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27 ルミナス領カリンズ
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ヤコフを教会まで送り届ける。
「もう行っちゃうの? カリナお姉ちゃん」
「ああ、本来はルミナス聖光国にいく旅の途中だったんだ。ここに寄ったのは一晩宿に泊まる予定なだけだった。でもその偶然でお前に会えた。悪魔の情報も得ることができたし、収穫はあったかな」
「そうなんだ、また会える?」
「ああ、いつか一緒に冒険すると言っただろう。それにこの街のシルバーウイングのセリスとは色々とまた話したいことがある。その内また来るよ」
「うん、でも寂しくなるね……」
そう言って目を潤ませたヤコフの頭を撫で、カリナは優しく言葉を紡いだ。
「ヤコフ、両親を大切にして、言うことをしっかり聞くんだぞ。私にはもう両親はいない。だからお前が両親と触れ合うのを見て、それがどれだけ大切な事かわかったよ。早寝早起きをして健やかに過ごすんだぞ。決して無理をして両親を悲しませることがないようにな」
「うん、わかったよ。でも絶対いつか一緒に冒険しようね!」
「そうだな、それまでしっかり自分を鍛えるんだぞ」
涙を拭いて、ヤコフは笑顔になっていた。いつか一緒に冒険することと、再会を約束して、カリナはヤコフと別れた。
そろそろ正午になる。小腹が空いたカリナは広場にやって来て、屋台で焼きそばや唐揚げなどをテイクアウトし、ベンチに腰掛けて食べた。日本で縁日や花火大会へ、従妹の忍に強引に連れ出されたことを思い出す。まだこの世界に来て数日しか経っていないのに懐かしさを感じた。
カリナが屋台の食事を味わっている間も街の人々が次々に声を掛けて来た。街を救った美少女召喚士。誰もが振り返るその少女とは思えない美しさに目を奪われる。
「まさかここまで目立つとはね……。アバターボックスまで使ったのはやり過ぎだったのかもな」
そう呟いたカリナだったが、それに加えて身に付けている衣装が珍しく、どう見ても目立つものだということまでは理解していない。黒いロングコートにはリボンが肩や袖にあしらわれており、裏地は真っ赤である。インナーには肩紐のない濃い水色に白いデザインが施されたタイトなペアワンピースで、スレンダーなボディラインを強調している。太ももまでの長さの白いニーハイソックスに黒いブーツ。どれもレースやリボンで飾られており、目立たないはずがない。エデンの魔法工学の粋を集めたカリナの衣装は、見栄えだけでなく防御性能も段違いである。だが、女性のファッションなどには疎いカリナはそんなことは露知らずだった。
次の街まではまだかなり距離がある。その間に補給する食べ物などを屋台で追加購入して、アイテムボックスに突っ込む。そして、ここ2日は酷使させてしまった代わりに、ガルーダを召喚することにした。
広場の広い一画で、両手に魔法陣を展開し、ガルーダ召喚の祝詞を唱える。
「天の彼方、黎明の風を司りし天空王よ。
焔の翼を広げ、黒雲を裂きて降り立て。
我が声、我が魂、汝が名を呼び奉る。
――風刃を纏いし大いなる神鳥よ。
古の盟約に応え、今ここに姿を現し給え。
天翔る光の羽音、我が祈りに集いて具現せよ。
荒ぶる雷も、深き嵐も、汝が道を阻まず。
悠久の空を護りし王者よ、
その力、その威、その翼を、我へ貸し与え給え。
風よ開け、空よ震えよ――顕現せよ、神鳥ガルーダ!」
合わせた両の魔法陣を重なり合わせると、そこから鷲の頭部に嘴、翼と爪を持つ、翼は赤く全身は黄金色に輝く巨大な鳥、ガルーダが召喚された。
「お前も久し振りなのだろうな。よく来てくれた」
頭をカリナの顔の部分まで下げたガルーダの頭を撫でてやる。嬉しそうに眼を細めるガルーダ。広場で見ていた人々は、「何だ何だ?」「あれは召喚術か?」「すげえな、初めて見るぞ、あんなデカい鳥」などと騒ぎ始めた。街の外まで出るのが面倒だったとはいえ、さすがにこの巨大な鳥は目立つ。さっさと飛び立つことにするかと、カリナはガルーダに話しかける。
「お前の背に乗せてくれないか? 目的地はルミナス聖光国だが、ゆっくりで構わない。上空は冷えるからな」
