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05 ヒモ扱いは嫌なので、ちゃんと仕事を探しましょう。

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 ――結婚するのに、ヒモ扱いは嫌ですね。
 数日後、そう思ったのは男ゆえの矜持が許せなかったのかも知れない。
 そこで町に戻り、職安所に向かうと職員の方に「ああ、やっと来られた」と苦笑いされた。


「町長に聞きましたよ。来年にはご結婚されるのだとか。まだ結婚適齢期でもないのに、気の早い事ですね」
「そういう事にしておきましょうか。それで、自分に出来る仕事で探しているんですが」
「ふむ……通信用魔道具はお持ちで?」
「昨夜町長がやってきて家に置いて行きました」


 そうなのだ。
 昨日町長が行き成り夜現れると「これからは密に連絡を取り合おう!」と高い遠距離用の連絡魔道具をプレゼントしてくれたのだ。
 自分で買おうとしていただけに、無駄な出費が減って良かったと思いつつ、有難く使わせて貰う事にした。


「では、この書類に出来る事を書いてくれますか?」
「ええ、あの、ミルキィの手伝いをしていたら少しだけ人形師の手伝いが出来るようになったんですが、その場合はどうしたらいいでしょう?」
「ああ、途中から生えてくるスキルってあるんですよね。それで人形師が生えて来たんですか?」
「恐らく」
「でしたら、国に登録するついでに結婚の為こちらに残ると言う書類を送るべきですが、完全に使えるスキルではないのなら、国に送らなくても結構です」
「ああ、完全に使えるスキルではないです」


 性格はランダムだし、人形師らしい人形は作れない上にデフォルメ人形だし。
 人形師ではないな。


「なら国に報告せず、シャーロック村で使えるスキルとして何が出来るかだけ書いておいてください。それで仕事を回せると思いますので」
「ありがとう御座います」


 そう言うと、自分の出来る事として二つ――『魔素詰まり』を治す事と『魔素の循環治療』を書き込むと「また凄いのが使えますね。それだけですか?」と聞かれたので「これだけしか使えないんですよ」と苦笑いした。
 すると――。


「この二つが得意って人の方が少ないんですよね。これなら引く手あまたですよ」
「そうだと嬉しいですね」
「それに古代文字の読み書き……ほう。お爺様に教わっていたんですか?」
「ええ、考古学者でもあり歴史学者でもあった祖父に色々叩き込まれました」
「実に素晴らしい。このシャーロック町は古代遺跡が多いので、多分駆り出されますよ」
「その時はミルキィもセットでお願いします。あの人を一人にはしておけない」


 あらゆる生命の危機的な意味で。


「溺愛してらっしゃるんですねぇ。分かりました、そう伝えます」
「ありがとう御座います」
「ああ、丁度古代文字が読める人を王都で探しているようで……ですが担い手がおらず苦戦しているそうです。給料も良いですしどうです?」
「お相手は貴族ですか?」
「歴史学者ですね。モリミアと言う男性です」
「分かりました、歴史学者ならば祖父で慣れているので力になれるかと」
「ではご連絡しておきますね。何でも難しい古代文字があるとかで困っていたのだとか。お爺様から徹底的に教え込まれているのなら問題はないでしょう」
「そこはご安心を。普通の読み書きと同時に教わりましたので」
「素晴らしい! ではその旨をお伝えしますね」


 こうしてホッと安堵しつつ、採用されるかどうかは家に連絡が来るらしいので後は買い物をして帰った。
 都度魔素詰まり』を治す事と『魔素の循環治療』は個別に依頼を盛って来るらしく、職安から連絡が来るそうだ。
 金額次第で選んでいいと言う事だったが、出来るだけ治してやりたいので受けるつもりでいる。
 その帰りに買い物をして家に帰宅し、マリシアにミルキィに昼ご飯を持って行ったか聞くと、しっかり食べてくれていたとの事でホッとする。
 依頼された人形を作る反面、王国に出す書類も大量に書かねばならず大変なようだ。
 王国に出す書類は俺では書けないので、ミルキィに頑張って貰うしかないが……。


