【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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62 死闘のあとの、穏やかなひと時(上)

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――カイルside――


早朝、リディアから解呪薬を貰った。
まるで『恋人になったお祝いに』なんて事かと思ったが、どうやら違う様だ。


「早く飲んでくださいませ!」
「いや、飲むけど、飲むけれど! 何でそんなに必死なんだ? そんなに魔付きの俺は嫌いか?」
「嫌いだったら付き合ってませんわ!」
「そうだったらいいけど……」


何となく腑に落ちないものの、リディアが必死に作ってくれた解呪薬だ。
愛は沢山詰まっているに違いない。
そう思い、一気に飲み干すと体から光が溢れて……鱗だらけだった腕も背中も、綺麗に元の人間の姿に戻ることが出来た。


「流石リディアの解除薬だな!」
「良かったわ! これでブラックカイルは封印されましたのね!」
「ブラ……え?」
「黒いカイルをブラックカイルと呼んでますの。何時ものホワイトカイルの方がわたくしの心臓にも心にも優しいんですのよ?」
「へぇ……」
「きっと魔付きだったが故にブラックカイルになっていたのですわ……。これでもうホワイトカイルしか……カイル?」
「俺はな? リディア。ホワイトもブラックも両方持ったカイルなんだ」
「え?」
「両方の俺を好きになって貰う様に、此れからドンドン押していくから覚悟しろよな?」
「ひえ……」


どうやら、俺が黒くなるのは魔付きだったからだと思っていたらしい。
んな訳があるか!!
絶対にリディアの心にも身体にも、ブラックな俺もホワイトな俺も愛せるように躾てやるからな……。



そんな朝のやり取りがあり、更にサーシャとノマージュから大量の『ひんやり肌着』を各種サイズを取り揃えて渡された時はどうしたものかと思ったが、彼女たちの血走った眼を見ると、受け取っていい売り上げを報告するしかない。
ついでに残暑厳しいこの時期だ。
俺とカイル、ロキシーは一枚ずつ『ひんやり肌着』を着て仕事をすることにして、感想を客に教える事にした。

二人が用意した『ひんやり肌着』は真っ白で、子供用の肌着も用意されていた。
ただし、子供用に関しては乳児への使用はさせない様にと言う注意書きもされており、安全面を考えてくれたんだろうと言うのは理解出来た。
これは買ってくれる客には伝えるべきだろう。

早速店に行った俺とライトとロキシーは、売り場に大々的に『ひんやり肌着』専用の売り場を作った。
すると、立ち寄る客のほぼ全てが、『ひんやり肌着』を購入していく。


「暑い時期に欲しかったが、残暑厳しい今でも十分活躍してくれそうだ」
「有難うございます。俺達店員も着ているんですが、実際涼しく感じますよ」
「そいつは良い!」
「大人の汗疹対策にも良いかもしれないな」
「また、冬には着れば温かく感じる『ほっかり肌着』も販売しますので、是非そちらもお楽しみにして頂けると幸いです」


情報も小出ししつつ、にこやかに対応していると、やはり現れるのは大人買いの客だ。
だが、道具店サルビアでは大人買いを拒否することは殆どしない。
何故なら、様子を見ているリディアが肌着を追加に作ってくれることが分かっているからだ。
他の店への転売は許す事は出来ないが、そう言う場合はお断りさせてもらっている。
ただし、騎士団が大量に買いたいと言う場合は許可を出している為、問題はない。

ドッサリ購入し減ったかと思えば、ライトがドッサリと追加商品を持ってくる。
こうして、欲しい客が必ず買えるようにしているのも、道具店サルビアの良い所だ。


「道具店サルビアの商品でハズレはないからね」
「一枚だって手に取れば、絶対に良いモノだってわかるからねぇ」
「女性用も子供用も多いのが嬉しいわ。肌着は女性も子供も使うから」
「お年寄りだと、暑さ寒さを感じにくくなって熱中症になる人も多いから、こういうのは本当に助かるわ」


女性客からも嬉しい言葉を聞けてホッとする。
女性客も冒険者や男性に負けまいと肌着を手にし、子持ちの客は自分の子供用にと沢山買って行く。
そう、沢山買えるように、子供用に関しては値段を随分と押さえて販売した。
これはロキシーからの要望だったが、やはり女性視点で販売価格を考えてくれるのは助かる。
俺だってリディアとそのうち結婚なんかして、子供が生まれたら、過ごしやすい服装で過ごして欲しいと思うしな。
……流石に飛躍しすぎか。
つい昨日のリディアの上半身を思い出してムズっとしてしまったが、大きく深呼吸して商売に力を入れることにした。
すると――。


「所で店主」
「はい、何でしょう」
「雪の園のメンバーと朝の露のメンバーがさっき、帰還したらしい」
「――本当ですか!?」
「ああ! 随分と装備はボロボロになっていたが、皆無事だ! しかも五体満足、本当に良かったよな!」
「そいつはめでたいな! 無事にあのメンバーが帰ってくるとは思ってなかったが……きっと日頃の行いが良かったんだろう」
「これでSランク冒険者に昇進か? 凄いな雪の園と朝の露メンバーは!」
「まぁ、紅蓮の華がダメダメ軍団だったからな。これでまともなSランク冒険者が誕生だ」
「今日は祝い酒が飲めそうだぜ!」


そう言って無事を喜ぶ冒険者達に交じって、俺は涙が溢れそうになった。
……良かった。
レイスさん達は無事に帰還できたんだな……それも五体満足でっ!