了解したと言うかのように一鳴きしたガルーダがその翼を広げる。その大きな背に飛び乗ったカリナは、まだ此方を見ている街の人々を見た。
「世話になった。また来るよ。この街は気に入ったからね。シルバーウイングの連中に宜しく伝えておいて欲しい」
ガルーダが翼を羽搏かせ始めると、徐々に地上から離れていく。
「おお、嬢ちゃんも元気でなー」
「またいつでも来てねー」
「気を付けていってらっしゃいー」
街の人々が口々にカリナを見送る言葉を述べる。そしてその姿が見えなくなる程上空に舞い上がったガルーダは東に向けて飛び始めた。
ガルーダの背は羽毛でふかふかで、上で胡坐をかいても大丈夫な程広い。だが身体に当たる風は上空だけあって少々冷える。カリナはルナフレアから渡された厚手のコートを取り出すと、それをしっかり着込んでフードを被った。
「やっぱり上空は冷えるな。さあ、次の冒険へと進むとしよう」
カリナの声を聞いたガルーダは、大きく嘶くと東に向けてその巨大な翼を羽搏かせた。
◆◆◆
数時間置きに地上に降りて休憩を挟みながら、飛び続けると徐々に日が傾いて来た。赤い夕陽が眼下を照らしている。そしてその方向に小さな街が見える。ここがルミナス聖光国から一番近くの街、カリンズである。
「そろそろ暗くなる。ガルーダ、今日はあの街に泊まる。降りてくれ」
カリナの言葉に従う様に一鳴きしたガルーダは旋回しながら徐々に高度を下げ、街の入口の門の前に着地した。
背から飛び降り、頭を此方に向けて来たガルーダの顔や喉元を撫でてやる。
「ご苦労だったな。また呼ぶことになるだろう。ゆっくり休んでくれ」
その言葉に一鳴きしたガルーダは光の中に消えて行った。送還の光を見送ると、カリナは此方を見て目を丸くしている二人の門番の下へと歩いた。
「君はひょっとして召喚士か? 驚いたな、まだこの時代にあんな巨大な鳥を召喚できる者がいるとは……」
「ああ、あれはガルーダだ。今日はこの街で宿を取りたくてね。どこかお勧めはあるだろうか?」
「ああ、そうだね。ここなら街の中心部に翠風の木陰亭ってのがある。広い宿だからまだ空きもあるだろうさ」
「ありがとう、行ってみるよ」
そう言ったカリナにもう一人の門番が話しかけて来る。
「お嬢ちゃんは何処から来たんだ?」
「チェスターの街だよ。エデン王国からルミナス聖光国まで旅をしているんだ」
「そうか、じゃあ身分証を見せてもらえるか? ここはもうルミナス領になる。不審人物を入れる訳にはいかない。まあ大丈夫だとは思うが、一応これも任務なんでな」
「ああ、なるほど。だからカードの新調を勧められたのか。はいどうぞ。確認してくれ」
カリナは首から下げたAランクの冒険者カードを見せた。それを目にした門番達が驚く。
「え、Aランク?! お嬢ちゃんみたいな子供がか?」
「いや、あの召喚獣を見ただろう? かなりの使い手だ。いやあ、世界は広いな」
「大丈夫そうか? なら街に入ってもいいだろうか?」
「ああ、勿論だ。今開けてやるから入りな」
「ありがとう。じゃあその宿屋に行ってみることにするよ」
快く門を開けてくれた門番達に礼を言って、カリナはカリンズの街へと入って行った。振り返ると、まだ門番の男達はカリナを見て手を振っている。それに手を振り返して、カリナは街の中心部へと向かって歩き始めた。
「……可愛かったな」
「ああ、あと数年もしたらとんでもない美人になるだろうさ」
「あー、俺もあんな美人とお近づきになりたいもんだ」
門番達がカリナの美しさに当てられて、そんなことを話していたことなどその当人は知る由もない。
マップ機能を利用して、翠風の木陰亭までの道は分かった。このまま真っ直ぐ大通りを通って街の中心部まで向かう。夕暮れ時で紅く染まる街の光に照らされるカリナの姿を見た街の住人達は、「何処の御令嬢だ?」「お忍びの一人旅か?」「いや、上級冒険者の隠し子かもしれない」などと勝手な噂で盛り上がっていた。しかし、カリナにとっては他人が自分を見て何かしら騒ぎ立てるのにはいい加減慣れて来ていたので、気にも止めなかった。
小さな街なので、暫く歩くと直ぐにその目的地の翠風の木陰亭は見つかった。なるほど、外観は落ち着いていてお洒落なカフェの様である。中からは飲食を楽しむ人々が盛り上がっている声が聞こえる。
