スパイとヤクザ。異世界転生ならばどっちが強い?

どこでも大佐

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第一章 第二節 金魚

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「ところで目の前のデカい金魚ちゃん。あれはなんだ」
くれないの魔女、アン・カイリアフ・デアグ(An Chailleach Dearg)だよ」
と少女は言った。


「で何で死んでいるんだ?」
「さぁ~、転生した時は口から泡を吹いて痙攣けいれんしてた」
暗殺術あんさつじゅつとかで殺した?」
「うーん。もし俺がそんな素敵な術が使えるのだったら、かせが外れた状態でやるな」
「そりゃそうだね」
話をしながら手枷を慎重に調べている。近くの壁にボタン類は無し。
金属製で長い筒状の形態は厄介な代物だ。一般人ならば。ただし俺はスパイだったからな。こんなものは……

「壁に吊るされ手枷足枷てかせあしかせがはめられたままなのはそろそろ体勢的にキツくなってきたぞ」
少女が苦しげに言う。
「それならば、まぁ何とかなりそうな気がする」
「なんとかなるって?」少女が驚いた声をあげた。
その時、コキっという鈍い音がした。
「ほら」
私は手枷から抜けた左手を彼女に向かって振ってみせた。
「本当だ。凄いな。でも一体どうやって?」彼女の目が大きく見開く。
私はネタを披露ひろうした。
「なーに簡単さ。左手の親指の骨を外しただけさ。お陰で今は外した部分が超痛いけどな」
「簡単だと言われても俺はできないぞ」少女が感心したような声で言う。
「練習すれば誰でもできるさ」
「俺は練習したくない」少女は悲しげな声をだした。続いて1分後には右手も手枷から外れた。脂汗が吹き出した。
私はおどけるような顔をしながら両手を少女に向けて振って見せて、そして両方の親指の骨を元に戻す。鈍い音が2つ辺りに響き私は呻いた。
「だいぶ痛そうだな」少女が心配げに声をかける。
「あぁ。痛かった。それでも死ぬよりはマシさ」

「ところでその足枷あしかせなんだが、ひょっとしてそれも骨を外せばいけるのか?」視線を下に向けた少女が心配そうに尋ねる。
「足はまぁ……最悪ならばやれるけど考えたくもない」私は両手首をさすりながらいった。
「ほぉ……いけるんだ」少女が驚いたような声を出した。
「いけるけど、足の骨を外して苦闘する前に、足枷の鍵を探したい」そう答える。

「鍵?」
「おそらく……手枷足枷の鍵をあそこで寝ている金魚ちゃんが持ってると思うんだ」そう言って、魔女を指差す。
少女は小刻みに頷き「ちょっと遠いけど手が届くかな?」と呟いた。
「手が届くかはわからないが……けれどやるしかないだろう」

私は辺りを見回し,自分の置かれた状況を再確認する。足枷と壁は1メートルぐらいの長さの鉄鎖てっさで縛られている。
何で直接壁に付いてないのか疑念を生じたが、近くの転がっている汚れた桶を見て排泄物対策だったのだなと理解した。その過程で汚れた床を見て気分は最悪だ。けれど迷ってる暇はなさそうだ。
腹をくくった私はゆっくりと膝をつく。汚物で濡れた床は冷たく膝小僧が濡れた。私は思わず顔をしかめたがそのまま前に倒れ、そのまま腹ばいになりながら、必死に魔女の体へ手を伸ばす。伸び切った鎖がガチャガチャ音を立てる。数回のチャレンジの甲斐あってか、私の手がようやく魔女の小指を掴むことができた。引っ張ると何かが折れる鈍い音がしたが、気にしないことにした。ふうふう言いながら、魔女の体をズルズルと手元に引き寄せる。

「この金魚ちゃんは想像以上に重かった」鍵が無いか魔女の体のあちこちを触りながら、そう呟く。
「もし生まれ変わったら、是非ともダイエットしてほしい」
ガラスのような目がこちらを睨んでるように見えたので、慌てて指で魔女の瞼を閉じる。
服の上から触った感じでは鍵はなさそうだった。仕方がない。脱がすしかない。

それから服のボタンを外したりロープを解いたりして、スルスルと魔女の服を脱がしていった。
魔女の巨体を窮屈そうに包んでた上着を脱がすと、ポンという音と共に巨体が更に一回り大きく膨らんだ。

「その服ってマジックアイテムじゃないか?体が膨らんだ」少女が驚いたような声で呟いた。
「恐らくな」私は服のあちこちを鍵がないかを探った。肌触りの良い服だ。恐らく高級品だ。
服を逆さにして振ってみたが何も落ちない。黙って服を畳んでいく。続いて帽子、手袋、靴の方も念入りに調べたが何も出なかった。

「そろそろ鍵は見つかった?」期待に満ちた少女の声がきこえてくる。「残念だが見つからない」返事を返すと何やら呪いの言葉を吐くのが聞こえてきた。「こっちにあるかもしれない」手を休めずにスカートと肌着を脱がす。魔女は下着姿のあられもない姿になった。
「その服もマジックアイテムじゃないか?また体が膨らんだぞ」少女が呟いた。
「勘弁してくれ」と私はボヤきつつも、その間スカートと肌着を念入りにチェックする。しかし鍵は又も見つけることができなかった。念の為に逆さまにして振ってみたが、やはり何も出なかった。黙って服を綺麗に畳んで上着の上に置く。「見つからない」と私は結果を伝える。少女からは失望の声が聞こえる。判る。俺も同じ気分だ。

目の前には下着姿になった魔女の死体。横たわるトドそっくりだ。
「さてとどうしたものか」私は手で汗を拭いながら呟いた。巨体の死体から服を脱がすのは思ったよりもはるかに重労働だ。いい加減疲れてもいた。
「どうしたとは?」
「下着を脱がすのは難易度高いなと」
「けれども、脱がすしかないだろ」
「そうだな」
私は魔女を押したり引いたり仰向けにしたり向きを替えたりして悪戦苦闘の上、やっとの事で下着を脱がす。
「凄いロケットおっぱいだぞ。重力無視してないか?」少女が何やら感心したような声をあげたが、私は聞こえないフリをした。そしてブラジャーを細かくチェックする。すると隠しポケットが見つかった。
(ビンゴか!!)
指で金属片をつまみ出していく。6個でてきた。おそらく手枷足枷首枷だろう。
全て黄金色の鍵だった。私は心のなかでガッツポーズをとる。
「鍵っぽいのがあったので、とりあえず確かめてみる」そう少女に伝えた。
自分の足枷の鍵に合うものが無いか一つづつ確かめる。だが無かった。少し動揺する。「クソッ」
先程から少女が何やら興奮して叫んでいるが無視して、私は立ち上がった。
足枷は駄目だったが手枷の方はどうだ。祈るような気持ちで自分を繋いでいた手枷の鍵穴をチェックする。
すると3つ目の鍵がパチリと手枷の鍵穴にハマった。
「とりあえずだが鍵があったぞ」
「やったー」
嬉しそうな顔で少女が雄叫びをあげた。
(問題は彼女の方が先に手枷足枷てかせあしかせが外れる可能性があるんだよな)
私は少し不安になる。心配しすぎだろうか。けれどあれは確認はしないと駄目だろう。
私は腹を括った。ゆっくり少女の方を向く。
そして思いっきり営業スマイルで
「聞きたいことがあるんだが、君は私の味方かい?それとも敵かい?」と尋ねた。

少女の顔からみるみる笑顔が消え、しょぼくれた顔になった。
「それを今聞くか?」
「今だからこそ聞くべきだろう」
    
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