「なんだ店主! 涙が出る程嬉しいのか? そうだよな、命がけの戦いだったんだ。応援してたんだろう?」
「ええ……。本当に皆さんが無事に帰還出来て、本当に嬉しいです!! 早くお帰りなさいって言いたいです!」


心の底から素直な言葉を告げると、冒険者の方々は驚いた様子で俺を見ていた。
そして、何処か照れ臭そうに笑っているのは何故だろうか。


「お帰りなさい……か。俺達も雪の園のメンバーと朝の露のメンバーを見つけたら言わないとな」
「そうだな、お帰りくらいはいってやらねーと」
「頑張ったなって言うのも忘れんなよ!」
「そうだったな!!」
「雪の園と朝の露は俺達冒険者の誇りだぜ!」


盛り上がる冒険者と一緒に、一般市民の皆もお祝いムードになってきた。
無事にダンジョンを鎮静化させ、命の危険を顧みず、国の為に戦った冒険者。
それは最早、英雄と言っても過言ではないんだ。
でも、英雄でも何でもいい。
無事に帰還してくれたことが、何より嬉しいのだから。

きっと、夜は雪の園のメンバーが揃って店に訪れるだろう。
アイテムボックスには秘蔵の紅茶に、料理スキルの高い箱庭で働くメンバーが作った秘蔵のチョコレートにバタークッキーも沢山入っている。
早く彼らにお帰りを言いたいと切に思った。


そしてその夜。
店が閉店すると同時に現われたのは、ボロボロの装備をそのままにやってきた雪の園のメンバーと、朝の露のメンバーだった。
皆疲れた様子だったが、俺は笑顔で真っ先に口にする。


「お帰りなさい!! 皆さんの無事が確認できて嬉しいです!!」
「ありがとうカイル。王様への謁見が終わった後、沢山の冒険者や市民達から同じようにお帰りと沢山言われたよ。こんなに嬉しいことは無い」
「ただいまカイル」
「ただいま」
「お帰りなさい、ナナノさんにハスノさん。ちゃんと準備していますよ」
「「お菓子きた!!」」


慌てた様子で店内に駆け込むナナノとハスノを見送り、レイスさんが紹介したのは朝の露のメンバーの人たちだ。
リーダーのイルノさん、弓士のハーレスさん、そして時魔導師のジュノさん。
彼らにも向き合うと、俺は笑顔で口にする。


「朝の露の皆さんも、お帰りなさいませ!」
「「「―――っ」」」


途端、ボロボロと涙を零し始めた三人に、俺はギョッとした。
だが、レイスさんが三人の肩を叩くと、涙をそのままに店に入ってきた為、何時もの商談スペースに更に椅子を用意し、皆で座れるようにしたのだ。
涙を何度拭っても溢れるのか、リディアが作ったタオルを三人に渡すと、目元にタオルを置いて嗚咽を零していた。
一体何があったのだろうかと心配になりながらも、リディアの秘蔵の紅茶を淹れて持っていく。


「どうぞ、秘蔵の紅茶を飲んで落ち着いてください」
「これが」
「秘蔵の紅茶」
「特別ですよ?」


そう言って微笑みつつ、机にチョコレートとバタークッキーを広げると、ナナノとハスノは嬉しそうな声を上げて一つずつ口に入れると、声にならない嬉しさが聞こえてくる。


「なんて濃厚なチョコレートッ!」
「なんて美味しいバタークッキー!」
「甘いお菓子にも紅茶はあいますよ」
「「いただきます!」」


そう言うと二人は紅茶を飲んだ途端、椅子からガタリと立ち上がりレイスさんが驚いていた。


「どうしたんだ二人とも」
「「……飲んだらわかる。これは私たちが今すぐ飲むべきもの」」
「だそうだよ、イルノ達も飲みなさい」
「ああ……」
「頂きます」
「有難うございます」


タオルで目元を拭い、紅茶を皆さんが飲んだ瞬間、目を見開きお互いに顔を見合わせているのが分かる。
それもそうだろう。
これは秘蔵中の秘蔵の紅茶……。

リディアが編み出した――『疲労回復効果抜群なリラックス紅茶』なのだから。


「これは……」
「凄いな……」
「身体の今までの緊張がほぐれます……」
「ああ、私たちは随分と緊張を保ったままだったようだな」
「「この紅茶、売って欲しい」」
「売り物ではありませんが、実は私の彼女から雪の園の皆さんと、朝の露の皆さんにと、一缶ずつご用意させて頂いてます」
「「「「素晴らしい彼女ですね!!」」」」」
「自慢の彼女ですよ」


そう言って微笑むと、ようやく皆さんは緊張が解れて何時も通りの様子に戻った様だ。
一口でこの効果。流石リディアの秘蔵紅茶だなと思った。


「皆さんが無事に戻ってきてくださったことが何よりも嬉しいです。アイテムは役に立ちましたか?」
「ああ、それはもう本当に」
「アイテムが無ければ俺たちは皆死んでいただろう」
「心より、道具店サルビアに感謝を」
「そして、アイテムを用意してくださった貴方の彼女に感謝を致します」
「有難うございます。それで、一体どんな戦いだったんですか? 無理に聞こうとは思いませんが」
「ああ、簡単になら話せる。今から話してもいいかな?」
「ええ、勿論です」


そう言うと、皆さんはお菓子を摘みながら、サラマンダーとの邂逅を話してくれた。


「あれは本当に」
「命がけの戦いだった」


そう言って始まった話に、俺は目を見開くことになる――。

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