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92 わたくしは宝石の国ダイヤ王国に、白旗を掲げて助けを乞う!
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――???side――
――思えば、兄様はとても穏やかな人であった。
だが、とても燃えるような情熱を胸に走ってた人でもあった。
――兄様は私が生まれてから、必死に私を守ろうとしてきた。
この国が男尊女卑であることを憂いて。
――そんな法改正を進めているおり、兄上が毒で倒れた。
家臣たちは嬉しそうに笑っていた。
この様な腐った国、滅べばよい。
誰も兄様に近寄らない時間、私はこっそり兄様に会いに行く。
毒に侵されもう幾ばくも無い命。
兄様が死ねば、私もこうなる前に殺される事だろう。
兄様は今、私を生かしたい思い一心で生きておられる。
「兄様……もうこの国の家臣共は駄目です。各国からも断交され、民は飢え、この国から逃げております。兄様が元気であらせられたら、どうしたでしょうか……」
ヒューヒューと息をするだけで必死な兄様。
毒で最早幾ばくも無い。
もうこの国では、この国の癌である上層部がいる限り……もうどうする事も出来ない。
ほろほろと涙が零れ、兄様の痩せ細った手を握り声を殺して泣く。
己が未熟なのが辛い。
このまま兄様が果てたら死んでしまおうか。
そう思った時――兄様の口が開いた。
「華姫よ……」
「兄様!?」
「余り長くは……話せぬ。しかと……聞け」
「はい」
「余は夢の中で……はぁ、この国を……この国を変える人物を見た……はぁ……ダイヤ王国へ……行き……協力を頼め……はぁはぁ……その方は……ユリと言う……モンスターの長……ごほごほっ!」
「兄様!!」
「白旗を掲げ……行けっ! 兄は……それまで必ず……ぃきる!」
「はい……はい!」
「半年……猶予がある……それまでに……ユリ殿に……助けを乞え……不甲斐ない兄で……すまぬっ!」
「いいえ、いいえ!! わたくしの兄様は素晴らしゅうございます! 必ずや、必ずや助けを乞うて参ります。何をしてでも!! だから兄様、半年、半年待っていてください!」
その言葉を最後に兄上は微笑んで眠りについた。
兄様には最後の女帝と同じ夢を見て先を見る力がある。
それでも毒はどう足掻いても回避できなかったことも知っている。
わたくしに出来る事――ダイヤ王国にいるユリと言う魔物の長に会う!
会って助けを乞う!!
周囲を見渡すと誰もいない。この会話は誰にも聞かれてはおらん。
涙を拭い、何事も無かったかのような顔の面を着け兄様の部屋から立ち去る。
わたくしを世話してくてくれているのは一人の侍女のみ。
「ヒイラギ」
「はい、こちらに居ります」
「兄様が未来を視た。この国を救う方法だ」
「誠ですか!?」
「私はこれより宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドへと向かう。そこで【ユリ】と言う名の【魔物の長】を探して助けを乞えと言われた。猶予は半年……白旗を上げて船に乗れとの事だ」
「し、白旗を!?」
「最低限の着物だけで良い。直ぐに支度を。船は何でもよい。白旗を忘れるな」
「はい!」
こうして私は十二単を脱ぎ捨て普通の町娘のような服装に着替えた。
長い髪は帝王の妹の証……切り落とす事は出来ず、何とか時間を見つけたヒイラギに髪を結って貰った。
船は用意できたとの事で直ぐに馬車に乗り、この国から逃げようとする者達を見つめて歯を食いしばり港に着く。
金を払えば船は出して貰える。理由は何でもよい。
「宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドに向かいたい。わたくしの事や見聞きしたことは全て忘れて口に出さず連れて行けるか?」
「幾ら姫さんでも流石に」
「金は欲しくないか?」
そう言って兄様に祝いの品として渡された金の髪飾りを見せると、直ぐに乗せてくれた。
そして宝石の国ダイヤ王国までの間、水しかのまず只管船は進む。
付き添ってくれたヒイラギに感謝しつつ、一週間の船旅の後見えて来た宝石の国ダイヤ王国は白亜の美しい建物の並ぶ国であった。
自国しか知らぬ私にとって、それは衝撃であった。
白旗を貰い必死に振りながら港に見えるように旗を振る。
シーツを破って作った白旗で目立つのは間違いない。
どうか気付いて欲しい。
兄様の命が掛かっている。
国民の命も掛かっている。
どうか。
どうか。
わたくしに出来る事など少ないが、なんとしてでも【ユリ】と言う名の【魔物の長に】会わねばならぬ。
助けを乞わねばならぬ!!
