転移したら男の娘!〜乙女ゲームのサポートキャラになりました〜

桜羽根ねね

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①邂逅

「え……?」

 何が起きた? いや、水が降ってきたのは分かった。でも何で?

「きゃああぁ! ごめんなさいハル! 私ったらコントロールが全然出来てなくて……!」
「ア……、アンリ!? アンリエッタ!?」
「本当にごめんなさい……。すぐに炎の魔法で乾かすから!」
「ち、ちが、え、待って……!? あれ、俺の声めちゃくちゃかわい……、じゃなくて、えーと、アンリエッタ……だよね?」
「ええ、そうだけど……。ハル、大丈夫? 濡れたせいで熱が出たのかも。今すぐ魔法で……」
「わああぁ!! 大丈夫! 俺は大丈夫だから!! その杖しまって!?」

 びしょ濡れになって冷えているはずの身体が、興奮でぽかぽかしてくる。申し訳なさそうに眉根を下げる美少女が、頭の先から爪先までまるっと見たことがある容姿だったからだ。

 アンリエッタ・T・ガーネット。

 ジュエル・フルムーン略してジュフルのまごうことなきヒロインだ。ウェーブがかった長い赤髪に赤い瞳。強い魔力を秘めてセピア魔法学院に入学したものの、呪いをかけられたせいで魔法の腕がからっきしになってしまった不遇の少女。呪いを解くために必要な『愛の宝石』は、真実の愛が結ばれた時に現れるという設定で、そのために攻略キャラをオトしていく……といった、どちらかというと打算的なストーリーだ。いけいけ系ヒロイン、嫌いじゃない。

 そんなアンリエッタ……アンリが俺の前にいるということは、つまり夢ということだ。試しに頬を抓ってみても痛い。……痛い? 嘘だろ? あとなんかほっぺたすげぇ柔らか……。

「は……?」

 声が変わっている時点で変だとは思っていたけれど。ぺたぺた顔を触って、下を見て。ないはずだったそこにある二つの膨らみに、思考が止まった。

「ア、アンリ……。何も聞かずに、俺の名前を言ってくれないか?」
「……? 名前を言えばいいの? ハル・スピネル、だけど……、本当に大丈夫? 頭ふらついてたりしていない?」

 心配してくれるアンリにブンブン首を横に振る。今の名前で、俺は『俺』のことを理解出来た。
 ハル・スピネル。俺の推しのサポートキャラ。俺の遥人って名前と似通ってんのもあって、シンパシー感じちゃってたのは良い思い出だ。思い出じゃねぇよ、現在進行形じゃねぇか。
 つまり俺は、何故だかハル・スピネルとしてこの世界に存在してしまっているというわけだ。夢……だと思いたいものの、これは俗に言う転生というものなのかもしれない。あ、でも別に死んだ記憶ねぇから転移……? この際どれでもいいや。なっちまったもんはしょうがないから、この際全部楽しんでやろう。

 今俺達が居るのは中庭のようだ。すっげ……スチルまんまじゃん。いや、スチルで見た時より綺麗だ。俺とアンリ以外はいない……と思ったら廊下を歩く男子生徒と目が合ってしまった。

「おや。どうしたんだい、ハル嬢。服を着たまま水浴びかな?」

 そんなことを言いながら風と炎の複合魔法で器用に乾かしてくれたのは、これまた見たことがあるイケメンだった。目の前まで近寄ってこられると、余計に顔面の力が凄い。背も高い。俺に少し分けてほしい。

「ジャック……! ……様、ありがとうございます」
「私のせいなんです! 授業の復習をしていたら、つい弾みで魔法が発動してしまって……」

 あっぶね、呼び捨てにするところだった。確か彼は第二王子だったはず。ハルも敬語使ってたからここは大人しく丁寧にしていた方がいいだろう。一人称も俺じゃなくてわたしにした方が……いいんだろうけど、アンリも不思議に思っていないみたいだし、俺のままでいくか。

「ふふ、それは勤勉なことだけれど、気をつけないとね。四大魔法は調節が難しいから」

 ふわりと微笑む彼の名前は、ジャック・オニキス。さらさらな黒髪にいくつかの灰色メッシュ、ぱっちりの碧眼、王子様フェイスな美青年。ちなみに、アンリとハルのクラスメイトでもある。
 攻略キャラの中でもメインを張ってて、パッケージのセンターに描かれてたな……。アンリと並ぶとまさに美男美女。俺の目が潰れそうだ。

