【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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175 薬師協会最後の日。(下)

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――カイルside――


「――何とかしてくれカイル様!」


そう元薬師協会会長が叫んだ時、俺は大きな溜息を吐いた。
何も知らないんだな。本当に何も。
自分たちがどれだけの人数の人を殺したのか。
どれだけの子供を殺してきたのか。
そう思うと頭が自然と冷静になり、気が付けば口から言葉が洩れていた。


「お前たちの所為で、どれだけの人が、子供が死んだか知っているか?」


その問いに、周りはザワザワとし「一体何のことだ?」と全く知らないようだった。
隣のドミノは歯を食いしばり、拳を握りしめ怒りに震えている……ドミノは知っているのだ。
彼らの所為でどれだけの人数の人々が苦しみ、そして嘆いて死んでいったのかを。


「老いた老人が咳止めを貰いに行き、貰った薬が違っていた事もあったそうだな」
「それは私どもの手違いでは、」
「高熱を出してグッタリとした赤子を目にして、手遅れだから葬儀屋を呼べと言ったそうだな」
「それは本当に我々では、」
「そう、お前たちの薬師レベルでは助からない命も、多くいた事だろう。だからこそ薬局は薬師スキルレベル30からと規定が決まっていたのを、何故お前達が知らないんだ? 知っていてやっていたのか?」


その問いに、皆が目を伏せた。
知っていたに決まっている。
助けられなくとも金さえ入ればと言う考えが強かったのさえ俺でも伝わったのだから。


「調べれば調べる程、お前たちからは死亡者数の数が零れ落ちる。命があるとは思うなよ」
「そんな……」
「ですが私たちは必死にスキルを上げていました!」
「一日何時間上げていたんだ?」
「一時間もです!」
「ドミノ、君はスキル上げにいつも何時間かける」
「そうっすね、朝10時から夜18時まではスキルを上げながら薬を作ります。というか、それが当たり前でしょう?」
「その当たり前が出来てない輩がここに大勢いるようだな。一時間しかスキル上げをしてないなんて話にならない」
「あ……」
「殺人罪に適用されるな」
「お、お待ちください!!」
「薬師の心得を取得している者たちもいなさそうだ」
「【金を稼ぐより命を繋げ】。っすね。それを知らない奴らばかりですよ本当。腐ってる」
「ましてや、薬師協会会長の薬師スキルは14らしいぞ」
「マジですか……ありえねぇ。見習いより低いじゃないですか。見習い以下が上でのさばってたんですね」
「そう言う事になるな」
「――ふざけるな! ワシは、ワシは!!」
「命より金が欲しかったんですぅ~って言いたいんすか? その顔見たら分かりますよ」
「――っ!」


ドミノの煽りに、薬師協会の元会長は顔を真っ赤にして震えている。
他の奴らもだ。自分たちに適用されるのが殺人罪だと知ったからだろう。


「先に言っておくが、此処に入れられた元薬師たちは全員死刑が決まっている。志を変えることができそうにないと判断したためだ」
「調査員には嘘を見抜く力を持った調査員を派遣して貰ったんですよ。本当に変わろうとしている薬師たちは此処には入れられてませんから安心してお亡くなり下さい」
「嘘に嘘を塗りたくって命を殺し続けた末路だ。庇護のしようもない」
「ではワシ等は全員……死ぬのか?」
「死なないとでも思ったのか? 助かるとでも? 人の命は尊まれるべきものなのに、それをしてこなかった奴らが、自分たちの命は尊いと言いたいのか?」
「それは……」
「助かるべき命を見殺しにしてきた貴様たちに、自分たちは助かるべきだと言えるのか?」


そう口にすると、全員が口を閉じ言葉を無くした。
彼らは金が欲しかった。
スキルよりも、民が助かるよりも、自分たちのスキルを上げなくても、金さえ入ればそれでよかった。
だがそれは、上にバレてしまえば元も子もない諸刃の剣だったのは確かだ。
そして、それがバレてしまった……もっと早くに調査するべき事だったと俺は後悔している。


「……ワシ等は斬首刑ですか?」
「斬首刑にはしない」
「では、どのようにして死ぬのですか?」
「広場に貴様たちを磔にして、領民から石を投げつけて貰う。貴様たちを恨んでいる親や家族は多いだろうからな」
「俺達薬師はアンタ達の傷なんて癒しませんよ。寒空の下で磔にされて、痛みと寒さと苦痛の中で死んでいくんです。お似合いの死に方だろ?」
「今の時期は寒さで死体が腐る事も早々ない。死後三日は放置する」
「そんな……」
「あああ……あんまりだ」
「お前たちの家族には、それ相応の罰を与える。家族も無事でいられるとは思わない事だ」
「そんな!!」
「俺の妻は妊娠してるんです! それなのに罰を与えるんですか!」
「罪人の家族と言うのは、まともに生きられる者はそういない」
「そんな……」
「だが生まれる子供にまでその業を背負わせるつもりは無い。生まれたら箱庭で保護してやろう。母親は知らないがな」
「アンタ達がして来たことは、この業と同じことだよ。子供の命があるだけまだマシだ」