そのまま――どれ位白旗を振っておっただろうか。
港はざわつき、隣で泣いていたヒイラギもまた白旗を一緒に振り始めた。
誰でもいい、入国を許して欲しい。
息も切れ切れに振り続けてふらりと海辺に落ちそうになった瞬間――。
「姫様!!」
嗚呼、落ちる――……。
そう思い身を縮め耐えたが、グイッと首元の着物を引っ張られ、船に戻された。
ドンッと尻もちをついて痛いが、わたくしの目の前には一匹のホワイトタイガーの魔物がのっしのっしとあるいておった。
く、食われるっ!!
「ほう? 悪意も敵意もなし。我はハク。そなたの内の心を読んで先に来た者よ」
「しゃ、しゃべ」
「魔物の長であるユリに会いたい。それがそなたの望みか」
「は、はい。そうで御座います!!」
「ふむ、何やら理由があるようだな。良いだろう。我が案内してやろう」
「よ、宜しいのですか!?」
「我の名はハク! ユリに従えるレジェンドモンスターが一匹である。おい船を動かせ。港に入ればすぐ近くに製薬ギルドがある。そこに今ならユリがいるぞ」
「しかし鉄の国サカマル帝国の入国は許可されていないと知っております」
「我が良いと言っているのだ。おい! この船を通すぞ! 他の船を退かせ!」
彼の言葉に慌てた船乗りたちが道を塞いでいた船を退かし、わたくしとヒイラギの二人は宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドに入国する事が出来た。
無論入国審査は必要だったが、ユリ様を探しに来ていると言うと、隣で欠伸をしていたハク様が「我もこの者達には興味がある。良いな?」と口にし、入国は許された。
最低限の荷物だけを持って初めて降り立った別の世界。
走る事すらしたことのないわたくしが走っている。
着物では走りづらいが、それでも必死に走っていると急に宙を浮き驚いた。
「オネエチャンタチ アシ オソイネ!」
「アルジ カエッチャウカラ イソイデー♪」
「あなた方もレジェンド様なのですか!?」
「ソダヨー!」「ソダヨー♪」
思いがけず三匹のレジェンド様に遭遇し涙を流しながらヒイラギを見る。
ヒイラギは怯えていたけれど「姫様! 後はユリ様だけですね!」と口にし、わたくしは強く頷いた。
そして一台の馬車の前に到着すると、ハク様が乗り込みわたしくしたちもビョンッと飛んだスライムに驚きつつ目を閉じて馬車に乗り込む。
「ハイ イスニスワッテネ」
「は、へ?」
「お二人共大丈夫ですか?」
「はい!」
そう言って前を向くとそこには同じ着物を着た黒髪に黒い瞳の女性と、黒髪に赤い瞳の男性が座っていた。
帯刀している所を見るに……鉄の国サカマル帝国の者でしょうか?
ドアが閉まり馬車が動き出すと、わたくしたちはまず名乗りを上げた。
「あの、その」
「ユリ、ドマ。アクイハ ナイカラ ダイジョウブダヨ」
「うむ、悪意はない。しかし何故鉄の国サカマル帝国の姫君がきたんじゃ?」
「お姫様なのですか?」
そう私と年の変わらぬユリと呼ばれる女性――この方こそ兄上が言っていた方!!