「(……ん? 中庭にアンリとハルとジャック? 水被ったなんてのはなかったけど、これってイベントの一つであったような……)」

 ああ、そうだ! 事故ちゅーイベント! 転びかけたアンリを支えたジャックがうっかりちゅーしちゃう王道系のやつ! ハルはただの傍観者だけど口笛とか吹いた方がいいのか? いや、完全に空気読めないやつだな却下。

「ジャック様は難解な複合魔法も扱えて凄いです……。何かコツのようなものがあるのですか?」
 感嘆の溜息を吐いたアンリが、キラキラした視線をジャックに向ける。一歩踏み出した足が、水魔法でぬかるんでしまった地面に取られて、イベントと同じように身体が傾いて──……。

「きゃあっ!?」
「っ!」

 咄嗟に、アンリの魔法が発動した。ビュン、と激しい風の魔法だ。弾みで出ていいレベルの魔法じゃないな? もちろん威力もコントロールもはちゃめちゃで、あろうことかジャックを廊下の方に吹き飛ばしてしまった。いや、どんなギャグだよ!?

「あぁっ!? ご、ごめんなさいジャック様!!」

 アンリ自身は転ぶことなく踏みとどまったものの、問題はジャックだ。器用な彼のことだから無事だとは思うけど。
 そんな俺の予想通り、ジャックは最低限の風の魔法で体勢を立て直していた、けれど。

「あ、ぶつか……!」

 る、と思った時には遅かった。偶然廊下を歩いていた別の生徒に、そのまま衝突してしまった。顔を青くしたアンリと一緒に、事故現場に駆けつける。
 そこでは確かに、事故が起きていた。

「ん……?」
「む、んんっ!? ん~~っ!!」
「きゃっ」
「うわ……」

 ジャックと巻き込まれた男子生徒が、キスをしている。それはもうがっつりと。や、完全に不可抗力だけどそんなピンポイントで重なることってある? 事故ちゅーイベントはアンリとジャックだったはずじゃん。何で乙女ゲームなのにBLゲームみたいになってんの?
 青かった顔が赤くなるアンリと、どう対応していいのか分からない俺の前で、ジャックはむくりと上体を起こした。なんかちょっとリップ音聞こえた気がする。

「……すまない。怪我はないか?」

 ジャックの声音は変わらないものの、耳がほんのり赤く染まっている。まあそりゃ恥ずかしいわな。事故とはいえ野郎とキスしちゃったら。
 不憫な巻き込まれ君も災難だったなと顔を見れば、整った相貌が飛び込んできた。

「(嘘だろ……、攻略キャラ……!?)」

 確か、名前はセバスティア・アクアマリン。青色の長い髪に、若草色の切れ長な瞳。それに加えて利発そうな片眼鏡。残念ながらぶつかられた衝撃で吹っ飛んでしまっているけれど。俺達の一つ上で2年生だった気がする。皮肉屋というか素直じゃないタイプ……って、そんな攻略キャラの一人が何でジャックと事故ちゅーしてんだ!? なんかこうアンリを間に挟んでバチバチみたいなスチルあった気がするけど、アンリ蚊帳の外というか元凶じゃん! 二人だけでゼロ距離じゃん!?

「……これは、オニキスの第二王子様でしたか。特に痛むところはありませんので、ご心配なく」

 上からどいたジャックの手を借りることなく、セバスティア……長いからセバスでいいか、セバスは立ち上がって埃を払う。ついでに拾い上げた片眼鏡をかければ、至ってニュートラルな皮肉眼鏡がそこにいた。今しがた押し倒された状態でキスされていたとは思えない。

「あ、あああのっ! ジャック様、セバスティア先輩、私の魔法に巻き込んでしまって本当に申し訳ございません……!」

 がばりと頭を下げたアンリに倣って、俺も同じように下げておく。俺が知ってるイベントの流れじゃないから、正直これからどうなるのか分からない。

「アンリエッタ嬢、ハル嬢。そんなに頭を下げないでくれ。彼に気づけなかった僕の責任だから」
「まったく……、いつになったら貴女の魔法は安定するんでしょうね?」

 安心させるように微笑むジャックと、迷惑そうに目を細めてくるセバスはなんとも対称的だ。

「(アンリとセバスに面識があって、内容は変われど事故ちゅーイベントがあったってことは、今は共通ルートの真ん中辺りか……?)」

 これってもしかすると俺がアンリと友情エンドを迎えることも可能だったり? それなら是非ともそっちに突入したい。俺が楽しい。
 色々試してみたいこともあるし、謝罪が終わったらさっさと退散しよう。
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