「新しい人形はどれ位の進捗でした?」
「もう大体出来上がってるって感じだったね。後は命を吹き込む作業だけど……ちょっとした問題があってね」
「ん? どうしました?」
「魔素を操れないって言ってたよ」
「魔素を?」


 人形師は魔法陣で魔素を宝石に入れ込んで命を作る。
 それが出来ない? 何故……。


「時折あるんだって。月の使者もあるんだろうけれど、魔素が全く使えないようになる周期があるらしくって。急いで作ってたけど間に合わなかったみたいだね」
「ふむ、少しミルキィに会ってきます」
「そうしておいで」


 そう言うと地下に降りて新しく作った引き戸を開けて入ると、ミルキィの寝室に出た。
 そのまま名を呼びつつ作業部屋に入ると、グスグスと泣きながら「どうしよう」と口にするミルキィがいて、後ろから声を掛けて抱きしめると、スンスンと鼻を鳴らして泣いている。


「魔素が操れない周期に入ったと聞きました。昔からあったんですか?」
「そうなの、月に1週間だけだけど魔素が使えなくなることがあって……」
「一週間、月の使者ですか?」
「うん」
「ふむ……」


 人形師の女性が抱える問題――月の使者で魔素を扱えなくなると言う呪いの様な物。
 これでは納期に間に合わない。


「どうしようトーマ君……頑張ったんだけど、このままじゃ」
「俺がいれる事は規約違反でしたっけ?」
「ううん、それは定められてないわ」
「そうですか。この実を核にすれば俺でも入れることが可能ですが……言葉を喋るようになってしまう可能性が高くて」
「その旨はちょっと依頼主に聞いてみていいい?」
「分かりました」
「トーマ君ありがとおおお!! もうダメかと思ったし、本当に駄目だって言われたら一週間待って貰うつもりだったの――!!」
「納期に間に合わなったら国に罰金を払うのが人形師ですからね」
「困るー凄く困る――!!」
「今のうちに手紙を書いて声の事を伝えておいてください。後お写真借りますよ」
「うん」


 そう言うと夜20時だったがミルキィは依頼主に声についてと、自分が月の使者で魔素が使えなくなった事、その為、代わりに夫に魔素を入れて貰うが、声が出るかも知れない事を伝えて手紙を出した。
 それから10分後くらいに『大変でしたね。声はお爺ちゃんには分からないと思うので出して貰っても結構です』と言う事だったので、明日俺が魂となる核を入れることが決まった。


「俺がミルキィの作った彼女に魂を入れる」


 しかも、痴呆が進んだ老人の為の介助要員。見た目は彼の母親の若い頃に模していて――。
 彼の母親はどんな声をしていただろうか……俺が知る訳でもないのに、きっと叱りつける時は厳しく、甘やかせるときはトコトン甘かったに違いない。
 性格はきっと、豪胆だけど繊細で……子供の為ならどんな無理だってしただろう。
 母親とはそういうものだと――祖母が言っていた。
 俺の両親は俺が生まれて直ぐ国の調査団と一緒に爆発に巻きこまれて死んだが……年に一度、その遺跡の元に行って花を手向けている。
 今年も雪が降る前に行かないとな……。


「ねぇトーマ君」
「ん? 何です?」
「疲れた……ギュってして」
「仕方ない可愛い人ですね」
「だって二人きりだもん。甘えていいでしょう?」
「ん――甘えてもいいんですが、俺も男なので」
「ふふふ」


 そう言って軽くキスをしてギュッと抱きしめ、暫く会えなかった分だけ沢山甘やかせた。
 無論キスくらいで手は出さなかった自分を褒めたい。
 外にいる窓にへばりつく妖精さんがいなかったら危なかった!!