ドミノの言葉に家族を持つ男たちは膝から崩れ落ち、全ての発端となった元協会会長の前に立つと、俺はジッと見つめてから口を開く。


「元協会会長の家は伯爵家だったな。残念だがお前の家は取り潰しが決まっている」
「なっ!!」
「そして、成人していない子供を除いて全員強制労働だ。お前の罪は重いぞ」
「待ってください! そんなのはあんまりだ!」
「もう決まった事だ。嘆くなら自分のしたことを嘆けばいい」


そう言うと俺とドミノは最早この牢に用はなく、地下牢を後にした。
すすり泣く声が聞こえたが知った事ではない。
多くの民の命を奪った罪は重く、これから先、薬師協会を立て直すためにはかなりの梃入れが必要だろう。


「ドミノ、王家からのお情けで薬師協会に薬師が入ってくれることになっている。暫くはバタバタするだろうが我慢してくれ。あとスキル50になったら誰か薬師協会に入ってくれると助かる」
「いいっすよ。でも箱庭からは追い出さないでくださいね」
「ははは。そんなに箱庭が気に入ったか?」
「そりゃ気に入りますよ。教え甲斐のある薬師見習いに美味しい飯、寝心地の良い部屋に温泉。更に神様が住んでるってなったら出て行きたくねぇな」
「分かった、箱庭からの通勤でいい」
「それならいるとは思うっすよ。でもこれからが大変ですね。薬局の殆どが潰れて、まともに動かそうとしたら、残った奴らを纏めて二か所くらいですか?」
「ああ、この広いダンノージュ侯爵領のこの街に、うちを入れてたったの三軒だ」
「きついっすね。頑張りますけど」
「いざとなったら王太子領から薬師を雇ってくるさ」
「あ、出来れば早めにお願いします。ダンノージュ侯爵領は質の悪い風邪が冬場に流行るんで」
「了解」


こうして薬師協会問題はある程度解決したが、残る監査院によって薬局を含めた書類も全て調べ上げられるそうだ。
脱税もその中には含まれる。
薬師協会がまともに動かせるようになるにはかなり時間が掛るだろうという事で、その日の夜には王都から薬師協会にナカース王から命令されて派遣された薬師が暫くは行ってくれることになり、尚且つ、王都からやってきた薬師たちが、ダンノージュ侯爵領に僅かに残った薬師たちへの指導に入る事で後日纏まった。


調べが終わるのは一か月後だという事だったが、案外早めに終わるかもしれない。
とはいえ、長年の不正だ……そう簡単には終わらないだろうし、罪状は増えるだろうと祖父は言っていた。


「ご苦労だったなカイル。薬師協会の膿も出し切れそうだ」
「そうですか。何よりだと思います」
「だが良かったのか? 成人していない子にもこの場合罰を適用されるが」
「子供の命まで奪おうとは思いませんし、俺やリディアは子供が好きなので」
「そうか」
「ええ、子供好きが幸いして、リディアからある提案を飲むのなら結婚すると言われました」
「ほう? 是非聞きたいものだな。どんな提案かね」
「はい、元スラム孤児たちを俺と結婚する際に養子にするならば、結婚するとの事です」
「養子?」
「ええ、素晴らしいスキルを持つ子供達も多く、それなら纏めてと」
「確かに大きな家は沢山の養子を抱えることも多い。良いだろう、その案を受け入れて結婚しなさい。ワシの手が必要ならば、何時でも養子となる子供達の為にも動こう」
「有難うございます。出来ればこちらの屋敷に来て貰い、家庭教師をつけて欲しい子供もいます」
「そんなに優れたスキルの子供がいたのか。良かろう、精査して素晴らしいスキルを持つ子供にはそれ相応の家庭教師をつけよう。部屋も用意する」
「有難うございます」


こうして祖父は結婚する際の提案も了承して貰えたし、家庭教師も面倒見てくれるという事になった。
後は結婚となると、式は別として王都の協会で婚姻の名前書きをしなくてはならない。
その際には、国王陛下にあわねばならないだろうが、王都から薬師を派遣して貰えたことに関しても感謝を告げねばならない為、陛下に会う事になるだろう。


「また忙しくなるな」


今度は結婚式の事も視野にいれ、進むことになりそうだ。


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