「名乗り遅れました。わたくしは鉄の国サカマル帝国の王族が一人、華姫(かひ)と申します。この度は病床の兄様に託されここに参りました。どうかユリ様、お力をお借りしたいのです」
「お力を貸すとは……」
「兄様は『この国を変えるのはユリ様である』と『助けを乞え』と仰いました。病床故に聞き取れたのはそこだけですが、必ず助けを乞うて国を変えよと申されたのです」
「でも、姫様が居なくなって今頃大慌てでは?」
「いいえ、あの国にて女性とは何の意味も成しません。わたくしが居ない事も気付いていないでしょう」
「そこまで!?」
そう、そこまでしてあの国では女性に立場等はないのです。
兄上はそれをいつも嘆いていた……。
「今、鬼門はどうなっているのです」
「鬼門は……キサラギ一族が結界を張っておりますが、余り意味を成しておりません。兄上がサクラギ一族から嫁を貰いたいなどと言ったのは、真っ赤な嘘で御座います。あまり知られておりませんが、兄上の前の前帝王。その者が婚儀したばかりのサクラギの娘を欲し、それが原因でサクラギ一族は自害したと聞き及んでおります」
「なんてこと……では既に帝王は代替わりしていたのですか?」
「はい、公には何故かされておりませんが。前の帝王は我が兄妹の腹違いの兄で御座いました。女と酒が兎に角好きでまともな仕事をしないと噂の者でしたが、サクラギ一族が自害したことで毒を呷って自害したと聞いております。その後遺体は黄泉の国に消えたとも」
「黄泉の国……」
「悪しきことをすると、最後の鉄の国サカマル帝国の女王であった者に捕まり、遺体ごと黄泉の国へ持ち去られるのです。その後はどうなるかは分かりません」
そこまで話すと馬車は停まり、「続きは中で聞こうかのう」とフェアリードラゴンが空を飛び、モンスターたちが出てからわたくしたちも外に出た。
そこは、見たことも無いような白亜の工場で……思わず呆然と立ち尽くしたのです。
――いつも雨の降っていてジメジメしていた鉄の国サカマル帝国とは違い、からっとした空気に熱い日差し。
わたくしもあの国のようにジメジメしていたのでは行けませんわね。
胸を張り、兄様の為にユリ殿を説得せねば!!
――思えば、兄様はとても穏やかな人であった。
だが、とても燃えるような情熱を胸に走ってた人でもあった。
――兄様は私が生まれてから、必死に私を守ろうとしてきた。
この国が男尊女卑であることを憂いて。
――そんな法改正を進めているおり、兄上が毒で倒れた。
家臣たちは嬉しそうに笑っていた。
この様な腐った国、滅べばよい。
誰も兄様に近寄らない時間、私はこっそり兄様に会いに行く。
毒に侵されもう幾ばくも無い命。
兄様が死ねば、私もこうなる前に殺される事だろう。
兄様は今、私を生かしたい思い一心で生きておられる。
「兄様……もうこの国の家臣共は駄目です。各国からも断交され、民は飢え、この国から逃げております。兄様が元気であらせられたら、どうしたでしょうか……」
ヒューヒューと息をするだけで必死な兄様。
毒で最早幾ばくも無い。
もうこの国では、この国の癌である上層部がいる限り……もうどうする事も出来ない。
ほろほろと涙が零れ、兄様の痩せ細った手を握り声を殺して泣く。
己が未熟なのが辛い。
このまま兄様が果てたら死んでしまおうか。
そう思った時――兄様の口が開いた。
「華姫よ……」
「兄様!?」
「余り長くは……話せぬ。しかと……聞け」
「はい」
「余は夢の中で……はぁ、この国を……この国を変える人物を見た……はぁ……ダイヤ王国へ……行き……協力を頼め……はぁはぁ……その方は……ユリと言う……モンスターの長……ごほごほっ!」
「兄様!!」
「白旗を掲げ……行けっ! 兄は……それまで必ず……ぃきる!」
「はい……はい!」
「半年……猶予がある……それまでに……ユリ殿に……助けを乞え……不甲斐ない兄で……すまぬっ!」
「いいえ、いいえ!! わたくしの兄様は素晴らしゅうございます! 必ずや、必ずや助けを乞うて参ります。何をしてでも!! だから兄様、半年、半年待っていてください!」
その言葉を最後に兄上は微笑んで眠りについた。
兄様には最後の女帝と同じ夢を見て先を見る力がある。
それでも毒はどう足掻いても回避できなかったことも知っている。
わたくしに出来る事――ダイヤ王国にいるユリと言う魔物の長に会う!
