石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未(旧・うどん五段)

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50 スパイは捕まえましたし、騎士様に話も聞いて貰いましたし、頭にあるという情報は削除しちゃいましょうね!

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「でも、お陰で姉様や兄様に巡り合えました。感謝しています」
「こちらこそ。名前だけでも憶えていて良かったわね」
「はい」
「いつかその名で身元が分かるかも知れないな」
「そうですね。でも俺は今の生活が気に入っているので戻る気はないですが」


 そう言って笑いあってから隣の家に戻り各自部屋に戻って眠った翌日。
 ついに事態は動き出した――。
 朝の出勤前にアイテムの忘れた補充が無いか確認し、問題なかったので皆のいる【二号店ガーネット】の二階の開発室にて、今日の打ち合わせをする。
 一体何人のスパイが入ってきているのか分からない状況なので、此処はタキとドマに頑張って貰うしかない。
 けれど――。


「アイテガ コウゲキシテキタラ イヤダヨネー」
「それはそうね。ドマが怪我をする姿は見たくないわ」
「ナラ ボクニ マカセテヨ」


 そう言うとタキは小さいまま分裂し、ぴょんぴょんと撥ねている。
 そんな小さな体でどうするのかと思っていると――。


「カクソウコ イッピキズツ」
「ボクタチデ トラエテミセヨウ」
「ツカマエチャウゾ♪」
「マカセテ マカセテー」
「オマカセアレー!」
「なるほど、タキは分裂を持っておったな」
「「「「「ソダヨー」」」」」
「では質問は俺にさせて貰っても?」
「「「「「イイヨー」」」」」
「記録係が来てくれるそうだから、もう直ぐ来られると思うわ。服装は町の人に合わせて怪しまれないようにするって」
「陛下も考えましたね」
「兵士が来てたら逃げるからな……タキは各自作業場の前で待機。逃げる素振りをした者は次々捕獲」
「「「「「ハイハイサー」」」」」


 そう言うと小さいタキちゃんたちは外に出て行き、各自作業場へと消えて行った。
 今日は仕事にならないかもしれないと思いながらも、私達も頷き合って外に向かう。
 どんな様子になるのか気なるからだ。
 朝9時前にはチラホラと従業員や傘下の人たちが集まり始め、挨拶をしながら住民に扮した兵士たちと会話をする私達。
 そんな様子に気にすることなく作業場へと消えていく従業員たち。
 ドアは開けっ放しになっていて、タキはドアから少し見えない位置の倉庫の物陰に隠れ、捕獲作戦となっているようだ。
 すると、一人が弾かれ走り出したところをタキが素早く、それこそ目に留まらぬ速さでパックンと自分の中に入れると少し大きくなった。
 それは他の場所でも起きているようで、見えない位置にシュッと連れられてはパクンとされている。

 私とタキは契約で繋がっているので、現在既に7名が捕まっているようだ。
 そして件の彫金師サーシャが明るく「おはようございまーす!」と笑顔出来たが弾かれ、「え?」という顔をした途端タキの身体に消えて行った。

 その後従業員が全員入る頃には、合計で9人のスパイが入り込んでいたことが判明する。
 うーん、ガーネットはザルだなって思ったけど、バタバタしてたから仕方ないのかもしれない。


「「「「「アルジー ツカマエタヨ~」」」」」


 そう言って身体を大きくさせたタキ5匹がズルズルと動きながらやってきて、店の前でブルンッと揺れる。
 中に入っているスパイらしき方々は身動きが取れず、でも息は出来ているようで言葉も発せず固まっていた。


「合計九人も入っていたのか」
「うちが如何にザルだったか分かるな。もう幾つかの商品は盗まれているだろうが」
「どうでしょう? 付与自体が特許の物が殆どですし」
「特許を使うという連絡は?」
「幸いまだ来ていませんね」
「ロザリオスさんに話をして、付与師ギルドに付与を使う許可の申請を出さないっていうのを言って来てくれ」
「はい」


 そうエンジュさんが指示を出すとセンジュさんは走って二号店へと消えて行った。
 そして兵士だけど住民に扮していた彼らはアイテムを取り出し、赤い煙を上に飛ばすとバタバタと兵士が駆けつけてくる。
 これには目を見開いて驚く九人のスパイたち。
 可哀そうとは思わないけど、此方もザルだったのを反省し、今後に生かそう。


「さて、あなた方は契約社員ではありませんね。タキ、こいつ等の顔だけ外に出してくれ。会話がしたい」
「「「「「イイヨー」」」」」


 そう言うとウニュウニュと動き彼らは顔だけ外に出された状態でタキに捕まっている。


「さて、話せば温情は貰えるかもしれませんよ? 誰に雇われて、何を渡しましたか?」
「まだ何も渡してねぇよ」
「同じく」
「こういう仕事はな? リスクが高いからこそ小出しにはしないんだ。纏めて情報ゲットしてから一気に大量の報酬と引き換えなんだよ」
「なるほど、全てまだ何もしていないと」


