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アタシの魔王たる器をみせてやろうかね!!

第65話 【獣人国】へ向かう決意をしたキヌ様と、人知れず流した涙……

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 以前考えていたプラン通り、人間国へど派手にダメージをぶつける事が出来た。
 前魔王の弔い合戦も入ったこのやり方には随分と時間は掛ったが、一番の狙いであった【スタンピード】を起こすことは出来たのだから御の字だろう。

 更に王国の国庫を食いつぶしてやった。
 人間ってのは、金がないと生きていけない、信用がないと生きていけない。
 だが国だって金がないと成り立たない、信用がないと他国から攻め入られる。
 アタシが何かをする前に、人間国は亡ぶだろうよ。
 放っておいても狙っている国ならあるだろう。
 たった一つ……『獣人国』が。

 これまでアタシへの挨拶も無ければ、静かに何かの機会を伺っていたのは知っている。
 恐らく獣人だけの連絡網でもあるのだろう。人間国がアタシにしてやられた所を横から搔っ攫う。それくらいの真似事くらいはしてくれそうだ。
 だが、直ぐには掻っ攫わない。
 ある程度復興したのを見計らって人間国に攻め入るだろう。

 冒険者のいない今が一番の狙い目なのだから。

 だからと言って、横やりを入れられようとも今更気にしやしない。
 アタシは人間国を支配したい訳でも何でもない。
 ただ、仇を討っておきたかったという個人的な感情でも動いている。
 たった一人の肉親であった曾爺様を失ったピアリアにとって、この人間国への仇討こそが、自分を動かす動力源でもあっただろう。


「どうだいピア、曾爺様の仇討は出来たかい?」
「ええ、街と言う街は崩壊し、屍の山が積み上げられていたのでしょう? スタンピードは一度起こると止められないと聞きますものね。魔物が、魔族が理性を失い人間を襲い、人間国は最早赤子の首を捻るよりも簡単に崩れるような状態ですもの」
「で、これからどうしたい?」
「もう仇討も出来たも同然。後は煮るなり焼くなり、好きに無さってかまいませんわ」


 どうやらピアは満足したようで、落ち着いた笑顔で微笑んで小さく「曾爺様、仇討しましたわよ」と呟いていた。


「さて、ここからの事を話し合おうかね。恐らくだが人間国は亡ぶ」
「「「!?」」」
「未だにアタシに連絡すらしてこない国が一つだけあるだろう?」
「あっ! 獣人国っ!」
「そう、獣人国は冒険者のいない今を狙って人間国を襲うだろうね。今でジッと機会を伺っていただけに過ぎない。そして、アタシ達の邪魔をしないようにしていたんだろうさ。それに再来年には飢饉の年がやってくる……。残っている作物などを人間から奪うには最適だろうよ」
「それは略奪ですわ!」


 そう叫んだピアに「スタンピードを起こさせたアタシ達よりは、うんと良心的だと思うがね?」と告げると、「確かにそれもそうですわね……」と考え直したようだ。


「栄華を誇っていた人間国を守護する天使国がどう動くかは分からないが、獣人国は必ず人間国を襲うだろう。その際、天使族と獣人族とで争いは起きるだろうね」
「「「……」」」
「勇者たちを元の世界に戻した後は、暫く誰も召喚されないと思いたいがね」
「召喚に適しているのは、本来天使族なんです」
「そうなのかい?」


 どこの国でもできる召喚なのかと思っていたら、なんと天使族が最も得意な召喚魔法らしい。ピアには天使族の血が流れて居るからこそ、アタシを【魔王召喚】出来たのだと初めて教えてくれた。


「と言う事は、天使族が異世界転移をさせる可能性はあるってことか」
「もしくは異世界転生ですわね」
「そうなると、今度は天使国と獣人国とでやり合うのかねぇ」
「恐らくはそうなると思いますわ」
「ちょっと待っておくれ。獣人国とやり合うにしても、中間地点は」
「魔王領ですわ♪」
「被害がこっちにも来やしないかね?」
「恐らく来ますわ」
「は――……面倒だねぇ」


 思わず頭を抱えて返事を返すと、今後の事に頭を悩ませないと行けないみたいだねぇ。
 少なくとも、どちらの仲間にもならないという方が一番楽なんだが、獣人国は同盟国でもある。
 しかし、前回の魔王の時等、ただ守って貰うばかりで救援要請しても動くことは無かったと聞いている。

 ならばこちらも動く義理はない。
 困った時だけ尾を巻いてすり寄ってくるような者など、アタシとしても気に入らない。必要ない愚か者だよ。
 ましてや、罪を擦り付けてくる場合は――万死に値する。
 まぁ、獣人国はそんな真似しないとは思うが……。


「誰か、今の獣人国について知っている者はいるかい?」
「同盟国ではありますが、ほぼ断交していると言って過言ではないのです」
「やっぱりそうかい……」


 嫌な予感はしたんだよ。
 恐らく魔族であるアタシ等と獣人国は『同盟国でありながら断交状態にある』可能性は、何となくだが感じていた。
 これじゃ一から情報を仕入れるしかないか……。
 いや、トッシュとフォルがいるね……。
 今のうちにフォルの家に保護しているという事だけは伝えに行ってもいいかもしれない。
 寧ろ、今が最後のチャンスだろう。


「よし、勇者達をどうにか日本に帰した後は、フォルを連れて獣人国に行くよ。表向き同盟国ならば、表向き、歓迎はしてくれるだろうさ」
「ええ、表向きは……ですね」


 こうして明日の昼、魔王城に勇者と魔法使いをカナデに呼んできて貰う事になり、手っ取り早く済ませたい為、フォルには朝から魔王城に来ていて貰おう。
 離縁させるにはサッサとさせるに越したことは無いし、何より禊の時間を早めに終わらせて貰わないと困る。
 まだまだやる事はあるねぇ……。


「仕方ない。やる事は沢山あるが、今日くらいはパーッと温泉貸切って宴でも開こうかね!!」
「貸切るんですか!?」
「ど派手にね!!」
「俺もど派手に参加していいんだろうか?」
「ドワーフ王もしっかり戦ってただろう? 無論だよ」


 こうして直ぐにローダンが二階にある『温泉宿を魔王が一日貸切る』という連絡を入れてくれたおかげで、泊まりの客も今日の朝捌けたばかりらしく、運よく貸切る事が出来た。
 美味しい料理に美味しい酒で舌鼓を打ち、最高の温度の温泉で疲労回復と若返り……最高だね!!

 まずは一つ終わらせたんだ。
 一日グッスリ眠って、一つずつ面倒事を片づけて行こう。
 あーあ、こんな時こそ爺様がいてくれたら楽なんだけどねぇ……。


「……いない者を考えても仕方ないか」
「どうか致しまして?」
「いんや、ただの他愛のない愚痴だよ。気にしなさんな」


 たった70年で終わった爺様の命。
 爺様は最後まで戦った。生きる為に必死に戦った。
 だが、助かったのは爺様が命がけで助けた女の子だけで、爺様の命は救われることが無かった。
 爺様があの日、交通事故に巻き込まれなければ……まだ長生きだっただろう。
 あの日、アタシの誕生日で……たまたま欲しいものがあったから、それをポロリと口にしたから、爺様は歩いて行ってしまった。

 あの時引き留めていれば。
 あの時、ポロリと口にしなければ。
 あの時、あの時――アタシの誕生日で無ければ。

 流れる涙を隠すように湯をすくって顔を洗い、天井を見つめて大きく息を吐いた――。
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