「……妖精さん、君は一体何がしたいんだ?」
「われ、むっつりすけべですので」
「……そうですか」
「おいしいオカズでした」
「俺は我慢しました」
「おそっちゃいなよ、ユー!」
「婚前交渉はいけませんよ!!」


 そう言うと「ぴゃ~~~!」と言って去って行った妖精さんに頭を抱えて溜息を吐くと、ミルキィはクスクス笑いつつ「真面目」と言っていたので結婚したら覚えておいて欲しい。
 罰金払ってでも数名産ませますよ。


「さて、憂いは無くなった事ですしいい加減家に戻ってきませんか?」
「え?」
「晩御飯、今からになりますけど」
「頂きます!!」
「簡単に作れるスープと、後はガーリックチーズを手に入れて来たのでパンを焼いてそれをと思ってます」
「うううう!! ガーリックチーズなんて贅沢ううう!!」
「それにワインなんて如何です?」
「飲んじゃいましょう!?」
「ふふ、やはり貴女は笑顔がいい」


 そう言って頭を撫でてから家に戻ると、俺は早速野菜スープを作りだす。
 足りなくなってきていたコンソメは買って来ていたので美味しく作れるだろう。
 野菜は出来るだけ多く摂りたい俺としては、野菜スープの種類等は大事だと思っている。
 だが、今回はバケットを切ってオリーブオイルでフライパンで焼きつつ、アツアツのパンにガーリックチーズ。
 食も進むだろう。


「あん、もう幸せ!!」
「堪らないね! こいつは酒が欲しくなる!!」
「ワインを持ってきましたよ」
「「わーい!」」
「全く、お主らは食と言う楽しみがあってええのう。ワシ等のようなデフォルメは甘いものが好きじゃが」
「だから飴を買って来てるでしょう?」
「うむ……飴はうまいぞ? 魔素をよりよく身体に回してくれる」
「メテオも長生きしましょうね。話し相手がいないのは寂しいですし」
「そうじゃの」
「古代遺跡とか歴史学になると、流石に私じゃねぇ」
「私でも構わないのに」
「いえ、マナリアにはそのままでいてください」


 そう会話しつつ食べるパンは最高で。
 ガーリックチーズ……最高ですね!!



「嫌な事が吹き飛ぶご飯って、やっぱり魔法だと思うのよ!!」
「分かる。魔法だね」
「それは有難いですね。もっと美味しい料理が作れればいいんですが」


 そう会話した途端――。


「ダーリンの作っていた料理はどれもこれも美味しかったねぇ。施設の皆を思ってバイキング式になっててさ。沢山の保護された人形たちが朝昼晩と食べに来るんだ。軍人人形だったけど、皆の父親って感じでさ……。シャルロットと夫婦だったんだよね」
「それって……『ダーリンはシャルロットを愛して止まない』の本の内容ですか?」
「何いってんのさ、事実だろう? どこでもいちゃつくからコウとエミリオが二人専用に防音部屋を用意したくらい凄かったんだよ? ピリポなら覚えてるはずなんだけど、アンタ覚えてないのかい?」
「え?」
「全く、忙しいからってあんまり嫁さんを蔑ろにするんじゃん無いよ? ヤマだってそう思うだろう?」
「え? マリナシアどうしたの? 私ミルキィよ?」


 途端バチンっという音と共にマリシアがビクッと動き「あれ? 私何か話してた?」とキョトンとしている。
 マリシアは確かに俺を『ピリポ』と呼び、ミルキィを『ヤマ』と呼んだ。
 これは一体――……。


「マリシア、ダーリンさんとは?」
「ダーリン? 何のことだい?」
「いや、貴女は貴方のままでいいんですよ。そして時折出る言葉はきっと……私にとって大事な事なんだと思います」


 名前を聞いた時、本で読んだ人形達の名前だった。
 それらは大変有名すぎて、もしやマリシアの身体の持ち主は……。
 それが何を意味するのかは、今はまだ分からない――。
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