 ちなみに雇っていたのは全員貴族。
 平民の商家はいなかった。
 これで国の中にある九つの貴族はこの国から消えるだろう。


「あーあー。儲けがデカいって聞いてやったのにさー。ここザルだったから盗みやすいって思って。それが何で今頃になって~?」
「それは、貴女の行動のお陰よサーシャ」
「え、アタシ!?」
「そうですね、貴女のリーダーでもないのにリーダーの動きをした事で、契約社員ではないと判断出来たんです。お陰でその日のうちに魔道具をセット出来ましたし、こうしてあなた方は捕まった訳ですが」
「この!! テメーの所為か!!」
「はぁ!? 仕方ないじゃない! 皆自由に仕事だってしたいわよ!」
「既に効率よく作っている物を改悪してもそれは仕事にはならん。お前のしたことは悪手だ」


 そうお父様に言われてギリッと歯を噛むサーシャに他の面子がドンドン文句を言っていく。
 そんな様子を見ながら私は内心溜息を吐いた。
 罵り合うのは結構だけど……彼等全員断頭台行きなのよね。
 その後兵士により貴族の名前と依頼内容を全て吐かせ、家にそれらの物的証拠はあるのかと聞くと「全て証拠が残らないように頭に叩き込んでいる」と言われた。
 確かにそう言うやり方もあるだろう。
 頭の中にあるなら奪えない。そう思っていたに違いない。
 ドマと姉弟関係になる前ならきっと知りえなかった方法が今は手元にある……。


「どうだ、俺たちの脳の中までは取れねぇだろ!!」
「ザマァ見ろ!」
「と、仰いますが。頭の中は綺麗に削除する事が出来るんですよ……」


 ドマの一言に罵声が上がったけれど、ドマは気にもせず冷たい表情で彼らを見ている。
 そして――。


「騎士様、これ以上まだ聞くことはありますか?」
「いや、もう無いな。後は陛下にご報告申し上げるだけだ」
「なるほど、ではタキさん。例の物を彼らに飲ませてあげて下さい」
「「「「「イイヨー」」」」」


 そう言うと身体に入っている人数分細い管のような手が伸び全員一斉に咥えさせると、水のような液体が彼等の中に入って行く。
 そして目をトロンっとさせてそのままスヤスヤ寝始めてしまった。
【忘れじの薬】を生成して飲ませたのだろう。依頼を受けて初めてここの土地を踏む前までで記憶は綺麗に消えた筈だ。


「これは?」
「「「「「忘れじの薬ダヨ~」」」」」
「おお……レジェンド様はそのような薬も作れるのですね!!」
「「「「「ソウダヨ~。モウイラナイカナ?」」」」」
「ええ、ペッと外に出しても良いですよ」
「「「「「オイシクナカッタヤ ッペ!」」」」」


 そう言ってタキちゃんは九人を吐き出すと五匹のタキちゃんは一匹に戻り、私の頭にいたタキちゃん本体と合体して一匹に戻った。
 後は騎士団が何とかしてくれるらしく、九人をお願いすると、彼らは外から見えない牢になっている馬車に詰め込まれ城へと連れていかれ、地下牢に入れられるらしい。
 また、聞き取った全ての内容を国王陛下に報告し、貴族も綺麗に処分されるだろうという事だった。
 こうして問題だったザルと言う根本的な所も改善したのだし、取り敢えずはよしとした方が良さそうだと判断すると――。


「さて、仕事に戻りますか!」
「そうだな」
「これからは気を付けねばなりませんね」
「本社で作るアイテムを誰もが作れる【命の花びら】などに変えて置こう。それが一番良さそうだ」
「改善は幾らでもしていいですからね」


 こうして大捕物も終わりホッと安堵しつつ各自仕事へと向かい、私も少しホッとしながらドマと一緒に開発部へと戻り珈琲を【お取り寄せ】で購入して一服した。
 無論ドマの分もある。
 お爺ちゃんとタキにはイチゴミルクだ。


「なんにしても、失敗ありつつ改善していければいいですからね。相手に情報が渡っていなかったのは僥倖だったわ」
「奇跡的に……とも言いますが。タキさんが薬を作れて良かった」
「その前にドマがその薬を知っていたからこそよ。本当にありがとう」
「姉様の役に立てたのなら良かったです。ですがこうなると増々姉様を狙う貴族は増えるでしょうね」
「あら、どうして?」
「店の商品を盗めないのなら、次に最も金に生るモノ……と考えるのが貴族ですから。王家と言う盾があっても無視をする貴族は往々にいる者です。今回のようにね」
「なるほど……本当貴族って嫌い」


 そう言って珈琲を飲むと「俺も良い思い出は無いですね」と口にして珈琲を飲むドマ。
 お互い頷き合いつつ、取り敢えず今後の事を語り合う。
 新しい開発はしないでも、どんどんアイディアだけは出していこうとなったのだ。
 無論ドマの視点からして面白いと思うものは作っていきたいし、出来れば宝石や鉱石を使った物が良いなと思いながら過ごしていくのであった――。



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