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第七灯 葉っぱのお金

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 私は冬用の毛布5枚を抱え、町外れにある24時間営業のコインランドリーに行った。
ここのコインランドリーは、周囲が畑で裏が山なせいもあって、利用客は少ない。
ましてや深夜になればほぼ独占状態だ。
私は毛布を放り込むとお金を入れスタートボタンを押した。
洗濯機が回りだす。表示されてるタイマーが終了まで1時間だと告げていた。
私は椅子に腰掛け雑誌を読もうとしたが、急な眠気に襲われウトウトとした。


 店内に旋風が入ってきたのだろうか、私は寒さで目を覚ます。

「おや珍しい」店内を見渡すと私以外にもお客がいたのだ。
どうやら小学生三年生ぐらいの男の子らしい。
そして何やら悩んでいる。
様子を窺う。何やら硬貨入れに持ってきたお金が入らないらしい。


「ねえちょっといいかな。そのお金、見せてもらっても良いかな?」と私。
男の子はブルっと震え、恐ろしいものでも見るかのように私をジロジロと見る。
そしてしばらく考えていたが、神妙な顔で私にお金を渡してくれた。

「これなんですが」と男の子は悲しそうな顔で言う「入らないんです」
真っ黒なお金。真ん丸な形に四角い穴。そして文字が辛うじて読める。
「寛永通宝?」私は口に出して読んだ。あぁこれは江戸時代の古銭だ。

泣きそうな顔の男の子。
「駄目なんですか?」

私はどう答えてよいか悩んだ。
「ねぇこれ……もしよければだけど、ここで使えるお金と交換しても良いかな?」
「お願いします」即答だった。そして男の子の後ろに何かが揺れている事に気付いた。
ふさふさの尻尾。

「はいこれ」と私は100円玉を10枚渡した。
「こんなにですか?」男の子は驚いたっぽい。
「うん、乾燥機も含めるとそれぐらい居るんだよね」と私。

男の子は嬉しそうにボロボロの古い毛布を洗濯機に入れ始めた。
流石にボロボロすぎる。長年愛用しているのはわかるが洗濯機が内で分解しそうだ。

「ねぇ。もし良ければ……だけど、その毛布も交換しない?」と私
「交換?」不思議そうに男の子が言う。
「これもうボロボロなんで交換なんて」

「冬になると車用のエンジンの上に掛けてるお古の毛布と、仮眠用の毛布がそれぞれ一枚あるんだ」
そして私はその2枚を車のトランクから取り出すと、男の子に見せる。
「もう捨てるつもりで使ってる2枚だから」

「本当に交換しても良いんですか?凄く温かいんですがこれ」
「構わないよ。じゃー交換成立ね」
男の子の後ろで千切れるほど尻尾が触れていた。

そして私はコインランドリーを後にした。


次の日の朝、私は財布の中を覗いてみる。
そこにあったのは一枚の葉っぱ。
「やられたわ」私は笑う。
そして日記帳にそれを貼り付けた。
私の日記帳は既に葉っぱで満杯だった。

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