カリナはどうせ注目されるだろうが、仕方がないと思い、その扉を開けた。チェスターの鹿の角亭とは異なり、外観通りのお洒落なカフェ風の食堂が1階にある。宿泊室は2階から上だろう。
「いらっしゃいませ、ようこそ翠風の木陰亭へ。お嬢さんお一人ですか?」
メイド風の衣装を身に纏った黒髪の女性が声を掛けて来る。この店の給仕の女性だろう。
「ああ、夕食と一泊したいんだけど。空いてるかな?」
「ええ、空いてますよ。ではカウンターへどうぞ」
「ありがとう」
女性に案内され、カウンター席へと促される。部屋の中は暖かいので、コートを脱いでアイテムボックスへと突っ込む。
「おやおや、可愛らしいお客さんだね。ここは美味い料理が揃ってるよ。何でも注文しておくれ」
宿の女将さんらしき女性がカリナを見つけると、温かいお茶を入れてくれた。案内してくれたウエイトレスがその女性に話しかける。
「夕食と一泊だそうです。シングルの部屋がまだ空いてますよね?」
「あいよ、じゃあ2階の奥が良い部屋だから使わせてやりな」
女将から鍵を受け取った女性がカリナにそれを渡してくれた。「ゆっくりしていってね」と言われ、その女性は接客に戻って行った。カリナは出されたメニューを広げて、何を頼むか考えた。昼間は屋台の油物が多かったので、野菜がいいかもしれない。後は女将のお勧めに任せることにした。
「野菜中心で、後は女将さんのお任せにするよ。いいかな?」
「あいよ、任せておくれ。折角こんなに可愛いお客が来たんだ。腕に撚りをかけさせてもらうよ」
そう言って女将はカウンターから見える位置で料理を作り始める。カリナはその鮮やかな料理の手際に見入っていた。
「はいよ、野菜の盛り合わせと、煮魚だ。ライスもあるからしっかり食べておくんだよ」
「ありがとう」
暫くして料理が提供された。新鮮な野菜のサラダに大きな煮魚と白米。カリナの細いお腹がぐーと音を立てる。酢が効いたドレッシングは絶品で、煮魚も肉付きが良く、味付けも絶妙で白米が止まらない。ボリューム満点の料理を平らげたカリナは食後のお茶を啜りながら、最後に出されたデザートのチーズケーキをフォークで一口大にして、小さい口に放り込む。これもチーズが濃厚でとろけるような触感である。満足したカリナの小さなお腹はぽっこりと膨れていた。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「お粗末様。そいつは良かった。お客に満足してもらえるのが一番だからね」
食堂はまだまだこれから繁盛する時間だろう。店内は外からやって来るお客で徐々に空席が減ってきている。こういうのを見ていると、この世界が現実であり、人々がそれぞれの人生を謳歌しているのを実感する。
手が届く範囲は守っていかなければならないというセリスの言葉を思い出す。そんな世界を脅かす悪魔の存在。奴らが何の思惑で動いているのかは分からないが、何にせよ今後も奴らと接触する可能性がある。そのときはまた何かしらの情報を得なければならないとカリナは思うのだった。
「何やら難しい顔をしてるねえ。まだ若いんだからあんまり悩むもんじゃないよ」
「ああ、すまない。ここのところ悪魔と戦うことが多くてね。この辺りで悪魔について何か情報があったりするかな?」
「悪魔と戦ったって、凄いねえ。お嬢ちゃんは冒険者なのかい?」
「ああ、これでもAランクの冒険者なんだ。今は聖光国にいるかもしれない聖女サティアを探して旅をしている」
「そうだったのかい。聖女サティア様ね、確かに今ルミナスには凄腕の僧侶がいるとは聞くけど、それがサティア様なのかもしれないね。それにしても一人で旅をしているなんて大したもんだ。お嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?」
「私は召喚士で魔法剣士のカリナ。もし何か悪魔についての情報があったら教えてくれるとありがたい」
「そうか、カリナちゃんね。わかったよ、後はサティア様についての情報があったら客から聞いておくとするよ。さて、疲れただろう、浴場でさっぱりしたらゆっくり休むんだよ」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
サティアらしき高名な僧侶が聖光国にはいるという情報はありがたかった。カリナは女将にお礼を言うと、予約した部屋に向かうことにした。