会って助けを乞う!!
周囲を見渡すと誰もいない。この会話は誰にも聞かれてはおらん。
涙を拭い、何事も無かったかのような顔の面を着け兄様の部屋から立ち去る。
わたくしを世話してくてくれているのは一人の侍女のみ。
「ヒイラギ」
「はい、こちらに居ります」
「兄様が未来を視た。この国を救う方法だ」
「誠ですか!?」
「私はこれより宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドへと向かう。そこで【ユリ】と言う名の【魔物の長】を探して助けを乞えと言われた。猶予は半年……白旗を上げて船に乗れとの事だ」
「し、白旗を!?」
「最低限の着物だけで良い。直ぐに支度を。船は何でもよい。白旗を忘れるな」
「はい!」
こうして私は十二単を脱ぎ捨て普通の町娘のような服装に着替えた。
長い髪は帝王の妹の証……切り落とす事は出来ず、何とか時間を見つけたヒイラギに髪を結って貰った。
船は用意できたとの事で直ぐに馬車に乗り、この国から逃げようとする者達を見つめて歯を食いしばり港に着く。
金を払えば船は出して貰える。理由は何でもよい。
「宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドに向かいたい。わたくしの事や見聞きしたことは全て忘れて口に出さず連れて行けるか?」
「幾ら姫さんでも流石に」
「金は欲しくないか?」
そう言って兄様に祝いの品として渡された金の髪飾りを見せると、直ぐに乗せてくれた。
そして宝石の国ダイヤ王国までの間、水しかのまず只管船は進む。
付き添ってくれたヒイラギに感謝しつつ、一週間の船旅の後見えて来た宝石の国ダイヤ王国は白亜の美しい建物の並ぶ国であった。
自国しか知らぬ私にとって、それは衝撃であった。
白旗を貰い必死に振りながら港に見えるように旗を振る。
シーツを破って作った白旗で目立つのは間違いない。
どうか気付いて欲しい。
兄様の命が掛かっている。
国民の命も掛かっている。
どうか。
どうか。
わたくしに出来る事など少ないが、なんとしてでも【ユリ】と言う名の【魔物の長に】会わねばならぬ。
助けを乞わねばならぬ!!
そのまま――どれ位白旗を振っておっただろうか。
港はざわつき、隣で泣いていたヒイラギもまた白旗を一緒に振り始めた。
誰でもいい、入国を許して欲しい。
息も切れ切れに振り続けてふらりと海辺に落ちそうになった瞬間――。
「姫様!!」
嗚呼、落ちる――……。
そう思い身を縮め耐えたが、グイッと首元の着物を引っ張られ、船に戻された。
ドンッと尻もちをついて痛いが、わたくしの目の前には一匹のホワイトタイガーの魔物がのっしのっしとあるいておった。
く、食われるっ!!
