こちらモノノ怪捜査局~あやかし事件はお任せあれ!~

由希

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第1章 狼男が鳴く夜に

第12話 美沙緒の初仕事

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「そういえば、ウチって警視庁に堂々と出入りして大丈夫なんですか?」

 人生二度目になる警視庁の入口前で、ウチは白川さんに聞いた。この前は気絶してる間に運び込まれたし、帰りはまだ若干混乱してたから、そんな事を気にする余裕はなかった。

「ああ、大丈夫。僕らは一般の警察官には認識されてないからね」
「???」

 すると返ってきたのは要領を得ない返事で。訳も解らずキョトンとするウチに、白川さんは続けた。

「うちの課長、ぬらりひょんだって言ったでしょ? 課長の能力は他人に存在を認識されなくなるってものなんだけど、それって他人にも使う事が出来る訳。だから一般の警察官は、ユーレイ課うちの事は知らないの」
「ハァ……便利なもんですねぇ……」

 説明に一瞬感心したけど、よく考えたら、それって悪用したらかなりヤバい能力なんじゃない? ……課長が善人である事を信じるしかないよね、これ。

「ああ、心配しなくても、課長は大の愛妻家だから毛虫ちゃんの着替えを覗いたりしないよ?」
「誰がそんな心配してますかっ!?」

 そんなウチの懸念を知ってか知らずか相変わらずのデリカシーの無さを発揮する白川さんに、ウチが盛大にツッコんだのは言うまでもない。


「あら、美沙緒ちゃん来てくれたのね。いらっしゃい」

 ユーレイ課の中に入ると、ウチ達に気付いた『百目』の広瀬ひろせひとみさんが声をかけてくれた。ウチは瞳さんに、頭を下げて挨拶する。
 ハァー……やっぱり瞳さんは癒しだなぁ。美人だし優しいし。今隣にいるこの似非イケメンとは大違い!

「いつまでもそんな所で突っ立ってないで、協力しに来たならさっさと協力して下さい。時間は有限なので」

 瞳さんの優しさに浸っていたウチに辛辣な言葉を投げかけるのは、自分のデスクでパソコンとにらめっこしてる小柄な女の子、『サトリ』の野中のなか小詠こよみさん。見た目はおかっぱ頭に眼鏡をかけた中学生だけど、こう見えてウチより三つ年上らしい。

「……ウッス」

 最後に『狛犬』の戌井いぬいいわおさんが、言葉少なに軽い会釈をする。戌井さんは二メートル近い身長にコワモテフェイスと威圧感バリバリだけど、こう見えて人見知りらしくウチはまだ殆ど言葉を交わした事はない。

 以上三名に白川さんと、姿が見えないだけで今も多分どこかにいるんだと思う只居課長を合わせた計五名。これがユーレイ課の全所属者だ。正直課としては、随分と少数での構成だと思う。

「美沙緒ちゃんが協力を承諾してくれて、本当に助かるわ。初日から大変だと思うけど、あまり無理はしないようにね」
「だーい丈夫ですって。ちょちょいのちょいで終わらせます!」
「え……協力の内容は聞いてるわよね?」
「? 怪しそうな人物の似顔絵を描くんですよね?」

 不思議に思って問い返すと、瞳さんは軽く白川さんを睨み付けた。……一体どうしたんだろう?

「まぁまぁ、もうこうして来ちゃったんだからしょうがないじゃない。瞳さん、写真ヨロシク」
「全く、本当にあなたって人は……。美沙緒ちゃん、協力の内容に間違いはないわ。だけど……いえ、見て貰う方が早いわね。ちょっとソファーに掛けて待っててね」

 言われた通りにソファーに腰掛けながら、デスクに向かう瞳さんを見送る。白川さんは何故か、さっきからずっとニコニコし通しだ。
 そして、間も無く戻って来た瞳さんが抱えているものを見て――ウチは仰天した。

「はい、これが今回描いて貰う……月夜野つきよの物産の全社員・・・の顔写真ファイル」

 そう言って、瞳さんがウチの目の前に持っていた分厚いファイルを置く。思わず冷や汗が流れるのが、自分で解った。
 一縷の望みに縋って、ファイルを手に取りパラパラと捲ってみる。けど案の定、どのページにも写真がズラリと並んでいた。

「これ……全部描くんですか?」
「うん。お願いね」
「だって怪しい人だけって言いましたよね!?」
「確たる証拠がない以上、社員全員が容疑者みたいなものだねぇ」

 ……やられたあああああ! 白川さんはウチを逃がさない為に、わざと必要な部分をぼかして伝えたんだ!
 心なしかより一層笑みを深めたように見える白川さんを、涙目で睨み付ける。この人、いやこのモノノ怪、とこっとん性格悪い!

「じゃあ僕はランチ取ってくるから。サボっちゃ駄目だよ、毛虫ちゃん」
「~~~っ、この人でなしいいいいいっ!!」

 叫んでみても後の祭り。ウチを恨みを込めて、去っていく白川さんを見送ったのだった。
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