」
まるでカフェやバーにいる馴染みの客のようだ。尾花は私を出入り口に置き去りにして、スイスイとカウンターの奥に吸い込まれていった。
「いつもの」
「はいはい。ちょっと待ってね。」
「もう20分も待ったっての。」
軽快なやりとりをしながらも、尾花の手は忙しなく動いている。何の説明もなく連れてこられ、私はやる事もなく立ち尽くした。
「ところで、そこのお嬢さんは何やってるんだ?こういうところ初めてか?」
トモヤンと呼ばれていた男に声をかけられて、私は我に帰る。しかし帰ったところで、何をしていいのか分からないのは事実だった。
「あぁ、ゴメンなさいね。座って座って。」
エプロンで濡れた手を拭きながら、尾花は私の背後に立ち背中を押す。促されるままに、カウンターの真ん中の席に座った。
「それで、ここで何をすれば良いの?」
「そうねぇ・・・コーヒー飲む、とか?」
「煙草を吸う、とか?」
顔を見合わせ首を傾げる男共。聞けば聞くほどこの空間の意味が分からなくなる。
私は今から何をさせられるのだろうか。転生を強制させるなら強制して、そうじゃないなら天国なり地獄なりに行かせて。とにかく、早く自分がどうなるかを知りたかった。無論、強制されても転生には抵抗するつもりだが。
「転生しない為の手続きがどうとか言っていたじゃない。どうしてそれを始めないの?」
「あら、それなら半分はもう終わらせたわ。」
「はっ?」
「転生したくない人は転生課の管轄じゃなくなっちゃうから、念のためその真意と心変わりがないかどうかを確認して、更に終末課が魂を終着に案内して・・・って、色々やんなきゃいけない事があってね。今はその色々の最中なの。」
「・・・そう。」
このオカマに会ってから困惑してばかりだ。妙に話が早い。イライラするはずなのに、落ち着く。
不思議な男?だ。
生前あれほど嫌いだったタバコの臭いも不快にならない。興味の無かった音楽も、聴いていて心地よい。
「とりあえず、結構な期間暇になるから、それまでは前の人生で出来なかった事とか、転生してまでじゃないけどやってみたかった事とかをして時間を過ごすのよ。あとは、誰にも言えなかった弱音、とかね。」
付け足されたように投げかけられたそのひと言に、心臓を射抜かれたような気分になった。一瞬、私の時間が止まる。
私が誰にも言わなかった秘密を、この人は知っているのだろうか。
私が溜め込んでいたことを、この人は気づいていたのだろうか。
生きている間必死に抑え込んでいた言葉が、喉を突いて今にも溢れ出しそうになる。それを止めるように呼吸が止まった。
止めた。耐えきった。何に歯向かっているわけでも無いのに、妙な達成感に似た感情が湧き立ち始める。
そんな私を嘲笑うかのように、
涙が一滴、私の頬を裂いた。
「・・・弱、音・・・・・・?」
「そうよ。それを聞くために、私が居るんだから。さあ、ご注文は?」
不意に溢れたひと粒に、私の忍耐力は負けた。
尾花のひと言が後押しするかのように、私が押し留めた言葉は水になり、戸惑う私の瞳を撫でて頬を伝う。
「いい、の・・・?」
止まって。
「話して、いいの・・・?」
止まって。
「めんどい、よ・・・?」
止まれ。
「私の、話なんか・・・」
止まれよ。
「誰も・・・
・・・聞きたくない・・・よ・・・」
止まってよ。お願いだから。誰も聞かないで。
「おいおい、そこまで勿体ぶられたら余計に気になるじゃねぇかお嬢さん。」
「そうそう、ここの連中はどんな話も受け入れてあげられるほど・・・『暇してる』のよ。」
言わないで。
「・・・辛・・・かった・・・ずっと・・・言っちゃ、ダメって・・・思ってた、から・・・」
言っちゃ、泣いちゃ、ダメ。


「ねぇ、パパ。どうしてツルナには、
ママがいないの?」
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