「ほう? 悪意も敵意もなし。我はハク。そなたの内の心を読んで先に来た者よ」
「しゃ、しゃべ」
「魔物の長であるユリに会いたい。それがそなたの望みか」
「は、はい。そうで御座います!!」
「ふむ、何やら理由があるようだな。良いだろう。我が案内してやろう」
「よ、宜しいのですか!?」
「我の名はハク! ユリに従えるレジェンドモンスターが一匹である。おい船を動かせ。港に入ればすぐ近くに製薬ギルドがある。そこに今ならユリがいるぞ」
「しかし鉄の国サカマル帝国の入国は許可されていないと知っております」
「我が良いと言っているのだ。おい! この船を通すぞ! 他の船を退かせ!」
彼の言葉に慌てた船乗りたちが道を塞いでいた船を退かし、わたくしとヒイラギの二人は宝石の国ダイヤ王国の王都ダリルシェイドに入国する事が出来た。
無論入国審査は必要だったが、ユリ様を探しに来ていると言うと、隣で欠伸をしていたハク様が「我もこの者達には興味がある。良いな?」と口にし、入国は許された。
最低限の荷物だけを持って初めて降り立った別の世界。
走る事すらしたことのないわたくしが走っている。
着物では走りづらいが、それでも必死に走っていると急に宙を浮き驚いた。
「オネエチャンタチ アシ オソイネ!」
「アルジ カエッチャウカラ イソイデー♪」
「あなた方もレジェンド様なのですか!?」
「ソダヨー!」「ソダヨー♪」
思いがけず三匹のレジェンド様に遭遇し涙を流しながらヒイラギを見る。
ヒイラギは怯えていたけれど「姫様! 後はユリ様だけですね!」と口にし、わたくしは強く頷いた。
そして一台の馬車の前に到着すると、ハク様が乗り込みわたしくしたちもビョンッと飛んだスライムに驚きつつ目を閉じて馬車に乗り込む。
「ハイ イスニスワッテネ」
「は、へ?」
「お二人共大丈夫ですか?」
「はい!」
そう言って前を向くとそこには同じ着物を着た黒髪に黒い瞳の女性と、黒髪に赤い瞳の男性が座っていた。
帯刀している所を見るに……鉄の国サカマル帝国の者でしょうか?
ドアが閉まり馬車が動き出すと、わたくしたちはまず名乗りを上げた。
「あの、その」
「ユリ、ドマ。アクイハ ナイカラ ダイジョウブダヨ」
「うむ、悪意はない。しかし何故鉄の国サカマル帝国の姫君がきたんじゃ?」
「お姫様なのですか?」
そう私と年の変わらぬユリと呼ばれる女性――この方こそ兄上が言っていた方!!
「名乗り遅れました。わたくしは鉄の国サカマル帝国の王族が一人、華姫(かひ)と申します。この度は病床の兄様に託されここに参りました。どうかユリ様、お力をお借りしたいのです」
「お力を貸すとは……」
「兄様は『この国を変えるのはユリ様である』と『助けを乞え』と仰いました。病床故に聞き取れたのはそこだけですが、必ず助けを乞うて国を変えよと申されたのです」
「でも、姫様が居なくなって今頃大慌てでは?」
「いいえ、あの国にて女性とは何の意味も成しません。わたくしが居ない事も気付いていないでしょう」
「そこまで!?」
そう、そこまでしてあの国では女性に立場等はないのです。
兄上はそれをいつも嘆いていた……。
「今、鬼門はどうなっているのです」
「鬼門は……キサラギ一族が結界を張っておりますが、余り意味を成しておりません。兄上がサクラギ一族から嫁を貰いたいなどと言ったのは、真っ赤な嘘で御座います。あまり知られておりませんが、兄上の前の前帝王。その者が婚儀したばかりのサクラギの娘を欲し、それが原因でサクラギ一族は自害したと聞き及んでおります」
「なんてこと……では既に帝王は代替わりしていたのですか?」
「はい、公には何故かされておりませんが。前の帝王は我が兄妹の腹違いの兄で御座いました。女と酒が兎に角好きでまともな仕事をしないと噂の者でしたが、サクラギ一族が自害したことで毒を呷って自害したと聞いております。その後遺体は黄泉の国に消えたとも」
「黄泉の国……」
「悪しきことをすると、最後の鉄の国サカマル帝国の女王であった者に捕まり、遺体ごと黄泉の国へ持ち去られるのです。その後はどうなるかは分かりません」
そこまで話すと馬車は停まり、「続きは中で聞こうかのう」とフェアリードラゴンが空を飛び、モンスターたちが出てからわたくしたちも外に出た。
そこは、見たことも無いような白亜の工場で……思わず呆然と立ち尽くしたのです。
――いつも雨の降っていてジメジメしていた鉄の国サカマル帝国とは違い、からっとした空気に熱い日差し。
わたくしもあの国のようにジメジメしていたのでは行けませんわね。
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