「もう行っちゃうの? カリナお姉ちゃん」
「ああ、本来はルミナス聖光国にいく旅の途中だったんだ。ここに寄ったのは一晩宿に泊まる予定なだけだった。でもその偶然でお前に会えた。悪魔の情報も得ることができたし、収穫はあったかな」
「そうなんだ、また会える?」
「ああ、いつか一緒に冒険すると言っただろう。それにこの街のシルバーウイングのセリスとは色々とまた話したいことがある。その内また来るよ」
「うん、でも寂しくなるね……」
そう言って目を潤ませたヤコフの頭を撫で、カリナは優しく言葉を紡いだ。
「ヤコフ、両親を大切にして、言うことをしっかり聞くんだぞ。私にはもう両親はいない。だからお前が両親と触れ合うのを見て、それがどれだけ大切な事かわかったよ。早寝早起きをして健やかに過ごすんだぞ。決して無理をして両親を悲しませることがないようにな」
「うん、わかったよ。でも絶対いつか一緒に冒険しようね!」
「そうだな、それまでしっかり自分を鍛えるんだぞ」
涙を拭いて、ヤコフは笑顔になっていた。いつか一緒に冒険することと、再会を約束して、カリナはヤコフと別れた。
そろそろ正午になる。小腹が空いたカリナは広場にやって来て、屋台で焼きそばや唐揚げなどをテイクアウトし、ベンチに腰掛けて食べた。日本で縁日や花火大会へ、従妹の忍に強引に連れ出されたことを思い出す。まだこの世界に来て数日しか経っていないのに懐かしさを感じた。
カリナが屋台の食事を味わっている間も街の人々が次々に声を掛けて来た。街を救った美少女召喚士。誰もが振り返るその少女とは思えない美しさに目を奪われる。
「まさかここまで目立つとはね……。アバターボックスまで使ったのはやり過ぎだったのかもな」
そう呟いたカリナだったが、それに加えて身に付けている衣装が珍しく、どう見ても目立つものだということまでは理解していない。黒いロングコートにはリボンが肩や袖にあしらわれており、裏地は真っ赤である。インナーには肩紐のない濃い水色に白いデザインが施されたタイトなペアワンピースで、スレンダーなボディラインを強調している。太ももまでの長さの白いニーハイソックスに黒いブーツ。どれもレースやリボンで飾られており、目立たないはずがない。エデンの魔法工学の粋を集めたカリナの衣装は、見栄えだけでなく防御性能も段違いである。だが、女性のファッションなどには疎いカリナはそんなことは露知らずだった。
次の街まではまだかなり距離がある。その間に補給する食べ物などを屋台で追加購入して、アイテムボックスに突っ込む。そして、ここ2日は酷使させてしまった代わりに、ガルーダを召喚することにした。
広場の広い一画で、両手に魔法陣を展開し、ガルーダ召喚の祝詞を唱える。
「天の彼方、黎明の風を司りし天空王よ。
焔の翼を広げ、黒雲を裂きて降り立て。
我が声、我が魂、汝が名を呼び奉る。
――風刃を纏いし大いなる神鳥よ。
古の盟約に応え、今ここに姿を現し給え。
天翔る光の羽音、我が祈りに集いて具現せよ。
荒ぶる雷も、深き嵐も、汝が道を阻まず。
悠久の空を護りし王者よ、
その力、その威、その翼を、我へ貸し与え給え。
風よ開け、空よ震えよ――顕現せよ、神鳥ガルーダ!」
合わせた両の魔法陣を重なり合わせると、そこから鷲の頭部に嘴、翼と爪を持つ、翼は赤く全身は黄金色に輝く巨大な鳥、ガルーダが召喚された。
「お前も久し振りなのだろうな。よく来てくれた」
頭をカリナの顔の部分まで下げたガルーダの頭を撫でてやる。嬉しそうに眼を細めるガルーダ。広場で見ていた人々は、「何だ何だ?」「あれは召喚術か?」「すげえな、初めて見るぞ、あんなデカい鳥」などと騒ぎ始めた。街の外まで出るのが面倒だったとはいえ、さすがにこの巨大な鳥は目立つ。さっさと飛び立つことにするかと、カリナはガルーダに話しかける。
「お前の背に乗せてくれないか? 目的地はルミナス聖光国だが、ゆっくりで構わない。上空は冷えるからな」
了解したと言うかのように一鳴きしたガルーダがその翼を広げる。その大きな背に飛び乗ったカリナは、まだ此方を見ている街の人々を見た。
「世話になった。また来るよ。この街は気に入ったからね。シルバーウイングの連中に宜しく伝えておいて欲しい」
ガルーダが翼を羽搏かせ始めると、徐々に地上から離れていく。
「おお、嬢ちゃんも元気でなー」
「またいつでも来てねー」
「気を付けていってらっしゃいー」
街の人々が口々にカリナを見送る言葉を述べる。そしてその姿が見えなくなる程上空に舞い上がったガルーダは東に向けて飛び始めた。
ガルーダの背は羽毛でふかふかで、上で胡坐をかいても大丈夫な程広い。だが身体に当たる風は上空だけあって少々冷える。カリナはルナフレアから渡された厚手のコートを取り出すと、それをしっかり着込んでフードを被った。
「やっぱり上空は冷えるな。さあ、次の冒険へと進むとしよう」
カリナの声を聞いたガルーダは、大きく嘶くと東に向けてその巨大な翼を羽搏かせた。
◆◆◆
数時間置きに地上に降りて休憩を挟みながら、飛び続けると徐々に日が傾いて来た。赤い夕陽が眼下を照らしている。そしてその方向に小さな街が見える。ここがルミナス聖光国から一番近くの街、カリンズである。
「そろそろ暗くなる。ガルーダ、今日はあの街に泊まる。降りてくれ」
カリナの言葉に従う様に一鳴きしたガルーダは旋回しながら徐々に高度を下げ、街の入口の門の前に着地した。
背から飛び降り、頭を此方に向けて来たガルーダの顔や喉元を撫でてやる。
「ご苦労だったな。また呼ぶことになるだろう。ゆっくり休んでくれ」
その言葉に一鳴きしたガルーダは光の中に消えて行った。送還の光を見送ると、カリナは此方を見て目を丸くしている二人の門番の下へと歩いた。
「君はひょっとして召喚士か? 驚いたな、まだこの時代にあんな巨大な鳥を召喚できる者がいるとは……」
「ああ、あれはガルーダだ。今日はこの街で宿を取りたくてね。どこかお勧めはあるだろうか?」
「ああ、そうだね。ここなら街の中心部に翠風の木陰亭ってのがある。広い宿だからまだ空きもあるだろうさ」
「ありがとう、行ってみるよ」
そう言ったカリナにもう一人の門番が話しかけて来る。
「お嬢ちゃんは何処から来たんだ?」
「チェスターの街だよ。エデン王国からルミナス聖光国まで旅をしているんだ」
「そうか、じゃあ身分証を見せてもらえるか? ここはもうルミナス領になる。不審人物を入れる訳にはいかない。まあ大丈夫だとは思うが、一応これも任務なんでな」
「ああ、なるほど。だからカードの新調を勧められたのか。はいどうぞ。確認してくれ」
カリナは首から下げたAランクの冒険者カードを見せた。それを目にした門番達が驚く。
「え、Aランク?! お嬢ちゃんみたいな子供がか?」
「いや、あの召喚獣を見ただろう? かなりの使い手だ。いやあ、世界は広いな」
「大丈夫そうか? なら街に入ってもいいだろうか?」
「ああ、勿論だ。今開けてやるから入りな」
「ありがとう。じゃあその宿屋に行ってみることにするよ」
快く門を開けてくれた門番達に礼を言って、カリナはカリンズの街へと入って行った。振り返ると、まだ門番の男達はカリナを見て手を振っている。それに手を振り返して、カリナは街の中心部へと向かって歩き始めた。
「……可愛かったな」
「ああ、あと数年もしたらとんでもない美人になるだろうさ」
「あー、俺もあんな美人とお近づきになりたいもんだ」
門番達がカリナの美しさに当てられて、そんなことを話していたことなどその当人は知る由もない。
マップ機能を利用して、翠風の木陰亭までの道は分かった。このまま真っ直ぐ大通りを通って街の中心部まで向かう。夕暮れ時で紅く染まる街の光に照らされるカリナの姿を見た街の住人達は、「何処の御令嬢だ?」「お忍びの一人旅か?」「いや、上級冒険者の隠し子かもしれない」などと勝手な噂で盛り上がっていた。しかし、カリナにとっては他人が自分を見て何かしら騒ぎ立てるのにはいい加減慣れて来ていたので、気にも止めなかった。
小さな街なので、暫く歩くと直ぐにその目的地の翠風の木陰亭は見つかった。なるほど、外観は落ち着いていてお洒落なカフェの様である。中からは飲食を楽しむ人々が盛り上がっている声が聞こえる。
カリナはどうせ注目されるだろうが、仕方がないと思い、その扉を開けた。チェスターの鹿の角亭とは異なり、外観通りのお洒落なカフェ風の食堂が1階にある。宿泊室は2階から上だろう。
「いらっしゃいませ、ようこそ翠風の木陰亭へ。お嬢さんお一人ですか?」
メイド風の衣装を身に纏った黒髪の女性が声を掛けて来る。この店の給仕の女性だろう。
「ああ、夕食と一泊したいんだけど。空いてるかな?」
「ええ、空いてますよ。ではカウンターへどうぞ」
「ありがとう」
女性に案内され、カウンター席へと促される。部屋の中は暖かいので、コートを脱いでアイテムボックスへと突っ込む。
「おやおや、可愛らしいお客さんだね。ここは美味い料理が揃ってるよ。何でも注文しておくれ」
宿の女将さんらしき女性がカリナを見つけると、温かいお茶を入れてくれた。案内してくれたウエイトレスがその女性に話しかける。
「夕食と一泊だそうです。シングルの部屋がまだ空いてますよね?」
「あいよ、じゃあ2階の奥が良い部屋だから使わせてやりな」
女将から鍵を受け取った女性がカリナにそれを渡してくれた。「ゆっくりしていってね」と言われ、その女性は接客に戻って行った。カリナは出されたメニューを広げて、何を頼むか考えた。昼間は屋台の油物が多かったので、野菜がいいかもしれない。後は女将のお勧めに任せることにした。
「野菜中心で、後は女将さんのお任せにするよ。いいかな?」
「あいよ、任せておくれ。折角こんなに可愛いお客が来たんだ。腕に撚りをかけさせてもらうよ」
そう言って女将はカウンターから見える位置で料理を作り始める。カリナはその鮮やかな料理の手際に見入っていた。
「はいよ、野菜の盛り合わせと、煮魚だ。ライスもあるからしっかり食べておくんだよ」
「ありがとう」
暫くして料理が提供された。新鮮な野菜のサラダに大きな煮魚と白米。カリナの細いお腹がぐーと音を立てる。酢が効いたドレッシングは絶品で、煮魚も肉付きが良く、味付けも絶妙で白米が止まらない。ボリューム満点の料理を平らげたカリナは食後のお茶を啜りながら、最後に出されたデザートのチーズケーキをフォークで一口大にして、小さい口に放り込む。これもチーズが濃厚でとろけるような触感である。満足したカリナの小さなお腹はぽっこりと膨れていた。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「お粗末様。そいつは良かった。お客に満足してもらえるのが一番だからね」
食堂はまだまだこれから繁盛する時間だろう。店内は外からやって来るお客で徐々に空席が減ってきている。こういうのを見ていると、この世界が現実であり、人々がそれぞれの人生を謳歌しているのを実感する。
手が届く範囲は守っていかなければならないというセリスの言葉を思い出す。そんな世界を脅かす悪魔の存在。奴らが何の思惑で動いているのかは分からないが、何にせよ今後も奴らと接触する可能性がある。そのときはまた何かしらの情報を得なければならないとカリナは思うのだった。
「何やら難しい顔をしてるねえ。まだ若いんだからあんまり悩むもんじゃないよ」
「ああ、すまない。ここのところ悪魔と戦うことが多くてね。この辺りで悪魔について何か情報があったりするかな?」
「悪魔と戦ったって、凄いねえ。お嬢ちゃんは冒険者なのかい?」
「ああ、これでもAランクの冒険者なんだ。今は聖光国にいるかもしれない聖女サティアを探して旅をしている」
「そうだったのかい。聖女サティア様ね、確かに今ルミナスには凄腕の僧侶がいるとは聞くけど、それがサティア様なのかもしれないね。それにしても一人で旅をしているなんて大したもんだ。お嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?」
「私は召喚士で魔法剣士のカリナ。もし何か悪魔についての情報があったら教えてくれるとありがたい」
「そうか、カリナちゃんね。わかったよ、後はサティア様についての情報があったら客から聞いておくとするよ。さて、疲れただろう、浴場でさっぱりしたらゆっくり休むんだよ」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
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ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
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